第 3 章 J-REIT
第 7 節 J-REIT 市場の変遷概観
J-REITは2001年9月10日、オフィスビルへ特化して投資をする日本ビルファンド投資
法人とジャパンリアルエステート投資法人の2銘柄が上場し、当初時価総額2,600億円でス タートした。スタート直後は、首都圏で大規模なオフィスビルの竣工が相次ぎ、大量供給
21 Probable Maximum Lossの略で、予想最大損失率のこと。将来地震が発生した場合の建物に与え得る被害 規模に関し、投資判断の指標として用いられる。一般的には以下の式で表すことができる。
PML=想定地震発生時の建物被害復旧費用÷建物の再建築費用(単位:%)
による不動産市況の悪化が2003年問題として懸念されていた時期でもあり、価格面で低迷 が続いた。またJ-REIT自体が新しい金融商品であったため、リスクが過大に評価されてい た。特に上場し、最初の決算期を迎えるまでの間は分配金や運用実績が全くの未知数であ ったため、それが価格のディスカウントという形で表れていた。
また、当初は新規公開(IPO:Initial Public Offering)も低迷した。6番目の銘柄であるプ レミア投資法人が2002年9月10日に上場して以降は1年間新規上場がなく、6銘柄の状態 が続くこととなった。
しかし、この低迷期の間には後のJ-REIT市場拡大の要因となる施策が実施されている。
まず、2002年12月の全国銀行協会の通達により、不動産投資信託から生じる損益を会計上 本業の儲けを示す業務純益に参入できることが明示され、主に地方銀行によるJ-REITへの 投資が拡大した。
2003年度の税制改正では、1月から譲渡税が、4月からは配当課税が5年間10%(基本
税率20%)に引き下げられ、投資家の課税負担軽減が図られた。
2003年4月からは、東京証券取引所が株式とは異なる指標として、東証REIT指数を作成 し、公表している(図表15)。東証REIT指数は、東京証券取引所に上場しているJ-REIT全 銘柄を対象とした時価総額加重平均の指数である。
また、2003年4月末には日本ビルファンド投資法人とジャパンリアルエステート投資法
人の2銘柄がMSCIJAPANインデックス22に組み入れられたことにより、外国人投資家の資
金がJ-REITへ流入することとなった。
2003年7月には、ファンド・オブ・ファンズによる不動産投資信託への投資ルールが緩 和された。投資信託協会は「不動産投資信託及び不動産投資法人に関する規則」において、
ファンド・オブ・ファンズによる不動産投資信託の組入れを純資産総額の5%以内とする制 限を設けていたが、この制限を撤廃した。これを受けて、1銘柄当たりの組入れが純資産総
額の 30%以内であれば全額を不動産投資信託で運用するファンド・オブ・ファンズの組成
が可能となった。この結果、J-REIT を含む国内外の不動産投資信託を主な投資先とする投 資信託が多数登場し、投資単位の少額化によって個人投資家の裾野が広がった。
このようにJ-REITへの投資を促す市場環境整備が進む中、2003年9月10日に7番目の 銘柄である東急リアル・エステート投資法人が上場し、その後、市場は拡大期に入り新規 銘柄の上場が順調に行われるようになった。2003年にはその後3銘柄が上場し、翌2004年 中には6銘柄が新規上場している。
この時期には、企業のリストラや減損会計対応も一巡し、不良債権問題もほぼ終了した ことにより企業業績は回復軌道に乗っていた。2003 年問題として懸念されたほどオフィス ビルの空室率は増加せず、むしろ大規模オフィスなどに対する需要は拡大することとなり、
J-REITの価格も上昇傾向に入っていった。
22 モルガン・スタンレー・キャピタル・インターナショナル社が算出する先進国指数の中の日本を対象に した株価指数で、これをベンチマークにしている日本向けの投資マネーは、総額で30兆円から40兆円と 推定されている。
2004年3月には初の住宅特化型J-REITの日本レジデンシャル投資法人が上場し、この時
期からJ-REITは多様化していく。また、2003年12月には大阪証券取引所に、2004年8月
には福岡証券取引所に不動産投資信託市場が創設され、J-REIT市場自体も多様化を始めた。
2004年5月には13番目の銘柄である東京グロースリート投資法人が、大阪証券取引所にお
けるJ-REITとしては最初の銘柄として上場している。
2005年からは上場ペースが加速し、2005年中の 1年間では13銘柄が上場した。その中 には、物流施設に特化して投資を行う日本ロジスティックスファンド投資法人(2005 年 5 月上場)、九州経済圏に特化して投資を行い福岡証券取引所に上場するJ-REIT第1号銘柄と なった福岡リート投資法人23(2005年6月上場)、関西圏で50%以上(取得価格ベース)の 投資を行う阪急リート投資法人(2005年10月上場)、JASDAQ証券取引所のJ-REIT第1号 銘柄となったスターツプロシード投資法人(2005年11月)といった個性的な銘柄がある。
2005 年は 6 月まではどの銘柄も順調に価格を伸ばし、市場の過熱感が懸念されたが、7 月半ばには大きく反落し、公募価格割れする新規上場銘柄も出始めた。2005年11月には耐 震強度偽装問題が発覚し、一時的に上場を中止・延期せざるを得ない銘柄24があったが、2006 年に入ると再び上場ペースは回復した。
2006年も個性的な銘柄が上場し、J-REITの多様化が進んだ。まず2006年2月にはJ-REIT 初のホテル特化型、ジャパン・ホテル・アンド・リゾート投資法人が上場し、6月にはホテ ル特化型としては 2銘柄目の日本ホテルファンド投資法人が上場した。同年 8 月には賃貸 住宅、学生寮、サービスアパートメント25、シニア住宅、社宅などの居住用不動産に特化し て投資を行う日本アコモデーションファンド投資法人が上場した。
2006年は年間で12銘柄が上場し、J-REITは計40銘柄に達し、市場規模も1年間で急拡 大した(図表7)。一方、2006年には投資法人や資産運用会社の法令違反に対する行政処分 が相次ぎ、J-REITに対する信頼基盤を揺るがしている。2006年から行われた行政処分は以 下のとおりである。
・2006年4月、日本リテールファンド投資法人が関東財務局から業務改善命令を受ける。
・2006年7月、日本レジデンシャル投資法人が関東財務局から業務改善命令を受ける。
・2006年7月、オリックス不動産投資法人が関東財務局から業務改善命令を受ける。
・2006年7月、オリックス不動産投資法人の資産運用会社であるオリックス・アセットマ ネジメントが、金融庁より新たな資産運用委託契約の締結について 3 ヶ月間の業務停止 命令を受ける。
・2006年8月、オリックス不動産投資法人の資産運用会社であるオリックス・アセットマ ネジメントが、国土交通省から「宅地建物取引業法」に基づく監督処分を受ける。
23 福岡リート投資法人は東京証券取引所にも重複上場している。
24 2005年12月に上場を予定していたエルシーピー投資法人は、運用資産の建物状況調査報告書を耐震強 度偽装問題で偽装を見逃していた民間確認検査機関の日本ERIが作成していたため、2006年5月に上場を 延期した。
25 家具・家電付き高級賃貸マンション。
・2006年10月、グローバル・ワン不動産投資法人、エルシーピー投資法人、ジャパン・ホ テル・アンド・リゾート投資法人、トップリート投資法人が金融庁から業務改善命令を 受ける。
・2007年3月、DAオフィス投資法人の資産運用会社であるダヴィンチ・セレクトが、金融 庁より新たな資産運用委託契約の締結について 3 ヶ月間の業務停止命令と、業務改善命 令を受ける。
これらの処分の対象となった法令違反は、役員会の虚偽開催などの役員会開催形式での 違反と不適切な物件審査とに分けられる。こうした事態を受けて、東京証券取引所はJ-REIT の上場審査基準を改正し、2006年10月に施行した。改正内容の大きなポイントは適時開示 の規定を厳格化したことである。改正規定では投資法人だけではなく、資産運用会社にも 適時開示が義務付けられた。
耐震強度偽装問題やこのような法令違反が表面化した際には、J-REIT の価格は一時的に 下落するものの、図表15をみるとほぼ一貫して価格水準は上昇していることがわかる。特 に2006年11月下旬からは、好調な不動産市況を受けて急激に上昇している。2006年は順 調な景気回復を背景に、公示地価や基準地価において、バブル崩壊以降、大都市圏の地価 が初めて上昇している。この地価上昇を受けて、J-REIT の保有する不動産の資産価値も上 昇している。多くのJ-REITにおいて多額の含み益が生ずることとなり、J-REITの価格が上 昇しているのである。
図表 15 東証REIT指数の推移
1000 1200 1400 1600 1800 2000 2200 2400 2600 2800 3000
2003 年3月
31日
2003 年7
月3 1日
2003 年1
1月3 0日
2004 年3月
31日
2004 年7
月3 1日
2004 年11月3
0日
2005 年3
月3 1日
2005 年7
月3 1日
2005 年11月3
0日
2006 年3
月3 1日
200 6年7
月3 1日
2006 年1
1月3 0日 東証REIT指数 東証REIT指数(配当込み指数)
※ 基準時は2003年3月31日。
(出所) 東京証券取引所公表データより筆者作成