第 5 章 SET パルス幅分布の LET 依存性測定 64
5.2 実験方法
5.2.1 測定回路
SETパルス幅分布のLET依存性測定のために,先に使用したスナップショット回路を 使用した.試験対象論理回路はNOT 素子とし,NOT素子 24段が直列に接続されたも のを用いた.直列に接続された測定対象論理回路とスナップショットは,同一チップの中 に8セット実装されており,測定は8セット全ての測定結果を足し合わせたものである.
本回路による測定原理は先に示した通りである.
5.2.2 実験条件
実験は,日本原子力研究開発機構高崎研究所の加速器施設(TIARA) で行った.SET パルス幅分布のLET依存性測定では,限られた測定時間の中で40 MeV·cm2/mg以上の 広範囲の LETを持つイオンの照射が求められる.そのため,カクテルビームのKr, Xe を試験に採用しLET = 40, 66 MeV·cm2/mgのLETを得た.さらにそれ以外のLET を得るために,実効LET(LETef f)の考えを用いた.LETef f とは,Krの場合を考える と図5.1に示すように,角度を持った入射によってイオンがデバイス中を通過する距離が 伸びる.その結果,LET = 40 MeV·cm2/mgのKrがデバイス中に生成する電子正孔対 の量が通過する距離の伸びた分だけ増える. その結果,このKrが生成する電子正孔対 の量はLET = 56 MeV·cm2/mgのイオンが垂直に入射した際に生成する電子正孔対の量 と同量となるため,実効的にLET = 56 MeV·cm2/mgとして用いることにするという考 えであり,本研究分野で一般的に用いられる方法である.実際の試験では,テストチップ をビーム軸に対して傾けることによって照射を行う.
このLETef f の考えを用いて,Kr, Xeを0◦,45◦,Kr 49◦ で照射した際のLETef f を求めた.LETef f 計算はSRIMコード [26]を用いて論理素子を構成するMOSFETの パッシベーション層(チップ表面からSOI層までの層)を通過した時のイオンエネルギー を計算した後,そのエネルギーのイオンがSiに付与するLETを計算した.計算モデルと して,パッシベーション層の厚さは0.2 µm FD-SOIの断面電子顕微鏡写真(図5.2)より 読み取り,7.0 µmであるとした.また,パッシベーション層の材質は,簡単のため金属 配線層を無視して一様なSiO2 と仮定した.0◦,45◦,49◦ での計算結果を表5.1に示す.
LETef f の値はSOI層最上部での値である.LET依存性測定ではこの2種のイオンを用 いて5段階のLETef f での照射を行った.
45° 0°
Source Drain
50 nm
Body
LET = 40 (MeV・cm2/mg) LET = 56 (MeV・cm2/mg)
40 (MeV・cm2/mg) x 50 (nm) / cos 45°
=56 (MeV・cm2/mg) x 50 (nm) 図5.1 実効LETの概念図.
NMOSFET PMOSFET
0.2 µm
7.0 µm
図5.2 0.2 µm FD-SOIの断面電子顕微鏡写真 [27].
表5.1 各イオン照射角度におけるLETef f の計算値.
Ion Angle Accelerateed Energy Energy in SOI LET in SOI Range in Si
[deg] [MeV] [MeV] [MeV·cm2/mg] [µm]
Kr 0 322 253 40 33
Kr 45 322 225 56 30
Kr 49 322 216 62 29
Xe 0 454 336 68 31
ここで,パッシベーション層の材質を一様なSiO2 としたことによるエネルギーロスの 誤差について考える.エネルギーロスとは,物質を通過するイオンが単位長さあたりに失 うエネルギーのことでLETと同値である.そのため,エネルギーロスもイオンが通過す る物質による.仮にパッシベーション層の半分が配線に用いられる金属(Al) とした場合 について考える.図5.3に本実験で用いたKrとXeのエネルギーとLETの関係を示す.
KrのエネルギーとLETの関係において矢印は,イオンの加速エネルギーと,49◦ 照射時 のパッシベーション層厚さ10.6 µm通過後のエネルギーを示している.パッシベーショ ン層厚さ 10.6 µm通過後のエネルギーはそれぞれパッシベーション層が全て SiO2 の場 合と半分がAlである場合のエネルギーを示している.XeのエネルギーとLETの関係に おいて矢印は,イオンの加速エネルギーと,49◦ 照射時のパッシベーション層厚さ 10.6 µm通過後のエネルギーを示している.パッシベーション層厚さ 10.6 µm通過後のエネ ルギーはそれぞれパッシベーション層が全て SiO2 の場合と半分がAlである場合のエネ ルギーを示している.図5.3からわかるように,パッシベーション層の材質によるエネル ギーロスの差はわずかでありLETの差も小さい.この結果より,パッシベーション層は 一様なSiO2 としたことによるエネルギーロスの誤差はほとんどないと言える.
0 20 40 60 80 100
0 100 200 300 400 500
Ion Energy (MeV)
Xe
2LET (MeV•cm/mg) Kr
Accelerated Energy
Ion Energy in SOI (SiO2) Ion Energy in SOI (SiO2 + Al)
図5.3 Kr, XeのSi中でのイオンエネルギーとLETの関係.
図5.4にチップに入射したXeのエネルギーと LETの関係を示す.横軸はチップ深さ とした.図からわかるように,SOI 層でのエネルギーロスがほとんどない.そのため,
SOI 層中でのLETはほぼ一定と考えられるため,SOI層 (50 nm厚)を通過するイオン のLETは一定とした.
320 340 360 380 400 420 440 460
0 1 2 3 4 5 6 7 8
67.0 70.0
Energy (MeV) LET in Si
Depth (µm)
66.5 67.5 68.0 68.5 69.0 69.5
320 330 340
7.0 7.2 7.4 7.6 66.8 68.2
Energy (MeV) LET in Si
Depth (µm) 67.5
SOI
図5.4 チップに入射したXeのエネルギーとLETの関係.横軸はチップ深さ.
Fluxは,Si-SSDによって3.5×104 particles/cm2·のFluxを測定した後に,10−1の アッテネータを抜き,ビームをサンプルに照射することで10倍程度に制御した.しかし,
アッテネータの精度があまりよくないために,LET依存性測定での照射Fluenceは参考 値となる.