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4‐4 結論  

種々の糖質系界面活性剤を含むNaCl水溶液の凍結融解過程をDSC測定することで、糖質 系界面活性剤がNaCl•2H2O/氷という共晶の形成を抑制する効果を有することが認められた。

一定量の糖質系界面活性剤を添加した場合、その溶液の抑制挙動は、NaCl 濃度変化に伴い 以下の三つの濃度領域に区分された。 

Group  I : NaCl濃度が低く、一部の氷の成長とともに共晶形成が完全に抑制される濃度領

域。共晶形成は系のガラス化により抑制されていると考えられる。 

Group  II :  NaCl濃度が中程度であり、共晶が昇温過程において形成する。さらに、凍結

融解過程において一部の共晶形成は抑制されている濃度領域。冷却過程における共晶形成

抑制はGroup  I と同じくガラス化によると考えられる。 

Group  III : NaCl濃度が高く、昇温過程において共晶と氷の融解ピークのみ認められる。

しかしながら、一部の共晶は抑制されている濃度領域。このGroup  III において、糖質系界 面活性剤は共晶の形成と融解により濃縮および希釈され、その間、ミセル‐ヘキサゴナル相 転移などの液晶‐液晶間相転移を示すことが示された。 

さらに、種々の糖質系界面活性剤の共晶形成抑制効果を比較した結果、それらの共晶形 成抑制効果は親水部の糖質を構成する糖質骨格数に大きく依存していることが示された。

すなわち、単糖に比べ二糖が、二糖に比べて三糖がより高い共晶抑制効果を示した。 

また、天然の糖質と、相当するその糖質に疎水基を導入した糖質系界面活性剤が示す共 晶形成抑制効果について比較した結果、天然の糖質は、それぞれの糖質系界面活性剤より も1.6倍程度高い効果を示すことが認められた。天然の糖質への疎水鎖の付与は、会合体形 成を示さない糖質では共晶形成抑制効果を顕著に低下させ、アルキル鎖長が会合体形成を 示す長さに到達した場合、それ以上の鎖長の増加は共晶形成抑制効果に相違を与えない結 果を示した。 

これらの結果から、既に知られている界面活性剤の界面特性においては疎水鎖長の増加 はそれらに大きな変化をもたらす一方で、共晶形成抑制効果においては疎水鎖ではなく、

親水部が大きく寄与していることが示され、界面活性能、共晶形成抑制能といったそれぞ れの機能性を有する分子デザイン設計が相反せず、両立させることが可能であると理解さ れた。すなわち、より高い界面活性能と共晶形成抑制効果を示す糖質系界面活性剤のデザ インする場合、より長い疎水鎖とより多くの糖骨格を有する糖質系界面活性剤を選択すれ ば良いことが明らかとなった。 

糖質系界面活性剤が示す共晶形成抑制効果は、タンパク質の凍結乾燥過程における糖質 系界面活性剤の安定化剤として機能性を裏付ける特性の一つといえ、糖質系界面活性剤の 疎水鎖や親水部構造を考慮することで、タンパク質の凍結乾燥過程における糖質系界面活 性剤添加による安定化効果は大きく変化することが考えられる。今後、そのような系統的 な研究が行われることを期待する。 

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第 5 章      

糖質系界面活性剤が形成する W/O エマルションにおけ る種々のポリマー水溶液の氷核生成挙動の検討  

 

5‐1 緒言  

5‐1‐1  過冷却水溶液における氷核生成 

純水は平衡凝固点(融点  : ΔTm)を0 oC(273.15  K)に持つが、小さな液滴を冷却した 場合にはそれより低い温度になってもすぐには凍結せず液体の状態が維持される。この平 衡凝固点以下における液体のままでいる状態を過冷却状態といい、それは水の凝固が核生 成過程を経ることに起因して生ずる準安定状態である。 

水和物形成や溶質の析出が生じない系において、平衡凝固点以下の水溶液中では氷が最 も安定な相である。しかしながら、氷の生成過程で小さいサイズの氷クラスターが生じる 場合は、新たな氷‐水界面の表面自由エネルギーの生成を伴うため、系内は一時的にエネル ギー的に不利となる。その結果、氷クラスターは水に戻り、引き続き過冷却状態が維持さ れる。安定な氷の形成には、表面自由エネルギーの増加分を補う大きな氷クラスターの生 成が必要となる。1 

 

   

Figure 5‐1   異なる核生成機構を比較した模式図。ΔTmは液体の平衡凝固点(融点)。 

Liquid metastable Liquid stable phase

Crystal stable phase

Thermodynamic Kinetic

Ice nucleus

ΔT

m

Temperature

Homogeneous nucleation Heterogeneous

nucleation

Foreign particle

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水溶液が凍結するには、核となる氷クラスターの生成が必要であるが、この核生成過程 には二つの場合が存在する。1 氷クラスターが異物質の上で形成した場合、その氷核生成 過程は”不均質核生成(heterogeneous nucleation)”という。また、氷クラスターが水分子同 士の揺らぎによってのみ形成された場合、その氷核生成過程は”均質核生成  homogeneous 

nucleation  ”という。二つの異なる核生成過程の違いをFigure 5‐1に模式的に示した。 

 

5‐1‐2  均質核生成 

過冷却状態の水では常に構造的変化が生じており、それは局所的に密度、温度、圧力な どの各パラメーターに揺らぎを与えている。これらの揺らぎは、液相中において氷クラス ターが絶え間なく形成と消失を繰り返していることにより生じている。その氷クラスター がある種の臨界サイズを超えて形成すると、それは氷核となり、その後の成長は熱力学的 に安定となって氷が形成する。その安定機構については以下のように説明される。1 

まず、過冷却状態の水と氷のそれぞれの化学ポテンシャルをµL, µS、水と氷との単位体積 当たりの自由エネルギー差をΔGV、その際生成した氷核中の水分子のモル数をnsとすると、 

 

V ns S L       5‐1  

 

となる。ここで、氷核の単位面積当たりの界面自由エネルギーをσとして、半径rの氷核が 生成するときの自由エネルギー変化を考えると、 

 

∆   r 4 3⁄  πr  ∆ V 4 πr  σ      5‐2    

が与えられる。 5‐2 式において、右辺第一項は体積変化に起因する自由エネルギー変化で あり、右辺第二項は界面自由エネルギー変化に相当する。 5‐2 式を半径 r で微分し、極大

値r*を得ると次式が得られ、その際のΔGcritは 5‐4 式で表わされる。 

 

r 2 σ ∆⁄ V      5‐3    

∆ 16 π σ 3  ∆⁄ V       5‐4  

 

5‐3 式で、r*は生成する氷核の臨界半径であり、この大きさ以上の氷核はエネルギー的に 安定し成長することができ、それにより初めてマクロな意味での”氷”となることができる

(Figure 5‐2)。 

単位体積当たりの液体中で生じる臨界半径を有する氷核の数  n rLS  は、ボルツマン定数 を用いることで次式のように近似的に表わされる。 

 

n rLS n exp T       5‐5    

ここで、n0は液体中に単位体積当たりに存在する水分子数に相当する。kはボルツマン定数、

である。氷の形成されやすさを示す重要な概念として氷核生成頻度(または核生成速度)

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があるが、それはこれらの氷核がさらに大きくなる際の速度に相当し、Turnbull と  Fisher はこの速度を Texp 

T に近似できると考えた。ここで、h はプランク定数、Δg  は氷‐水界面を水分子が通過する際の活性化エネルギーに相当する。それより、連続的に成 長できる氷核の生成頻度, JLSは、 

 

LS Texp 

T  exp

T       5‐6  

 

で示され、 Texp  T を定数Kに置き換えることで、 5‐6 式はしばしば、 

 

LS K exp T        5‐7    

と簡略化される。 

ここで、J は単位体積当たりの核生成頻度に相当するため、試料当たりの核生成頻度は、

全溶液当たりの核生成頻度となるためそれは溶液量に比例することとなる。よって、体積V の試料における氷核生成頻度Jvol‐totalは 5‐8 式で示される。 

 

J   LS       5‐8  

 

 

Figure 5‐2   氷核生成における氷核の大きさと自由エネルギーの関係。2 

4πr2σ

ΔG

4/3 πr3ΔGV +ve

-ve