5 中小製造業向けインターネットEDIシステムの考察
5.5 Pull 型 EDI 方式の選択と標準化
中小製造業向け共通EDIはPush型EDI方式とPull型EDI方式を統合したフレームワークと して成立するシステムである。Pull型EDI方式はEDIデータを蓄積するHUBサーバーが必要で あることを5.4.2項で述べた。
HUBサーバーを経由するPull型EDI方式については複数の代替案が存在する。本節ではこれ ら各種の Pull型EDI方式のメリット,デメリットを分析し,中小製造業向けに適するEDI方式 の考察を行う。
5.5.1 各種 Pull 型 EDI 方式の評価項目
Pull型EDI方式評価のため次の評価項目について検討する。
表 5.6 Pull型EDIの評価項目
評価項目 内容
ebXML MS仕様準拠 今後,大手発注企業との取引対応に必要となる
ebXML MS仕様準拠の可否
セキュリティ 今後,大手発注企業との取引対応に必要となるPKI 方式の可否
リライアビリティ 今後,大手発注企業との取引対応に必要となる Reliable通信機能の可否
データの自動受信と社内シス テム自動取込み
データの自動受信と社内システムへの自動取込みの 安価な実現の可否
クライアントからの発注機能 Pull型クライアントからの発注機能の提供の可否 Push型EDIとの整合性/シス
テムの統一性
HTTPの上に構築されるPush型EDIとの整合性 将来におけるPush型EDIへの
転換
Pull型EDIクライアントが将来Push型EDIクライアン トへ転換する場 合の容易さ
5.5.2 Pull 型 EDI 方式の総合評価
Pull型EDI方式の総合評価を表5.7に示す。
表 5.7 各種のPull型EDIの評価表
HTTP SMTP
方式
評価項目 Web-EDI Web-EDI XML ebXML Pull型 サービス Web ebMail 汎用メール(注 5)
ebXML MS仕様準拠 × × ○ × △(注 4) ×
セキュリティ ID+PW ID+PW ○(PKI) ? ○(PKI) ID+PW リライアビリティ(注1) × × ○ ? × × データ自動受信と社内シ
ステム自動取込み(注2)
× ○ ○ ? ○ ○
発注機能 × × ○ ? ○ ○
Push型との整合 × × ○ ? × × Push型への転換 × × ○ ? × ×
総合評価 ○ ?(注 3)
注1:リライアビリティ(高信頼性通信)は,MSH AckとReceipt Ackを装備を条件。
注2:共通標準メッセージ(UBLなど)対応の専用アプリケーションの利用が前提。
注3:WebサービスのEDI標準化は未確定。
注4:MSH Ack返送機能など,リライアビリティ機能がない。
注5:汎用メール方式はISP (Internet Service Provider)のメールサービスを利用する。
5.5.3 各種 Pull 型 EDI 方式の分析
(1) Web-EDI方式Pull型EDI
現在最も普及しているインターネットEDIである。しかし,多くの問題を抱えており,今 後の中小製造業向けEDIとしては避けたい方式である。
(2) XML-Web-EDI方式Pull型EDI
Web-EDIの送信データを自社サーバーよりXMLで送信するPull型EDI方式である。大
手発注企業が今後導入すると予想されるebXMLメッセージ搬送仕様(ebMS)には準拠して おらず,セキュリティもIDとパスワードによる認証を行うセキュリティレベルのEDIであ る。
XML利用によりWeb-EDIよりは改善されたEDI方式であるが,業界XML/EDIの主流
であるebXML準拠のコラボレイティブEDIとの整合性は確保できない。共通EDIフレー
ムワークとしては避けたい方式である。
(3) ebXML準拠HTTP方式Pull型EDI
この方式はHUBサーバー経由で Pull型クライアントに受発注機能を提供する。この方式 の特徴はHUBサーバーとクライアントの接続を ebXMLメッセージ搬送仕様(ebMS)に準 拠して通信プロトコルをHTTPに統一し,セキュリティやリライアビリティもPush型EDI
と共通の管理体系の中で運用することを可能にしている。
Pull型EDIクライアントは最初にHUBサーバーに対して送信要求メッセージを出す点を 除けばPush型EDIクライアントと共通仕様とすることが可能である。
今後検討すべき課題は Pull 型 EDI クライアントへメッセージ蓄積サービスを提供する
EDI-ASP事業者を育成すること,および提供するHUBサービス費用が中小製造業の負担可
能なFAXコストに対抗できる金額に収まる条件を見出すことである。
この課題を解決できれば全体の整合性がとれた理想的な中小製造業向け共通 EDI フレー ムワークの実現が予想される。
(4) Webサービス方式Pull型EDI
XML/EDIとしてWebサービスを利用しようというコンセプトが提示され,国際的な検討
が開始されようとしている。ebXMLとWebサービスはリライアビリティなどのSOAP拡張 方式に現時点では差異がある。Webサービスはまだ発展途上にあり,標準化も進行中なので
ebXMLとの整合性やEDI全体システムのWebサービス化の可能性については今後の検討を
待たなければならない。
しかしMS-Office2003のような標準的な汎用業務パッケージとの親和性が高いので,中小
企業向けの安価なEDI対応業務アプリケーションの開発に際してメリットが得られる可能性 がある。どのような場面でWebサービスのメリットが生かせるかを今後継続して検討してゆ く必要がある。
(5) ebXML準拠SMTP方式Pull型EDI
ebXMLは通信プロトコルとしてHTTPのほかにSMTPの利用も認めている。大手の業界
XML/EDIはHTTPが主流であるが,ebXML準拠 SMTPによるEDI方式がebMailとして
香港のCECID(香港大学)からオープンソースソフトとして提供されている。
電子メールは固有のメールアドレスによりIPアドレスの固定,不定に関係なく通信が可能 となるメリットがある。しかしメールボックスに受信データを蓄積してダウンロードする Pull型方式であるためコラボレイティブEDIを実現できない。
また大手業界EDIの主流であるHTTP方式との整合,共存を考慮した時にどのようなメ リット,デメリットがあるかを十分検討する必要がある。
(6) ISPメールを利用したXML/EDI
EDI データ蓄積機能をインターネットサービスプロバイダー(ISP)の汎用メールサービ スを利用するコンセプトである。この方式は既存の汎用的に利用されているインターネット 商用メールサービスを利用することで,中小企業でも安価なコストで気軽にEDIを導入でき るところにメリットがある。
しかしISPメール方式のEDIには次のようなデメリットもあり,用途を吟味して利用す ることが必要である。
l メールボックスとクライアント間の認証機能がID,パスワードレベルであり,セキュ リティのレベルが低い。
l ロストメール対策や受信確認返信などのリライアビリティ機能が汎用のメールサービ スには備わっていないので,専用メーラーや専用業務アプリケーション側でこれらの 機能を補わなければならない。専用メーラーや専用業務アプリケーション間のローカ
ルなEDIとなり,汎用性に欠ける。
l ジャンクメールなどの妨害を受けやすい。
l ebXML準拠HTTP方式EDIとは別システムとなり整合性が無い。
l 将来Push型のコラボレーティブEDIに切り替えようとすると,システムを入れ替え なければならない。
l HTTPによるPush 型EDIをメインのEDI方式としている企業にとっては,メール 方式を利用するためには別途の追加システム投資が必要になる。
大手発注企業は ebXML 準拠のセキュリティレベルを要求し始めており,中小企業向けの 取引に追加の設備投資をしてまでISPメール方式を利用してくれるかについては疑問がある。
中規模中小製造業にとっても大手企業と取引するためのebXML対応 EDIとの2本立てにな る可能性が高く,余分な投資は避けたいところであろう。
この方式は中小企業がローカルな小規模 EDI ネットワークを構築しようとする場合に利 用するためのEDI方式と考えられる。
5.5.4 共通 EDI フレームワークの Pull 型 EDI 推奨方式と実現の課題
これまでの検討結果を総合して中小製造業共通EDIフレームワークのPull型EDIに関する推 奨方式は次のとおりである。
現時点における評価ではこの方式が最もメリットが大きく,大手企業から中小企業までの広範 囲のニーズに対応が可能である。この方式を導入することにより図5.2に示した中小製造業向け共 通EDIフレームワークの全体図を実現できる可能性が高い。
この方式を実用化するための課題は次のとおりである。
l ebXMLを補完する標準化
Push型EDI方式とPull型EDI方式を統合する共通EDIフレームワークに関するセキュリ
ティ標準,リライアビリティ標準の取引合意(CPA)決定。
Pull型EDI方式のデータダウンロード方式標準の決定。
l Push/Pull共用ebXML-HUBサービスを提供するEDI-ASPサービス
中小製造業が負担しうるコストでebXML -HUBサービスを提供するASP事業者が必要。
l 安価なPull型EDIクライアントシステムの提供
小規模中小製造業へのEDI普及のためには安価なPull型EDIクライアントシステムの提供 が必要になる。標準Pull型EDI送受信端末とこの端末とデータ交換が可能な簡易受発注シス テムの開発が必要である。