(1) ADNI VER.1
ア 2007(平成19)年 3 月厚労科研費申請には、臨床データベースは、東大・岩 坪が構築する旨の記載があるが、2007(平成19)年11月7日付倫理審査申請書 では、「データベースは国立精神神経センターに設置し佐藤が IT(情報)コアを 統括する」とされている(11月28日付も同様)。
その後、2007(平成19)年11月20日付でNEDOとバイオ組合との契約が締 結されたが、そこでは「②J-ADNI画像解析ソフトウェア開発研究」事業として、
バイオ組合の組合員である横河電機株式会社(以下、単に「横河」という。)が 研究分担先、国立精神・神経センターが共同実施先となり、データベース構築を 行うものとされた。また、研究開発責任者としては、最初のITコアPIの佐藤典 子と、横河が挙げられている。
同J-ADNI画像解析ソフトウェア開発研究の内容をみると、
1)大規模脳画像データベースの構築
2)複数時点間・脳画像差異抽出・脳画像解析ソフトウエア開発
を行うものとされ、データベース構築事業のなかに、「画像/臨床データセンター、
臨床サイトの IT 基盤の設計、開発、構築」「画像データべース、臨床データべー スの検討、設計、開発」が挙げられている。そこでは、J-ADNI 大規模観察研究 ワークフロー、倫理規定、セキュリティポリシーに基づいた基本設計、機能設計
を行い開発すること、国立精神・神経センターに画像データべース、臨床データ ベースを中核とした安全なデータセンターを構築すること、臨床サイトとデータ センターは、光をベースにした VPN(Virtual Private Network)を介して接続可能 な設計を行うこと、被験者登録時、J-ADNI ID をデータセンターシステムで発 行して、臨床サイトで発生するデータは、臨床サイトの端末で J-ADNI IDに付 替え、匿名化した上でデータセンターにオンラインで送信可能とすることなどが 明記されている。
さらに「US-ADNI システムとの連携およびデータペース活用のためシステム の検討、設計、開発」も事業として記載されており、実際にもデータベース構築 の過程で、US-ADNI のシステムをそのまま日本語に翻訳して導入することも検 討されたようであるが、日本語へのカスタマイズ等が必要であり手間がかかるこ となどを理由に、US-ADNI のデータベースシステムが導入されることはなかっ た。
イ 実際のデータベース構築においては、当時精神・神経センターでデータ解析など を行っていたAがJ-ADNI側の担当者として、データベースの開発、構築を担当 した。なお、A は、もともとは臨床コア PI 朝田の研究室に所属しており、朝田
がJ-ADNI研究への参加・協力を要請したのであるが、その後は、Aは基本的に
は、佐藤、岩坪の指示の下でJ-ADNI研究に関与している。
ウ 横河のデータベースシステムの構築には、初年度2007(平成19)年度には、1 億600万円(但し、開発費は5200万円程度であり、その余はサーバ等機材の購 入費)が投じられたが、被験者登録を開始した 2008(平成 20)年度には 2500 万円程度(累計額1億3000万円程度)、2009(平成21)年度には950万円程度
(累計額1億4000万円程度)の予算が投じられた。
エ Aが横河と協議を行い、横河が構築した当初データベース(以下、「ADNI VER.1 システム」という。)は、画像データベースがメインで、臨床データのデータベ ースとしては不十分なものであった。
IDの発行、スケジュールの登録まではできても、それ以降の臨床データについ ては、実施施設からシステムにアップロードされる CRF 等の症例報告書や心理 検査等の検査用紙が PDF 形式で保存されるのみで、検査結果等を入力するシス テムも備えられていなかった。
その理由としては、最初の被験者登録までの時間が不足しており、そもそもど のようなデータを入力するかという仕様自体、定まらなかったことなどがあった。
前述のように、2008(平成 20)年5 月の「J-ADNI 臨床研究・実施計画書」改 訂で、新たな心理検査が追加されるような状況であり、被験者登録開始までの間 に、入力システムをも含むデータベースの構築はできなかった。
そのため、被験者登録後、データセンターにおいては、アップロードされた検 査用紙等の PDF をチェックするという形での、臨床データチェックのみが行わ れた。そして、データセンターと研究実施医療機関との間の記載内容の不備や誤 記等についての追加・修正のやりとりは、手順書上では前述のように「データセ
ンターはJ-ADNI 研究管理システムを通じ研究参加施設にオンラインで、疑義事
項への回答または修正を依頼する」とされているにもかかわらず、電話やメール 等で行われることとなった(「紙ベース」でのやりとり、「紙ベース」の依頼)。
(2) ADNI VER.2への移行
ADNI VER.1の下でも、被験者登録後、システム上にデータを入力するシステム
が開発される予定であったが、その機能不足や、仕様についての認識の不一致など から、被験者登録後まもなく、システムをリニューアルすることとなった。
そこで、2008(平成20)年12月、バイオ組合が新たにマリーンシステムアソシ
エイツ株式会社(以下、単に「マリーン」という)と契約して、新たなシステム(以 下、「ADNI VER.2システム」という。)が開発されることとなった。
ADNI VER.2システムへは、2009(平成21)年秋ころに移行し、2010(平成22)
年1月には、データセンターと研究実施医療機関とのやりとりは、紙ベースではな くシステム上で行うことが可能となった。
マリーンへの開発費用の支払額は、8500万円程度であった。
(3) ADNI VER.2.5への更新
しかし、ADNI VER.2システムも不具合が多く、研究実施施設からのバグの指摘 も多かった。
そのため、2010(平成 22)年 1 月には、日鉄日立システムエンジニアリング株 式会社(以下、単に「日鉄日立」という)と契約して、ADNI VER.2.5へのバージ ョンアップを図ることとなった。日鉄日立は、当初、保守運用という形で ADNI
VER.2システムに関わり、その後、2010(平成22)年5月には、日鉄日立による
バージョンアップ版(以下、「ADNI VER.2.5 システム」という)が導入されるに
至った。
日鉄日立は2012(平成24)年度ころまでの間にデータベースシステムの機能改 良を完了させ、その後は小規模の修正を経て現在に至る。
但し、ADNI VER.2.5においても、手順書にある電子認証システム、ロジカルチ
ェックの機能などは導入されていない。
日鉄日立への支払額は、保守運用費用も含め2億1200万円程度であった。