96
図 3-34. 各温度でのサイクリックボルタモグラム前後の抵抗変動
図3-34は、各温度での電位掃印前後の抵抗変動である。抵抗測定はいずれも25°Cで実施 した。電位掃印前では抵抗はほぼ同一であるが、電位掃印後では特に25°Cでの抵抗上昇が 大きい。0°Cでの挙動は、副反応も含めた電気化学反応が起こりにくく、皮膜形成による抵 抗上昇が起こりにくいためと考えられる。一方、50°Cでの挙動は、0.1 Vでの反応が抑制さ れPF6分解・LiF形成が抑制されたため抵抗上昇が抑制されたと推察する。
0 1000 2000 3000 4000 5000 6000
3.0 3.2 3.4 3.6 3.8
97
3.3.3 DMAC添加によるカーボネート系液体電解質/難黒鉛化炭素負極副反応抑制
3.3.3.1 DMAC添加による難黒鉛化炭素負極の充電カーブ変化
図 3-35 は、DMAC 添加電解液での難黒鉛化炭素負極単極初充電カーブである。図 3-36 は、図 3-35 カーブを元に、dq/dV と電位の関係を示したカーブである。図 3-36 より、0.2 及び1 V vs. Li/Li+付近にdq/dVピークが確認された。また、1 V vs. Li/Li+付近のdq/dVピー クはDMAC添加量増加と共に増大した。図3-37は、充電時dq/dVカーブのサイクル変化で ある。図3-37(a)はDMAC 0 wt%電解液、(b) DMAC 0.8 wt%電解液でのサイクル変化である。
また、図中の数値はサイクル数を示す。2 サイクル目以降、(a)(b)とも、初充電に見られた
0.2及び1 V vs. Li/Li+付近のdq/dVピークは消失し、両ピークは不可逆な充電反応を示唆し
たピークである事が分かった。初充電時の不可逆反応に関する知見は多数あり、例えばNaoi らによって以下が報告されている[28]。本負極材と同じ非晶質炭素の不可逆反応は0.2及び
1 V vs. Li/Li+で起こり、それぞれ、被膜有機成分として知られるカーボネート化合物重合体
生成、及び非晶質炭素中グラフェンエッジ部へのリチウムイオントラップと帰属されてい る。従って、図3-36で確認できた1 V vs. Li/Li+付近のdq/dVピークは、被膜形成過程の一 つであるカーボネート化合物の重合と考えられる。また、DMAC 添加量増加と共に dq/dV ピークが増大した要因は、DMAC がカーボネート化合物の重合を進展させているためと考 えられる。以下の検討では、DMAC添加量0, 0.8, 2.4 wt%含有電解液で充放電を5サイクル 経過した負極を解体・洗浄し、FTIR-ATR、XPS、TOF-SIMS及びTPD-MSで評価した結果 を記す。
98
図 3-35. DMAC 添加電解液での難黒鉛化炭素負極単極初充電カーブ
図 3-36. 図 3-35 の dq/dV カーブ
00.2 0.4 0.6 0.8 1 1.2 1.4
0 0.5 1 1.5 2 2.5 3
P ot ent ial( V vs. Li/Li+)
Capacity(mAh)
DMAC0wt%
DMAC0.8wt%
DMAC2.4wt%
0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10
0 0.2 0.4 0.6 0.8 1 1.2 1.4
dq/dV( m A h /V )
Potential(V vs. Li/Li+)
DMAC0wt%DMAC0.8wt%
DMAC2.4wt%
99
(a)
図 3-37. 充電 dq/dV カーブのサイクル変化 (a)DMAC 0 wt% (b)DMAC 0.8 wt%
(b)
0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10
0 0.2 0.4 0.6 0.8 1 1.2 1.4
dq/ d V(m A h/ V)
Potential(V vs. Li/Li+)
1cycle 2-5cycle
DMAC0wt%
0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10
0 0.2 0.4 0.6 0.8 1 1.2 1.4
dq/dV(m Ah/V)
Potential(V vs. Li/Li+)
DMAC0.8wt%
1cycle 2-5cycle
100
3.3.3.2 DMAC添加による難黒鉛化炭素負極表面の変化
図3-38はXPSによる負極深さ方向の元素分析である。図3-38(a)はDMAC0wt%電解液、
(b)DMAC0.8wt%電解液、(c)DMAC2.4wt%電解液での分析結果である。測定元素は、負極構 成成分、電解液、電解質塩を考慮し、C 1s、Li 1s、F 1s、O 1sおよびP 1sを調べた。エッチング
レートはSiO2換算で2 nm/minであり、測定元素の組成を100%として示してある。それそ
れの元素の飽和したエッチング時間を被膜膜厚と仮定すると、DMAC 0 wt%では約2000秒、
DMAC 2.4 wt%では約4000秒であり、DMAC 2.4 wt%では被膜膜厚が約2倍厚の被膜の成長
が確認出来た。さらにF濃度がエッチング時間0秒で最大であり、負極表面はF化物で被 覆されていると考えられる。図3-39は、XPSナロースキャンスペクトルである。図3-39(a) はC 1s、 (b) Li 1s、 (c) F 1sおよび (d) O 1s である。エッチング時間は60秒である。それぞれ のスペクトルの起源は既報を参考に決定した[37-42]。図3-39(a)には、285 eVに難黒鉛化炭 素負極由来の-C-C-結合、287 eVにリチウムアルキルカーボネート(R-CH2-OCO2-Li)の-CH2-O 結合及び-OCO2-結合、および292 eVに負極バインダーであるPVDFの-CH2-CF2-結合由来の ピークが確認された。また、287 eVのピーク強度はDMAC添加量増加と共に増加し、負極 表面のリチウムアルキルカーボネートでの被覆が進行していることが考えられる。また、
図3-39(b)には、56.5 eVに Li2O由来ピークおよび58 eVにリチウムアルキルカーボネート とLiF由来ピークが確認された。また、58 eVのピーク強度はDMAC添加量増加と共に増 加し、負極表面のリチウムアルキルカーボネートでの被覆が進行していることが考えられ る。図3-39(c)には、687 eVに LiF由来ピークおよび690 eVにPVDFの-CH2-CF2-結合由来 のピークが確認された。さらに、図3-39(d)には、530 eVに Li2O由来ピークおよび533.5 eV にリチウムアルキルカーボネート由来ピークが確認された。533.5 eVのピーク強度はDMAC 添加量増加と共に増加し、負極表面のリチウムアルキルカーボネートでの被覆が進行して いることが考えられる。以上XPSの結果より、DMAC添加量増加に伴い、酸素含有ポリマ ーやリチウムアルキルカーボネート(R-CH2-OCO2-Li)を含む被膜が負極を被覆する事が分か った。この結果は、初充電カーブでのdq/dVピークがDMAC添加量増加と共に増大した事 実と同じ要因、即ちDMACがカーボネート化合物の重合を進展させ被膜が成長したためと 考えられる。
101
図 3-38. XPS による負極深さ分析
(a) DMAC 0 wt% (b) DMAC 0.8 wt% (c) DMAC 2.4 wt%
0 10 20 30 40 50 60 70 80
0 1000 2000 3000 4000 5000
Concentration(at%)
Ethcing time(sec) C Li F O P DMAC0wt%
0 10 20 30 40 50 60 70 80
0 1000 2000 3000 4000 5000
Concentration(at%)
Ethcing time(sec) C Li F O P DMAC0.8wt%
0 10 20 30 40 50 60 70 80
0 1000 2000 3000 4000 5000
Concentration(at%)
Ethcing time(sec)
C Li F O P DMAC2.4wt%
(a)
(b)
(c)
102
図 3-39. XPS ナロースキャンスペクトル (a) C
1s(b) Li
1s(c) F
1s(d) O
1s280 285
290 295
300
Intensity(a.u.)
Binding energy(eV) DMAC2.4wt%
DMAC0.8wt%
DMAC0wt%
C-C ROCO2Li
-CH2-CF2
-C1s
675 680
685 690
695
Intensity(a.u.)
Binding energy(eV)
DMAC2.4wt%
DMAC0.8wt%
DMAC0wt%
F1s LiF
-CH2-CF2
-520 525
530 535
540 545
Intensity(a.u.)
Binding energy(eV)
DMAC2.4wt%
DMAC0.8wt%
DMAC0wt%
Li2O ROCO2Li
O1s
50 55
60 65
Intensity(a.u.)
Binding energy(eV)
DMAC2.4wt%
DMAC0.8wt%
DMAC0wt%
Li1s
LiF
Li2O ROCO2Li
(a) (c)
(b) (d)
103
OO OOO O
OO O
OO O
図3-40は、TOF-SIMS(正イオン)による負極表面分析結果である。図3-40(a)はDMAC 0 wt%電解液、(b) DMAC 0.8 wt%電解液および(c) DMAC 2.4 wt%電解液での分析結果である。
PVDF由来のフラグメント (C3F4H+ および C3F5H2+)、 LiF由来フラグメント (Li2F+および Li3F3+)、 Li2O由来フラグメント (Li3O+) およびリチウムアルキルカーボネート由来フラグ メント (Li3CO3+) が確認された。また、炭化水素由来フラグメント CmHn+: C2H3+, C3H5+, C5H9+, C6H11+ も確認された。図3-41は、TOF-SIMS(負イオン)による負極表面分析結果 である。図3-41(a)はDMAC 0 wt%電解液、(b) DMAC 0.8 wt%電解液および(c) DMAC 2.4 wt%
電解液での分析結果である。LiPF6 由来フラグメント(PF3-)、 LiPF6 酸化分解物由来フラグ メント(PO2-, PO3-)およびLiF由来フラグメント (Li2F3-)が確認された。さらに、 リチウムア ルキルカーボネート由来フラグメント CxHyOz-: CH3O-, C2H5O-, CHO2-, C2H3O2-, C3H3O2-, C2H3O3-, および C3H5O3- も確認された。図3-42は、PVDF及びリチウムアルキルカーボネ ート(R-CH2-OCO2-Li)由来フラグメントの検出感度と DMAC 添加量の関係である。DMAC 添加量増加と共に、PVDF由来のフラグメント検出感度が低下し、アルキルカーボネート由 来フラグメント検出感度が増加した。これは、XPSでの結果と同様、DMAC添加量増加に 伴い負極が被覆されたためと考えられる。図3-43は、脂肪族炭化水素由来フラグメントの 検出感度とDMAC 添加量の関係である。DMAC 添加量増加に伴い、特にC5H9+、C6H11+の 検出感度が増加した。これは、図3-44に示すように、DMACが関与する重合反応が進展し、
重合性官能基であるメタリル基の反応で脂肪族炭化水素が生成したためと考えられる。ま た、カーボネート溶媒(EC、EMC、DMC)の分解により、Li2CO3、アルキルリチウムカー ボネート、ポリエチレンオキサイド、Li 末端ポリエチレンオキサイド、Li末端ポリエチレ ンカーボネートが生成される[12-21]。また、カーボネート溶媒(EC、EMC、DMC)の分解 により、Li2CO3、アルキルリチウムカーボネート、ポリエチレンオキサイド、Li 末端ポリ エチレンオキサイド、Li末端ポリエチレンカーボネートが生成される[23-34].
ECの分解では、
+ 2e- + 2Li+ → Li2CO3 + C2H4 (3-1)
2 + 2e- + 2Li+ → (CH2OCO2Li)2 + C2H4 (3-2)
n (n:任意数) → -(CH2CH2O)n- + n CO2 (3-9)
n + e- + Li+ (n:任意数) → -(CH2CH2O)n-Li + n CO2 (3-10)
104
OO O
n + e- + Li+ (n:任意数) <PF5共存下>
→ Li- OCO2 (CH2CH2 OCO2)n-Li (3-11) DMCの分解では、
CH3OCO2CH3+ 2e- + 2 Li+ → Li2CO3 + C2H6 (3-12) 2 CH3OCO2CH3 + 2e- + 2 Li+ → 2CH3OCO2Li + C2H6 (3-13) EMCの分解では、
CH2CH3OCO2CH3 + 2e- + 2 Li+ → Li2CO3 + C3H8 (3-14)
と推定される。従って、C2H3+の起源は、カーボネート化合物由来の重合体であるポリエチ レンオキシドやポリエチレンカーボネートと考えられる。図3-43で、DMAC添加量とC2H3+ の検出感度に明確な相関が確認出来なかった要因は、溶媒であるカーボネート化合物は DMACに比べ過剰に存在するためと考えられる。以上TOF-SIMSの結果より、DMAC添加 量増加により被膜中の重合反応が進展している事が分かった。
これまで電池高温保存時の劣化推定要因は、被膜の分解・溶解等で、再度、負極と電解 液の副反応が起こり、抵抗上昇や容量劣化を起こすモデルが提案され[2]、特に被膜中の有 機成分の分解・溶解等が課題と考える。DMAC 添加で、被膜中の重合反応の進展が確認出 来たため、耐熱性に優れる被膜の存在が示唆される。そこで、耐熱性向上効果の確認のた め、TPD-MSによる負極被膜である被膜の耐熱性評価を行った。
105
図 3-40. TOF-SIMS(正イオン)による負極表面分析 (a)DMAC 0wt% (b)DMAC0.8wt% (c)DMAC2.4wt%
1.E-06 1.E-05 1.E-04 1.E-03 1.E-02 1.E-01 1.E+00 1.E+01 1.E+02
0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100 110 120 130
In te ns it y( a. u. )
m/z
DMAC0wt%
Li+
*:CmHn+
6Li+ Li2F+Li3O+
C3F4H+ C3F5H2+
Li3F2+ Li3CO3+
* *
* *
1.E-06 1.E-05 1.E-04 1.E-03 1.E-02 1.E-01 1.E+00 1.E+01 1.E+02
0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100 110 120 130
In te n si ty (a .u .)
m/z
DMAC0.8wt%
Li+
*:CmHn+
6Li+ Li2F+Li3O+
C3F4H+ C3F5H2+
Li3F2+ Li3CO3+
* *
* *
1.E-06 1.E-05 1.E-04 1.E-03 1.E-02 1.E-01 1.E+00 1.E+01 1.E+02
0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100 110 120 130
In te ns it y( a. u. )
m/z
DMAC2.4wt%
Li+
*:CmHn+
6Li+ Li2F+Li3O+
C3F4H+ C3F5H2+
Li3F2+ Li3CO3+
*
* *
*
(b)
(c)
(a)
106
図 3-41. TOF-SIMS(負イオン)による負極表面分析 (a)DMAC0wt% (b)DMAC0.8wt% (c)DMAC2.4wt%
1.E-05 1.E-04 1.E-03 1.E-02 1.E-01 1.E+00 1.E+01 1.E+02
0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100 110 120 130 140 150
In te ns it y( a. u. )
m/z
DMAC0wt%
O
-*:CxHyOz
-Li2F3
-* *
* * F
-PO2- PO3- PF6
-* *
1.E-05 1.E-04 1.E-03 1.E-02 1.E-01 1.E+00 1.E+01 1.E+02
0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100 110 120 130 140 150
In te n si ty( a. u. )
m/z
DMAC0.8wt%
O
-*:CxHyOz
-Li2F3
-* *
* * F
-PO2- PO3- PF6
-* *
1.E-05 1.E-04 1.E-03 1.E-02 1.E-01 1.E+00 1.E+01 1.E+02
0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100 110 120 130 140 150
In te n si ty( a. u. )
m/z
DMAC2.4wt%
O
-*:CxHyOz
-Li2F3
-* *
* * F
-PO2- PO3- PF6
-* *
(b)
(c)
(a)
107
図 3-42. PVDF 及びリチウムアルキルカーボネート由来フラグメントの
検出感度と DMAC 添加量の関係
図 3-43. 脂肪族炭化水素由来フラグメントの検出感度と DMAC 添加量の関係
1.E-041.E-03 1.E-02 1.E-01
0 0.5 1 1.5 2 2.5 3