(1) 責任の所在について

J-ADNI 研究において、新聞報道で指摘されたような「改ざん」等の不正が行わ

れた事実は認められず、ここでいう責任とは、判明した問題点に関して、誰がどの ような責務を負っていたかということを意味する。 まず、J-ADNI研究にみられ た体制の不備について、そもそも、研究開始に先立ち、様々なマネジメント体制を 整えるべきであった責任も、第一義的には研究代表者にあったものと思われる。

しかしながらまた、他の研究者においても、J-ADNI 研究を実施継続するにあた り、研究代表者を補助、支援等してこなかったこと等につき、一定の責任があるも のと考える。

特に、今回の問題の多くは、心理データや CRF 等の臨床データのチェックをめ ぐって生じており、心理コアPI、臨床コアPIにも、研究代表者を補助し、あるい は自らが主導的に、当初のデータマネジメント体制の構築を行わなかったこと、そ の後生じたデータセンターのデータチェックにおける混乱を収めることができなか ったことについて、責任があることは否定できない。

(2) 再発防止策について

今回、当委員会が調査を行った J-ADNI 研究は、既に最終段階にあるが、調査の 過程で、多施設大規模臨床研究における様々な課題が浮き彫りとなった。

そこで、当委員会としては、今後、多施設大規模臨床研究を実施するに際して 留意すべきポイントについて、以下のとおり再発防止策としてとりまとめた。

ア データ信頼性確保のための体制

現在、我が国においては、臨床研究の国際基準である GCP(Good Clinical Practice)は治験(医薬品医療機器等法に基づく医薬品・医療機器等の製造販売 承認を得るための臨床試験)にのみ適用され、治験に該当しないその他の臨床研 究(J-ADNI研究もこれに含まれる)にはGCPは適用されない。

GCP準拠の臨床研究においては、被験者の保護とともに、データの信頼性の保 障が厳格に求められることから、専門的知識及び経験を有する者(例:データマ ネジャー、生物統計家、プロジェクトマネジャー、臨床薬理学者、研究倫理の専 門家等)の確保や、さらに、モニタリング、監査という品質管理・保証の仕組み を整備することも必須となる。

上記のとおり、J-ADNI研究において今回の事態が引き起こされた主な原因が、

データセンターのプロジェクト内での責任・権限の不明瞭さ、データマネジメ ント責任者の不在による指示命令系統の不統一、データマネジメントシステム 設計・構築の不備、データマネジメント手順書・チェックリスト等の不整備・

不統一など、プロトコルの不明確さや手順書との矛盾、研究全体における指揮 管理体系の不備、意思決定体制の不備などにあったことに鑑みれば、もし、本 研究がGCP基準に則って行われていれば、今回の事態が起きなかったであろう と推察される。

もちろん、我が国で行われている全ての臨床研究がすべてGCP基準で行われ ることが望ましいことは言うまでもないが、他方、全てのGCP基準を充足する ためには、多額のコストや多くの専門人材が必要となることに照らせば、その 実現は容易ではなく、現実的な選択肢とは言えない。

しかしながら、J-ADNI 研究のように、多額の国費が投入される大規模多施 設臨床研究においては、GCP基準の趣旨を踏まえ、データマネジャー、生物統 計家、プロジェクトマネジャー、臨床薬理学者、研究倫理の専門家等を確保し、

さらに、モニタリング、監査という品質管理・保証の仕組みを整備すること、

研究事務局と呼ばれる機能(中央において全施設をマネジメントする機能を有 し、データセンターとは独立して研究内の各グループ間の調整を行ったり、中 央組織と各施設との調整業務を行う事務局)を備えることなど、データの信頼 性を確保するための体制を整備することを研究実施の要件とすべきである。

イ ガバナンス体制

現在、我が国における臨床研究は、既述のとおり、治験を除き「臨床研究に関 する倫理指針」が適用されるが、臨床研究倫理指針は、すべての臨床研究が同一 の基準で実施される建前であり、研究の規模や予算の規模に応じて多元的な基準 を設けているわけではない。

しかしながら、単一施設で実施される小規模臨床試験と、J-ADNI 研究のよう に、多額の国費が投じられ、また多数の研究機関が参加し、さらに多数の企業が 参画する多施設大規模臨床研究とでは、その求められる社会的責任の程度は異な って然るべきで、多施設大規模臨床研究の場合は、より高度のガバナンス体制の 構築が求められると考えられる。

たとえば、会社のなかでも、株式を上場している上場企業と非上場企業とでは、

それぞれ求められるガバナンス体制は異なり、また、株式会社のなかでも資本金

5億円以上または負債額200億円以上の大会社とその他の株式会社とでは、それ ぞれ求められるガバナンスが体制は異なるが、これと同様の理由である。

今回のケースで、既述のとおり、J-ADNI 研究において生じた混乱の主な原因 が意思決定体制、意思決定手続、研究代表者の権限の範囲が明確に定められてい なかったこと、チェック機能が十分に働かなかったことに起因することに照らせ ば、たとえば、多施設大規模臨床研究の場合には、代表研究者の役割と責任を明 確に定めること、意思決定体制と意思決定手続を明確に定めること、業務執行を モニタリング・監査する機関を設置することを求めるべきである。

また、モニタリング・監査の実施対象は、各施設で実施される研究を含むこと はもとより、多施設大規模研究における研究代表者の執行内容そのものも含める べきである。

さらに、特に研究代表者には、プロジェクト全体を統括する役割が求められる べきで、この役割を実効的に果たすために、研究代表者を補佐する組織を設置し ておくことが望ましい。

以上のとおり、今後、多額の国費が投入される多施設大規模臨床研究において は、その社会的責任を踏まえ、より高度のガバナンス体制を構築することを検討 すべきである。

以上

(別紙1)

① 直後再生「9:50」を「9:30」、遅延再生「10:20」を「10:00」に修正した結 果、修正前及び修正後は共に直後再生終了時間から30分後であるから、30分-40 分後という時間設定に合致している。

修正日は検査の約3か月後、評価者と修正者はイニシャルが一致するため同一人 と思われる。

当委員会において当該検査用紙を確認したところ、ワークシート原本には、直後 再生の時刻の記録欄に「9:30」遅延再生の時刻の記録欄に「10:00」と記載があ り、また、データセンターが保管する修正メモには、「終了時間と開始時間が原本と 異なっているため問い合わせしました。長いのでここには追記しません。元データ を確認してください」との修正コメントが記載されている。

上記のとおり、ワークシートの原本は、直後再生及び遅延再生において、修正後 の時間と一致していることから、データセンターから当該実施医療機関から「書き 間違い」(ワークシート原本から検査用紙への転記間違い)との回答を得たため、ワ ークシート原本の記載に従って誤記を修正するよう依頼したものと解される。また、

修正前及び修正後共に時間設定の範囲に収まっていることから、改ざんの動機がそ もそも見当たらない。

したがって、ワークシートの原本の記載に従って、誤記を修正するようデータセ ンターが依頼することは、実際の記載内容(事実)に合致するように修正するもの であるから、改ざんには当たらず、何ら問題のあるものとも言えない。

② 直後再生「13:36」(修正なし)、遅延再生「13:06」を「14:06」に修正した 結果、修正前は(直後再生より)30分前、修正後は30分後となり、30分-40分 後という時間設定に合致することとなったもの。

修正日は検査の約2か月後、評価者と修正者は異なる。

当委員会において当該検査用紙を確認したところ、ワークシート原本には、遅延 再生の時刻の記録欄に「13:06」と記載があり、修正前の時刻と合致している。一 方、データセンターが保管する修正メモには「14:06ではありませんか。ご確認の 上修正をお願いします。」との修正コメントが記載されている。その後、データセン ターの指摘を踏まえ、実施医療機関が確認し、実施医療機関の判断により、「14:

06」に修正されたと考えられる。

修正前の遅延再生の開始時刻では、直後再生より 30 分前に行われたことになっ

ドキュメント内 目次 ( 略語表 ) 第 1 調査に至る経緯 問題指摘の経緯及び関係機関による内部調査等の概要 第三者調査委員会の設置 第 2 調査体制 委員会構成メンバー等 委員の第三者性 中立性について...- (Page 160-173)