2. OSS ライセンスを適⽤した注⽬すべきソフトウェアのライセンス戦略
2.2 主要 OSS のライセンス戦略
2.2.4 業務サーバー
● BIND
OSS: BIND
OSS 概要: DNS サーバー
開発者: Internet Systems Consortium(ISC)
適⽤ライセンス: ISC License
ライセンス戦略: ISC は BSD と関わりが深いスタッフが多く、また⾮常に簡潔なライセンスを求 めていたことから、BSD License をベースに ISC License を作成し適⽤。
<OSS 概要>
BIND とは、ISC が開発するオープンソースの DNS サーバーである。BIND は当初、UC Berkeley の学⽣により開発が始まったが、その開発プロジェクトは後にコンピューター関連機器メーカーDEC に引き継がれ、現在では当時の DEC の開発スタッフであった Vixie ⽒が設⽴した ISC によりプロジェ クトが管理されている。DNS サーバーとして世界中で幅広く利⽤されており153、DNS 向けの代表的 な OSS として知られる。OSS ライセンスには、BIND の管理が ISC に移管された際、ISC が BIND 向 けに作成した⾮コピーレフト型の ISC License が適⽤されている。
<開発者のライセンス選定時における考え⽅>
上記の通り、ISC は BIND 向けのライセンスとして、BSD をベースとして新たに⾮コピーレフト型 の ISC License を作成している。現在は ISC の Founder and President を務める Vixie ⽒は本調査に おける電話インタビューで、BSD License をベースに ISC License を作成した理由について、次の 4 点を挙げている154。
BIND が BSD155をベースとした OSS であるため。
ISC の創設者が BSD コミュニティ出⾝であるため。
すべての派⽣物が⼀般社会に利益をもたらすと確信している ISC にとって、派⽣物が⽣まれや すい⾮コピーレフト型のライセンスが最適であるため。
BSD License は重複箇所があるなど、⻑くて読みにくいライセンスであったため。
153 Internet Systems Consortium ウェブページ. https://www.isc.org/software/bind (Retrieved on Sep. 10 2009)
154 2009 年 8 ⽉ 3 ⽇に実施した電⼦イメールでのインタビューでのコメント。以下、同⽒のコメントは同様。
155 UC Berkeley により開発されたオープンソース OS。
以上のような点から、ISC は BSD License の必要箇所のみを抜き出し、より短くした独⾃の ISC License を新たに作成したという。なお、ISC License を作成する上では、BSD License の内容のほ か、DEC が過去に MIT License をベースに作成した⾮コピーレフト型ライセンスなども参考にした という。Vixie ⽒は、「DEC の⾮コピーレフト型ライセンスは、⾮常に短く簡潔なライセンスで、ISC が求める重要なポイントを含んでいた」と述べている。
<ライセンス類型の代表ライセンスの適⽤有無と理由>
ISC は上記の通り、⾮コピーレフト型の ISC License を作成し、これを BIND に適⽤している。
BSD License を利⽤せずに独⾃のライセンスを作成した理由については、同団体がより短く簡潔なラ イセンスを求めていたことがあげられる。Vixie ⽒は、「かつての BSD License は重複箇所があったた め⻑く読みにくいライセンスであった。そのため、ISC は BSD License の必要箇所のみを抜き出し、
より短くした独⾃の ISC License を作成した」と述べている。。
このように、ISC は「簡潔さ」「読み易さ」などにこだわって、BSD License を適⽤せず、同ライ センスをベースとする ISC License を新たに作成した。ただ、Vixie ⽒によると、ISC License の根本 的な内容は BSD License と同様であり、記載⽅法が異なるだけであるという。この点からも、ISC が いかに簡潔さにこだわっていたかが伺える。
<選定ライセンスで OSS を提供する際のリスク>
Vixie ⽒によると、ISC License を利⽤する上では特に⼤きなリスクはないとのことである。ただ、
同⽒は過去に⼀度、ISC License 本⽂の⾔葉の使い⽅が OSS 利⽤者の誤解を招くとして、抗議を受け たことがあったことを明らかにしている。同⽒は、「ライセンス内の『Permission to use, copy, modify, and distribute』という箇所の『and』の使い⽅が、利⽤者の権限を限定しているように理解 できる、という抗議内容であった。そのため、ISC ではライセンスの『and』の箇所を『and/or』と 修正した。ただ、修正をしたものの、ISC は現在でもこの抗議内容は不当であると考えている」とし ている。
なお、Vixie ⽒は、「今後とも ISC License に関して正当な内容の抗議があった場合には、ライセン ス内容の修正を検討していく」と述べている。
● Apache HTTP Server
OSS: Apache HTTP Server OSS 概要: ウェブサーバー
開発者: Apache Software Foundation(ASF)
適⽤ライセンス: Apache License(⾮コピーレフト型)
ライセンス戦略: OSS 利⽤者に最⼤限の権限を与える⼀⽅でに、特許に関する記載など⼀定の制 限を設けたかったことから、Apache License を作成し適⽤。
<OSS 概要>
Apache HTTP Server とは、Apache Software Foundation(以下、ASF)によって開発されたウェ ブサーバーである。2009 年 2 ⽉には 1 億以上のウェブサイトで利⽤された初めてのウェブサーバー となり156、また同年 8 ⽉時点で全ウェブサイトのおよそ 46%で利⽤されるなど157、現在世界中で最 も広く利⽤されている。ASF は、同団体下で開発される OSS すべてに⾮コピーレフト型の Apache
156 Netcraft.com ウェブページ. “February 2009 web server survey”
http://news.netcraft.com/archives/2009/02/18/february_2009_web_server_survey.html (Retrieved on Sep. 10 2009)
157 Netcraft.com ウェブページ. “August 2009 web server survey”
http://news.netcraft.com/archives/2009/08/31/august_2009_web_server_survey.html (Retrieved on Sep.
10 2009)
License を適⽤しており158、Apache HTTP Server にも当然ながら Apache License が適⽤されてい る。
<開発者のライセンス選定時における考え⽅>
ASF は同団体で推進されている OSS 開発プロジェクトには、基本的に Apache License を適⽤する よう推奨しており、Apache HTTP Server についても Apache License のもとで提供されている。
Apache License は、ASF が BSD License をベースとして独⾃に作成した OSS ライセンスであるが、
同団体の VP Apache Project Management Committee である Fremantle ⽒は、このライセンス作成 過程について、次のように述べている。
「ASF では、OSS 利⽤者に最⼤限の利⽤権限を与えることができる⾮コピーレフト型ライセンスを 模索していたが、同類型の代表ライセンスである BSD License については、特許に関する記載が含ま れていないなど、逆に制限が緩すぎて、ASF のニーズに合わなかった。そのため、独⾃に新たなライ センスを作成することになった」と述べている159。
以上のような点から、ASF にとっては、GPL のような制限の厳しいライセンスは、当初から対象外 であったようである。Fremantle ⽒もこの点について、「GPL は伝播性が強いライセンスであり、法
⼈利⽤者にとって利⽤し難く、候補から外した」と述べており、FSF が GPL を推奨する上で強調する 開発コミュニティへの貢献についても、「コミュニティへの貢献とは、OSS 利⽤者にソースコードの 開⽰を求めることだけを意味するわけではない。Apache License では、GPL のように OSS 利⽤者に 対してソースコードの開⽰要求をしていないが、法⼈利⽤者が安⼼して OSS を利⽤できる環境を提 供しているといった点で、⼗分にコミュニティに貢献していると思う」と述べている。
同⽒はさらに、「Apache License により、OSS 開発プロジェクト間の連携がスムーズになっており、
ASF のみならず OSS コミュニティ全体にとって有益なライセンスである」とも述べている。
<ライセンス類型の代表ライセンスの適⽤有無と理由>
Apache HTTP Server には上記の通り、ASF が BSD License をベースに新たに作成した Apache License が適⽤されている。ASF では、同団体が管理する OSS 開発プロジェクトには Apache License を適⽤することを原則としており、Apache HTTP Server に同ライセンスを適⽤したのは、
同団体としてはある意味当然のことと⾔える。
なお、同団体が Apache License のベースとなっている BSD License を採⽤しなかった理由である が、ASF は利⽤者にとって⾃由度の⾼い⾮コピーレフト型ライセンスを求めていたものの、BSD License は OSS 利⽤者への制限が逆に緩すぎた点が指摘されている。そのため、ASF では BSD License の基本的理念を保ちながら、独⾃のニーズを追加する形で Apache License を作成している。
Fremantle ⽒は、Apache License が BSD License と⼤きく異なるポイントとして、以下の 3 点を挙 げている。
Apache License では、特許について明確な記載をしている。
Apache License では、ライセンサが負う責任の制限に関して、BSD License より詳細な記載 をしている。
Apache License では、ライセンスに「同意する」ことの意味を明確に記載している点。
<選定ライセンスで OSS を提供する際のリスク>
Fremantle ⽒によると、Apache License は現在、OSS 利⽤者より⼤きな⽀持を得ており、同ライ
158 Apache Software Foundation ウェブページ. http://www.apache.org/licenses/(Retrieved on Jul. 9 2009)
159 2009 年 7 ⽉ 28 ⽇に実施した電話インタビューでのコメント。以下、同⽒のコメントは同様。
センスを利⽤する上でのリスクなどは存在しないという。また、Apache License を修正するといっ た計画も今のところ無いとのことである。
● Samba
OSS: Samba
OSS 概要: ファイルサーバー 開発者: Samba Team 適⽤ライセンス: GPL
ライセンス戦略: FSF の理念を重視していることから、GPL を採⽤。
<OSS 概要>
Samba とは、Australia National University の学⽣であった Andrew Tridgell ⽒により開発され、
現在では同⽒を中⼼とする Samba Team によって開発プロジェクトが推進されているファイルサー バーであり、既に世界的な⼈気を誇っている。Samba Team は FSF の理念を重視していることもあ り、Samba を GPL の下で配布している。
<開発者のライセンス選定時における考え⽅>
Samba Team の Co-Founder である John Terpstra ⽒(以下、Terpstra ⽒)によると、Samba に GPL を適⽤した理由は、以下の 2 点に集約されるという160。
GPL では利⽤者に著作者の名前が公開されるため、Samba の開発に貢献する開発者が世間に 認められる。
間接的にではあるが貧困地域へ貢献することができる。
Samba Team としては、当初から GPL 以外の選択肢はなかったようであり、Terpstra ⽒の本調査 でのインタビューにおける受け答えも、「当然 GPL を使っている」といったものであった。なお、
Samba に適⽤されるライセンスは、現在では、以前の GPLv2 から最新の GPLv3 に変更されている が、同⽒によると、これは、GPLv3 が GPLv2 と⽐較して著作者名の表⽰や派⽣物の権利に関してよ り制限を強めた内容になっており、Samba Team の意向に⼀段と沿ったものになったためという。
このほか、Terpstra ⽒はインタビューにおいて、「Samba Team は、OSS 利⽤者に対し改変箇所の 著作権を認め、⼀⽅でコミュニティへの貢献を義務付けるという特徴を持つ GPL こそが、今後のソフ トウェアの発展を促進させる存在である」と述べると共に、今後は GPL の商⽤利⽤も増加していくの ではないかともコメントしている。
<ライセンス類型の代表ライセンスの適⽤有無と理由>
Terpstra ⽒は本調査のインタビューにおいて、Samba Team が Samba のライセンスとして、GPL を選定した理由について、明⾔はしていない。しかし上記の通り、同⽒のインタビュー時の発⾔内容 やニュアンスから、Samba Team にとって Samba に GPL を適⽤したのは「当然」であり、他ライセ ンスの適⽤はもともと視野に⼊っていなかったと考えられる。
<選定ライセンスで OSS を提供する際のリスク>
Terpstra ⽒は本調査のインタビューにおいて、「Samba Team は GPL の内容に⾮常に満⾜しており、
Samba に GPL を適⽤する上でのリスクは全く無い」と述べている。また、万が⼀ GPL を適⽤する上 での問題が発⽣した場合は、直ちに GPL 作成者に対してライセンス内容の修正を要求する⽤意がある としており、GPL の作成・管理⺟体である FSF に信頼を寄せていることを伺わせた。
160 2009 年 7 ⽉ 28 ⽇に実施した電⼦メールでのインタビューでのコメント。以下、同⽒のコメントは同様。