﹈ 壊
1.3.5 S2の 破壊形態に及ぼす リグニ ンおよび ヘ ミセル ロースの 影響
仮 道 管 壁,と くに S2の 破 壊形 態 に関与 す る因子 と して は,(1)S2中 における亀 裂 の変形 様 式,(2)S2 固有 の 構造
,①
破壊 時の環 境条 件 な どが重 要 で あろ う。 これ まで は主 と して(1)につ い て論 じて きた。本項 で は12)につ いて,と くに S2の破 面形 態 とS2の 主要 構成成 分 で あ る リグニ ンお よ び ヘ ミセ ル ロース との 関連 性 につ い て述べ る。 ここで は これ らの成 分 を除去 す る こ とによ って単一 仮道管壁の外観お よ び破 面 の形 態 と備成 が どの よ うに変 化す るか を明 らか にす る とと もに
,変
化 を ひ きお こす原 因 につ い て考察す る。1,3.5。 1
リグニ ン除去の影響 ―ホロセル ロース化晩材単一仮道管の破 壊形態
ここで は ア カマ ッお よ び スギの脱 リグニ ン処 理 した晩甘単一 仮道管 (以下 ホ ロセ ル ロー ス化 晩は単
(31)
一仮道管 と称す る)の破壊形態 について
,未
処理晩材単一仮道管のそれ と比較す る(古川 ら1974b)。脱 リグニン処 理の効果 は アカマツにおいて とくに顕著 に認 め られた。
写真
39か
ら45は
ほぼ全乾状態で破壊 した アカマツの ホロセル ロース化晩材単一仮道管の破壊先 端の全体像お よび一部 を拡大 した ところを示す。 アカマツ晩材単一仮道管は脱 リグニ ン処理 をす るこ とによ つて,仮
道管表面 に太い縦 じわが現れ るとともに,仮
道管全体が少 し丸味を帯 び,壁
が厚 くな り,し
か も内 こうの横断面形状が短形か らやや丸味を もった方形 に変 るな ど,外
観上 に変化が認め ら外表面 に見 られ る太 い縦 じわは リグニ ンの除去 によ って壁 中に生 じた空 隙が乾燥 によ ってつぶれ, 壁が収縮 した結果生 じた ものであろ う。 しか もしわの方向か らみて,これはS2の ミクロフ ィブ リルの 横方向の凝集 によ る もの と考 え られ る。 したが つて この しわの方向か らS2の ミクロフィブ リル傾 角 を かな り正確に知 ることがで きる
(TANGoSMITH 1975)。
また
,仮
道管横断面での形状変化は脱 リグニン処理 に ともな う壁の膨 潤によ って もた らされた もの と推定 され る。 とくに内 こうの形状変化の大 きいことか ら膨潤は内 こう側に向 って生 じた もの と思わ れ る。最近 S ToLLとFENGEL(1977,1978)は
オウシ ュウ トウ ヒ(P売蝕 αb力s)を亜塩素酸塩法で段 階的に脱 リグニン して仮道管の横断面形状の変化 を調べ た ところ,壁
中の リグエ ン残存量がlG協 以下 では壁が ゆ るんだ り(loosening),膨
l■3した りす るが,24%以
上 では全 く変化のない ことを明 らか に してい る。写真40に
示 されてい る仮道管 は しわ も比較的小 さ く,仮
道管の横断面形状 もあま り変 化 して いない ことか ら,壁
中にはまだか な りの リグニ ンが残 留 して い るもの と思 われ る。 このよ うな 仮道管 は解繊用小片の中心部に在 って,薬
液の浸透が不十分だ った こ とに起 因す る ものであろ う。リグニンを除去 した アカマツ晩材単一仮道管の破面(とくに
S2)は ,写
真39に
示 されているよう1こ ほ とん ど切断破壊型の破面で構成 されてお り,裂
け破面は局 部的 にみ られ る程度 であ る。切断破面 もC‑1,C―
Ⅱ破面のみで,C一
Ⅲ破面は本実験 に関す る限 り観察 されなか った。 しか もこれ らの切 断破面上では独特 の同心円状 もしくは これ に近 い模様 (ラ メ ラ状模様)が認 め られた。 また局 部的に み られ る裂 け破面 もほとんどS一 Il(も しくはS―I)破
面であった。このよ うに リグニンを除去す るこ とによ って S2の 破面の構成は未処理晩材単一仮道管のそれに比べて単純化す るとともに切断破壊優先 型 に変 る傾向が認め られた。 これは壁 を構成す る主要構成成分の うちセル ロースや ヘ ミセル ロース と は全 く異質 な リグニンが除去 され ることによ って
,堅
が均質化 したため と考 えられ る。 このlLA向は ホ ロセル ロース化単一仮道管か らヘ ミセルロースを除去す ることによ って一層顕著 とな ることか らも理 解 で きる(後
述)。ところで ラメラ状模様 をさらに詳 しく観察 した ところ
,次
の3つのパ ター ンが認 め られた。 まず第 1は写真41と 42に
示 されてい るよ うに,S2が
同心円状の極 めて薄 い シー ト状 に抜 け出た り裂 けた りす る場合 である。 この場合 の シー トの数 は写真 か ら判読 した限 り100〜 150枚
程度 であ った。第2 は写真42や 43に
み られ るよ うに,S2が
同心 円状 に,し
か も先程の薄い シー トの数枚〜十数枚分の 厚 さで層状 に裂 けた り,そ
の よ うな層状の模様がC― I破面上 にみ られ る場合で あ る。 第3は
写 真(32)
44に
示 されてい るよ うに,同
心 円状 とい うよ りむ しろ蜂の巣状 にS2が裂 けた り,引 き抜 けた りす る 場合である。この よ うな仮道管壁の S2の ラメラ構造 はBAILEYと
KERR(1935)に
よって発見 されて以来,これが S2の 本来の情造なのかそれ とも試料作製中に生 じた人工産物なのか とい う点で多 くの議論 を招 いた。S2の ラメラを本来の構造であると主張す る見解 としては,(1)ラ メラを多糖類および リグニンの生物代 謝周期に起因す る一種の生長輪
(grOwth ring)と
見なす考 え方(NEё ESAN乎 ら 1965),(2)二次壁の肥 厚 が ラ メ ラ の 堆 積 と し て 行 わ れ る と い う 考 え 方 (WARDROP・ HARADA 1965,今 村 ら 1972b)な
どがあり
,これ らの他にも
(3)仮道管壁の X線 回折法 (FREY― WYSSLING 1976)や
(4)木口超薄切片の STEM(scanning transmissiOn electrOn microscOpe)に
よ る 直 接 観 察(KERR° GoRING 1975,RuELら 1978)な
どか らもラメラ構造の存在の可能性が支持されている 。 これ に対 して,HEYN(1969)は
カ リビアマツ(Pぢ吻G oαれbα 9α)の脱 リグニン処理前後の仮道管壁 移TEMに
よ って注意深 く調べた ところ,S″では ミクロフィブ リルが均―に分散 した構造 しか見 られず,S2は
本来 連続 した均―な騰造であろうと指摘 している。 さらに近年パルプ化 した仮道管壁で しば しば ラメラ状 備造が観察 されているが,こ
れについてS ToNEと S CALLAN(1965)│ま 化学的および機械的にパルプ化 する工程において生 じるのであろ うとし,同
様のことが リファイニング(refining)す
るとき( にIsr10M1967)とか 叩 解
(beating)す
る と き(PAGE・DE GRACE 1967)に
認 め ら れ て い る 。 こ の よ う な パ ルプ化 した仮道管壁 にみ られ るラメラ稽造の発現機構については多 くの解釈が試み られているが
,そ
れ′らの解釈はすべて(1)S21こは もともとラメラ構造があ り
,こ
れ らの ラメラ間が薬剤の作用 によ って緩め られ ,(2)ひ きつづいて機械的な力が働 くことによ って完全に ラメラ化(delaminatiOn)す
るという2つ の 点 で 共 通 し て い る (STONE° SCALLAN 1965,MC INTOSH 1967,PACE・ DE G越 伍 1967, SCALLAN
1974)。
したが って ここで観察 された ラメラ状幡造 も次の
2つ
の段階を経て発現 した もの と思われ る。すな わ ちまず第1段
階では,脱
リグニ ン処理 されたS2が乾燥 され るときに,S2中の ミクロフ ィブ リル同志 が ヘ ミセル ロースを介 して横方向(接線方向)に凝集す ることによ り微視的な ラメラ化が生ず るので あろ う。 したが って ,も し脱 リグニン処理 したS2中 の ミクロフィ ブ リル相互の移動 を完全に固定す る ことがで きれば,このよ うなS2では ラメラ状構造 を見 る こ とが で きな い で あ ろ う(例
え ばHEYN
(1969)の
観察)。 つづいて第2段
階 では微視的な ラメラ化の生 じているS2に機械的な力(こ こでは 縦 引張応力)が作用す ることによ り,各
ラメラ間が剥離 し可視的な ラメラ状 構造が発現す るのであろ う。 この場合 の ラメラ間の剥離には,堅
中 とくにS2の放射方向の応力傾斜(TANG 1972,BARRETT・
SCHNIEWIND 1973)と
ともに,S2中
の亀裂先端近傍の応力分布(CooK'GoRDON 1964)わ
ゞ関 与す るであろ う。 ところで写真45は
写真40の
破面の一 部を拡大 した ところを示す。この試料はすでに 述べ たよ うに リグニンが完全に除去 されていない と考 え られ
,そ
のためS2中 で微 視的な ラメラ化が十 分発達せず,破
面に ラメラ状構造が現れなか った もの と推定 され る。 しか し未処理試料の切断破面に 比べて微小な とげ状の ものが明瞭にみ ら和′ることか ら,
ミクロフ ィブ リル間の結合は処理 によ って緩G0
め られている もの と思われ る。
写真
46か
ら49は
スギの ホロセル ロース晩材単一仮道管 をほぼ全乾状態で縦引張破壊 した ときの 破壊先端 の全体像およびその一 部拡大像 を示す。 スギの場合 も基本的には アカマツの場合 とほぼ同 じ であ った。脱 リグニン処理 によ って スギ晩材単一仮道管の表 面に も太 い縦 じわが多数観察 されたが
,仮
道管の 横断面形状 はあま り変化 しなか った(写真46,47)。
S2の 破面は アカ マツのそれ′と同様 に切断破壊優先型の破面 を呈 し
,裂
け破壊 は局部的にみ られ る程 度 であ る。 また破面 はR―T壁
子[′を横切 って発生す ることが多か った (写 真46の
矢 印)。 その場合 の 破面はR―T壁
孔の近 くではC一 I破面 を呈す るが,R― T壁
子しか ら離れた ところではC― ■破面 も 観察 された。 しか しC―Ⅲ破面は観察 されなか った。 このよ うにスギの ホロセル ロース化晩材単一仮 道管壁の破面の構成 も未処理のそれ夕に くらべて単純化す る傾 向が認め られた。また切断破面上ではアカマツの場合程顕著な ラメラ状構造 は観察 されなか ったが
,写
真48に
示 さ れて いるよ うに,そ
れに近 い構造 を見ることがで きた。 さらにスギでは写真49に
示すよ うな典型的 なC― I破面が しば しば観察 された。1,3.5。
2 リグニ ンとヘ ミセル ロースの除去の影響 一 α一セル ロース化
FIn材単一仮道管の破壊形態
ここでは脱 リグニン処理 と脱 ヘ ミセル ロース処理,と を施 した アカマツお よびスギの晩材単一仮道管 (以下 α一セル ロース化晩材単一仮道管 と称す る)の処理 による外観の変化な らびに縦引張破壊 によ る破面の形態 と構成 について
,す
でに述べた未処理およびホロセル ロース化晩材単一仮道管のそれ ら と比較す る(古
川1974b)。
写真
50と 51は
ほぼ全乾状態で縦引張破壊 したアカマツの α一セル ロース化晩甘単一仮道管の破 壊先端 を示す。仮道管は α―セル ロース化 され ることによ り,そ
の外観 は著 しく変化す る。すなわ ち 壁は膨潤 し,肉
厚 円筒状 移呈す る。 このよ うな変化は ナ トリウムイォンによる ミセル膨iLgだけでな く,ヘ ミセル ロースの除去 に ともな う ミクロフィブ リルの再配列によ って もひきお こされてい る可能性が 大 きい。 また仮道管表面には太い縦 じわが多数み られ る。 これは壁構成成分の大半が除去 され ること によ って生 じた空隙が乾燥の際にコラップスす ることによ って生 じた ものであろ う。
d一 セ ル ロース化 したアカマツ晩材単一仮道管のS2の 破面は,写真
50と 51か
らも明らかなように切断破壊優先型の破面であ り
,し
か もその破面上 にはC― Ⅱ破面の多い ことが特徴 であ る。 これ よS2中 の ミクロフ ィブ リル間 を充填 してい る物質が除去 され ることによ って,S2が
か な り均質 とな り,そ
の 結果均質 な材料の引張破壊で しば しばみ られ る純浄 なせん断破壊(引張軸 に対 して45°の面内での破 壊)に近 い破壊が生 じるもの と推定 され る。 またS2の 破面上で裂 け破壊 によ る破面は局部的に しか見られ なか った。
写真
52,53お
よび54は
写真50と51に
示 した破面の一部 を拡大 した ところを示す。この場合
(341
の破 面では
,未
処 理およびホロセルロース化晩材単一仮道管の破面 と比べて,破
面全体が微小な とげ状 の もので覆われてい ることおよび ラメラ状構造がほ とん どみ られず消失 してい ることな どの特徴が認 め られ る。破面上 にみ られ る微小 な とげ状 の ものは個 々の ミク ロフ ィブ リル もしくは フ ィブ リルの切断先端 を 示す ものであろ う。破面が平担 とな らず このよ うな とげ状 を呈す るのは
,
ミクロフ ィブ リル同志 を結 合 してい る力が弱 く,ミ クロフィブリノ嚇ゞS2中 でイ固々に 破断 したため と思 われ る。す なわ ち α―セルロ ース化 したS2は,ミ クロフ ィブ リル同志が緩 く結合 し,隙
間の多い傭造 そ してい ると推定 され る。 と ころで,α ―セル ロース化 したS2がこの よ うな構造 をしてい ることは,SEM観
察中に切断破面が電子線による損傷 を受 けやす いことか らも推察す ることがで きる(写 真
54の
矢印)。 すなわ ち蒸着膜 を 突 き抜 けてS2内 部に侵入 した電子 はそ こで熱 を発生 し,これが試料 に熱的変化 を付 与す ると考 え られ る。S2の
ミクロフィブ リルが リグニンとか ヘ ミセル ロースで強固に結合 されてい る場合 には,このよ うな熱的変化 を受 けに くい。 ところが このよ うな充填物質のない場合 は ミクロフ ィブ リル同志で直接 結合 しなければな らず,この場合はか えって結合が弱 く,熱
による影響 を受 けやす くなる と推定 され る。写真 54に みられる裂 け目は このよ うな原 因で発生 した と思われ る。同様の電子線による損傷が コ ウゾ靱皮繊維 のセル ロースに富 む壁層 において もしば しば観察 されたことは興味深 い(後
述)。また α―セル ロース化 したS2の 切断破面では ラメラ状模様がほ とん ど観察 されなか った。写真
55
は α―セル ロース化 した アカマッ晩材単一仮道管のS2の 破面の一部であるが,ラ メ ラ状模様 はわずか に認め られ る程度 である(矢印)。 ホ ロセル ロース化 したS2の 破面で見 られていた ラメラ状模様が α 一セル ロース化す ることによ って見 られな くな ることか ら考 えて
,d―
セル ロース化 したS2中 の ミク ロフ ィブ リルは微視的なラメラ状構造(135.1参
照 )を 形成 しない もの と推定 され る。すなわちS2 が α―セル ロース化 され ることによ り,S2中
の ミク ロフ ィブ リルはS2内 部で ランダ ムに分散 した状態 にな ると考 えられ る。 この ことはS2の 有す る複合材料的特性が失われ ることを意味す る反面,甘
料的 にはよ り均質化 した ことを意味す るものであろ う。写真
56と 57は
ほぼ全乾状態で縦引張破壊 したスギの α―セル ロース化晩材単一仮道管の破壊先 端 ″示す。仮道管の外観の変化および破面の構成 はアカマツの場合 と同様である。すなわ ち外観 は肉 厚 円筒状 を呈 し,そ
の表面 には太い縦 じわが多数み られ る。破面の構成は切断破壊優先型で,と くに C― IL破面が顕者 に見 られ る。写真58と 59は
それぞれ写真56と57の
破壊先端の一部を拡大したも のであ る。破面上に ラメラ状模様は見 られず,破
面全体が微小な とげ状の もので覆われているな どア カマツで見 られた と同様の破壊形態が認め られた。以上 に示 した α―セ ル ロース化晩材単一仮道管の外観および破壊形態 と前述の未処理な らびに ホロ セル ロース化晩材単一仮道管のそれ らとを比較す ることによ って
,S2中
の主要 構成成分であ るセル ロ ース ミクロフ イブ リル とヘ ミセル ロースおよび リグニンの結合状態をある程度推定す ることがで きる。すなわ ち リグニ ンだ けを除去 した S2の 切断破面 はか な り平滑であ るのに対 して, リグニ ンとヘ ミセル ロースを除去 したS2の 切断破面は平担であるが微細 な とげ状の もので覆われている。 これは リグニ ン