125
があるが、それはこれらの氷核がさらに大きくなる際の速度に相当し、Turnbull と Fisher はこの速度を Texp ∆
T に近似できると考えた。ここで、h はプランク定数、Δg は氷‐水界面を水分子が通過する際の活性化エネルギーに相当する。それより、連続的に成 長できる氷核の生成頻度, JLSは、
JLS Texp ∆
T exp ∆
T 5‐6
で示され、 Texp ∆T を定数Kに置き換えることで、 5‐6 式はしばしば、
JLS K exp ∆T 5‐7
と簡略化される。
ここで、J は単位体積当たりの核生成頻度に相当するため、試料当たりの核生成頻度は、
全溶液当たりの核生成頻度となるためそれは溶液量に比例することとなる。よって、体積V の試料における氷核生成頻度Jvol‐totalは 5‐8 式で示される。
J LS 5‐8
Figure 5‐2 氷核生成における氷核の大きさと自由エネルギーの関係。2
4πr2σ
ΔG
4/3 πr3ΔGV +ve
-ve
126
5‐1‐3 不均質核生成
氷核生成において、均質核生成が起こることは極めて希であり、多くの場合、容器の壁 面や溶液中に存在する異物質を核生成場と介する不均質核生成により生ずる。異物質表面 における氷核生成では自由エネルギー変化ΔGは以下の式で表わされる。1
∆ S ∆ V SLσSL SP σSP σPL 5‐9
ここで、S, L, Pはそれぞれの固相、液相、異物質粒子を意味している。ASPは異物質と接す る氷核の表面積に相当する。この 5‐9 式における右辺第三項のため、不均質核生成は均質 核生成に比べて、エネルギー的に有利となり、その結果、小さい過冷却(より高温におい て)において核生成を生じることができる。
Figure 5‐3 三相間の界面における界面張力の関係。2
ここで、Figure 5‐3のように異物質粒子とその上で生成した氷核の接触角をθとすると、
氷、水、異物質のそれぞれの間の界面自由エネルギー間では、
σSP σPL σSL cos θ 5‐10
が成り立つ。2 均質核生成において臨界半径を有する氷核を形成するのに必要な自由エネ ルギー∆ と不均質核生成における自由エネルギー∆ は、
∆ φ ∆ 5‐11
φ
5‐12
の関係があることがVolmerにより示されており、θ 180oのときcos θ -1であるため、
φ 1となり、
∆ ∆ 5‐13
となる。2 θとφの関係をFigure 5‐4に示した。
σSL
σSP σPL
Liquid (L) Solid (S)
(ice nucleus)
Foreign particle θ
127
Figure 5‐4 均質核生成と不均質核生成間の自由エネルギー比と接触角の関係。2
Figure 5‐4より不均質核生成過程では、異物質と氷核との接触角(濡れやすさ)により氷
クラスター形成時の自由エネルギーは大きく影響を受ける。2 さらに、異物質の粒子サイ ズも重要であり、異物質が球状の構造を有しているとした場合、たとえその粒子表面の性 質がφを大きく減少させるθを示しても、粒子サイズが少なくとも半径10 nm以上でなけ れば、効果的な不均質核生成は生じないと算出されている。3 また、広範囲のθにおいて 異物質粒子のサイズ依存性はµm程度において頭打ちを示し、それ以上では大きく変化しな くなることも算出されている。
非常に効率的に氷核形成を促進させる異物質は、食品の凍結保存、生体物質の凍結保存、
凍結乾燥、凍結濃縮、氷スラリーの作成時などにおいて、凍結させるまでに必要なエネル ギーを減少させることから、特定の異物質については氷核形成促進剤(または氷核生成化 物質、氷核活性物質)とよばれ近年環境低負荷物質として広く研究が行われている。4‐6
なお、不均質核生成において、表面積Sの試料での氷核生成頻度Jsurf‐totalは単位面積当た りの氷核生成頻度JLSを用いて 5‐14 式で示される。
LS 5‐14
5‐1‐4 体積依存核生成と界面依存核生成
容器壁面による不均質核生成は、微小重力空間などを除き、通常の条件では避けること はできない。また、容器表面以外でも、液体が外気と接する気液界面などで不均質核生成 を生じる可能性がある。そのため、多くの液体における核生成頻度は、溶液中における核 生成頻度JVと液滴界面における核生成頻度JSの総和になると考えられる。7
V S 5‐15
ここでVと Sはそれぞれ溶液中の体積、表面積に相当する。ここで、界面における核生成 頻度は一定と仮定した。 5‐15 式は、JV VがJS Sに比べて著しく大きいならば、測定された
0 0.5 1
0 90 180
Contact angle, θ
φ
128
液滴の核生成は溶液中で生じ、逆にJS SがJV Vよりも著しく大きいならば、液滴の核生成は 液滴表面で生ずることを意味するものである。Tabazadehらは、気体中で氷核生成が生じる 場合について熱力学的考察を行い、
σVS σVL σSL 5‐16
が成り立つとき、界面核生成は支配的になることを示した(V: 気相(Vapor))。8 また、
液滴の周りが気体ではなく、油の場合においてはVの代わりにO: 油相とし、
σOS σOL σSL 5‐17
が成り立つとき、界面核生成が支配的となることを述べた。7 σOS, σOLはそれぞれ気‐固、気
‐液の界面張力に相当する。
Tabazadehらは、W/O(water in emulsion)エマルション中の液滴での核生成挙動と、外
気と接した水滴における核生成挙動の既存の研究結果について検討を行い、一部の結果は 界面における不均質核生成が支配的であり、また一部の結果は溶液中における均質核生成 が支配的であろうと推察を行った。7 その後、DurantらやShawらによる研究において、
界面と接触していない溶液中の異物質は、溶液中における場合よりも大きい不均質核生成 頻度を示したことで、Tabazadeh により提示された氷の界面核生成の重要性は明確化した。
9, 10 2007年、Hindmarshらにより行われたスクロース水溶液液滴についての、ビデオカメ
ラ撮影による核生成挙動の検討から、溶液中または界面から開始する二つの異なる核生成 過程が存在することが初めて直接的な観察によって証明され、液滴の界面における氷核生 成が明らかとされた。11
5‐15 式に見られるように、液滴中における核生成は、溶液の体積量に大きく依存するた め体積依存核生成(volume‐dependent nucleation)とよばれ、界面における不均質核生成過 程は界面依存核生成(surface‐dependent nucleation)とよばれ、用語として区別される。12 体積依存核生成と界面依存核生成の模式図をFigure 5‐5に示した。
Figure 5‐5 体積依存核生成と界面依存核生成。
Jsur
Jvol
Nucleation frequency of
surface-dependent nucleation
Nucleation frequency of
volume-dependent nucleation Total : Js×S
Total : Jv×V
129
5‐1‐5 液滴サイズの相違に伴う核生成挙動
溶液の界面では、界面依存核生成が生じるため、界面は測定試料ごとに同一の形状を有 していることが望まれる。測定試料ごとに異なる場合、それぞれの界面依存核生成頻度は 大きく異なることとなる。また、例え界面が同一であっても試料サイズの相違は、 5‐15 式に見られるように核生成頻度に大きく影響を与えるため、結果、核生成挙動は変化して いく。
液滴サイズの相違に伴う核生成温度の移り変わりは、Biggにより1953年に報告され、氷 核生成温度Tと液滴体積Vの間に、
ln 1 a b 5‐18
の関係があることが認められた。13 ここで定数a, bは実験条件により決定される定数であ る。その後、様々な研究者により液滴サイズと核生成温度の関係が調べられ、同一界面下
では直径0.1 cmまでの液滴において 5‐18 式が成り立つことが報告されている。1, 3 5‐18
式においてa, bが実験条件により異なるのは、Tabazadehら7 が述べているように一部の 核生成測定では界面依存核生成が支配的であるなどの理由によるものと考えられる。
5‐1‐6 水溶液系における核生成温度 T
nと凝固点降下 ΔT
mの関係
水溶液の核生成挙動の研究は、これまで広く研究がなされているが、そのパイオニオと 考えられる研究は1972年にRasmussenとMacKenzieにより報告された。その中において、
RasmussenとMacKenzieはエマルション中の水溶液の均質核生成において凝固点降下 ΔTm
と過冷却度ΔTnの間に一つの経験式が認められることを示した。14 それが、 5‐19 式であ る。
∆ k ∆ 5‐19
ここで、ΔTn Tn, H2O – Tn, ΔTm Tm, H2O – Tm, kは定数である。一例として、NaCl水溶液の氷 核生成におけるΔTn とΔTmの関係をFigure 5‐6に示した。NaCl水溶液系におけるΔTnはNaCl 濃度によらずΔTmの1.6倍ほどの値を示していることが認められる。この場合、kは1.6の 定数となる。RasmussenらはNaCl やNH4Fなどのイオン性化合物、グルコース, グリセロ ール, エチレングリコールなどの非イオン性化合物、そして polyethylene glycol(PEG),
polyvinyl pyrrolidone(PVP)などの高分子の様々な水溶液までこの経験式に従うことを報告
した。その際、定数kは溶質が高分子量になるほど大きい値となる傾向を示した。その後、
エマルション以外の試料や、AgIなどの氷核形成促進剤を含む不均質核生成系でも上述の経 験式は成り立つことが報告された。15‐19 さらに、それらに対する理論的な検討も数々行わ れてきた。3, 20‐23
近年、Kimizukaらは低分子量化合物から高分子量化合物に至るまで、溶質の25 oCにお
130
ける水溶液中の自己拡散係数D0とkに統一的な規則性が見られることを報告した。24, 25 そ れは、様々な水溶液の25 oCにおけるD0の対数に対し、定数k値は線形の関係を示すもの であった(Figure 5‐7)。しかし、このような関係が見られた理由については現在まで明らか となっていない。
Figure 5‐6 NaCl 水溶液エマルションにおけるΔTmとΔTnの関係。14
Figure 5‐7 25 oCにおける溶質の水溶液中での自己拡散係数D0と、 5‐19 式に適用される 定数kの関係。24
-35 -30 -25 -20 -15 -10 -5 0
0 2 4
NaCl conc. [mol / kg]
Temp. [oC]
ΔTmcurve
ΔTncurve 1.0
0.6 1.0
0.6
ΔTn= 1.6 ΔTm が認められる。
0 1 2 3 4 5 6
0 1 10
Log Do×1010m2/s
k
k = 4.33 – 2.33 log D0 が認められる。