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第 4 章 実事故データ分析に基づく自動車乗員傷害予測手法への年齢と性別の考慮

4.3 前面衝突実事故データベースの統計分析

本 研 究 で は , 米 国 運 輸 省 道 路 交 通 安 全 局 (NHTSA: National Highway Traffic Safety Administration)のCIREN(Crash Injury Research & Engineering Network)における前面衝突実事故 データを統計分析し,体節別傷害発生の予測に有意な因子を明らかにするとともに,胸部傷害 予測式に重みとして付加する年齢および性別のオッズ比を算出した.なお,欧米人と日本人の 予測生存率はほぼ同じであること[32]から,質・量ともに十分な CIREN のデータは日本におけ る事故状況を代表することができると考えられる.

4.3.1 実事故データベースの概要

CIREN は,1996 年に設立された医療・工学調査プログラムであり,衝突状況,乗員特性,

傷害程度など詳細な情報を含む 1000 件以上の事故データが一般に公開されている.本研究で は,前面衝突事故,日本メーカ製車両を条件に,112例を抽出した.衝突状況はCDCコードで 記述されており,3桁目がFのものを前面衝突とした.事故発生年は1996年~2007年である.

Table 4.1に上記実事故データベースの事故条件項目および内訳を示す.衝突部位はCDCコー

ドの4桁目から,車両破損程度は7桁目から判断した.運転乗員は,男性54名,女性58名,

また若年者(55歳以下)91名,高齢者(56歳以上)21名であった.乗員傷害は体節別に記録 されており,Table 4.2に示すように頭部および胸部は軽症が多く,下肢は重症が多い.Fig. 4.2 に年齢および性別毎の傷害事例数の分布を示す.若年齢層および中年齢層の事例が多く,高年 齢層は少ない.

Table 4.1 Predictors and numbers in the CIREN data

Predictor Number or variation

1 Airbag on:104; off: 8

2 Seat belt on: 81; off: 31

3 Car type Large(SUV, pickup & wagon): 24;

normal (sedan, hatchback): 88 4 Impact part left: 57; centre: 35; right: 20

5 Driver’s gender male: 54; female: 58

6 Driver’s age young (≦55-year): 91;

old (>55-year): 21

7 Collision angle -50~+30 [degree]

8 Delta V 15 ~ 115 [km/h]

9 Extent of Damage 1~6 [degree in CDC coding]

10 Driver’s hight 1.42 ~ 1.96 [m]

Table 4.2 Numbers of injuries in the CIREN data

Injured part

AIS head thorax lower extremity

0 72 46 11

1+ 13 19 10

2+ 17 12 27

3+ 6 18 64

4+ 3 13 0

5+ 1 2 0

6+ 0 2 0

0 2 4 6 8 10 12 14 16 18

20 25 30 35 40 45 50 55 60 65 70 75 80 85 90 95 Age [year]

N

AIS=<2 AIS=>3

(a) head

0 2 4 6 8 10 12 14

20 25 30 35 40 45 50 55 60 65 70 75 80 85 90 95 Age [year]

N

AIS=<2 AIS=>3

(b) thorax

0 2 4 6 8 10 12

20 25 30 35 40 45 50 55 60 65 70 75 80 85 90 95 Age [year]

N

AIS=<2 AIS=>3

(c) femur

Fig. 4.2 Distribution of injuries in CIREN data

4.3.2 体節別傷害の発生に有意な因子

上記の前面衝突実事故データベースに対して,順序ロジスティック回帰分析を行うことによ り,前面衝突における体節別AISの発生確率の予測式を算出し,傷害発生に有意な因子を明ら かにした.式(4.1)に,あるレベル以上のAIS発生確率P を事故条件である独立変数x1~x10で 表したロジスティック回帰モデルを示す.ここで,エアバッグ,シートベルト,車種,衝突部 位,年齢および性別をカテゴリー変数,乗員身長,衝突速度,衝突方向および車両損傷程度を 連続変数として分析した.なお,この統計分析ではPASW Statistics ver. 17 (SPSS社)を用いた.

) exp(

1 1 P Z

 

10 10 7

7 6 1

0

x x

Z                

height) 10(driver

damage), of

9(extent V),

8(delta angle),

n 7(collisio

gender), 6(driver

age), 5(driver part),

4(impact

), 3(car type belt),

2(seat ),

airbag ( 1 , intercept) (

0

values parameter

ts, coefficien regression

 

 

j

x

j

j

(4.1)

正面衝突に対する自動車アセスメントでは,頭部と胸部の傷害発生予測にはAIS 3+の傷害閾 値が用いられ,下肢の傷害発生予測にはAIS 2+の傷害閾値がよく用いられている[19].したがっ て,本論文でも頭部と胸部のAIS 3+および下肢のAIS 2+の傷害予測式に着目することにした.

Table 4.3に頭部と胸部のAIS 3+および下肢のAIS 2+の傷害予測式の回帰係数β,χ2,有意確

pおよび疑似 R2を示す.各予測式の適合度は,頭部が高く,胸部,下肢の順に低くなるこ とがわかった.各回帰係数の有意確率より,各予測式において有意な変数は,頭部がシートベ ルト着用有無(p<0.002),胸部が年齢(p<0.002),下肢が車両損傷程度(p<0.01)であることがわか った.また,胸部傷害において年齢変数は衝突部位変数と相関があった(|p|<0.02).

シートベルト着用条件以外がほぼ同じである二つの事例における頭部傷害発生状況を比べ ると,シートベルトを着用していた場合はAIS2+,非着用はAIS3+であった.また,同様にし て,19歳女性と78歳女性を比較すると,胸部傷害は加齢に伴いAIS1+からAIS3+へ重症化し た.さらに,車両損傷程度が1から6に増大すると,下肢傷害は無傷からAIS3+へ重症化した.

頭部傷害の発生に対してシートベルト着用の有無は非常に強い有意性を示したために,他の 変数の有意性が現れなかったと考えられる.そこで,シートベルト着用の 81 例に対して統計 分析を行い,他の変数の有意性を調べた.その結果,頭部傷害予測式の適合度は低下し(p<0.5),

乗員年齢および体重が頭部傷害へ影響することがわかった(p<0.2).一方,頭部加速度に影響 すると考えられるデルタV の影響は小さかった(p<0.95).また,シートベルト着用有無を変数 から除いた全112例を対象とした統計分析においても(適合度p<0.3),同様の傾向が見られた.

胸部傷害の発生に対して年齢は非常に強い有意性を示したために,他の変数の有意性が現れ なかったと考えられる.そこで,年齢を変数から除外した統計分析を行い他の変数の有意性を

調べた.その結果,適合度は低下し(p<0.3),衝突部位とシートベルト着用有無が胸部傷害に 影響を及ぼすことが分かった(p<0.03,0.04).一方,若年者 91 名を対象とした統計分析(適

合度 p<0.5)においては,デルタ V と車種が胸部傷害に影響を与えることが明らかであった

(p<0.05,0.06).

以上から,第2章において前面衝突における傷害予測式の課題として挙げられた項目のうち,

体重に関連する乗員姿勢の推定,年齢の考慮,および車室変形の考慮は傷害予測精度の向上に 重要であることが確認された.

Table 4.3 Regression coefficients of injury prediction equations in the CIREN data analysis Body region

Regression coefficient

Head (AIS3+) Thorax (AIS3+) Lower limb (AIS2+)

:Airbag = 1 0 0 0

:Airbag = 0 0.136 -0.256 1.311

: Seat belt = 1 0 0 0

: Seat belt = 0 -1.421** 0.766 -0.251

: Car type = 2 0 0 0

: Car type = 1 0.055 -0.808 -0.771

: Impact part = 3 0 0 0

: Impact part = 2 -0.048 0.717 -1.185

: Impact part = 1 0.044 1.144 -0.408

Driver’s age = 0 0.724 -1.443** 1.311

Driver age = 1 0 0 0

Driver gender = 0 -0.635 -0.906 -0.209

Driver gender = 1 0 0 0

: Collision angle -0.008 0.007 0.015

: Delta V -0.002 -0.013 -0.024

: Extent of damage 0.095 -0.188 -0.442*

Driver height -0.936 -3.133 -0.798

Intercept -3.424 -6.543 -4.216

χ2 689.5 720.6 312.9

P <0.00002 <0.04 <0.6

Nagelkerke R2 0.169 0.195 0.227

*p<0.01, **p<0.002

4.3.3 年齢・性別の傷害への影響度

第 2 章で構築された前面衝突事故における傷害予測式に年齢および性別を考慮するために,

前面衝突実事故データベースを統計分析し,年齢および性別のオッズ比を算出した.オッズは,

ある事象の発生しない確率に対する発生する確率であり,オッズ比は異なる事象のオッズの比 である.

オッズ比は式(4.2)に示すようにある二つの母集団のオッズの比として算出される.年齢オッ ズ比(ORage)は若年者のオッズに対する高齢者のオッズの比とし,性別オッズ比は男性のオッ ズに対する女性のオッズの比とした.年齢オッズ比を算出するためには,傷害予測式に用いた 6変数と年齢を用いて統計分析を行った.一方,年齢および性別オッズ比を算出するためには,

上記の変数に加えて性別も変数とした統計分析を行った.

算出した年齢オッズ比および性別オッズ比をTable 4.4に示す.オッズは,高齢者のほうが若 年者よりも約3.8倍高いことがわかった.年齢および性別を考慮する場合,オッズは高齢者の ほうが若年者よりも約4.1倍高く,女性のほうが男性よりも約1.9倍高いことがわかった.

) 1 /(

) 1 /(

yng yng

old old

age

P P

P OR P

 

) exp(

1 )

1 exp(

) 0

exp(

age 7

7 age

0

7 7 age

0

 

 

x

x

(4.2)

Table 4.4 Odds ratios of age and gender

Predictors in analysis Odds ratio of age Odds ratio of gender

the six and Age 3.752 -

the six, Age and Gender 4.106 1.923