glass
第3章 ポリ乳酸/PTFEコンポジットの発泡射出成形
69
3. 3 実験結果と考察
3. 3. 1 PTFEがポリ乳酸粘弾性と結晶性に与える影響
図3-4にポリ乳酸/PTFEコンポジットの未発泡射出成形品をクロロホルム溶液で6.5時間 エッチングした後に撮影したSEM 画像を示す。図中の溶け残った繊維状の構造体はPTFE である。SEM画像より観測された繊維径は約500 nmであり、PTFEは混錬・射出成形プロ セスにおいてポリ乳酸中で繊維化し、ミクロフィブリル構造を形成していることが明らか になった。
図3-5 (a)、(b)に温度180℃、歪み1%で測定した貯蔵弾性率G’と損失弾性率G’’の歪み速
度依存性を示す。歪み速度が低い周波数10-2 rad/sから10-1 rad/sまでの領域でPTFEの添加
によりG ’、G ’’が共に上昇している。一方、G’とG’’を比較するとG’の低周波数領域での上
昇が著しかったことより、PTFEの添加によりポリ乳酸はより弾性的な変形挙動を示すこと が明らかになった。表3-5にlogG’の周波数0.01-0.1 rad/sの範囲内での傾きを示す。PTFEの 添加により、傾きが緩やかになる傾向が得られ、PTFEの添加は応力緩和を遅延する効果を 有することが明らかになった。これは、PTFEがポリ乳酸中で形成するネットワーク構造が 分子鎖の絡み合いを増強し、物理的な架橋点が増加させた結果によるものである。図3-5 (c) にポリ乳酸、ポリ乳酸/PTFEコンポジットの複素粘度|η*|の周波数依存性を示す。PTFEの添 加量の増加に従い、特に周波数が低い領域での増粘効果が大きく表れた。この増粘効果は図
3-5 (a)で示したG’の低周波数領域での上昇に対応しており、PTFEのネットワーク構造によ
り応力緩和が抑制された結果、特に増粘効果が低周波数領域で大きく表れた。
図3-4 ポリ乳酸/PTFEコンポジットのクロロホルムエッチング後のSEM画像
70
図3-5 ポリ乳酸、ポリ乳酸/PTFEサンプルの (a) 貯蔵弾性率 (b) 損失弾性率 (c) 複素粘度 の歪み周波数依存性
表3-5 歪み周波数0.1-0.01 rad/sの範囲での貯蔵弾性率の傾き PTFE重量分率 [wt.%] 傾き [-]
0 1.631
1.5 0.4545
3.0 0.2278
10
-310
-210
-110
010
110
010
110
210
310
410
5S tora ge m odul us G ' [P a ]
Frequency [rad/s]
PLA alone PTFE 1.5 wt.%
PTFE 3.0 wt.%
(a)
10
-310
-210
-110
010
110
110
210
310
410
5Frequency [rad/s]
L os s m odul us G '' [P a s ]
PLA alone PTFE 1.5 wt.%
PTFE 3.0 wt.%
(b)
10
-310
-210
-110
010
110
310
410
5Frequency [rad/s]
Com pl e x vi sc os it y | | [P a s ]
PLA alone PTFE 1.5 wt.%
PTFE 3.0 wt.%
(c)
第3章 ポリ乳酸/PTFEコンポジットの発泡射出成形
71
図3-6にポリ乳酸、ポリ乳酸/PTFEコンポジットの貯蔵弾性率、複素粘度の絶対値の温度 依存性を示す。いずれのサンプルにおいても、温度の低下により粘弾性特性は上昇する傾向 が得られた。また、すべての温度範囲で、PTFEの重量分率が増加すると、貯蔵弾性率が増 加する傾向が得られた。これらの挙動もPTFEがポリ乳酸中で形成するネットワーク構造に よる物理的な架橋効果に起因する。
図3-7にポリ乳酸並びにポリ乳酸/PTFEコンポジットの伸長粘度を示す。ポリ乳酸単体の
測定時は 168℃、PTFE コンポジットの測定時は172℃の設定温度で測定を行った。いずれ
のサンプルにおいても伸長時間(歪み)に対して伸長粘性が変化しない線形粘弾性領域が表 れた。これはサンプルの微小変形に対応しており、この領域においては 1 軸伸長粘度の場 合、せん断粘度の3倍となることが知られている。PTFEの添加により線形粘弾性領域にお ける伸長粘度が増加したことは、図3-5で示した複素粘度の、PTFE増加による上昇に起因 する。図3-7に示すように、ポリ乳酸/PTFE系では、伸長時間が大きい領域において伸長粘 度が伸長時間に対して増加する歪み硬化性が表れ、この傾向はPTFE重量分率の増加に伴い より顕著になった。PTFE添加による歪み硬化性の変化を定量的に表すために、前述の歪み 硬化度を真歪みに対してプロットしたグラフを図3-7 (b)、(d)、(f)に示す。ポリ乳酸単体で は、真歪みの増加に対して、歪み硬化度は1から低下していく挙動が得られた。これは、真 歪みの増加に伴い、分子鎖の絡み合いが解け伸長粘度が低下した結果による。一方、PTFE を添加したサンプルではいずれも真歪みの増加に伴い、歪み硬化度SHが上昇したことから 明らかに歪み硬化性が表れた。
図3-6 歪み速度0.63 rad/s、歪み 1 %で測定したポリ乳酸単体並びにポリ乳酸/PTFE コンポ
ジットの(a) 貯蔵弾性率と (b) 複素粘度の絶対値の温度依存性
100 120 140 160 180 200 10
010
110
210
310
410
510
6Temperature [°C]
S tora ge m odul us G ' [M P a ]
PTFE 0 wt. % PTFE 1.5 wt. % PTFE 3.0 wt. %
(a)
10
-310
-210
-110
010
110
010
110
210
310
410
5S tora ge m odul us G ' [P a ]
Frequency [rad/s]
PLA alone PTFE 1.5 wt.%
PTFE 3.0 wt.%
100 120 140 160 180 200 10
210
310
410
510
6PLA alone PTFE 1.5 wt.%
PTFE 3.0 wt.%
Temperature [°C]
Com pl e x v is c os it y | *| [P a s ]
10
-310
-210
-110
010
110
010
110
210
310
410
5S tora ge m odul us G ' [P a ]
Frequency [rad/s]
PLA alone PTFE 1.5 wt.%
PTFE 3.0 wt.%
72
図3-7 (g)は歪み速度に対して歪み硬化度の傾きSSHをプロットしたグラフである。いずれ
の重量分率のサンプルに対しても歪み速度の上昇に対して、SSH が低下する傾向が得られ た。これは、歪み速度の上昇により、分子鎖の絡み合いが速く解けたことに起因する。また、
PTFE重量分率の増加により、SSHが全体的に上昇する傾向が得られた。歪み硬化性は分岐 構造を有する、分子量分布が広い、ネットワーク構造を持つ添加剤を加えた場合等、分子鎖 の絡み合いが大きい場合に発現する挙動であることが知られている[20, 21]。このような樹 脂材料が大変形を受ける場合、分子収縮が阻害されることにより、分子鎖の内部ひずみが外 部から与えられる歪みに従って大きく増加するため、ひずみ硬化が生じる[23]。PTFE はポ リ乳酸中でネットワーク構造を形成するため、PTFEの重量分率の増加により歪み硬化特性 が顕著に表れた。
図 3-7 (a) 168℃でのポリ乳酸伸長粘度 (b) 歪み硬化度の真歪み依存性
10
-210
-110
010
110
210
210
310
410
510
610
7Tensile time [s]
E longa ti ona l vi sc os it y [P a s ]
strain rate 0.1 s-1 strain rate 0.5 s-1 strain rate 1.0 s-1 linear complex viscosity
(a)
0 0.05 0.1 0.15 0.2 0
0.5 1 1.5 2
Hencky strain [-]
S tra in ha rde ni ng ra ti o [-]
strain rate 0.1 s-1 strain rate 0.5 s-1 strain rate 1.0 s-1
(b)
第3章 ポリ乳酸/PTFEコンポジットの発泡射出成形
73
図 3-7 (c) 172℃でのポリ乳酸/PTFE (PTFE 1.5 wt.%)の伸長粘度 (d) 歪み硬化度の真歪み依 存性
図 3-7 (e) 172℃でのポリ乳酸/PTFE (PTFE 3.0 wt.%)の伸長粘度 (f) 歪み硬化度の真歪み依 存性
10
-210
-110
010
110
210
210
310
410
510
610
7Tensile time [s]
E long a ti ona l vi sc os it y [ P a s ]
strain rate 0.1 s-1 strain rate 0.5 s-1 strain rate 1.0 s-1 linear complex viscosity
(c)
0 0.5 1 1.5 2
0 2 4 6
Hencky strain [-]
S tra in ha rd e ni ng ra ti o [- ]
0.1 s-1 0.5 s-1 1.0 s-1
(d)
10
-210
-110
010
110
210
210
310
410
510
610
7strain rate 0.1 s-1 strain rate 0.5 s-1 strain rate 1.0 s-1 linear complex viscosity
Tensile time [s]
E long a ti ona l vi sc os it y [P a s ] (e)
0 0.5 1 1.5 2
0 5 10 15 20
Hencky strain [-]
S tra in ha rd e ni ng ra ti o [- ]
0.1 s-1 0.5 s-1 1.0 s-1
(f)
74
図3-7 (g) ポリ乳酸/PTFEコンポジットのSSHの歪み速度依存性
図3-8 (a) にポリ乳酸単体、ポリ乳酸/PTFEコンポジット(PTFE重量分率1.5、3.0 wt.%)
の冷却速度5℃/minで測定したDSC曲線を示す。ポリ乳酸単体の場合、冷却速度 5℃/min では結晶化に伴う発熱ピークが表れなかった。すなわち、冷却速度5℃/minでは結晶化挙動 が観測できず、実験で使用したポリ乳酸の単体を結晶化させるにはこの冷却速度より遅い 速度で冷却する必要がある。一方で、PTFEを添加した場合、冷却速度5℃/minの条件でも ポリ乳酸が結晶化し、発熱ピークが表れた。また、PTFEの重量分率の増加に伴い、単位質 量当たりの発熱エンタルピーが増加、並びに結晶化開始温度Tcが高温側にシフトした。こ れは、PTFE重量分率の増加により、ポリ乳酸/PTFE界面での結晶の不均質核生成が促進さ れた結果と考えられる。図3-8 (b)に冷却速度10℃/minで測定したポリ乳酸/PTFE (PTFE重
量分率3.0 wt.%)コンポジットのDSC曲線を示す。冷却速度が10℃/minの場合、結晶化が促
進されたPTFE 3.0 wt.%添加ポリ乳酸においても、結晶化に伴う発熱ピークがほぼ消失する
結果となった。図3-8 (c)にポリ乳酸/PTFEコンポジット(PTFE重量分率3.0 wt.%)の高速DSC を用いて測定したDSC曲線を、昇温速度で規格化したものを示す。本グラフは、200℃で樹 脂を溶解させた後、冷却速度を5℃/min-900℃/minで冷却し、再び昇温した際のDSC曲線を 表している。規格化は昇温速度で熱流束を除することで行った。いずれの条件においても、
50-80℃付近でエンタルピー緩和に起因する吸熱ピークが表れた。また、冷却速度5、10℃/min
においては、150℃付近に結晶の融解に起因する吸熱ピークが表れた。冷却速度20℃/min以 上では、150℃付近で表れた融解による吸熱ピークが完全に消失した。図3-8 (b)、(c)の結果 より、ポリ乳酸/PTFE系においては、最も結晶化が促進されたPTFE 3.0 wt.%添加ポリ乳酸 においても20℃/minで結晶化がほぼ生じなくなることが明らかになった。
0 0.2 0.4 0.6 0.8 1 0
2 4 6 8 10
S lope of st ra in ha rde ni ng ra ti o [-]
Strain rate [s
-1]
PTFE 1.5 wt.%
PTFE 3.0 wt.%
(g)
第3章 ポリ乳酸/PTFEコンポジットの発泡射出成形
75
図 3-8 DSCを用いて測定した (a) ポリ乳酸単体、ポリ乳酸/PTFE系の冷却過程でのDSC曲
線 (b) PTFE重量分率3.0 wt.%のポリ乳酸/PTFEコンポジットのDSC曲線の冷却速度依存性
図 3-8 (c) 高速DSCを用いて測定したPTFE重量分率3.0 wt.%のポリ乳酸/PTFE系の非等温 結晶化後の昇温ピークの冷却速度依存性
50 100 150 200
H e a t fl ow
exo
20 m W
Temperature [°C]
PLA alone PTFE 1.5 wt.%
PTFE 3.0 wt.%
50 100 150 200
H e a t fl ow 5 m W
exo
cooling rate of 10°C/min cooling rate of 5°C/min
Temperature [°C]
(a)
50 100 150 200
H e a t fl ow
exo
20 m W
Temperature [°C]
PLA alone PTFE 1.5 wt.%
PTFE 3.0 wt.%
50 100 150 200
H e a t fl ow 5 m W
exo
cooling rate of 10°C/min cooling rate of 5°C/min
Temperature [°C]
(b)
50 100 150 200
Temperature [°C]
H e a t fl o w [m J/ K ] 0. 00 5 m J/ K
After cooling at -900 °C/min After cooling at -300 °C/min After cooling at -120 °C/min After cooling at -20 °C/min After cooling at -15 °C/min After cooling at -10 °C/min After cooling at -5 °C/min
(c)
76
本実験系での発泡射出成形プロセスにおいて、2章で示した金型内温度センサーを用いて測 定した樹脂温度より計算したポリ乳酸の冷却速度は840-900℃/min (14-15℃/s)であり、ポリ 乳酸/PTFE系において結晶化が可能である20 ℃/min を大きく上回る。そのため、本条件の 発泡射出成形実験においては、結晶化はほぼ発泡過程に影響を与えないものと考えられる。
すなわち、PTFEはポリ乳酸の結晶化を促進するものの、本実験系において結晶化は発泡時 の気泡構造に影響を与えないことが示された。
3. 3. 2 PTFEが気泡構造に与える影響
図3-9は発泡倍率2倍、発泡温度105℃で作製したポリ乳酸単体、ポリ乳酸/PTFEコンポ ジット発泡体のコアバック方向に垂直・平行な断面の SEM 画像である。PTFE の重量分率 の増加に伴い、気泡径が低下する傾向が表れた。図3-10にコアバック方向に垂直な断面の SEM画像より算出した発泡倍率 2倍のポリ乳酸単体、ポリ乳酸/PTFE発泡体の平均気泡径 並びに気泡個数密度を示す。ポリ乳酸のみのデータは、図2-15に示した気泡径の各発泡温 度での平均値を示している。PTFE重量分率は1.5 wt.%、3.0 wt.%のものを用いた。いずれの 発泡温度条件においても、PTFE重量分率の増加に伴い、気泡径は低下し、気泡個数密度は 上昇する傾向が得られ、特に発泡温度90-110℃においては、気泡の微細化が著しい結果とな った。また、ポリ乳酸発泡体の気泡径はサンプル間で大きく変動したのに対して、ポリ乳酸
/PTFE コンポジット発泡体においてはエラーバーが示すようにサンプル間で気泡径はほぼ
変動しなかった。すなわち、PTFEを添加することにより安定的に発泡体を製造することが 可能な発泡温度範囲が広がった。
PTFE の気泡微細化効果は、粘弾性特性の向上と不均質核生成の促進に起因することが 考えられる。図3-6で示した通り、PTFE添加により、複素粘度はいずれの温度範囲でも上 昇した。気泡成長時には、気泡周りの樹脂が流動することによる抗力が生じる。このとき粘 度が上昇すると、流動に際する抗力が大きくなり、気泡成長速度は低下する。この粘弾性特 性の向上効果に加えて、PTFEの不均質核生成促進効果も微細化に寄与していると考えられ る。気泡核生成と気泡成長は同時に生じるため、物理発泡剤を競合して消費する。そのため、
気泡成長に消費される物理発泡剤量が低下する場合、気泡核生成速度は相対的に上昇し、気 泡個数密度が増加し気泡が微細化する。
PTFEの添加による、不均質核生成に起因する気泡微細化効果を明らかにするため、ポリ 乳酸単体、並びにポリ乳酸/PTFEコンポジット系について可視化バッチ発泡を行い、その発 泡挙動の観察を行った。撮影した映像より、発泡の初期過程における画像を取り出し比較し た図を図3-11に示す。発泡温度は図3-8で示したDSC曲線よりポリ乳酸、ポリ乳酸/PTFE の双方が、結晶化しない180℃に設定した。