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(本稿の意見にかかる部分は筆者の個人的見解であり所属する団体組織とは一切関係ない)

1.はじめに

ここでその創設を企図しているアジア

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プログラムは、日本国の金融商品取引法(以 下単に「金商法」という。)による規制の枠組みで言えば、適格機関投資家または特定投資 家のみを相手方とする

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Medium Term Note

)の募集、私募、売出しまたは私売出し である。市場は日本国内及びアジアの諸外国が想定され、通貨は日本円、シンガポールド ル、香港ドルまたは他のアジア諸外国通貨が想定される。

このようなアジア

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プログラムの創設に関する法的問題は、いうまでもなく日本法 上の問題に限られないが、ここでは、日本法上の問題に限定して下記の法的問題を検討し たい。

① かかる投資家対して勧誘等を行うための金商法上の要件や告知・書面交付義務が あり、またそのための上場制度の活用の問題がある。これらの有価証券発行のた めの金商法上の発行者情報及び証券情報の開示に関する規制について、

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プロ グラムの目的に沿って機動的な

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の発行が可能になるようにするための検討 が必要である。

② また、アジア

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の要項上の発行者の債務の履行を確保するための枠組みとし て、どのような要項が適切かについて検討し、それを実現するうえでの法的問題 を検討することが必要である。

③ さらにまた、投資家保護のために、プログラムについて法律意見書をとることの 要否、及び

Due Diligence

の程度、なかんずく法律家の関与とコンフォートレタ ーの役割を検討したい。

2.情報開示に関する規制

(1)発行登録制度の活用

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プログラムによる発行は、発行の機動性を満足させることが重要である。

・上場会社が発行体の場合、国内での普通社債の実質的なプロ向け発行は、私募で はなく、発行登録制度を用いて、額面

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億円以上で行っているのが通常である。

これをアジア

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プログラムのために活用するためにはどのような手当が必要 か、ということを検討すべきであろう。発行登録制度は一般投資家向けの公募を 目的としているため、これを利用するための現行の要件が厳しすぎないか、とい う問題がある。開示内容、引受審査、コンフォートレターなどが要請されている ため、

MTN

プログラムによる債券発行の機動性を実現できないことが懸念される。

・外国の発行体の場合には、英文で継続開示しても、参照方式を利用することがで

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きず、従って、発行登録は使えないという問題がある。

(2)適格機関投資家及び特定投資家

・金商法は、プロ向け市場を創設し、一定の要件を満たす特定投資家向けの取得勧 誘が私募とされ、有価証券届出書の提出が不要とされた。特定投資家(いわゆる プロ)には、適格機関投資家が含まれる。

・「適格機関投資家」及び「特定投資家」の定義によれば、アジア諸国の類似投資 家が、金商法上のこのカテゴリーに入らないという問題はないか。外国法人は一 般投資家へ移行可能な特定投資家である(金商法

2

31

4

号、定義府令

23

条)。 また、そもそも国内で勧誘しなければ、私募要件の検討は不要であろう。セカン ダリーであっても、海外から注文してくる限り、金商法上は当面特段問題になら ないと思われる。

・しかしながら、海外の日本人または日本法人の支店に金商法上の投資家保護規定を 適用すべきかという、金商法の域外適用が将来問題となり得ることに留意すべき であろう。アジア

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プログラムは国境を越えた資本市場での債券発行を目的と しているから、ユーロ市場における米国証券法の域外適用と同様に、金商法の域 外適用が検討されるようになる可能性がある。

(3)プログラムの取引所上場

・ユーロ

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プログラムのロンドン取引所上場の意味と同様に考えれば、上場の意 義の一つは継続的情報開示である。

・金商法は、プロ向け市場における特定証券情報及び発行者情報の内容について、

具体的内容、様式、会計基準、言語について、特定取引所規則に委ねている(特 定証券情報府令

2

条及び

7

条)。

・このように法律上は柔軟な取扱いが許されているから、これによるアジア

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プ ログラムの上場が可能になると期待される。

・具体的には、例えば東京

AIM

取引所にアジア

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プログラムをプログラム・ア マウントを特定して上場し、同取引所取引インフラを利用する可能性を追求すべ きであろう。東京

AIM

取引所の規則は、株式の上場について、英語による開示、

及び会計基準について日本、米国、国際会計基準(

IFRS

)のいずれかを認めてい るという。これによれば債券についても柔軟な対応が期待される。

(4)情報開示当事者の自己責任を伴う判断に任せる柔軟な制度への転換

引き受け審査、開示事項、ブラックアウト期間等の確立された制度に依存しすぎ ていないか。整備された制度は、有益なチェック機能を提供し制度を作る側に安心 と満足を与えるが、具体的な事実に基づく判断を鈍らせ起債の機動性を阻害するリ

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スクを伴うことを知るべきであろう。古典的な考え方によれば、私募または私売出 しにおいて情報開示規制によるプロ投資家の保護は不要である。自ら情報を収集し ま た 発 行 体 に 情 報 の 開 示 を 求 め る こ と が で き る 立 場 に あ る か ら で あ る 。 ア ジ ア

MTN

プログラムの創設にあたっては、機動的な起債を可能にするために、これら のことを念頭において柔軟な情報開示のルールを構築すべきである。

3.アジア

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の要項

東京で発行されるアジア

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の要項上の発行者の債務の履行を確保するための枠組み としてどのような要項が適切か。特に発行体が外国法人の場合を念頭に置いてこの問題を 検討してみよう。

MTN

の要項において発行者は、その有価証券所持人に対して要項上の規定に従って金 銭の支払いを約束する。かかる約束を司法制度を用いて強制的に履行させるための仕組み を、要項の中に盛り込んでおかなければならない。そのために定めておかなくてはならな いものとして、管轄裁判所、訴状の送達方法、準拠法等がある。

(1)管轄裁判所

・第一審管轄裁判所として日本の東京地方裁判所が非専属的裁判管轄権を有する旨 の合意を要項中に盛り込むのがよい。発行者の営業の本拠地等での、仮差押仮処 分及び本案の裁判を行う選択ができるようにするために、非専属的裁判管轄とす る。発行通貨による債権の回収を実行するためには、発行者の国で訴えを提起し て強制執行することが望ましいこともあり得よう。

・英国や

New York

の裁判所を選択すべき理由はない。金銭の支払い約束が

MTN

要項の骨子であり、この分野において有価証券所持人がコモンロー上の判例の集 積に依拠しなければならない場合は想定できない。

(2)訴状の送達方法

・訴状送達代理人を東京ないし日本国内に指名する規定は、司法共助等による訴状 の送達を不要とするか? 日本の裁判所は、この指定を訴訟上なされた指定とみ

ることは出来ないとの理由で、この規定に従って、指定された者に訴状を送達す ることはしないというのが一般的な理解である。

・そのような規定の、実務的な意義は、

(

)

この規定に従った訴状送達代理人による 任意の受領を期待していること、

(

)

応訴管轄を事実上生じやすくすること、また

(

)

将来日本の裁判所がこの規定に従って訴状を送達する取り扱いをする場合に 備えていること、等であろう。

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(3)準拠法

・日本の国際私法は、契約について当事者による準拠法の指定を認めている。日本 の裁判所に訴訟が提起された場合、準拠法を日本法としておけば、裁判所による 審理を容易にする。

・日本法を準拠法と指定したときには、どの範囲の日本法が適用される結果となる のかという、国際私法上の解釈問題が生ずることに留意しなければならない。こ の点については、下記の

(5)

及び

(6)

で取り上げる。

・社債契約(=要項)の準拠法を日本法にすれば、日本の法律事務所の法律意見書 を得て、アジア

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プログラムの適法性を確認することができる。発行者が日本 国以外の国に従って設立された法人であれば、当該外国の法律事務所から当該外 国法上の適法性を確認することが必要になる

・変動利付社債やデリバティブを含んだ場合等、日本国の利息制限法の上限を超え る可能性がある社債については、利息制限法の適用の有無が問題になる。これは 利息制限法の解釈の問題であり、さらに国際私法上の法廷地の絶対的強行法規の 適用問題として理解される。社債には適用ないとする見解があるが、学説上はあ まり議論されておらず、適用ありとしている説が多い状況である。

(4)言語

・共通語である英語を使用して良いであろう。準拠法を日本法とすると、英語で日 本法上の概念を表現することになるが、日本政府は日本法の英訳を作成するプロ ジェクトに従事していることを勘案すれば、

MTN

の要項は支払い約束であって比 較的単純なものであること、及び英語での表現に不安があれば日本語の法律用語 を添えることが出来ること、等から

MTN

の要項の言語は英語でよいと考える。英 語を使用することが出来る日本の法律家は既に充分な数にのぼっている。

・この言語については、サムライ債と異なる。サムライ債の要項が作成された

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年 ないし

40

年前に比べて、英語の使用は広く日本をはじめアジア諸国に普及し、英 語はアジアの複数の国から構成される国際資本市場における共通語になっている と認められる。

(5)日本国会社法上の社債管理者設置強制規定及び社債権者集会に関する規定の適用問 題

① 問題の所在

・日本国の会社法に従って設立された会社は、同法に従って負担する金銭債務(

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項に定義する「社債」)を負う場合には社債管理者を設置する義務を負う(会社 法

702

条)。この社債管理者の制度は、社債権者保護のための強行規定である。

(

)

各社債の金額が

1

億円以上の場合及び

(

)

ある社債の総額を当該種類の各社債の