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(本稿の意見にかかる部分は筆者の個人的見解であり所属する団体組織とは一切関係ない)

1.準拠法の役割

(1)ユーロ

MTN

プログラムの準拠法ランキング

Final Governing Law 2007 Total

England 1,631

New York 356

Germany 103

Netherlands 52

France 48

Argentina 41

Ireland 23

Canada 17

Australia 16

New South Wales 13

Belgium 12

Austria 12

Italy 11

Luxembourg 10

Denmark 10

Cayman Islands 8

Singapore 6

Ontario 6

Portugal 4

Iceland 3

Delaware 3

United States 2

New Zealand 2

Mexico 2

United Arab Emirates 1

South Africa 1

Saskatchewan 1

Quebec 1

Pennsylvania 1

Nova Scotia 1

Norway 1

Massachusetts 1

Korea 1

India 1

Hungary 1

Greece 1

Czech Republic 1

Colombia 1

Channel Islands 1

California 1

Alberta 1

Grand Total 2,408

《データ提供先:Citigroup Global Markets Limited

さらに、銀行などの劣後債などの発行を可能とするプログラムでは、通常の

MTN

は英国 法としておき、劣後債については自国法を準拠法とするのが一般的となっている。

(2)日系発行体の

MTN

の準拠法

なお、日系発行体は、現在すべて英国法を採用しているが、これは近年の日本国内の特 左の

2007

年に設定・更新したユーロ

MTN

プログラム の準拠法ランキングの表で明らかなように、ユーロ

MTN

プログラム全体の約

3

分の

2

が英国法を準拠法としてい る。上の表を見る限り、基本的に、先進国のプログラムは そ の 先 進 国の 準 拠 法を 採用 し て い ると い う 原則 も成 り 立 っていると思われるが、発展途上国のプログラムで英国法 を 用 い ず に発 展 途 上国 自身 の 準 拠 法が 採 用 され てい る ケ ースも散見される。

先進国以外のプログラムについては、英国法・

NY

法等 の州法・自国法を、投資家の条件や希望を踏まえて、発行 体自身が選択しているとみることもできるかもしれない。

(プログラムの構成と準拠法との関連)

なお、第二フェーズの調査を踏まえて、

MTN

プログラ ムの準拠法の選択に関し、以下のような相互関係が観察さ れることが、ほぼ明らかとなった。

すなわち、シンガポールドル建て

MTN

プログラムや、

マレーシアリンギット建ての

MTN

プログラムの場合に は、準拠法は、シンガポール法やマレーシア法となる。

こ れ に 対 し て 、 グ ロ ー バ ル

MTN

プ ロ グ ラ ム で

Reg

S/144A

のドキュメンテーションを含む場合には、ニュー

ヨーク法となる。

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殊な事情による。具体的には、

1993

年の商法改正に伴い法務省が公表した「社債の管理会

社(

Commissioned Company

)のユーロ債における強制設置」という解釈がその直接的な

原因となっている。

日本企業の設定する

EMTN

プログラムでは、現在までのところ、準拠法は英国法以外の 選択肢がないため、他の多くの国々で可能なように、自国法である日本法を選択肢に加え ることができるように、今後法令の見直しを進めるべきであると考えられる。

(下記「2.民間国外債(日本物外債)の社債管理者必置問題」の項参照)

準拠法の選択に関しては、ユーロ市場でユーロ

MTN

プログラムを使うような発行体は、

これまではソブリン・準ソブリンに加えて、基本的に信用力に比較的すぐれた金融機関や 事業会社であることが多く、その意味でデフォルトリスクが顕在化して実際に準拠法が問 題となるようなケースは極めて少なかったと考えられる。その意味で、「発行体の準拠法を 気に留める投資家はほとんどいない」という複数のロンドンの引受業者の説明は、優良発 行体の存在を前提とすれば、なるほどそういうものであろうと理解できる。

なお、銀行の設定する

MTN

プログラムでは劣後債部分に自国法準拠とする例が多くみら れるが、当該プログラムを使用して株式リンクや劣後性の証券を発行することが想定され る場合には、基本的には、発行体の自国法を準拠法として用いることがより望ましくなる と思われる。

(3)ユーロ債の準拠法についての関連論文抜粋

[

以下は、

2007

3

31

日出版の犬飼重仁編「アジア国際債市場創設構想」(レクシス・ネ クシス刊)から、松本啓二氏(弁護士、故人)の論文の抜粋(

P.165-166, 170-173

)である

]

ユーロ円債を含むユーロ債(歴史的にはユーロ・ドル債)の場合には、公募(Public offering)は全世界(証券規制のある国で は そ れ ぞれ 国 の 規 制 免 除 に 従 う) で 行 わ れ 、そ の 用 語 は 英 語 で 、 公 募 後 の 流 通 市 場 は 、 全 世 界 の 業 者 間 市 場 (Inter-bank

markets)であることから、発行体の母国法を社債の準拠法にすることに合理性がある。

全世界の投資家サイドからみると、特定の国の法律を準拠法にするとフェアではないし、発行体にとって、その母国法を準拠法 とすることは、投資家からのクレームに対応しやすいからである。もっとも、歴史的に、ユーロ市場で後進国の発行体は英国法を 使う例が多いので、英国法ならフェアといえるかもしれない。

これが転換社債型新株予約権付社債になると、その準拠法が発行体の設立地の母国法であることが疑のない株式の関連商 品であるところから、解釈のミスマッチを防ぐために発行体の母国法であることがより望ましくなる。

かつて英国法を準拠法とする新株引受権付社債において、商法にはない新株引受権者集会の規定が設けられ、現在の転換 社債型新株予約権付社債でも社債権者集会の決議事項の中に、「新株予約権の内容の変更」という事項が加えられているのが その左証である。先例がそうなっているからとして、誰もそれに異を称えないのが、不思議である。

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社債の世界では、準拠法は産地表示である。“made in Japan”である筈の社債が現在では“made in U.K.”になっているの である12

戦前の外債は、社債の準拠法は日本法だが、支払等外国の手続については、Fiscal Agentに代表される支払国の制度を使 い、引受関係は引受主幹事の属する国の法律という考え方であった。

忙しさに対応するため、旧濱田松本法律事務所が、1980年代初頭からあみ出した方法が、戦前のSplit lawSplitを逆 転し、社債の準拠法は、英国法のままにしておき引受契約の準拠法を日本法とする方法であった。これは日系発行体のユーロ債 におけるリード・マネジャー(幹事証券会社)が、欧米の証券会社から日本の証券会社のロンドン現地法人に移行していった歴史 と軌を一にする。

社債の準拠法を英国法のままにしておいたのは、当時、銀行保証や財務制限条項(Financial covenants)がつけられるのが 一般的であったので、Trustee(受託者)が必要でありまたはあることが望ましく、日本の信託法の適用関係があいまいで使えなか ったからである。

引 受 契 約 と は 、 発 行 会 社 が 、 ユ ー ロ 債 発 行 の た め に 作 成 す る 目 論 見 書 (Offering Circular, Prospectus, Placement

Memorandum 等と英語ではよばれるが、国外発行募集であるから、日本の証券取引法(現、金融商品取引法)の適用はなく証

券取引法に定める目論見書ではない)の内容が正しいものであり、重要な事実をすべて述べており、誤解を招く表現がないこと を、契約書により保証(warranty)し、引受業者が、契約書の定める条件に従い、社債を引受け募集することを約する契約であ る。

ユーロ債の発行事務手続の中心となる仕事は目論見書の作成であることから、引受契約の準拠法が英国または米国州法の 場合、その作成にあたっては英国または米国の弁護士が事務の中心となり、引受契約の準拠法が日本法の場合、その作成にあ たって日本の弁護士が事務の中心となるのが、クロス・ボーダー証券引受のグローバル・スタンダードである。

この方式は、日本語の会社資料を使い日本語のみで議論ができるし、Due DiligenceDocumentation Meetingの期間 3日位ですむことから、1990年頃には、約半数に近づく程普及した。

しかし、その頃においては、発行体の代表者が欧州でのロードショーを兼ねて訪欧し、ロンドンにおける調印式に出席するこ とが重要視されていたのと、社債の準拠法は、英国法であったので、ロンドンでの作業であるSigningClosingの手続は、社債

関係のDocumentationを担当する英国の法律事務所に担当してもらうと好都合であった。

このような局面で、前述のSplit law issueとのニックネームをつけて、共同作業を行いましょうという柔軟な態度をとったのは旧 Linklaters & Paines(現在のLinklaters)であり、Slaughter & Mayはそれを拒否した。Slaughter & Mayは、その後日本 事務所を閉鎖するに至っている。

Split law方式は、作業がだぶる無駄があり、Fiscal Agent方式が採用できる優良発行体については、その後、社債の準拠 法にも日本法が用いられるようになった。

旧濱田松本法律事務所が、1987年にロンドン事務所を設置したのは、オール日本法の場合にはSigningからClosingまで すべての手続を現地で取り扱うことが必要であり、英国の法律事務所に頼むわけにはいかなかったのが一つの理由である。

ロンドン事務所(の閉鎖)は、バブル崩壊により日本企業のEuro equity債が壊滅状態になったことが直接的原因であったが、

それにとどめをさしたのが、1993年の商法改正に伴い法務省が公表した「社債の管理会社(Commissioned Company)のユー ロ債における強制設置」という解釈であり、1994年に閉鎖された。

12 戦前の外債の準拠法は日本法であった。栗栖赳夫、「外債及び外国社債法の研究」(有斐閣、1967