3E l
木 材に限 らず種 々の 固体材料の破壊時 における亀裂の挙動 は
,そ
れ らの材料が本来有 して いる微視 的な らびに巨視的な組織構造,と りわけ材料中の構造上の変異部 と密接な関係が あ る。 この よ うな構 造上 の変異部 は,破
壊 時において一見矛盾す るよ うな2つ
の働 きを有 している。第1は材料中におい て応力集中源 として作 用す箔場合である。 この場合は変異部 を材料中における不均―な部分 とみな し,この部分は応力が集中 しやす く
,破
壊の開始部位 とな ることが多い ことか ら甘料中にお ける欠陥部 と 考 え られ る。 したが って この場合,材
料 の強度は欠陥部の存在 によ って低下す る。 これに対 して第2 は材料中において亀裂の伝播 を阻止 し,亀
裂先端に集中 した応力の緩和源 として作用す る場合であ る。例 えば
FRCMの
ような異種材料の相界面では,亀
裂が近づ くとそ こが剥離 し,亀
裂先端に集中 した応 力が緩和 され ることによ り,亀
裂の急速 な伝藩が妨 げ られ るとともに,そ
の分だけ余分にエネルギを 吸収す るので材料 に靭性が賦与 され る。 したが って この場合 は変異部が存在す ることによ ってか え っ て材料の靭性は向上す る。 このよ うに材料中の変異部は応力集中源であるとともに応力緩和源で もあることに注 目したい。
木 材 も本来 不均― な材料であると言われている。 このよ うな不均一性は本材を構成す る種 々の大 き さの構造上変異部に起因す る ものであろ う。すなわち,セ ル ロース ミクロフィブ リル内部の デ ィス ロ ケー シ ョンや ミクロフ ィブ リルの末端部
,
ミク ロフ ィブ リル とそれ を取 り囲むマ トリックス物質 との 境界部,さ らに ミクロフ ィブ リルが特異的に配列 した壁孔部,各
壁層 の境界部や壁 と細胞間層 との界 面,そ
の他異種構成要素間の接合部 (と くに放射組織 との交差域)や早材 と晩材の境界部分,節
の部 分な どが変異部 と考 え られ る。 これ らはいずれ も木材が本来有す る正常な構造で ある。 この他木材が 立本時の生長応力や環境な どによ って,ま
た加工時に受 ける種 々の損傷や異常材な ども変異部の一種と考 え られ る。
これ らの本材中の変異部の うち
,応
力緩和源 として作用す る変異部付近での亀裂の挙動 については 第1章
と第2章
において既に論述 した。 したが って本章では応力集中源 として作用す る変異部の うち とくに針葉樹材仮道管の有縁壁子し(そ の中で もと くにR―T壁
子と)1こおける亀裂の挙動 を取 りあげ,壁
子し縁の構造 と関連 させ て論議す る。
3口
2 壁孔の構造
3.2.1 は じめ に
針葉樹材仮道管の有縁壁子しは樹液や化学薬剤の移動の通路 としてだ けでな く
,縦
引張破壊時に亀裂概 説
(62)
が特異的に挙動す る部位 として重要である。すなわ ら
,R― T壁
孔は単一仮道管 の 破 壊 開 始 と,ま
た 針葉樹材切片の啜壊では亀裂の伝搭 と密接 に関係 している(古川 1975,1978b)。これに対してT―
T
壁 孔は単一仮道管および針葉樹材切片 において
,破
壊が直接 そこか ら始まるよ うな ことはほとん どな く,む
しろ亀裂の拡大 を阻止す るよ うな働 きがあることか らして,破
壊に対 してかな りの抵抗性 を有 して いる もの と推定 されている(古川 1975,1978b)。 この よ うな2つ
の型の有縁壁孔での破壊挙動 の相違 は,これ らの壁子との壁孔壁 (pit me bra礎)の構造 よ りはむ しろ壁了L縁(pit border)の
構造 に起因す るものであろ う。針葉樹 材仮道管,と くに早材仮道管の T―
T壁
孔縁の構造 については多 くの研究がな されてい る。 そ の結果,壁
孔縁 は二 沃壁のみで構成 されてお り,SIの
ミク ロフ ィブ リルは円状に配列す るのに対 し,S2とS3は 本来の配列方向を保持 しなが ら子し口を周回 して配列す ること
(BAILEY VESTAL 1987,原
田 ら1958),ま
た壁子と縁 の うち壁孔室 に面 した表面には Slと は異な る別の層,す
なわ ち ミクロフ ィブ リルが同心円状に配列 した特異な層 (こ れは bOrttr thicttningと 呼ばれBTと
略記 されることが多い)が存在す ること
(WARDROP 1954,1964,HARAD'C6托 1967),さ
らに壁 孔縁の Slは 壁孔以夕│の部分 に比べて厚 く,そ
の断面像で うろこ状の模様が観察 され ること (勘理臥C併
と1967)な
どが明 らか に されている。今村 と原田(1972b,1973,1974,1978)は
アカマツ(P物 %s,9η
sttιοη)の
早 材 お よび晩材仮道管のT―T壁
孔の壁孔縁の形成過程 を レプ リカ法で調べ,次
の よ うな結論 を得て い る。すなわ ち
,早
材仮道管の壁孔縁 は Slの 塩積によ ってその輪郭(孔国の最終形状)が
まずつ くられ,そ の上 に S2とS3が堆積 して壁子し縁の肥厚が完了す る。 この場合Slの ミクロフィブリルは ラメラ状に堆積し
,形
成途上 の孔 口をまた ぐよ うに堆積 した各 ラメラ (こ れ を ミクロラメラと呼んでいる )は 壁子し縁 の先端に沿 って壁子し室倶]に回 り込むよ うに して孔 回の縁に堆積す ることによ って,孔
国の径 を次第に 小 さくする。壁孔縁 の断面像 にみ られ るSlのうろこ状の模様は壁子と縁の先端 におけるSlのこのよ う な特異な堆積過程 を反映 した ものである。またS2や S3は壁 孔縁の拡大
,す
なわ ち子し国の径 を小 さ く す ることには寄与せず,単
にSlで形づ くられた子し口を迂回す るよ うに ミクロフィブリルは流線形 に配 列 してSl上
に堆積す る。 ところが晩材仮道管の壁子し縁では,Slば
か りでな くS2の
ミクロフ ィブリル も孔 口に沿 って回 り込み,壁
子し縁の輪郭決定 に寄与 している。そのため子し回の長径方向はS2の ミクロ フ ィブ リルの走行方向 を示唆 して レンズ状 となる。 さらにBTに
つ いてはSlの
堆積 と同時に壁孔室側 か ら壁孔縁を裏打 ちす るよ うに付加 され るのであろうと述べている。針葉樹材仮道管の R―
T壁
孔につ いては,そ
の子L国の形が針葉樹材識別の重要な拠点 となるため光顕 による観察例 は多い。本邦産針葉樹材の R―T壁
孔にはつ ぎの4つ
の型が あ る(島地 1964)。 すなわ ち,マ
ツ,コ ウヤマキ両属に見 られ る窓状壁孔(windOw― like pit)と,
トウ ヒ,カ
ラマツ, トガサ ワラ各属 に見 られ る トウヒ型壁孔(PiceOid pit)と,ス
ギ,モ
ミ,ネ
ズ コ各属 に見 られるスギ型壁孔 (TaxOdiOid pit)と,そ
れに ヒノキ,アスナロ, ビャクシン,カヤ各属に見られるヒノキ型壁子し(Cupressoid pit)の4つ
である。 このよ うにR―T壁
孔の光顕的特徴は明 らか に されているが,これ らの壁孔 線の 構造 を電顕的に調べた研究は少ない。H無
れく 1965)│よ スギの早材の R―T壁
孔の壁孔縁の 縦 断 面 写俗働 真(同論文中
Fig 21)を
示 してい るが,こ
れ につ いては言及 していない。 この写真ではT―T壁
子とで 見 られた よ うな うる と状の模様が その断面像 において観察 されてい る点で興味深 いが,惜
しい ことに は この写真では この部分がSlなのかS2なのかが半」定 しがたい。またOKllMURAら ′(1976)は
二 次竪 堆 積 中の アカマツ晩材仮道管のR―T壁
子との本 国断面像 (同 論文中Fig.2③
)を示 してい るが,この部 分での壁層構成 につ いてはふれていない。 これ らの写真,お
よび光顕観察によ って得 られている知見 か ら推定す ると,R― T壁
孔の壁 孔縁の構造はT tt T壁 子しのそれ と類似 している点 もあ るが,か
な り 異 ってい る点が あるよ うに思われ る。したが ってここでは針葉樹材の典型的な R―
T壁
子しの壁孔縁 を レプ リカ法および超薄切片法 によ って, それ を構成す る各壁層の ミクロフ ィブ リルの配 列 な らびに層 構 成 の 特 徴 を調べた結果について述べ る(古
川 1978c,1979)。3.2.2 試料 の調製 と観察法 3.2.2.1 試料の調製
1)供
試 材材料 として はスギ (CTυ ριoη9Tカ カρOηttα
D DoN)の
幼 苗,樹
令18年
それ に樹令67年
の各 木 部,
ヒノ キ (Cんαηα9り,αttd ObttiαSIEB.et Zucc.)の
材鑑 ,エ ゾマツ (阿 θια ″2o9 ιS ⑤思 )の材鑑およびアカマツ
(P物
磨 諺熔げJοTrY/SIEB.et ZⅥc。 )の 樹令35年
の本部 を用 いた。ただしスギ の幼苗か らは超薄切片用の小 ブロックを,ま
た樹令18年
生木か らは形成層 を含む早材分化 段 階 の小 ブ ロ ックを採取 した。他の材はすべて気乾状態の成熟材部 を供試 した。2)レ
プ リカ観察用試料の作成形成 を完了 した R―
T壁
孔の観察 には成熟材部か ら切 り出 した気乾状態の本材 ブ ロ ックを,ま
た 形 成 段 階 の R―T壁
子しの観察には分化段階の本材小 ブロックを用いた。気乾状態の各材の小 ブロック(約
2(T)×
0.5(R)×1(L)釦 )を
新 らしいかみ そ りの刃 を用いて ま さ目面で切 削 もしくは割裂す ることによ って露 出 した表面 を レプ リカ観察用に供 した。 この場合割裂 面は細胞間層か らSlにか けての壁層間で生 じることが多 く(KOttN 1967),こ
のよ うな表面では壁子し縁の壁孔室側 に面 した表面(以下 この よ うな表面 を壁子し縁の外表面 と称す る)の構造が とらえられ るこ とを期待 した。一方切削 した表面 には仮道管の内 こうもしくは内こう側か ら壁層が一部剥 ざ取 ら れた表面が露出す ることが多いため,このよ うな表面では壁子し縁の 内こ う側 (こ れ を以下壁 子と縁の 内 表 面 と称す る)の構造が観察で きる もの と期待 した。 さらに これ らの表面 を希釈 した 」EII FREY氏液 で 軽 く処理す ることによ って ミクロフ ィブ リルを取 り囲む物質 を溶脱 除去 し
,
ミク ロフ ィブ リルの配列 状態 を明瞭 に見 るこ とが で きるよ うに した。一方
,早
材分化帯 を含む木材珂ヽブロ ックの採取および試料の作製法は今村 らの方法(1972a)に
準 拠 して行 った。すなわち,小
ブ ロ ック(約1(T)× 1(R)X15(L)釦
)を採取後直ちに0.8モルのしょ(641
糖の高張液に浸漬 して
,原
形質分離 を促す とともに,ブ
ロックは冷蔵保存 しておいた。 ブロックか ら 新 らしいかみそ りの刃 を用いて早材分化帯 を含 むま さ目切片 を切 り出 し,切
り出 された切片 は水洗 し た後,溶
媒置換乾 燥 して レプ リカ観察に供 した。 この場合新生 された仮道管 内表面の ミクロフ ィブ リ ルの配列を明瞭に見 えるよ うにす るため,切
片 の表面 を5%の KOH水
溶液で軽 く処理 した。3)超
薄切片観須用試料の作製R―
T壁
子しの断面の観察 には,ス
ギの幼 苗の幹材部およびスギ,ヒ ノキ,エゾマツ各気乾材の成熟材 部 を用 いた。幼 苗は根元で伐採後直 ちに
3%グ
ルタルアルデ ヒ ドで灌流固定 した後,小
片(約
0.5(T)×0.5(R)
×
2(L)π
π)を 切 り出 し,常
法 に したが って脱水処理後,エ
ポキシ樹脂に包埋 した。また各気乾材の早材部か ら小片 を切 り出 し,これ を
2%KMn04水
溶液で染色 した後,常
法 に した が って脱水処理後,エ
ポキシ樹脂で包埋 した。3.2.2.2 観 察 法
1)レ
プ リカ観察法レプ リカ観察は C6Tと らの開発 した
Direct CarbOn ttplica法 (1964)に
準拠 して行 った。すなわ ち試料表面 を繊維軸方向か ら白金 ―パ ラジュウムで シ ャ ドウ ィング した後,炭
素 を真空蒸着 した。試 料表面 をポ リステ レン板で補強 した後,試
料 を72%H2S04水
溶液 と10%JEFFREY氏
液で完全に溶脱 し,つ
づいてポ リステ レンを トルエンで溶解 した。 こうして得 られた レプ リカ膜 をグ リッ ドにす くい あげて検鏡 した。観察は主 として早材部 について行 った。2)超
薄切片観察法K