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ここで、相対粘度の対数を濃度で除した値(ln ηrel / c)はインへレント粘度と呼ばれる。5‐30 と 5‐32 より、比粘度とインへレント粘度は、濃度をゼロに近づけることで ηへと外挿さ れることを示している。 

Figure 5‐21にPVA22水溶液の固有粘度測定の結果を示した。それぞれの直線の傾きの差

は  0.35 –  ‐0.15    0.50となり、典型的な高分子水溶液の挙動と一致した。ηはそれぞれの 切片に相当することから、0.99  kg / mmolとして得られた。古典的な手法では重なり合い 濃度は、 

 

C       5‐33  

 

で求められ、本研究のPVA22水溶液のC*は1/ η   1/0.99   1.01 mmol/kgと算出された。 

Takigawaらは、DMSO混入下ではあるがPVA水溶液において、‐40 oCまでのC*を求め、

C*に明確な濃度依存性は観察されなかったことを述べている。これより、本研究でのPVA22

水溶液のC*は常温であるが、低温下においても大きく変動しないことが予想される。Figure 

5‐18において氷核生成温度Tnの頭打ちを示す濃度と比較した結果、それはC*付近の濃度と 一致している。次節の5‐3‐6においてこの頭打ちには他の要因も考えられることを述べてい るが、この一致から、少なくとも C*までは濃度の対数に対し線形的な挙動を示すであろう ことは示され、C*以下にて PVA 分子がなんらかの形で氷核形成促進剤として作用している ことが示された。 

 

   

Figure 5‐21    PVA22水溶液の固有粘度 ηの決定。測定条件  : 25 oCにて行った。測定は同一 試料について4回行った。

 

 

0.8 0.9 1 1.1 1.2 1.3

0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5

PVA conc. [mmol / kg]

lnηrel/c = -0.145 c + 0.99 ηsp/ c [kg / mmol] or lnηrel/ c [ kg / mmol]

η sp/c = 0.346 c + 0.99

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5‐3‐6  氷核生成温度 T

n

と凝固点降下 ΔT

m

の関係 

5‐1‐6で述べたように、多くの溶質の水溶液系において、平衡凝固点降下ΔTmと氷核生成

温度Tnの間に 5‐19 式が成り立つことが報告されている(下記再掲載)。14   

∆   k ∆       5‐19  

 

ΔTnは純水の核生成温度(‐37.6 oC)から水溶液の核生成温度を引いた値である。この 5‐19 式は均質核生成系のみならず、不均質核生成系においても成り立つことがしばしば認めら れているため、PVA水溶液においても考慮すべき要項であると考えられた。Figure  5‐22に

PVA22水溶液におけるTnとΔTmの関係を示した。 

Figure 5‐22からPVA22水溶液では、3.0 mmol / kg以上において濃度変化に伴うTnの減 少度ΔTnはΔTmの値を4.2倍としたとき良く成立することが認められた。この関係性が得ら れたことから、C*以上の濃度における Tnの下降は、凝固点が低下することに大きく影響を 受けていることが示された。 

     

       

 

Figure 5‐22   (左)PVA22水溶液のTnとΔTmの関係。(右)Moulin法によるΔTm決定。熱 捕捉測定による凝固点降下の決定:2  mlの試料溶液を加えた試験管を‐20 oCの冷媒に浸し

‐0.7 oC/min程度の速度で冷却し凍結させた。その際、温度勾配が生じないように撹拌によ

り系内の温度を一定に保った。経時変化を確認し、Moulin法によりΔTmを決定した。68 融 解過程での測定では高濃度 PVA 水溶液中でゲル化が生じたため測定は適当ではない判断し

た。   

-1.2 -0.96 -0.72 -0.48 -0.24

0

-38.0 -37.0 -36.0 -35.0 -34.0 -33.0

0.0 2.0 4.0 6.0 8.0 10.0 12.0 14.0

Nucleation temperature Melting point

C*

PVA22 [mmol / kg]

Tn, nucleation temperature [oC] Melting point [oC]

ΔTn=4.2ΔTm

Tn

ΔTm

-1.0 -0.5 0.0 0.5 1.0

0 500 1000 1500

Time [sec]

Temp. [oC]

ΔTm

(実験結果)

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5‐3‐7 PVA 水溶液において T

n

上昇をもたらす原因について 

最後に、PVA水溶液においてTn上昇、すなわち不均質核生成が観察された理由について 検討した。まず、PVAがW/Oエマルション中で氷核形成促進剤として作用している原因は 二つのケースが考えられる。一つは、W/OエマルションのSpan 65の界面に吸着すること で、5‐15 式の界面依存核生成の項を上昇させる作用を示す場合である。そして、もう一つ がAgIやPseudomonas syringaeのような異物質表面で見られる効果をPVA分子が示してい る場合である。 

まず、界面依存核生成項への影響を与える場合、PVAが他のポリマーに比べて界面張力を 大きく低下させることが考えられる。PVAはそのケン化度が低い場合、自身でエマルション を形成することが知られている。69 しかしながら、本研究で使用したPVAは完全ケン化型 に近いPVAであり、そのようなケン化度の高いPVAはparaffinの界面張力をあまり低下さ せないことが示されている。70  また、もし仮にSpan 65への界面吸着が原因とするならば、

Table 5‐1に見られるわずかなケン化度の相違が影響を与えると考えられるが、Figure 5‐19

を見る限りにおいてそのような傾向は観察されなかった。 これらの理由から、本研究にお いてPVAは界面依存核生成に対し他のポリマーと同様、大きな影響を与えていないと考え られる。 

他方で、PVA分子が不均質核生成を生じる場合、PVAが異物質粒子として溶液中に存在し、

それが氷核生成を促進することになる。仮に、PVAが低温において溶解度が低下し、不溶物 が析出した場合、PVAは異物質となり得るが、Figure 5‐18  b から明らかなように、Tn上昇

は0.01 wt%程度から開始することとなり、それはあまりにも溶解度が低すぎることとなる。

もし、そのような溶解度を示すものならば、他の研究者らにより既に報告はなされている と推察される。そのため、この考えは現実的ではない。 

それよりも5‐1‐8で述べたようにPVAは他の汎用ポリマーと異なり、水溶液中において容 易に物理架橋によるハイドロゲルを形成する化合物として知られており、それこそが他の ポリマーと区別される特徴と考えられた。しかしながら、carboxymethylcelluloseも水溶液 中でハイドロゲルを形成する代表的な化合物であるが、carboxymethylcellulose水溶液中で のハイドロゲルの形成は、Tnをゲル形成前(ゾル: 溶液)に比べ僅かに減少させ、また熟成 させることにより粘性を増大させた場合も、熟成させる前に比べTnを減少させるといった

挙動がBlondらにより報告されている(Blondらの報告はエマルションではなく、バルクの

溶液を用いて検討している)。59 このcarboxymethylcellulose水溶液における氷核生成挙動 を参考とするならば、PVA水溶液の高粘度特性、また良く知られるハイドロゲル化はTnの 上昇における直接的な原因とはならず、逆にTn減少をもたらす作用を示すこととなる。さ

らに、carboxymethylcellulose水溶液において、ゲル化はTn上昇をもたらさなかった一方で、

ゲルおよびゾルの状態は、純水のTnより顕著に高い温度を示していた。これは、ハイドロ ゲル化や粘性の増加をもたらす分子間相互作用は、氷核形成促進剤としての特性を軽減さ

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せており、一見透明に見られるゾル中において不均質核生成を生じる原因があることを示 唆している。 

本研究ではTn上昇領域ははるかにC*以下の濃度から開始しており、常温では高分子鎖同 士は相互作用を生じていないと考えられる(Figure 5‐20)。氷点下以下におけるゾル‐ゲル転 移についてはOhkuraらによりDMSO/水混合系において温度依存性が調べられており、0 oC 以下における最小ゲル化濃度はまったく変化しなかったことが報告されている。71 この事

実は、C*以下では氷核生成が開始するまでの間、少なくともハイドロゲル化は生じることは

起こり得ないことを示唆するものといえる。本研究においても、PVA水溶液の調製のさいに

は、0.20 µmのフィルターを通過させ、ハイドロゲルの有無について検討したが、このフィ

ルター通過はPVA水溶液のTn上昇挙動に特別な相違を与えなかった。以上の検討より、PVA 水溶液のTn上昇挙動においてハイドロゲル形成は関係していないと考えた。 

庄らはサイズ排除クロマトグラフィー多角度光散乱(SEC‐MALS)法により、C*以下の完 全ケン化型のPVA(MW: 94,000)が、10 oCにおいて30 nm 程度の会合体を形成している ことを報告している。72 すなわち、PVA分子は分子内において強固な水素結合を形成し、

C*以下であっても直径数10 nmを超える会合体を形成している。分子間相互作用によるこ

のPVAの会合体はミクロゲルと呼ばれる。67 *  5‐1‐3で述べたように効果的な不均質核生成 においては少なくとも半径10 nm以上の粒子サイズが必要と考えられているが3、このミ クロゲルのサイズはそれに相当している。これより、著者はPVA水溶液にみられたTn上昇 挙動は、溶液中で存在するこのミクロゲルにより生じているであろうと推察した。 

 

 

*一般に、ミクロゲルは内部架橋された高分子微粒子をいい、狭義には100 nm以下の超微 粒子と定義される。

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5‐4  結論  

エマルション中の種々のポリマー水溶液の氷核生成挙動についてDSCを用いて調査した。

その結果、PEG20, PVP35, DX38などの高分子では、濃度の増加とともにTnは下降を示した が、PVA22の場合においてのみ、低濃度領域でTnが上昇していく挙動が認められた。その

際、Tn上昇はPVA22の濃度の対数に対し、線形的な上昇挙動を示した。また、PVA22水溶

液では、1.0 ~ 2.0 wt%程度においてTn上昇の頭打ちが認められ、それ以上の濃度において Tnは下降する挙動を示した。 

このTn上昇挙動について検討を行うため、異なる分子量のPVAを用いて検討した結果、

分子量の影響は小さいことが認められた。それより、PVA水溶液で見られるTn上昇におい て高分子効果は認められないことが示された。また、PVA分子を異物質とした場合、PVA水 溶液におけるTn上昇挙動はBiggの経験式に従うことが認められた。 

PVA22水溶液の1.0 wt %はC*に相当したことから、それ以上の濃度で見られるTn下降挙

動は高分子鎖の重なり合いに起因すると当初考えられた。しかし、その後のTn下降挙動は ΔTn   k ΔTmのRasmussenらの経験式において定数k   4.2とすることで成立したことから ΔTm降下が最も大きな原因と考えられた。 

最後にPVA水溶液におけるTn上昇効果の原因について検討し、Tn上昇効果はC*よりもは るかに低濃度で認められていることから、PVAの特性として良く知られるハイドロゲルが原 因ではなく、近年報告されているミクロゲルの存在によるものであると考えられた。