R+δ r
第2章 ポリ乳酸の発泡射出成形
43
最終的に破断することで合一が進行するという合一モデルを提案した。瀧ら[38]は、PP樹脂 をバッチ発泡し、発泡過程を高速度カメラで撮影することにより気泡の合一挙動の観察を 行った。彼らは、この結果をもとに合一時の気泡壁の破断を複数のパターンに分類した。ま た、気泡同士が接触する界面では2軸延伸により薄肉化が進行し、最終的に気泡壁が破断す ることを、粘弾性の構成方程式を用いた気泡壁の伸長挙動の解析により示している。大槻ら [39]は、押出発泡シートの成形における気泡壁の延伸を平面伸長に単純化したモデルより、
線形、非線形粘弾性が延伸挙動に与える影響を考察した。その結果、樹脂が歪み硬化性を有 する場合、大変形時に破泡が抑制されることを確認している。また、気泡壁の延伸変形が不 均一である場合、気泡壁が破断されやすくなることを説明している。 以上のように、気泡 合一に関する既往の研究では、気泡壁にかかる延伸と破断挙動、並びにその粘弾性特性が重 要であることが示されている。
本研究では、気泡壁の破断挙動に対してRadoevらが提唱したフィルム延伸・破断のモデ ル[40]を気泡連通化の理論に応用したRodeheaver、Colton らの研究[25]より、気泡壁が破断 に至るまでの時間を算出することで気泡壁破断挙動の解析を行った。Radoevら[40]は、液膜 フィルムが厚み h0から薄肉化し最終的に破断するまでの過程において、変形の不均一性を 揺らぎにより表現することで、フィルムが破断するまでの時間を求めている。彼らのモデル に従えば、フィルムが初期厚みh0から破断に至るまでの時間は次式で表される[26, 40]。
∆𝑡
𝑟= 2√3𝐴
𝜐 ln ( ℎ
02√6𝐴 ) (2-19)
𝐴 = √ 𝑘
𝐵𝑇
𝛾 (2-20)
ここで、Δt rはフィルムの破断時間、νはフィルムの延伸速度、kBはボルツマン係数、Tは 温度、γは表面張力である。本シミュレーションにおいては、2-19、2-20式においてフィッ ティングパラメータA’、Bを用いた次式で破断時間を計算した。
∆𝑡
𝑟= 𝐴′√𝑇
𝜐 ln ( ℎ
0𝐵√𝑇 ) (2-20’)
Radohever ら[26]は、フィルムの延伸速度νの算出において、気泡壁の変形が2平板に挟
まれた層流の流動と考え、次式でフィルムの延伸速度を求めた。
44
𝜐 = − dℎ
d𝑡 = 2ℎ
avg2∆𝑃
3𝜂𝑟
02(2-21)
ここで、h avgは気泡壁の平均厚み、ΔPは気泡壁にかかる圧力差、ηは粘度、r0は平板の半径 である。
本研究では、これらフィルムの延伸速度と初期気泡厚みについて、以下の定式化を行った。
図2-19に本研究で仮定したモデルの模式図を示す。気泡に対して気泡壁が気泡壁厚みhの 薄膜を形成し、気泡壁の延伸が気泡成長のみによって生じると仮定する。各々の気泡壁の体 積が延伸を受けても一定(4π𝑅2ℎ = constant)であると仮定すると、フィルムの延伸速度は上 式を時間で微分することで求められる。
𝜐 = − dℎ d𝑡 = 2ℎ
𝑅 d𝑅
d𝑡 (2-22)
2-12式で示した気泡成長速度式をdR/dtに代入すると延伸速度は次の2-23式で表される。
𝜐 = − 𝑑ℎ 𝑑𝑡 = ℎ
2𝜂 (𝑃
𝑐𝑒𝑙𝑙− 𝑃
𝑝𝑜𝑙𝑦− 2𝛾
𝑅 ) (2-23)
一方、気泡壁の厚みhは、気泡が平均気泡径D f の球形であり、3次元的に均一に配列し ていると仮定すると、次式より算出される[41]。
ℎ = 1
√𝜌
𝑐3
− 𝐷
f(2-24)
また、発泡倍率ERは次式で計算される。
𝐸𝑅 = 𝜌
𝑓𝜌
𝑠= ∑ 4
3 𝜋𝑅
𝑖3+ 𝑉
0𝑉
0(2-25)
第2章 ポリ乳酸の発泡射出成形
45
図2-19 シミュレーションで仮定した気泡・気泡壁の変形の模式図
シミュレーションに用いる物性の推算は以下の通りに行った。一般的に、気体の高分子 への溶解度は、次に示すヘンリー式に従うことが知られている[42, 43]。
𝑐 = 𝐻𝑃 (2-26)
ここで、c は物理発泡剤の濃度、P は圧力、Hはヘンリー定数と呼ばれる定数であり、温度 に依存する。
拡散定数、ヘンリー定数の温度依存性は、以下に示すアレニウス型の方程式で表されるこ とが知られている[42, 43]。
拡散係数D
𝐷 = 𝐷
0exp [− 𝐸
D𝑅
g𝑇 ] (2-27)
ここで、D 0 、E Dは係数、R gは気体定数である
ヘンリー定数H
𝐻 = 𝐻
0exp [− 𝐸
H𝑅
𝑔𝑇 ] (2-28)
ここで、H 0 、E Hは係数、R gは気体定数である。
気泡壁厚みh
気泡 気泡壁
O 気泡径R
dR
気泡成長による 気泡壁の薄肉化
46
溶融樹脂の表面張力の温度依存性は一般的に次式で表されることが知られている[44]。
𝛾 = 𝛾
1− 𝛾
2𝑇 (2-29)
ここで、γ1、γ2は係数である。
拡散定数の推算方法は以下のとおりである。Liら[42]、Baoら[43]が計測したポリ乳酸に 対する窒素ガスの拡散係数を温度に対してプロットし、そのデータに2-27 式を、最小二乗 法を用いてフィッティングすることでD0と EDを算出した。これらのパラメータから2-27 式で拡散定数を推算した。ヘンリー定数は同上のLiら[42]、Baoら[43]のポリ乳酸に対する 窒素ガスの溶解度曲線を、2-28式で最小二乗法によりフィッティングすることで、H0とEH
を求め、算出した。表面張力は松尾ら[44]のポリ乳酸の窒素ガスに対する種々の温度での表 面張力を線形近似し、γ1、γ2を算出することで求めた。複素粘度は、図2-11に示した複素粘 度の温度依存性より、6 次の多項式でフィッティングを行った。次の図 2-20 に各物性のフ ィッティング結果を示す。
表2-3 (a)に物性の推算に用いたパラメータ一覧、表2-3 (b)にシミュレーション条件また、
表2-3 (c)に本シミュレーションで用いた条件を示す。シミュレーション条件は、表2-1に示
した発泡射出成形条件に従い、以下のように設定した。まず、窒素ガス濃度は発泡射出成形 時の注入濃度より 0.103 wt.%とした。外圧の初期値は金型内圧力センサーより計測した 20
MPa、減圧速度は200 MPa/sと設定した。初期サンプル体積は、金型体積より7.0 cm3とし
た。コアバック式発泡射出成形法では、型開き距離が厳密に制御されているため、設定値以 上の発泡倍率には達しない。そのため発泡倍率が 2 倍に達した時点で計算を終了した。ま た、最大の発泡時間は測定した射出成形時の温度の経時変化より温度がほぼ変化しなくな る4.0 sと定めた。
第2章 ポリ乳酸の発泡射出成形
47
図2-20 (a) ヘンリー定数、(b) 拡散係数 (c) 表面張力 (d) 複素粘度のフィッティング結果
0.002 0.003 0.004 10
-510
-410
-310
-2Li et al.,[42]
Bao et al., [43]
Fitted
1/T [K
-1]
H e nry c ons ta nt [m ol m
-3P a
-1] (a)
450 460 470 480 0.042
0.043 0.044
S urf a c e t e ns ion [N /m ]
Temperature [K]
Matsuo et al.,[44]
Fitted
(c)
380 400 420 440 460 480 10
210
310
410
510
6Temperature [K]
Com pl e x vi sc os it y [P a s ]
Original data Fitted
(d)
0.002 0.003 0.004 10
-910
-810
-710
-610
-510
-410
-3D iffus ion c oe ffi c ie nt [m
2/s ]
Temperature[ °C]
Bao et al., [43]
Li et al., [42]
Fitted
(b)
0.002 0.003 0.004 10
-510
-410
-310
-2Li et al.,[42]
Bao et al., [43]
Fitted
1/T [K
-1]
H e nry c ons ta nt [m ol m
-3P a
-1]
48
表2-3 (a) 物性の推算に用いたパラメータの一覧
推算する物性 推算に使用するパラメータ 数値 推算に用いた 論文、データ
拡散定数D ED [kJ/mol] -59.3 [42, 43]
D0 [m/s] 1500 [42, 43]
ヘンリー定数H EH [kJ/mol] -0.236 [42, 43]
H0 [mol /(m3 Pa1)] 3.15×10-7 [42, 43]
複素粘度 |η*|
η1 [Pa s /K6] 7.704×10-5
図2-11を多項式で フィッティング η2 [Pa s /K5] -0.2048
η3 [Pa s /K4] 226.7
η4 [Pa s /K3] 1.338×105 η5 [Pa s /K2] 4.439×107
η6 [Pa s/K] 7.851×109
η7 [Pa s] 5.784×1011
表面張力γ γ 1 [N m-1 K-1] 0.05821 [44]
γ 2 [N m-1] 3.227×10-5 [44]
表 2-3 (b) フィッティングパラメータの一覧
パラメータ 数値 推算に用いたデータ 核生成速度の
フィッティング
f0 [-] 1.13×10-12
図2-15 (b)
F [-] 0.00012
破断時間の フィッティング
A [-] 1.02×10-7
図2-16
B [-] 1.07×10-7
表2-3 (c) シミュレーション条件
シミュレーション条件 数値
ガス濃度 W [wt.%] 0.103 保圧(外圧の初期値) Pc (0) [MPa] 20 減圧速度 dPc [MPa/s] 200 最大の発泡倍率 ERmax [-] 2.0
初期サンプル体積 V0 [cm3] 7.0 (5.0×7.0×0.20)
発泡温度 T [℃] 90-200
時間幅 Δt [s] 0.005
最大発泡時間 t max [s] 4.0 核生成速度の閾値 JNG [s-1] 0.0001
第2章 ポリ乳酸の発泡射出成形
49
シミュレーションの計算フローは次の図2-21のとおりである。まず、設定温度を読み込 み拡散定数、ヘンリー定数、表面張力を2-27、2-28、2-29式で、複素粘度を多項式で計算す る。次に、時間tを設定した時間刻みΔtだけ更新し、外圧Pcを更新する。各時刻における 核生成速度を 2-10 式を用いて計算し、Jが閾値 JNG以上であれば、核生成が生じたと判断 する。このとき、気泡が生じているか否かを判別する変数NGを1増やし、2-7式、2-11式 より気泡径と初期気泡内圧を計算する。得られた気泡径、気泡内圧、気泡数より溶解ガス濃 度を2-18式で更新する。再び時間tをΔtだけ更新し、NGが1以上の時は、気泡成長ルー プに入る。時刻tから t + Δt の区間で2-12式、2-17式から成る連立微分方程式を、4次の
Runge-Kutta法により数値的に解き、時刻t + Δtでの気泡内圧、気泡径を計算する。その後
は再び時刻t + Δtにおける気泡核生成速度と、生じた気泡の初期気泡径、気泡内圧を計算し、
濃度を 2-18 式により更新する。これを繰り返し、各時刻での個数平均気泡径 Rave、個数平 均内圧PDave、気泡個数密度ρcを計算し、これらの値から、2-24式で各時刻における気泡壁 の厚みを計算する。また得られた気泡壁厚みと個数平均内圧PDaveから、各時刻でのフィル ム延伸速度νを推算した。以上の計算を、発泡倍率が2倍以上になった時点、若しくは設定 した時間に達した時点で終了し、発泡温度を更新して再び上記計算ループを繰り返した。
図2-15で示した発泡倍率2倍のポリ乳酸発泡体の気泡個数密度の実験データに対して、
2-10式で計算される気泡個数密度が一致するように、核生成速度のパラメータ f1 、f2を最 小二乗法で求めた。また、初期気泡壁厚みh 0は気泡個数密度、気泡径の計算結果より2-24 式を用いて計算した。このようにして最終的に得られたフィルム延伸速度νの時間に対す る平均値と気泡壁初期厚みh0より破断時間を計算した。
Radoeverら[26]はPS、PP、PEの発泡挙動から破断時間を計算し、初期気泡厚みとの関係
を示し、マイクロセルラー発泡体では初期気泡厚みが 1 µm 以上の場合、破断時間は
0.01-0.1 s の範囲となることを報告している。破断時間が短くなるほど気泡壁が破断し易く連通
化が進行するため、OCCは上昇することが予測される。そのため、本研究では図2-16で示 したOCCのデータより、次式で破断時間を仮定し、この値に対して、最小二乗法を用いて 破断時間をフィッティングし、パラメータA’、Bを計算した。
𝛥𝑡𝑟𝑝= −0.0007 × OCC +0.025 (2-30)
ここで、Δt rpはOCCより仮定した破断時間である。これらのモデルを使って、気泡壁の初 期厚みh0と複素粘度がそれぞれ破断時間に与える影響を明らかにし、OCCの挙動に対する 推察の検証を行った。
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図2-21 シミュレーションフロー図
初期気泡径, 内圧の 読み込み 温度更新
開始
物性計算
NG=0
NO核生成速度J, 初期気泡 径R0, 内圧PD0の計算
T< T
min NO 終了濃度cの更新 時間, 外圧の更新
NG=NG+1
t < t
maxNO YES
YES
YES
気泡生成時刻t’の更新 t’=t’+Δt
t’= 0
内圧PD, 気泡径Rの時刻
tまでの積分計算
各時刻の平均気泡径D, 平均内圧PD, ave, 気泡密度ρの計算
各時刻の平均壁厚みh, 壁延伸速度Vの計算
t’ < t
NOYES 初期気泡径, 内圧の
読み込み 温度更新
開始
物性計算
NG=0
NO核生成速度J, 初期気泡 径R0, 内圧PD0の計算
T< T
min NO 終了濃度cの更新 時間, 外圧の更新
NG=NG+1
t < t
maxNO YES
YES
YES
気泡生成時刻t’の更新 t’=t’+Δt
t’= 0
内圧PD, 気泡径Rの時刻
tまでの積分計算
各時刻の平均気泡径D, 平均内圧PD, ave, 気泡密度ρの計算
各時刻の平均壁厚みh, 壁延伸速度Vの計算
t’ < t
NOYES
ER<2
YES
NO
第2章 ポリ乳酸の発泡射出成形
51 b. 粘性支配、気泡壁厚み支配の合一プロセス
発泡温度が破断時間に与える影響を、シミュレーションの計算結果により検証した。図 2-22、図2-23はモデル式のf1、f2を用いて気泡径、気泡密度を実験データに対してフィッティ ングした結果である。発泡温度の上昇と共に気泡径が低下し、気泡個数密度が上昇する傾向 をシミュレーションにおいても良好に再現することができている。すなわち、温度低下によ り複素粘度が上昇し、気泡成長速度が低下することで気泡 1 つ当たりに消費される窒素ガ ス量が低下し、気泡核生成により生成する気泡数が上昇する挙動をモデル式で表現するこ とができた。気泡径に関しては全体的に実験データの方が高くなる傾向が表れた。これは、
シミュレーションでは、合一による気泡径の増大をモデル化していないことに起因すると 考えられる。
図 2-24はシミュレーション結果により得られた気泡壁の延伸速度を発泡温度に対してプ ロットしたグラフである。発泡温度の低下に伴い、気泡壁の延伸速度が減少する傾向が表れ た。これは、前述のとおり複素粘度の上昇による気泡成長の抑制に起因する。また、発泡温
度130℃以下では複素粘度のさらなる上昇により、延伸速度はほぼ変動しない結果が得られ
た。図2-25にシミュレーションにより得られた気泡壁厚みの発泡温度依存性を示す。気泡 壁厚みは、2-24 式を用いて発泡初期気泡径と気泡密度より算出した。発泡温度の低下によ り気泡壁厚みは低下する傾向が得られた。これは気泡の微細化により、気泡密度が上昇した ことに起因する。発泡温度 125℃以下では、気泡壁厚みはほぼ変動しない結果が得られた。
図2-26にシミュレーションにより破断時間を計算した結果を示す。発泡温度が130℃以 上の温度領域では発泡温度の上昇と共に破断時間が減少する傾向(温度上昇と共に破断が しやすくなる傾向)が得られた。一方、温度125~130 ℃では、発泡温度の低下と共に、破 断時間が長くなる傾向が表れ、さらに発泡温度が 125℃より低下すると、発泡温度の低下 に従い、破断時間が上昇する傾向が表れた。すなわち、125℃近傍で、破断時間が最小値を 示すような温度依存性をシミュレーション結果は示している。これらは OCC の発泡温度 に対する挙動と対応しており、OCCの挙動を破断時間により定性的に表現できている。
以上のシミュレーションを用いた検討より、発泡温度を変更した場合、高温では樹脂粘 性、低温では気泡壁の厚みが支配的となり破断時間が決定されることが定性的に明らかに なった。