以下に、本研究の主題である『生涯理科を見据えた小学校低学年教育』を 述べるにあたり、これまで本論文で展開してきた内容を整理し、集約する。
1)問題の所在
第1章では、問題の所在として「子供達の自然離れ」の現状を取り上 げた。そこでは、核家族化・少子化・都市化・情報化…等の社会情勢の 変化に伴って「子供達の自然離れ」が生じ、①直接経験の不足、②探求 能力の低下、③自然愛好の念の稀薄化、が問題化してきたことについて 述べた。
自
明治初期
養生口授
大正期
低学年理科特設運動
科学技術発展の目的
自然科学の体系的教授
人間形成の目的
発達に即した直観的教授
低学年理科の頓挫 『自然の観察』誕生
3)教育の目的
第皿章・第1節では、教育思想史と教育法規の視点から教育の目的に ついて述べ、①教育の究極的な目的が『人間形成』にあるということ、
②知識の習得、問題解決能力の育成、科学的態度の養成…等の教育目標 は人間形成の教育を支える下位目標であるということ、③学校教育法で 定義される学校は、教育の最高法規である教育基本法に謳われた人格の 完成を目指すものでなければならないこと、を明らかにした。
教育二二
人間形成
教育法規
84
4)生涯理科の提唱
第1皿章・第2節では、現代を代表する教育思潮のひとつである『生涯 教育』を取り上げ、①急激に変容する社会や科学技術に対応する為には、
生涯を通じて学び続けることが必要とされること、②職業・性別・年齢 に拘らず、全ての人々に学習が必要であるぶと、③生涯教育体制下での 学校教育は、人生に必要な全てを学習する場ではなく、生涯学習の基礎 を培う場として位置付けられること、といった学習の生涯化についての 概要を捉らえてきた。こうした現代に於ける学習の生涯化の思潮を受け、
生涯教育の一翼を担う自然科学の分野の学習として『生涯理科』を位置 付けた。即ち、『生涯理科』の目的は「生涯を通して自然との関わりを 深め、科学的に思考する人間の育成」、を目指すことにあり、 『万人の為 の科学』を紙誌する教育の概念として提唱した。 『生涯理科』の目標は、
自然との関わりを深めることと科学的に思考することにあるが、内容は、
学習者の十人十色の個人差を内包するものである。
目IStt
特徴 目的
生涯を通して・全ての人を対象
自然との関わりを深め・自然愛好の念の七島・自己中心的世界観からの脱却一 綱 一 印 胃 用 一 團 疇 輌 一 願 嗣 一 一 嗣 扁 一 蜀 隔 一 胴 一 一 騨
@ 科鞠に購する・日常生活の改善能力・知識や概念を獲得する能力・社会的判断カ …等の育成
燗の育成・人間形成の一環
5)社会的ライフステージ
第IV章では社会的ライフステージと認知的ライフステージを取り上げ、
それぞれのズテージに於ける発達の様相と課題について述べた。この内、
社会的ライフステージに於ける小・中学校教育の位置付けは、義務教育 段階として、それ以降の教育とは区別される。即ち、高等学校等の任意 の教育段階では、学習者が合目的的に専門分野の学習を行うことが可能 であるが、全ての国民を対象にした義務教育段階に於いては、全ての人 に共通な諸能力の育成を期するべきである。その意味で、小学校低学年 の自然科学の教育は、科学者を頂点とする自然科学の知識体系の一端に 位置付けるのではなく、人間教育と言う万人に共通の目的を全面に出し、
その中で人々がどの様に自然科学と対峙していくのかと言う人間存在の 基礎を培うものでなければならない、と考える。
ネニヒ
三
白勺イ ラ
ス フ
テ
置
ジ
高 齢;期 青 年共月 成人期 少年期
孚L幼児;其月期………
ノ1母校・中学校教育 義務教育段階として 全ての人々に共通な 諸能力の育成を行う。
6)認知的ライフステージ
認知的ライフステージに於ける小学校低学年の位置付けは、ピアジェ の発達段階説に従うならば、直観的思考期から具体的操作期への移行期 一 86 一
として位置付けられる。この時期の特徴としては、概念化が進み、論理 的思考の枠組みが出来上がりつつあるが、対象が持つ知覚的に目立った 特徴に左右される点が挙げられる。思考が直観に依存するこの時期には、
それ以降の操作的思考の段階では次第に行われなくなる直観的な学習が 可能であり、この時期に五官を通した豊かな体験を蓄積しておくことが
それ以降の認知的発達の基盤となるものである。
認
矢口 白勺イ ラ
ス フ
1
テ
ジ
形式的操作期 具体的操作期 直観的思考期
前概念的思考期 感覚運動的知能段階
小学校低学年段階 概念化が進み、論理的思考の 枠組みが出来上がりっつある 段階であるが、対象が持つ 知覚的に目立った特徴に左右
される傾向にある。
以上の様に本論文では、①現代の子供達の『自然離れ』が問題であること、
②教育の目的が人間形成にあること、③生涯を通しての学習が必要とされて いること、④義務教育段階では万人に共通な諸能力の育成を行うべきである こと、⑤小学校低学年では五官を通した学習を重視すべきであること…など を明らかにしてきた。これらは全て、次に述べていく『生涯理科を見据えた 低学年教育』の前提条件となるものである。
1 生涯理科を見据えた低学年教育の方略
以下では、前述の前提条件に基づき『生涯理科を見据えた低学年教育』に ついて次の方略により述べていく。
・長期的展望に立ち子供達の『自然離れ』を防ぐこと
・人間としての豊かな下地作りの時期として位置付けること ・直観力を養い五官を通して学ばせること
。教室から解放し自然の巾で学ばせること ・自然を自然のままの姿で学ばせること
漢方薬的教育の重要性
薬には二通りある。突発的な病気を短時間で治す即効薬と体質そのもの を改善することにより罹病を防ぐ漢方薬とである。両者は使用する目的や 効能が異なり、車の両輪の様に相互に補完し合いながら健康な身体を維持 していく。同様に、教育にも即効薬的教育と漢方薬的教育とがある。前者 には、既存の知識・概念・法則…等の伝達的教授や児童の直面する問題の 解決を援助する生徒指導などが含まれ、後者には、感性の陶冶や探求能力 の育成、健康の増進、自己教育力の伸長、道徳心の酒養…などが含まれる。
即効薬的教育と漢方薬的教育とは、いずれも子供達の成長にとり不可欠な ことは言うまでもない。生涯理科を見据えた低学年教育は漢方薬的教育を 目指すものである。即ち、生涯理科を見据えた低学年教育は現代の子供達 の『自然離れ』や『理科嫌い』という症状に対する処方箋であり、生涯を 通して自然に親しみ科学的に思考できるよう、緩やかに体質の改善を行う 一 88 一
ものなのである。この様な特性を鑑み、実践に於いては短期的効果を追求 する近視眼的な詰め込み教育を廃し、長期的展望と大局的視野に立脚して 子供達の活動を援助することが肝要である。
土作りの教育
小学校低学年に於いては人間形成の下地作りが大切である。何故ならば、
小学校低学年では、まだ子供達が将来どの様な作物になるのか分からない からである。封建的家督制度の時代に於いては、人は誕生と同時に将来の 職業を決定づけられ、幼少から将来の職業への専門的教育が行われていた。
しかし、現代では幸いにも全ての国民に職業選択の自由が認められている。
全ての子供心には、能力に応じて様々な職業に就く可能性が存在するので ある。従って、義務教育段階では特定の職業を指向する教育は出来ない。
どの様な進路にでも対応できるような教育が必要となる。即ち、低学年の 教育では、どんな作物を植えても良いように、しっかりと土地を耕すこと が肝要である。しっかりと耕し充分に肥料を与えれば、どの様な作物でも 豊かに成長していくであろう。この様に、小学校低学年の教育は人間形成 の素地を培う時期として位置付け、いたずらに急がせることなく、人間の 基礎的な諸能力の育成に専念すべきである。
直観を磨く教育
小学校低学年では人聞形成の素地を培うことが肝要であると前述したが、
具体的には直観力の酒外に主眼を置くべきである。これは直観的思考段階 という小学校低学年児童の認知発達の特性に合致させる為であり、橋本も 「1・2・3年など低学年の子供の理科学習にはむつかしい論理や詳細な