第 3 章 側面衝突事故シミュレーションによる自動車乗員傷害予測手法の構築
3.2 側面衝突事故シミュレーションモデル
3.2.4 JNCAP 側面衝突試験の再現による妥当性検証
入力した加速度波形をFig. 3.20に示す.衝突試験において車両重心で計測された3軸加速度 の符号を反転したものであるが,Y軸加速度については衝突後でも加速度が発生し続けるとい う現象が起こっており,他の車種における衝突試験の結果と比較しても明らかに異常な結果で あったため,ピークが終了したところで加速度を0とした.これは衝突により加速度計が破損 してしまったためと考えられる.X 軸およびZ軸加速度についても同様の現象が見られるが,
Y軸方向に比べ影響が小さいことからそのままの波形を用いることとした.
Fig. 3.20 Input acceleration 0
-100 -200 -300 100 300 200
100 200
Time [ms]
Acceleration [m/s2 ]
(a) X - axis
0 -100 -200 -300 100 300 200
100 200
Time [ms]
Acceleration [m/s2 ]
(b) Y- axis
0 -100 -200 -300 100 300 200
100 200
Time [ms]
Acceleration [m/s2 ]
(c) Z - axis
0 200 400 600
0 60 120 180
De fo rm at io n [m m ]
Time [ms]
H-Point Belt Line
Fig. 3.21 Door panel displacements
Fig. 3.21にシミュレーションにおけるドアパネルの変位の時刻歴を示す.
シミュレーションの結果,乗員モデルの体全体がドア側へ変位し,頭部がドアウィンドウに 衝突するという挙動はダミーの挙動と一致した.また,頭部,胸部加速度履歴の定性的な特徴 がよく一致し,定量的にも大きな差があまりないことがわかった.簡便な側面衝突シミュレー ションモデルにもかかわらず側面衝突試験におけるダミー応答を十分再現しており,側面衝突 事故の再現シミュレーションに利用可能であると考えられる.
Fig. 3.22に,衝突試験における高速度映像とシミュレーションとの比較を示す.衝突試験に おけるダミーの挙動は車両に隠れてしまっていて全てを見ることはできないが,ここでは見え る範囲でのおおまかな挙動の特徴を比較する.
まず,体全体の挙動は概ね一致していると言える.衝突開始から体全体がドア側にスライド し始め,ドアと接触し始めると同時に体が傾き,頭部がドアウィンドウに衝突するという特徴 が衝突試験とシミュレーション両方に見られる.乗員モデルの腕部の挙動が目立っているが,
腕については初期姿勢が異なっている上に,そもそも衝突試験に用いられているダミーには肘 から先が存在せず,側面衝突において重症死亡を取り上げる際に腕部の重要性が低いため深く 考察はしない.しかし,肘より上の部分の挙動のみに注目すると,時間が進むにつれて上方に 舞い上がるという特徴が一致している.
頭部に注目すると,100msでドアウィンドウに衝突するまでの挙動は試験映像と良く一致し ているが,衝突後ドアウィンドウとの相対距離が離れていくのが若干早くなっている.これは 車室のドアウィンドウのモデル化に問題があると考えられる.試験映像を見ると,衝突によっ てドアは車室内に貫入してくる.そのとき,ドアウィンドウは逆に車室の外へわずかに逃げて いくような挙動を示している.また,ダミーの頭部がドアウィンドウに接触したときは頭部の 跳ね返りが少なく,ドアウィンドウのたわみが見られた.シミュレーションの車室モデルでは,
ドアウィンドウは空間内に固定されており,運動をしないようになっている.それによって乗 員頭部との衝突による衝撃が吸収されず,反発が大きくなってしまったと考えられる.しかし,
試験映像においてドアは常に変形,振動をしているため,乗員頭部とドアウィンドウとの相対 距離に着目することが乗員頭部の挙動を正確に表しているとはいえず,上に論じてきた差異は 誤差の範囲であると考えることもできる.
下肢の挙動を試験結果と比較することはできないが,これについても特に不自然と思われる ような挙動は示していないため,妥当な結果と考える.その他に目立って不自然な挙動は無く,
側面衝突における乗員の挙動を十分良く再現できていると言える.
0 ms 25 ms 50 ms 75 ms
100 ms 125 ms 150 ms 200 ms
Fig. 3.22 Comparison of visual motion between dummy and occupant multi-body model
頭部および胸部の合成加速度応答の比較をFig. 3.23に示す.
まず,頭部加速度について考察する.定量的な誤差はあるものの,ピークのタイミングなど の定性的な特徴は良く一致している.90ms 付近の急峻なピークはドアウィンドウとの衝突に よるものである.衝突試験に比べてシミュレーションのピークの持続時間が若干長くなってい る.これは,衝突試験ではドアウィンドウに対して頭部がかするようにして衝突していたのに 対し,シミュレーションでは剛体壁に衝突するような挙動となっていたことが原因と考えられ る.また,ドアウィンドウとの衝突によるピークの直前の75msから90msの領域でシミュレー ションの応答が小さくなっている.挙動を見る限りでは相違の生まれる原因となるような不自 然な点は観察されなかった.考えられる要因として以下のようなことが挙げられる.頭部は首 および体幹部を中心とした回転運動を含んだ挙動をしている.したがって,この回転半径が異 なれば,加速度も異なると考えられる.シミュレーションの車室モデルは矩形板で表現されて おり,乗員との接触は実際の事象と比べて異なる.また,最も大きな原因と考えられるのが乗 員モデルの体節分割数である.乗員モデルの詳細については付録で述べるが,乗員モデルの体 幹部には,胸部および腹部に1つずつと計2箇所の関節しか存在しない.したがって,多数の 関節で連結されたダミーに比べて回転半径が大きくなり,加速度応答が小さくなったと考えら れる.さらには,ダミーは欧米人標準の体型を模擬されており,日本人標準体型を有する人体 モデルとは体型が異なる.具体的には,ダミーは 172cm78kg であるのに対し,人体モデルは 171.4cm63kgであり,体重が15kgも異なっている.
次に,胸部加速度について述べる.こちらも全体的な波形の特徴は一致しており,最大化速 度の値もほぼ同じである.ピークの立ち上がるタイミングがシミュレーションでは20msほど 早くなっているが,これは車室モデルの構造および入力した変形の時刻歴に原因があると考え られる.実際の車室変形は室内が弧を描くように連続的であるのに対し,シミュレーションモ デルは2つの車室内構造物が並進移動するというものである.これによってシミュレーション では腰部や腹部と同時に胸部にも衝突が発生し,結果として加速度が発生してしまったと考え られる.これを解決するためにはドアモデルの分割数を増やし,変形が最大となる部分から順 次衝突するようなモデルとするか,有限要素モデルを使用する必要がある.しかし,傷害予測 に用いる最大化速度はよく一致しているため,衝突試験を十分再現できた結果であると言える.
0 400 800
0 100 200
Li n e ar A c c .[ m / s
2]
Time [ms]
test
simulation
(a) head
0 400 800
0 100 200
Li n e ar A c c .[ m / s
2]
Time [ms]
test
simulation
(b) thorax
Fig. 3.23 Comparison of acceleration responses between dummy and occupant multi-body model