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SET パルス幅の LET 依存性

第 5 章 SET パルス幅分布の LET 依存性測定 64

5.4 SET パルス幅の LET 依存性

0 5 10 15 20 25 30 35

0 0.2 0.4 0.6 0.8 1.0 1.2

Counts (times)

SET Pulse Width: TSET (ns)

Kr 45 deg

40

LET

eff

= 56 MeV•cm

2

/mg

5.13 5.6に対してガウスフィッティングを行った結果(LETef f = 56 MeV·cm2/mg)

0 5 10 15 20 25 30 35

0 0.2 0.4 0.6 0.8 1.0 1.2

Counts (times)

SET Pulse Width: TSET (ns)

Kr 49 deg

40

LET

eff

= 62 MeV•cm

2

/mg

5.14 5.7に対してガウスフィッティングを行った結果(LETef f = 62 MeV·cm2/mg)

0 5 10 15 20 25 30 35

0 0.2 0.4 0.6 0.8 1.0 1.2

Counts (times)

SET Pulse Width: TSET (ns)

Xe 0 deg

40

LET

eff

= 68 MeV•cm

2

/mg

5.15 5.8に対してガウスフィッティングを行った結果(LETef f = 66 MeV·cm2/mg)

0 5 10 15 20 25 30 35

0 0.2 0.4 0.6 0.8 1.0 1.2

Counts (times)

SET Pulse Width: TSET (ns)

Xe 45 deg

40

LET

eff

= 92 MeV•cm

2

/mg

5.16 5.9に対してガウスフィッティングを行った結果(LETef f = 92 MeV·cm2/mg)

図5.17に最頻値(Mode)とLETの関係を示す.図中のプロット,エラーバーは,それ ぞれ表5.3中Modeの値と誤差に対応している.SETパルスの原因であるデバイス内へ の電子正孔対生成量は付録 B.1式より LETに比例するが,最頻値は入射イオンのLET が40から92 MeV·cm2/mgまで増加しても0.49 ns 〜0.56 nsとほぼ一定であった.図 中に示すように最頻値に対して近似直線を引いたところ,傾きがほぼ ‘0’の直線であっ た.また,LET = 0ではTSET も0のはずであり,LET = 40 MeV·cm2/mg未満では,

TSET が0に向かって急激に小さくなることが予想できる.以上のことより,LET = 40 MeV·cm2/mg 以上におけるTSET は飽和傾向を示していると見ることができる.これ は,図5.18に示す,EatonとBenedetto等が行ったバルクプロセスで作製されたNOT 素子で発生するSETパルス幅のLET依存性測定結果 [15]と異なる結果であり,図5.19 に示すDodd等が行った,SOIプロセスで作製されたNOT素子で発生するSETパルス 幅の LET依存性シミュレーション結果 [20]と一致している.SETパルス幅分布の最頻 値が飽和傾向を示していた要因の一つとしてデバイス内に生成される過剰キャリアの再結 合が考えられる.その理由としては,キャリア再結合率は,重イオンによってデバイス内 に生成される電子正孔対の密度の関数で表されるためである.重イオンの入射LETが大 きくなるとデバイス内に生成される電子正孔対の密度が大きくなり過剰キャリアの再結合 が増加する.そのため,SET パルスは直線的な増加を示さず,飽和傾向を示すと考えら れる.

これまでバルクプロセスで作製されたNOT素子で発生するSETパルス幅分布のLET 依存性が,直線的増加を示すとも言われてきた.しかし,本測定結果により,0.2 µm

FD-SOIプロセスで作製されたNOT素子で発生するSETパルス幅のLET 依存性は飽

和傾向を示すことが実験によって初めて実証された.宇宙環境に存在する重イオンの最大 LETは100 MeV·cm2/mg程度(図A.5より)である.この事実と本測定で得られた飽和 傾向より,宇宙環境において0.2 µm FD-SOIプロセスで制作されたNOT素子内で発生 するSETパルスの幅は,最大で1.0 nsであると言える.また,回路レベルのSET対策の 一つとして考えられているRCフィルタの時定数を最大で1.0 nsとすればよいと言える.

0 0.2 0.4 0.6 0.8 1.0

0 20 40 60 80 100 120

SET pulse Width: TSET (ns)

LETeff (MeV•cm2/mg) Kr

Xe F(x) = 0.034X + 521.1

0

45 49

0 45

5.17 SETパルス幅分布中の最頻値(Mode)LET依存性.エラーバーは,それ ぞれ表5.3Modeの値と誤差に対応している.

5.18 バルクプロセスで作製されたNOT素子で発生するSETパルス幅のLET 存性測定結果[15]

SOI

5.19 SOIプロセスで作製されたNOT素子で発生するSETパルス幅のLET依存 性シミュレーション結果 [20]

実験結果の再現性

Kr をテストチップに対して0(LETef f = 40 MeV·cm2/mg)で照射した結果(図5.5) は4 章で示したNOT 素子でのSET パルス発生率測定 (図4.4) と同じビーム条件で得 られたものである.これらを比較することによって,スナップショット回路を用いた SETパルス幅測定手法の再現性を議論する.それぞれの最頻値(Mode)は,本測定結果 で0.565 ns,第 4章で示したNOT 素子でのSETパルス発生率測定で0.341 nsであっ た.また,SETパルス幅の分布範囲は,本測定結果で0.15 nsから0.85 ns,第4章で示 した NOT素子でのSETパルス発生率測定で0.05 nsから 0.75 nsであった.本測定で 得られたSETパルス幅が,第 4章で示したNOT素子でのSETパルス発生率測定結果 に対して0.1 ns長かった.

第4章で示したNOT 素子でのSETパルス発生率測定でもSETパルス幅の測定誤差 は較正直線より0.1 ns程度であるため,二つの測定結果を比較する場合最大で0.2 ns程 度の誤差が生じる.第4章で示した NOT素子でのSETパルス発生率測定と本測定で得 られたSETパルス幅の Modeの差は0.2 ns程度と誤差の範囲に含まれる.このことよ り,本測定結果が第4章で示したNOT素子でのSETパルス発生率測定で得られたSET パルス幅分布を再現していると言える.

照射イオン種,エネルギー依存性

図 5.20 に 示 す よ う に ,こ れ ま で 0.18 µm バ ル ク デ バ イ ス の Drain に Ca 6.2 MeV/nucleonを0 と45 で照射し,Drainに収集される電荷を測定した結果,それぞ れの収集電荷量が実効LETの考えに従わずほぼ等しくなることが指摘されている [19]. 図5.20は,SETパルス発生数の積算値をDrainに収集される電荷量の関数で示してお り,Drainに収集される電荷量250 〜 350 fCに注目すると,0 で照射した際の収集電 荷量250 fCに対して,45 で照射した際の収集電荷量が250 fCの1.4 (= 1/cos45)倍 350 fCと実効LETの考えに従うが150 〜 250 fCの間では,収集電荷量が0 と45 で ほぼ等しい.この原因はまだ解明されていないが,重イオンがトランジスタ中に生成す る電子正孔対の空間分布と,角度を持った入射によってトランジスタ中の収集領域が複 雑に変化することに関係しているとも言われている [19].重イオンが生成する電子正孔 対の空間分布は重イオンのエネルギーと,イオン種によって異なることが知られており,

高エネルギー(>数GeV/ion)重イオンではその電子正孔対が,重イオン経路から数µm にわたって分布することもある [29].今後テクノロジの向上によって,重イオンが生成 する電子正孔対の空間分布に比べトランジスタサイズが小さくなるため,その影響が顕 著になってくるという指摘もある [29].そのため,これまでも実効LETの有用性に関し て,同一LET であってもイオン種やイオンエネルギーが違う場合のイオン入射によるソ

フトエラーについての研究がなされている [29–31].図5.17に示すように,LET = 40 MeV·cm2/mg以上におけるTSET の最頻値は0.49 ns 〜0.56 nsと,それぞれ0.1 nsの 測定誤差の範囲に分布していた.また,本測定のKr 49(LET = 62 MeV·cm2/mg)照射 と,Xe 0(LET = 66 MeV·cm2/mg)照射で得られた最頻値に注目すると,両者の値は ほぼ一致している.このことから 0.2 µm FD-SOIプロセスへ,Kr 322 MeV,Xe 454 MeVを照射を行い,さらにSETパルス幅分布のLET依存性について最頻値を用いて議 論する場合実効LETの考えが適用可能であると考えられる.

5.20 SETパルス発生数の積算値をDrainに収集される電荷量の関数で示してお り,Drainに収集される電荷量250350 fCに注目すると,0で照射した際の収集電 荷量250 fCに対して,45で照射した際の収集電荷量が250 fC1.4 (= 1/cos45) 350 fCと実効LETの考えに従うが150 250 fCの間では,収集電荷量が0 45でほぼ等しい.[19]

宇宙環境下におけるSERSET の見積もり

ここで,実際の宇宙環境下でLET = 40 MeV·cm2/mg以上のイオン入射時のSERSET の見積もりを以下の条件を用いて行った.見積もりは,第4 章で得られたNOR素子と NOT 素子 1 段あたりのソフトエラー率と付録A の,図 A.5 に示す銀河宇宙線の積算 LET スペクトルとの積を取ることで行った.本実験結果で得られた飽和傾向より,LET

= 40 MeV·cm2/mg以上のイオン入射によってNOT 素子内で発生するSET パルス幅 分布は全てLET = 40 MeV·cm2/mgと同じであるとした.また,NOR素子でも同様に

40 MeV·cm2/mg以上の重イオンFluxは,高度に依らず107 (particles/m2·s)である.

全方位を考えると1.25×106 (particles/m2·s)となる.また,動作周波数100 MHzで 動作させようとした場合のNOR素子とNOT素子1段あたりのソフトエラー率はそれぞ れ1.25×109 (cm2),4.53×1010 (cm2)である.これらの積を取ると,実際の宇宙環 境下でLET = 40 MeV·cm2/mg以上のイオン入射時の論理素子1段あたりのSERSET は,NOR素子で1.56×1023 (Errors/s),NOT素子で5.66×1024 (Errors/s)となる.

1個の記憶素子に接続される論理素子の段数が10段程度で,発生したSETが全て記憶素 子まで達すると考えると,記憶素子1個あたりのSERSET はNOR素子で1.56×1022 (Errors/s),NOT素子で5.66 ×1023 (Errors/s)となる.さらに,論理素子のつながっ た記憶素子が10,000個実装された論理LSIを考えると,論理LSI1個あたりのSERSET はNOR素子由来で1.56×1018 (Errors/s),NOT素子由来で5.66×1019 (Errors/s) となる.これらを,平均3年間といわれる衛星のミッション期間内に発生するエラー数 に換算すると 1.48×1010 (Errors/3year), 5.35×1011 (Errors/3year) に相当する.

これより,宇宙環境下における 0.2 µm FD-SOI プロセスで作製された論理 LSIでの SERSET は非常に小さいと期待できる.