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2. 3. 1 ポリ乳酸発泡体の気泡構造に発泡温度が与える影響

2-11 (a)、(b)に貯蔵弾性率G’と複素粘度|η*|を示す。測定条件は、歪み1 %、歪み速度

は0.63 rad/sである。貯蔵弾性率、複素粘度共に温度の低下に伴い上昇する傾向が得られた。

また、温度が110-120℃以下の条件では、貯蔵弾性率がゴム弾性状態である105 Paに達した。

2-12 に温度 168℃の条件で測定したポリ乳酸の一軸伸長粘度を示す。歪み速度の変化に

対して伸長粘度に差異は現れず、歪み時間が0.1 s以上の領域では伸長粘度が低下する傾向 が得られた。これは、サンプルの変形に応じて分子鎖の絡み合いが解けたことに起因すると 考えられる。樹脂の発泡時、気泡壁には2軸延伸が加わることが知られており[27]、伸長粘 度が高い樹脂では気泡壁の延伸・破断が抑制され、気泡の合一が抑制されることが明らかに されている[28, 29]。本実験で用いたポリ乳酸樹脂は、変形(歪みの増加)時に伸長粘度が低 下するため、発泡時に合一が生じやすくなることが予測される。

0 2 4 6 8 10

0 50 100 150 200 250

T em pe ra ture [° C]

Time [s]

0 2 4 6 8 10

0 50 100 150 200 250

T em pe ra ture [° C]

Time [s]

(c)

170 175 180

34

2-11 歪み1%, 歪み速度0.63 rad/sの条件で測定したポリ乳酸の(a) 複素粘度 (b) 貯蔵

弾性率の温度依存性

2-12 最大真歪み3.5、温度168℃の条件で測定したポリ乳酸の伸長粘度

10

-2

10

-1

10

0

10

1

10

2

10

3

10

4

10

5

Tensile time [s]

E longa ti ona l vi sc os it y [P a s ]

0.1 s-1 0.5 s-1 1.0 s-1

100 120 140 160 180 200 10

1

10

2

10

3

10

4

10

5

10

6

Temperature [°C]

S tora ge m odul us G '[P a ] (b)

100 120 140 160 180 200 10

2

10

3

10

4

10

5

10

6

Temperature [°C]

Com pl e x vi sc os it y [P a s ]

10

-3

10

-2

10

-1

10

0

10

1

10

0

10

1

10

2

10

3

10

4

10

5

貯蔵 弾性 率 G '[M P a ]

周波数[rad/s]

PTFE 0 wt. % PTFE 1.5 wt. % PTFE 3.0 wt. %

(a)

第2章 ポリ乳酸の発泡射出成形

35

2-13 は 200℃で溶融させた後、所定の冷却速度で冷却し、再び昇温した際のポリ乳酸

のDSC曲線である。本冷却速度条件では、ポリ乳酸の結晶の融解に起因するピークは現れ なかった。すなわち、本実験の冷却速度範囲では結晶が充分に生成しなかったため、DSCで 検知することができなかった。金型内の温度センサーにより計測した発泡成形時の冷却速

度は15から20℃/sであったため、成形時においてポリ乳酸の結晶はほぼ形成されないと考

えられる。

2-14に発泡倍率2倍の条件で保圧時間を変更し、異なる発泡温度条件で作製したポリ 乳酸発泡体のコアバック方向に対して垂直、平行な断面SEM画像を示す。また、図2-15に これらのSEM画像より算出した平均気泡径と気泡個数密度を示す。まず、全体の傾向とし て、発泡温度が低下するに従い気泡径が低下した。これは図2-11で示した温度の低下に伴 う複素粘度の上昇と対応しており、気泡成長が抑制されたことに起因すると考えられる。発

泡温度が110℃以下の低発泡温度領域では、気泡径は20 µm以下で気泡個数密度が107-108

cm-3以上となり、図2-14 (c)、(d)に示すようにマイクロセルラー構造を形成した。マイクロ セルラー発泡体の多くはゴム状態で製造されており、図 2-11 に示した通り温度 110℃付近 で複素粘度がゴム状態の 105 Pa s に達したことからマイクロセルラー構造が得られたとい える。一方、各サンプル間で比較すると発泡温度がいずれの温度領域においても、気泡径と 気泡密度がサンプルごとに大きく変動する挙動が得られた。

2-16 に、発泡倍率2倍条件で作製したポリ乳酸発泡体の連通率(OCC)を発泡温度に対 してプロットしたグラフを示す。発泡倍率が 2 倍の発泡体では 110℃-130℃の温度範囲と

150℃以上の温度範囲の 2つの温度領域でOCCが高くなり気泡の連通化が進行しているこ

とが明らかになった。気泡の連通化は、気泡成長の進行に伴い気泡壁が薄肉化し、一部が破 断することにより生じる[27]。気泡壁の破断後、複数の気泡が変形して1つの気泡に合一す ると、それに伴い気泡径は上昇し、気泡個数密度は低下する。

2-13 ポリ乳酸の冷却過程でのDSC曲線

0 50 100 150 200 250

H e a t fl ow

Temperature [°C]

-0.1 °C/s -0.2 °C/s -0.5 °C/s -1.0 °C/s

1.0 m W

36

これら気泡径の発泡温度に対する大きな変動とOCCの測定結果を併せると、気泡壁の破断 が促進した結果、合一が進行し、気泡径が大きく変動したことが考察される。発泡温度150℃

以上でOCCが増大したことは、粘性の低下による気泡成長速度の上昇により、気泡壁が伸 長・破断し易くなったことに起因すると考えられる。発泡温度110-130℃付近の特異的な連 通化の要因は以下のように推察される。発泡温度が低下すると、粘性の増加に伴い気泡成長 速度が抑制され、気泡1つあたりに消費されるガス量が減る。これは相対的に気泡核生成速 度を上昇させ、気泡個数密度が上昇し気泡壁厚みが低下することにより、気泡壁の破断が進 行する。以上の各温度領域における気泡壁の破断挙動について、計算機を用いて解析を行っ た結果を次節で述べる。

2-14 発泡倍率2倍の条件で作製したポリ乳酸発泡体のコアバック方向に対して垂直な

断面、平行な断面のSEM画像

115 5.5

第2章 ポリ乳酸の発泡射出成形

37

2-15 発泡倍率2倍の条件で作製したポリ乳酸発泡体の (a) 平均気泡径 (b) 気泡個数密

度。青色の範囲は後述する気泡壁支配の領域、赤色の範囲は粘性支配の領域を表す。

2-16 発泡倍率2倍の条件で作製したポリ乳酸発泡体のOCCの発泡温度依存性

80 100 120 140 160 180 0

50 100 150

発泡温度 [°C]

セル径 [  m]

100 120 140 160 180 10

6

10

7

10

8

10

9

10

10

発泡温度 [°C]

セル個数密度 [c m

-3

]

80 100 120 140 160 180 0

50 100 150

Ce ll di a m e te r [  m]

Foaming temperature [°C]

80 100 120 140 160 180 10

5

10

6

10

7

10

8

10

9

10

10

Foaming temperature [°C]

Ce ll num be r de ns it y [c m

-3

] (b)

80 100 120 140 160 180 0

50 100 150

発泡温度 [°C]

セル径 [  m]

100 120 140 160 180 10

6

10

7

10

8

10

9

10

10

発泡温度 [°C]

セル個数密度 [c m

-3

]

80 100 120 140 160 180 0

50 100 150

Ce ll di a m e te r [  m]

Foaming temperature [°C]

80 100 120 140 160 180 10

5

10

6

10

7

10

8

10

9

10

10

Foaming temperature [°C]

Ce ll num be r de ns it y [c m

-3

]

80 100 120 140 160 180 0

50 100 150

発泡温度 [°C]

セル径 [  m]

100 120 140 160 180 10

6

10

7

10

8

10

9

10

10

発泡温度 [°C]

セル個数密度 [c m

-3

]

80 100 120 140 160 180 0

50 100 150

Ce ll di a m e te r [  m]

Foaming temperature [°C]

80 100 120 140 160 180 10

5

10

6

10

7

10

8

10

9

10

10

Foaming temperature [°C]

Ce ll num be r de ns it y [c m

-3

]

80 100 120 140 160 180 0

10 20 30 40 50 60

Foaming temperature [°C]

O pe n c e ll c ont e nt [% ]

Expansion ratio = 2 Expansion ratio = 3

80 100 120 140 160 180 0

50 100 150

発泡温度 [°C]

セル径 [  m]

100 120 140 160 180 10

6

10

7

10

8

10

9

10

10

発泡温度[°C]

セル個数密度 [c m

-3

]

80 100 120 140 160 180 0

50 100 150

Ce ll di a m e te r [  m]

Foaming temperature [°C]

80 100 120 140 160 180 10

5

10

6

10

7

10

8

10

9

10

10

Foaming temperature [°C]

Ce ll num be r de ns it y [c m

-3

]

(a)

38

2. 3. 2 ポリ乳酸発泡におけるOCCの発泡温度依存性に対する考察

前節(図2-16)で示した通り、発泡倍率が2倍で発泡温度を変更して作製したポリ乳酸の OCCは発泡温度が150℃から上昇するに従い増加している。また、110~130℃の温度領域で も、OCC が一時的に上昇している。先に述べたように、前者の高温領域は、粘度低下によ る気泡成長速度の上昇、後者の温度領域は、気泡核生成数の増加による気泡壁の薄肉化に起 因すると考えられる。本節ではこれらの考察を、計算機を用いて検証した。

a. シミュレーションに用いた理論とモデル式

1章で示した通り、物理発泡は樹脂に溶解した物理発泡剤の相分離現象である。このとき、

主に ① 物理発泡剤の溶解 ② 気泡核生成 ③ 気泡成長と気泡の合一 ④ 気泡構造の安定 化 という4つの過程を経て発泡が完了する。本シミュレーションでは、既往の研究より報 告されている② 気泡核生成、③気泡成長過程における理論を用いて、気泡径・気泡密度を 計算し、これを図2-15で示した気泡個数密度に対してフィッティングした。この計算結果 に基づき、気泡の合一過程における気泡壁の破断挙動を、気泡壁が破断に至るまでの時間

(以下破断時間とする)を算出することで考察した。破断時間が短いほど気泡壁は破断し易 く、連通化が進行する(OCC が上昇する)ため、算出した破断時間の発泡温度依存性を OCC と対応させることにより、OCC の発泡温度依存性の解析が可能である。以下に、②、③の 過程においてシミュレーションで用いた式と理論、気泡壁破断挙動の解析方法、物性の推算 方法と、シミュレーション方法について述べる。

② 気泡核生成過程は、熱力学的に準安定的な状態にある均質相が、濃度・熱的なゆらぎ により形成された溶質のクラスターを核として相分離する現象である[30]。気泡核生成にお ける既往の研究では、主に古典的核生成理論と呼ばれる理論に基づき核生成の定式化が試 みられている[31, 32]。古典的核生成理論では、気泡核生成時の自由エネルギー変化を気体 の体積仕事と界面形成による自由エネルギー変化で記述している。生成した気泡が球形で あると仮定すると、自由エネルギー変化ΔGは次式で表される。

Δ𝐺 = 4𝜋𝑅

2

𝛾 − (𝑃

𝐷

− 𝑃

𝑐

) 4

3 𝜋𝑅

3

(2-6)

ここで、Rは気泡半径、γは表面張力、PDは気泡内圧、PCは気泡外圧を表す。2-6式を気泡 半径に対してプロットすると図2-17のようになり、ある気泡径R*を越えると自由エネルギ ーは気泡径の上昇と共に低下する。自由エネルギーについて極値を取ると、R*とエネルギー 障壁は次式で表される。

𝑅

= 2𝛾

(𝑃

𝐷

− 𝑃

𝑐

) (2-7)

第2章 ポリ乳酸の発泡射出成形

39

∆𝐺|

𝑅=𝑅

= ∆𝐺

= 16𝜋𝛾

3

3(𝑃

𝐷

− 𝑃

𝑐

)

2

(2-8)

ここで、R*は臨界気泡径、ΔG*は自由エネルギー障壁であり、気泡径がこれを超えるとき生

成した気泡は消滅せずに成長する。ある個数の気体分子から成るクラスターの分布が平衡 状態にあると仮定すると、ボルツマンファクターと頻度因子を用いて、次式で気泡核生成速 度が表される。

𝐽 = 𝑍

𝑁

𝑓

0

𝑁exp [− ∆𝐺

𝑘

B

𝑇 ] = 𝑍

𝑁

𝑓

0

𝑁exp [− 16𝜋𝛾

3

3𝑘

B

𝑇(𝑃

𝐷

− 𝑃

𝑐

)

2

] (2-9)

ここで、Z Nは頻度因子、kBはボルツマン定数、Tは温度、cは物理発泡剤濃度、Nは発泡剤 分子の濃度、f 0は補正係数であり、生成したクラスターのうち、消滅せずに成長していく確 率を補正する係数である。既往の研究においては、特に自由エネルギー障壁に当たる部分の 補正により核生成速度の定式化が行われている[31, 32]。Hanらは、高分子の配置、発泡剤濃 度の気泡成長低下によるエントロピー変化を古典的核生成理論により導かれるエネルギー 障壁から引き、新たに自由エネルギー障壁を定式化することで、良好にPS/トルエン系の発 泡実験結果を再現している[31, 33]。Shafi ら[32]は自由エネルギー障壁に、高分子の弾性係 数、ガス活量係数、圧縮係数を組み込み、定式化を行った。本研究では、自由エネルギー障 壁と頻度因子にパラメータを導入し、次式で気泡核生成速度を計算した。

𝐽 = 𝑓

1

𝑐𝑁

𝐴

exp [− 16𝜋𝛾

3

𝑓

2

3𝑘

B

𝑇(𝑃

𝐷

− 𝑃

𝑐

)

2

] (2-10)

ここで、c は発泡剤濃度、NAはアボガドロ数、f 1、f 2は自由エネルギーのパラメータであ る。また、生成した気泡の内圧は平衡状態では次式で表される。

𝑃

𝐷

= 𝑐

𝐻 (2-11)

ここでH はヘンリー定数である。

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