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ヴ♪♪

@一  生

iDテンポ操作

  「こもりうた」は本来、子どもを精神的に安定させ、寝かしつけたり、あやしたりする歌である。そのため、

終始、安定したテンポで語りかけるように歌いかけられることが多い。その際に生じるテンポの変化や音色の変 化は、ごく自然な範囲のものであり、音楽的表現を意図するような操作とは異なる。岡田さんの歌唱においても、

例えば、歌詞の「かわいさ」の部分に多少のテンポの揺れが感じられるものの、全体を通して淡々と歌いかけら れており、強弱やテンポについての顕著な変化はみられない。

 一方、山田の編作曲では、テンポの意図的な操作が頻繁に指示されており、テンポ操作が一つの音楽表現手段 となっている。その結果として、例えば、「おきてなくこの〜」のフレーズにみられるような音楽的な高揚感が 喚起される。また、歌の最後の部分に現れる「ねんころうん」では、本来のテンポ感が取り戻されているものの、

頻繁なテンポの丁丁は、山田耕搾の歌曲の様式の一つの特徴といえる。こρようなテンポ操作は、「からたちの 花」 「この道」等の他の歌曲にもしばしばみられるものである。

世)言葉と音高の関係

 山田耕搾の歌曲の作曲技法に共通する特徴の一つとして、日本語の高さアクセント(以下、アクセント)の

重視がある。それは、旋律の高低の動きを共通語のアクセントに一致させるという手法であり、「中国地方の子 守歌」においても同様の傾向がみられる。例えば、「あすは」にそのような音高操作がみられる(譜例皿・6⑥ 参照)。元歌の「あすは」は、旋律の高低が共通語のアクセントに一致していないごとから、それを避けるため

に、その部分の頭高を同音にとどめたのではないかと考えられる(譜例皿一8参煎)。

 また、「この子の」でも同様の音高操作がみられる(譜山鴬一6⑥参照)。共通語の場合、「この子の」を、そ の後に続く語との関係を無視して単独に発語するならば、最初の「の」が高くなる。それに対し、共通語の場合

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一般に、「この子の」に「ねんころう」が続く時には、「この子の」は「ねんごろう」に対して形容詞的修飾語 となる。文節の終わりにある助詞「の」が高くなり、このことによって2つの句が結びつく。山田編作曲でも、

文節の終わりの助詞「の」で音高が上げられている。そのため「この子のねんころう」という一つのまとまり感

が強まると共に、「この子の」が強調される形となっている。ここにも日本語の抑揚を生かした山田耕搾の作曲 技法がみられる(表皿一5参照)。

譜例話一8比高操作

元歌

    あすはこ のこ の

山田

    あすはこ  の こ  の

  」餐適曙の簿さアク・セント

    あすはこのこの

表11−5「この子の」の高さアクセントの違い(共通語)

前後の関係 高低アクセント 単独の場合

∫しこのこの

後に「ねんごろろ」が

アく場合

∬このこの

iv)旋律の単純化

 元歌では、譜例皿一6の②の「かわいさ」の部分や、同⑤の「つら」にみられるように、産み字やポルタメン

ト風の音があり、それらによって独特な味わいが醸し出されている。それらは音の長短の組み合わせと音高の変

化によって生じる音楽的効果であって、山田のような強弱の変化を用いた意識的な音楽表現が行われているわけ

ではない。

 一方、山田は元歌にみられる産み字やポルタメント風の音を削除している。それに代わるものとして多彩な

音色や音量の変化、ピアノ伴奏の変化等が用いられている。それらは、元歌から芸術歌曲に昇華させるために、

山田がとった手法といえるだろう。   

4)強弱法

 元歌の歌唱では意図的な強弱の変化はみられず、全体を通して淡々と歌われている。それに対して、山田は楽

譜にこと細かく強弱記号を記している。強弱の変化が、音楽表現の必須の要素として求められている(譜例皿一6

参照)。

5)ピアノ伴奏の付加

 ピアノ伴奏の付加は、元歌と山田の編作曲にみられる音楽構造上の最も大きな相違点である。山田は、歌の1 番、2番、3番に対して、それぞれ異なったピアノ伴奏を付けている。それによって、旋律自体は有節形式風に

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歌われるものの、曲全体に通作形式風な効果をもたらしている。変化は、1)リズムの変化2)類似した旋律に

おける音高(音域を含む)や和声付けの違い3)音色、等によって具現化されている。それらについてみていこ

う。

i)リズムの変化

 ピアノ伴奏のリズムの基本的進行をみると、全体を通して1小節に4分音符2つによる2拍子のリズムが、

曲の進行の基盤になっている。しかし、1番2番3番と進んでいくにしたがって、リズムは徐々に動きのあ るものとなっている。例えば2番では右手パートが分散和音になる、左手パートのリズムが変化する、左手の

リズムに動きが生じる等の動きがある。さらに3番になると両手パートの呼応する動きや、短前打音の出現等が

あり、第3〜第4小節目の両手によるアルペジオに向かって、次第に高揚していくような伴奏の構造になってい

る。

表十一6 ピアノ伴奏のリズムの基本的進行

小節 厩1

2 3

4

5 6

7

8 9 10 11

舗 鶴σませ寸寸かわいさ

おきてなく 子のねんごろうつら にくさ ねんごろうんねんごろうん 1 右手

JJ JJ JJ JJ 塗酊月 JJ

♪7」 ♪7」 ♪γ」 ♪γ」

静 JJ JJ JJ JJ JJ JJ JJ

♪γ」 ♪ア」

」〜 Jく

關 齢訪、ませき・う断五・さ

あ訓まこの予のねんごろ う 宮  まいり ねんごろうんねんごろうん

2

静 姻湖朔堀湖棚朔棚朋樗綱調珈羽

♪ブ」

JJ

引月ヌ∫コ

ヲ月痂

拝 JJ JJ JJ JJ

」〜」 ξ」ξ」 lJ 」 ♪ア」

JJ 月」

月」

宮へまいったとき  なんとゆうておがむ さ   一生この 子のねんごろうまめ な よにねんごろうんねんごろラ

3

艀 デ占ダ齢・ヴ・卿騨♪γ4

湖疵 湖湖

♪プ」

JJ ヴ月竹

調ダ♪層

朋切1♪γ」

JJ JJ

♪7」

JJ 川 刀↓

*前奏を除き、歌いだしを厩.1とした。

ii)類似した旋律における斜高(音域を含む)や和声付けの違い

 1番から3番までの旋律にみられる類似した旋律に対して、リズムだけでなく、音高(音域を含む)や異なる

和音のピアノ伴奏が付けられている箇所がある。そのようなピアノ伴奏の違いによって、類似した旋律でありな

がら、異なった雰囲気が醸し出されている。それは例えば、1番の〈起きて泣く子の〉、2番のく明日はこの子

の〉、3番の〈一生この子の〉にみられる。

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譜例皿・9類似した旋律の動きに対するピアノ伴奏の変化

勃Gてな  くこ の  あすはこ のこ の  一 生こ の,  の

【凡例】

一3:第3音欠、一5:第5音白

血)音色

 1番から3番まで、それぞれ別の発想記号が付けられている。1番ではmdt amabile、2番ではdelicaUssimo、3 番ではsognand un po◎o(sognand:夢みるように)の指示がある。このように、歌の進行に応じて表情や音色を 変化させることが求められている。それらがピアノ伴奏のリズム変化や音域の変化、和声付けの変化と相まって、

歌の表情に豊かな色彩を添えている。このような多彩な色彩は、元歌からは全く感じられない。旋律全体を通し て、ホ短調風の和声の中に4度の付加や5度進行がみられ、日本的な旋律に対応する和声付けが工夫されている。

 このように、山田のピアノ伴奏では、1曲の進行の中で、リズムや音域、和声、音色が様々に変化しており、

それが歌唱の推進力として大きな役割を担っていると考えられる。山田自身は、この伴奏について「伴奏は特に 些細ともことなった色彩が施されている」と述べている(注5)。山田は、ピアノ伴奏の変化による表現効果を ねらっているのである。山田の編作曲では、ピアノ伴奏が音楽表現上、大変に重要な役割をもっており、旋律と

ピアノ伴奏が一体化していることが大きな特徴である。

(3)音楽の目的、機能の視点からの考察

 元歌と山田の編作曲について、音楽の目的、機能の視点から検討したい。双方の曲について、歌唱者、聴取

者、歌唱の目的、歌唱の特徴、伝承形態、音楽の背景の各視点から検討し整理すると、表皿一7のようになる。

表皿一7 音楽の目的、機能からみた元歌と編作曲の相違点

相違点 元歌 山田耕葎による編作曲

歌唱者 養育者 声楽学習者、同習得者、歌手

聴取者   「 乳幼児 一般聴衆

歌唱の目的 子どもをあやす、寝かしつける。 歌唱による音楽表現 歌唱の特徴 ・子どもの様子に応じて歌われる。

E音楽表現を意図としていない。・曲全体を通して、強弱、テンポ等の顕著な変化は

ンられない。

・楽譜に基づく音楽表現が意図的に行われる。

E曲の随所で音色や強弱、テンポの操作が行われる。

伝承形態 口承による民間伝承 楽譜による学校や音楽教育機関における学習を通して

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