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MTN プログラムのリスティング(上場・登録)の概要

注:MTNプログラムの開示を、例えば、ロンドン証取基準で行うことを、通常は「ロンドン証取にファイ ルする」とは言わず、「ロンドン証取にプログラムを上場(リスト)する」という。東京証券取引所など取 引所に株式等を上場する場合の上場と、債券やMTNプログラムのリスティングとは、その概念が異なる。

また、日本では、東京証券取引所等金融取引所に上場する場合には、金商法2条に定められる「有価証券」

であることが必要である。従って、MTNプログラムとMTNのリスティングについては、あえて上場とい う言葉を多用せず、「リスティング・リスト」及び「登録・ファイル」という言葉も併せて用いている。

(1)米国

MTN

Shelf

)プログラムの

SEC

登録の意義

MTN

Medium Term Note Program

の略称であり、その起源は米国内における中期債 発行プログラムである。本編の別のセクション「Ⅴ.

MTN

のリスティング(上場)とは何 か、リスティング先の選定とは何か」に示されるとおり、米国資本市場においては

SEC

ル ールに沿ってディスクロージャーが行われる。つまり、米国においては、公募をするため、

あるいは不測の事態などが生じて私募債が当初の想定外の一般投資者に流通するようなこ とがあっても対応できるように、当該証券はあらかじめ

SEC

に登録する必要があるが、そ の目的はディスクロージャーである。

いったん公募適格のディスクロージャーがなされれば、新規発行証券が当初に特定の投 資家に販売された後でも、当該投資家の転売により不特定多数の投資者に取得の勧誘・売 りつけ・販売・流通がなされても、証券法上の問題が生じることはない。

ただ、通常の米国内公募は、大きな起債単位で不特定多数の投資者を対象として運営さ れるため、例えば、特定の投資家のニーズにより

10

億円単位程度の比較的少額の起債を機 動的に取り行うような場合には、なじまない。

そこで、あらかじめプログラムの形にして、発行予定の証券形式、引受人を明確にして おきかつ公募要件を満たすディスクロージャーあるいは適格機関投資家などプロの投資家 対象のディスクロージャーを満たしておき、投資家の引き合いがある都度に小口の起債で も対応可能にしておくことで生まれたのが、米国

MTN

US Shelf Program

)である。

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(2)

EMTN

プログラムのリスティングの意義

EMTN

Euro Medium Term Note Programme

の略称である。

1980

年代中葉に米国

MTN

を参考にユーロ市場(ユーロ市場という場合は、汎欧州オフショア市場を指す。通貨 としてのユーロ建債券市場ではないことに注意)に導入されたものである。

当時のユーロ(債)市場は、英国のシティにおいて、内外市場一体型のオフショア市場

(汎欧州オフショア市場)として発展を続けており、特定の規制当局が存在するオンショ ア[ある国の国内]市場と異なって、取引や引受のルールはプロの国際証券業者が作る国 際資本市場協会(

ICMA

International Capital Market Association

)の自主規制ルール

ICMA

の前身の

IPMA

リコメンデーションが現在でも生きている)により統制されてい た。

(汎欧州オフショア市場の中心である連合王国ロンドン市シティ地区(カナリーウオー フ地区を含む)は、英米法に基づき、公法として定められていない自主ルールであっても、

一般公衆に対して自らの行為規制を宣誓している場合、それに違反した場合は、裁判所は 公的に賞罰を課すことができる制度であり、わが国のような大陸法(公法優先で、法律に 書いてないことは強行法規とならず、従ってルールにならない)との違いが、ユーロ市場 及びロンドン・シティをして世界から信頼される自由な市場・金融街としていたといえよ う)

だが、いわばプロ同士の取引や引受の自主ルール規制は、当局が存在しなくともクラブ 的なコミュニティの中で必要な統制ができるとしても、投資家保護に関するディスクロー ジャーに関しては、単純に自主規制のみで済ますことができるという訳にはいかない。

ディスクロージャーに関するルールは、第三者からみても妥当性が検証可能であって、

かつ発行者には強制されるべきものである。

そこでロンドン証券取引所やルクセンブルク証券取引所など取引所のもつディスクロー ジャー・ルールを適用することとしたのである。これら取引所の開示ルールの適用を受け ていることを証するために、ロンドン証取リスティングやルクセンブルク証取リスティン グの手続きがとられるようになったと考えれば、債券ないし

EMTN

プログラムのリスティ ング(上場・登録)の意味がわかりやすい。

なお、その後、英国では

2000

年金融サービス市場法上、取引所が規制され、

FSA

が取引 所のリスティング・オーソリティとなった。また

2005

年には、

EU

で目論見書指令が発出 されるなど、欧州の取引所は、事実上、公的な規制の下に置かれることとなった。

一般に、わが国投資者の見方としては、株式が中心となり勝ちであり、例えば、東証上 場銘柄の株は東証で売買されるので、ロンドン上場というと上場債券がロンドン証取で売 買されると思い勝ちである。だが、債券・

MTN

プログラムの場合には、実際には売買取引 はその本旨ではなく、あくまでもディスクロージャーが目的である。

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(3)

IPMA Recommendation

と呼ばれる自主規制ルール

ロ ン ド ン を 中 心 と す る 引 受 業 者 等 プ ロ の 市 場 参 加 者 の コ ミ ュ ニ テ ィ で あ る

ICMA

International Capital Market Association

)では、

Debt Instruments

の発行や

Medium Term Note Programme

に か か わ る ガ イ ド ラ イ ン や リ コ メ ン デ ー シ ョ ン (

IPMA Recommendation

と呼ばれ、

IPMA Handbook

が作成・更新されている)がユーロ債市場 の業界の自主規制ルールとして現在でも生きている。ロンドンをはじめ欧州の証券取引所 のディスクロージャー・ルールはその自主規制ルール及び

EU

指令との整合性を保つ形で 存在していることも、同時に理解しておきたいポイントである。

ロンドンのシティが、政府の規制に直接服することなく長年活動してこられたのは、上 記のような、実効性を伴う自主規制ルールと自主規制団体の存在があり、それらが実際に 有効に機能していたからに他ならないのである。(現在英国では、自主規制の伝統を残す

FSA

が、

2000

年金融サービス市場法上のリスティング・オーソリティとなっている)

(4)

IPMA Handbook

を基礎としたアジア版自主規制ルールの策定(参考)

20076月に設立された「アジア資本市場協議会(CMAA: Capital Markets Association for Asia, 出井伸之, 代表兼事務局長 犬飼重仁)」では、早稲田GCOE関係者と日本とアジアの資本市場実務家

20087月以降、早稲田GCOECMAAは相互協力し、日本とアジアに共通する資本市場の法規制 システム・自主ルール等各種市場インフラに関する研究を継続的に行ってきた。

現在、「アジア共通の資本市場」に関する議論のポイントは、市場関係者の間でさえまだ共有されては いない。アジア各国は通貨自体バラバラで為替管理も関連税制も各国国内の開示規制も共通の土俵は見つ けにくいといわれてきた。しかし、1997-98年のアジア金融危機以来、アジアの主要各国は各国政府や中 央銀行などの尽力で危機の再発を防ぐための協力関係を築いてきた。

10 年を経て今度は米国発の金融危機に世界が直面している現在、日本とアジアの研究者と市場実務家 等が、アジア共通の資本市場という視点を共有し、各国国内規制の枠組を超えて、アジア共通資本市場に 適用されるべき自主規制ルールのフレームワークなど市場インフラの議論と創造を行うことには大きな 意味があると考えられる。

早稲田GCOECMAAと共に、ユーロ債市場のプロの市場参加者のための自主規制のルールとリコメ ン デ ー シ ョ ン を 構 築 し て い る ICMAInternational Capital Market Association. IPMA International Primary Market Association)との交流をさらに深めてゆく。そして、ICMAの協力を得 つつ、今後、日本とアジアの関連団体等と相互に協力し、IPMA Handbook をベースに、アジア共通

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の資本市場に適用可能な、(早稲田版)CMAA ルールブック」の策定を中核とする市場インフラ構築に 向けた研究を行う予定である。

なお、早稲田大学GCOEでは、20093月、ロンドンのICMA本部より、(早稲田版)CMAAルー ルブック」策定の基礎となるべき、IPMA Handbookの入手に成功し、併せて、早稲田GCOECMAA の今後の研究についてICMAより協力を得られることとなった。これは、ICMAの厚意と、ICMAと早 稲田GCOECMAAとの相互信頼の賜であると考えられる。これにより、2009年度以降の早稲田GCOE CMAAとしての本格的な研究実施の基礎が固まった。

5.初期の

EMTN

プログラムの問題点

さて、

1980

年代中葉に

E(

ユーロ

)MTN

のモデルとなった米国

MTN

の商品性は、実は既 発の普通社債を追加発行するシリーズ発行(ファンジブル債ともいう。ユーロ式に言えば

Tap Issue

)を想定し、基本となる債券の追加発行を想定するもので、はじめから償還期日

(満期日)及び利払い日が特定されていた。

すなわち、その場合には、新たに

MTN

プログラムから発行する債券は、既発債の中から 投資家の希望する年限に近い所定の償還日を選び、かつ元利払い日も特定された月日に統 一しなければならなかった。

日系

EMTN

の第一号となった、

Panasonic Finance (Europe) plc UK

1985

年)までは、

この米国式の初期の

MTN

をモデルとした

EMTN

だった。

しかし、上記の方式のシリーズ発行は、特定銘柄の追加発行方式なので、償還までスト レートな年限を望む投資家や、

short-first coupon

short-end coupon

及び経過利子の調 整を好まない投資家には不評であり、かつ当時一般的となりつつあった仕組み債の取り込 みが不可能で、固定利付社債、変動金利社債(

FRN

)のみ発行可能という商品性の狭さが 支障となり、普及は進まなかった。

6.日系発行体が先導したユーロ

MTN

プログラムの革新

EMTN

プログラムの商品性のイノベーションの契機となったのは、三菱商事の在英金融 子会社である

Mitsubishi Corporation Finance PLC

MCFPLC

)が、

1988

6

月に、ユ ーロ全市場をカバーする ユーロ

CP

プログラム(

7

億ドル) を設定したこと、そして、そ れに続いて、1年弱の検討を経て、

1989

9

月には、世界初の

Multi Products / Multi Currency Products

の包括的ファンディング・プログラムとしての

EMTN

プログラム(

6

億ドル)を創設したことであった。その後、

MCFPLC

EMTN

プログラムの内容は絶え ず見直され、一つのプログラム上で普通社債から各種の仕組債まで、一つの企業集団グル ープ内の複数発行者(

Multi Corporate Issuers

)が、可能な限りの発行通貨建て(英国の 国内債であるポンド建ての債券まで含む)で、機動的な発行を可能としたのである。

MCF

3

つのマルチ(

Multi Products / Multi Currency Products / Multi Corporate

Issuers

)を可能とする、マルチ

EMTN

プログラムへの改編は、当時のシティにおいて、