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譜例皿・9類似した旋律の動きに対するピアノ伴奏の変化

勃Gてな  くこ の  あすはこ のこ の  一 生こ の,  の

【凡例】

一3:第3音欠、一5:第5音白

血)音色

 1番から3番まで、それぞれ別の発想記号が付けられている。1番ではmdt amabile、2番ではdelicaUssimo、3 番ではsognand un po◎o(sognand:夢みるように)の指示がある。このように、歌の進行に応じて表情や音色を 変化させることが求められている。それらがピアノ伴奏のリズム変化や音域の変化、和声付けの変化と相まって、

歌の表情に豊かな色彩を添えている。このような多彩な色彩は、元歌からは全く感じられない。旋律全体を通し て、ホ短調風の和声の中に4度の付加や5度進行がみられ、日本的な旋律に対応する和声付けが工夫されている。

 このように、山田のピアノ伴奏では、1曲の進行の中で、リズムや音域、和声、音色が様々に変化しており、

それが歌唱の推進力として大きな役割を担っていると考えられる。山田自身は、この伴奏について「伴奏は特に 些細ともことなった色彩が施されている」と述べている(注5)。山田は、ピアノ伴奏の変化による表現効果を ねらっているのである。山田の編作曲では、ピアノ伴奏が音楽表現上、大変に重要な役割をもっており、旋律と

ピアノ伴奏が一体化していることが大きな特徴である。

(3)音楽の目的、機能の視点からの考察

 元歌と山田の編作曲について、音楽の目的、機能の視点から検討したい。双方の曲について、歌唱者、聴取

者、歌唱の目的、歌唱の特徴、伝承形態、音楽の背景の各視点から検討し整理すると、表皿一7のようになる。

表皿一7 音楽の目的、機能からみた元歌と編作曲の相違点

相違点 元歌 山田耕葎による編作曲

歌唱者 養育者 声楽学習者、同習得者、歌手

聴取者   「 乳幼児 一般聴衆

歌唱の目的 子どもをあやす、寝かしつける。 歌唱による音楽表現 歌唱の特徴 ・子どもの様子に応じて歌われる。

E音楽表現を意図としていない。・曲全体を通して、強弱、テンポ等の顕著な変化は

ンられない。

・楽譜に基づく音楽表現が意図的に行われる。

E曲の随所で音色や強弱、テンポの操作が行われる。

伝承形態 口承による民間伝承 楽譜による学校や音楽教育機関における学習を通して

 表雅7のように、全ての視点において違いがみられる。その中でも注目したいは、歌唱の目的、機能の相違

である。歌唱の目的や機能は、音楽表現に直接的に関わる要素である。本来「こもりうた」は、子どもを寝かし つけたり、あやしたりする目的で歌われる歌である。一方、山田の編作曲は「子守歌」と題されてはいるものの、

「こもりうた」本来の機能はみられない。そこで求められているのは、芸術的な音楽表現である。歌唱にあたっ て子どもの存在は必要とされず、一般大衆が聴取の対象である。すなわち、元歌と山田の編作曲は本質的に異な るものである。

(4)編作曲によって生じた変化

 旋律に関していえば、元歌と山田の編作曲ではほとんど違いはない。しかし、音楽構造上の大きな相違点が、

歌に関する音楽表現の工夫(音域、音質、強弱法、リズム操作、音高操作、テンポ操作)とピアノ伴奏の付加の 2点で存在する。具体的には以下の4点である。

1)共通語に基づいた意図的な音響操作とリズム操作、強弱や音色の変化によって、 「こもりうた」が:本来もつ  素朴な味わいが失われたこと。

2)本来「こもりうた」は比較的一定のテンポで歌われる。音楽表現として頻繁なテンポ操作が行われ「こもり  うた」本来のテンポの安定感が失われたこと。

3)本来、有節形式であるものが、リズムや和声等の様々な変化を伴うピアノ伴奏が付加されたことによって、

 通作形式風になったこと。

4)本来、「こもりうた」の構成要素に無い和声がピアノ伴奏として付加された。西洋音楽的様式の中で4度の  付加や5度進行など、日本的な旋律に対応するような和声付の工夫がなされていること。

 山田耕搾は、伝統的な旋律を素材としながら西洋の音楽技法を用いて新しい音楽作品を作り出したものの、

その代償として、元歌が本来もっていた機能や音楽的特徴を消失したのである。

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皿一2−2生活文化を視点とした「こもりうた」の学習プランの提案

  これまでの考察から「こもりうた」は、音楽的、文化的に教材としての価値を十分にもっといえよう。そこ

で、従来の「こもりうた」を題材とした学習、すなわちrrこもりうた』であるから優しい気持ちで歌う」「曲

の気分を味わう」等の歌唱表現を中心とした学習とは別の視点からの学習のアプローチを提案したい。それは、

文化的視点からの「こもりうた」の学習である。学習では歌詞や旋律の背景にあるものを捉え、生活文化の中の 音楽的存在として「こもりうた」を捉えていくことを視点とする。ここでは学齢に応じた学習例を提案する。な お、例示以外の「こもりうた」についても、系統的・発展的に学習していくことが可能であると考える。

1小学校低学年を対象とした学習

(1)指導目標

 ・自分たちの身の回りでも様々な「こもりうた」が歌われていることに気付くようにする。

 ・「こもりうた」が生活に密着した身近な音楽であることを感じ取り「こもりうた」に親しむようにする。

(2)学習活動

 i 赤ちゃん人形に話しかけたり、歌いかけたりして、養育者と子どもの関係を疑似体験する。

 ii子もりの場面の養育者の言葉かけや歌いかけの様子とそれに対する子どもの反応等について、見たことや   経験したこと等を話し合う。

血子もりの場面で歌われていたにもりうた」を歌ったり、子もりの動作をしながら歌う。

血子もりをする人や子もりをされる子どもの役割を演じて「こもりうた」を歌う。

(3)期待される効果

 ・自分たちの身の回りで歌われている「こもりうた」の存在に気づくことができる。

 ・「こもりうた」が生活の中で果たす機能を体験的に感じ取ることができる。

(4)評価の観点

 ・自分たちの身の回りでも様々な「こもりうた」が歌われていることを気づくことができたか。

 ・「こもりうた」の機能について進んで考えようとしたか。

2 小学校中学年を対象とした学習

(1)指導目標

 自分たちの住む地域の「こもりうた」をきっかけとし、自分たち自身で調べる活動を通して、「こもりうた」

が生活の申でどのように歌われてきたのかを知る。

(2)学習活動

 i rこもりうた」について、歌う人の気持ちや歌唱に伴う動作について考えてみる。

 ii身の回りにある「こもりうた」を見つける。

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  ・実際に歌っている人の様子を見たり、歌われている内容について調べたりする。

  ・自分たちの住む地域に古くからどのような「こもりうた」があるか、家族や周りの人々に聞いて調べる。

血 調べた内容を発表し合ったり、見つけた歌を歌ったりする。

iv歌の背景にある生活文化を感じながら、自分たちの地域のにもりうた」を歌う。

(3)期待される効果

・「こもりうた」を自文化として感じ取ることができる。

・「こもりうた」が生活文化と深く関わっている音楽であることを感じ取ることができる。

(4)評価の観点

・言葉と「こもりうた」のもつ雰囲気との関係を感じ取ることができたか。

・「こもりうた」と生活との関わりを感じ取ることができたか。

3 小学校高学年を対象とした学習

(1)指導目標

 自分たちの地方の「こもりうた」を取り上げ、歌詞の内容や生活文化について自分たちで調べる活動を通して、

「こもりうた」の性格や特徴を感じ取るようにする。

(2)学習活動

 i 歌の背景にある生活文化を想像しながら「こもりうた」を歌う。

 ii歌詞の意味を調べたり、昔の生活の様子や育児に関する習慣について調べたりする。

 iii調べた内容を発表し合い、それをもとに「こもりうた」の性格や特徴について考える。

 v 「こもりうた」の性格や特徴に相応しい歌い方を工夫し、 「こもりうた」を歌う。

(3)期待される効果

 ・自分たちの地方の「こもりうた」の性格や特徴を感じ取ることができる。

 ・背景にある生活文化を踏まえて「こもりうた」を歌うことができる。

(4)評価の観点

 ・歌詞の内容や生活文化に興味をもち、にもりうた」と生活文化との関係について感じ取ることができたか。

 ・「こもりうた」の性格や特徴に相応しい歌い方を工夫することができたか。

4 中学生を対象とした学習

(1)指導目標

 世界の諸民族の「こもりうた」の中から原語で歌えるもの2〜3曲を取り上げ、それらの「こもりうた」も日

本の「こもりうた」と同じように生活の中から生まれた音楽であることを理解する。

(2) 学習活動

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