第 2章 針葉樹材 の切片の縦 引張破壊
2.2.4 重複細胞壁 中の亀裂の伝播様式
縦引張破壊時における木材中の亀裂の挙動,と りわけ個 々の構成要素 間を亀裂が如伺に して伝播す るか とい った ことに関す る知見は これまで報告 されていない。 ここでは単一仮道管の縦引張破壊過程 の観察か ら明 らかにな った仮道管壁の
2つ
の基本的な破壊様式,す
なわ ち切断破壊 と裂 け破壊が その 周 囲を拘束 された状態にある壁中で どのよ うに発生 し,ま
た これ らが隣接仮道管にどのよ うにして伝 播す るのか とい うことにつ いて ,ノ ッチ付 き切片の破壊過程 (と くにSCP段
階)の光顕観察か ら得 た結果 について述べ る。写真
87は
板 目中間材切片のSCP段
階において亀裂が1対の重複細胞壁 (こ の場合は重複接線壁)中 を伝幡す る過程 を段階的に示 した ものである。
写真①,②で は亀裂は1対の重複接線壁の片方の壁
(写
真 に向 って奥の側の接線壁)中を繊維軸 にほぼ直角方向に生長 してお り,そ
の亀裂が写真①でみ られ るよ うに,壁
の中央 を少 し越 えた時に亀裂の先端の ところで もう一方の壁(写真では手前側の接 線壁)中に別の亀裂,そ
れ もS2の
ミクロフィブリル配列方向に沿 った裂 けを誘発す るのが認 め られる。その後は両者の亀裂が拡大 し,さ らに次 々 と隣接す る仮道管壁に伝搭す ることによ って切片の最終的 な破断にまで至 った もの と思 われ る(写真④〜⑥)。 ところで
,こ
こで観察 している重複細胞壁(重 複接線壁)が 1対であ ることと亀裂がそれぞれ別の接線壁に発生 した ものであることは次のよ うな理 由か ら判定で きる。まず前者については ,こ こで使用 した対物 レンズ
(10倍
)と観察倍率か ら計算 さ れ る視野の深 さは約14μ寛であ り,一
方 この切片の仮道管の半径方向の直径は約23μ旬であることか ら,こ
の切片 中の2対
の重複接線壁 に同時に焦点 を合わせ ることは不可能である。 したが って ここで 観察 されているのは1対の重複接線壁であ ると判定で きる。次に後者については,最
初の亀裂(写
真②)は隣接接線壁 に亀裂 を発生 させた後裂 け破壊に変化 してお り,この裂けの方向 と隣接接線壁に生 じた裂けの方向 とは互いに逆傾斜 している
(写
真③ )こ とか ら,こ
れ らの裂 け破壊はそれぞれ別々の 接線壁のS2に
生 じた ものであることが分 る。写真
88も
写真 87と 同様に板 目中間材切片のSCP段
階において亀裂が1対の重複接線壁中を伝誘(50)
す る過程 を示 した もので ある。 この場合 は
,写
真でみて手前狽Jの壁中を進展 して きた亀裂(写真①)が仮道管の隅に達 した とき(写真②
),そ
こで隣接す る壁(写真では向 う狽」の接線壁)中のS2に
裂 け破壊を発生 させ る(写真① )こ とによって亀裂が隣接の仮道管に伝倦す る様子が示 されている。重複細胞壁にお けるこのよ うな亀裂の挙動は
,本
材中の各木材構成要素間の基本 的な亀裂の伝幡様 式の1つと考 え られる。す なわ ら,重
複細胞壁の片側の壁 中を進行 してい る亀裂がその先端の ところ で 隣接細胞壁に裂 け破壊 を発生 させ ることによ って各構成要素間を伝番す る とい うのが この場合の特 徴 である。写真
89は
板 日早材切片のSCP段
階において亀裂が重複接線壁中を伝幡す る様子 を示 した もので あ る。 この場合,亀
裂 は各壁 中に裂 け破壊 を発生 させ ることな く繊維軸 に対 してほぼ直角方 向に伝播 し,し
か も重複接線壁は亀裂の先端で両壁がほぼ同時に切断破壊 され るのが認め られ る。 この ことに つ いては次のよ うに考える。すなわ ち早材切片 中の重複細胞壁は細胞間層 をは さんで相接す る仮道管 壁が薄 く,し
か もその厚 さおよび ミクロフィブ リル傾角がほぼ逆対称 にな っているため,各
壁 内部の せ ん断変形は細胞間層によ ってほぼ完全に固定 されていると考 えられ,そのため重複細胞壁 は個 々の壁 として挙動す るのではな く,重
複細胞壁が あたか も1枚の壁(しか もこの場合の弾性主軸はほぼ繊維 軸 に平行 と考 えられる)のよ うに挙動す る もの と考 えられ る。 このため早材切片中の重複細胞壁は亀 裂 に対 して も,そ
の先端でほぼ同時に両細胞壁が切断破壊 され るのであろ う。 したが って この場合 は 重複細胞壁の個 々の壁中を亀裂が別 々に進むのではな く,亀
裂 は両細胞壁 をほぼ同時に破壊(主と し て切断破壊)しなが ら進行す るのが特徴である。 これ と対 照的なのが晩材切片の破壊挙動で ある。写真
90は
板 目晩材切片 の破壊過程の一部 を示す。晩材切片では,晩
材仮道管の内 こうが狭 く,仮
道管の半径方向の径 も小 さく(約 1lμη),し か も壁が厚いため
,壁
中の亀裂の挙動 を詳 しく観察す る ことはで きなか った。 しか し晩材切片では亀裂の進行 してい る途中で繊維 軸方向に沿 った長い裂 け(光顕観察では仮道管間で剥離 してい るよ うに見 える)が生 じることが しば しば観察 され る(写真②の 矢印)。 このよ うな裂 けは ノッチの先端近 くで発生す ることもあれば
,亀
裂が切片 中を伝幡 してい る 途中で生 じることもある。 しか もこの裂 けの特異な点は,切
片中 を伝搭す る亀裂 によ って生 じた裂け で あるに もかかわ らず,切
片の最終的な破断が この裂 けの ところで生 じるとは限 らない ことである。したが って この裂 けは亀裂(最終的破断に直接関与 してい る亀裂)が切片中 を伝簿す る際に二次的に 発生す ることもあ ると考 え られ る。
ところで木梅の縦引張破壊先端,と くに晩梃部において このよ うな裂 け(以下本論文 中で は細胞壁 の裂 け破壊の裂 けとの混同を避けるため,こ れ を剥離 もしくは剥離破壊 と呼ぶ ことにす る )の 存在す ることはかな り前か ら注 目されてお り
,こ
のよ うな剥離破壊の発生部位 は SlとS2の
境界近傍である こと力ゞ明 らかに されている(WARDROP・
ADDO―AsHoNC 1963, DAVIES 1968, SAIK1 1970b,佐
伯 ら 1972)。 ところがこの設J離破壊の発 生 の メカニズ ムにつ いて は不明な点が多い。 この点につ いて
MttK(1967)は
Sl内部で 破 壊 の生 じゃす ぃ こ とを仮道管壁内部の応力解析結果か ら示 して いるが,このよ うな剥離破壊が ノ ッチ (も しくは切片 移横切 って進む亀裂)の先端付近で発生す る二次的な破
(51)
壊 で あ る こ とを説 明 す る に は,さ らに別 の 要 因 に つ い て も考 慮 す る必 要 が あ ろ う。
」ERONIM IDIS
(1976)は
木材中において繊維 を横切 って進展 している亀裂(もしくはノッチ)の
先端がSlに
近づ く と,COOKと GoRDON(1964)の
提案 している機構によ って剥離 しやすい状態にある(MARKの
指摘)Slが
繊維方向に沿 って剥離破壊す るのであろ うと述べてい る。JERONIMIDISの解釈 は剥離破壊が二 次 的に発生す ることを説明す るのには都合がいい。 一方,FowLKES(1974)は FRCM中
の繊維 と 母材の界面における亀裂の挙動 と破壊靱性の関係 をモデル的に調べた ところ,繊
維 と母材の界面に沿 った裂 け (s plitting)の 発生が破壊靱性の向上に大 きく寄与す ることを明 らかに している。 とくに裂 けの発生については,母
材 中にあ る亀裂が繊維 との界面に近づ く場合 には,界
面 に沿 って裂けが急速 に広が り,こ
の裂 けが ある長 さに達 した ときに始 めて繊維 中に亀裂が生 じて繊維が切断 され るとし,逆 に繊維中にある亀裂が母材 との界面に近づ く場合 には
,亀
裂 は界面で しば らく停止 した後界面に沿 った裂けがゆ っくりと広が り,し
か もこのよ うな挙動は母材に対す る繊維の弾性率の比が大 きい程顕 著 であ ることを指摘 している。FowLKESの
示したこの 結果 は木材の縦引張破壊時にみ られ る仮道管間 (も しくは本部 繊維 間)で
の剥離破壊の発生 と大 きな破壊靱性の発現 との関連性 をある程度説明 しう る もの と思 われ るcす
なわ ち針葉樹甘切 片の場合,仮
道管 をFowしKESの
言 う繊維 とみな し,細
胞間 層 を母材 とみなせ ば,こ
れ らの弾性率の比は早植で約5〜 15,晩
材で約15〜
25と な り,晩
材部では 仮道管間の剥離破壊(FcJwLKESの言 う裂 け )の 生 じゃすい ことが理解で きる (た だ しFollILKEЫよ繊維 と母材の弾性率の比 移20と して調べてお り,こ
こに挙 げた弾性率の比は,細
胞間層の弾性率 を か弦.5×104ん,/ι崩
,仮
道管の弾性率 を早材単二仮道管で10〜30×104彬 /栃 ,晩
廿単一仮道管で 30〜50× 104ヵν/ι病
,と
した ときの ものである。(MARK 1967))。
以上か ら
,重
複細胞壁 中における亀裂の伝播様式は次の3つに分 けることがで きる。第1は早材 型伝幡様式 と称すべ きもので,この場合 は重複細胞壁 が細胞間層 によ って強 く固定 されてお り
,あ
たか も1枚の壁のよ う に挙動 し,両
仮道管壁 をほぼ同時に破壊 しなが ら亀裂は伝幡す る。そ して この場合の仮道管壁は主 として切断破壊によ って破断 され る。
第2は中間狩型 伝幡様式 と称すべ きもので
,こ
れ を模式的に描 く と図lη のよ うにな る。図は重複細胞壁の一部(S2の
み )を 模式化 して描いてある。亀裂は重複細胞壁中の片側の壁 (TVI)を 裂 け破壊(S)も
しくは切断破壊(C)し
なが ら伝 搭 してい る途中で隣接細胞 壁(w2)の S2申
に裂 け破壊(A― B)を
引 き起 こすことによって隣 接細胞壁 に伝幡す る。その後 はこれ らの2つの亀裂が同時に進行す る とともに,さ らに周囲の細胞に も裂け破壊 を発生 させなが ら亀裂 は切片中を拡大す る もの と推定 され る。第3は晩狩型伝播様式 と称すべ きもので
,重
複細胞壁の片側の壁図11 重複 細胞壁 中 にお け る亀 裂 の伝 播様 式の 模 式 図。
FAは
繊維 軸方 向 を示 す。(521
中の亀裂が隣接細胞壁 中に伝播す る前 に
,細
胞間(仮道管間)で長 い剥離破壊が生 じるのが特徴であ る。 この場合 は剤離破壊がある程度発達 した後仮道管壁の破断が生 じるもの と思われ る。これ らの亀裂の挙動か ら