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るべき点があったか

新聞報道等では、「臨床データ改ざん」の疑いを指摘されているが(別紙2参照)、 東大報告書でも、データセンターにおいて「不適切な修正」が行われた結果、登録 時においても組み入れ基準を満たさない被験者が一部組み込まれた(「不適切な症例 が登録」)とされている。

当委員会は、被験者の登録(症例の登録)とデータの修正(患者情報の修正)は 別の問題であると考えられ、ここでは、データの修正あるいは修正依頼上の問題を 検討する。

とはいえ、データの修正を検討する上でも、被験者登録、すなわち、登録時の被 験者の適格性の判断に影響が生じる可能性のある修正と、そうではない修正とをわ けて考えるのが妥当と考えられるため、以下、これをわけて検討することとする。

(1) 実際に確認された「データの修正」の内容

検討に際し、まずは、実際にどのようなデータの修正がなされているかという点 を概観する。

ア 確認された修正の内容

当委員会においては、スクリーニング来院時のCTWのデータについての修正 履歴を確認したところ、おおむね次のような修正が見つかった。

・評価日、評価者の修正

・正誤判断の修正(正答を誤答に、誤答を正答にする修正)

・点数の修正(正誤判断の修正に伴うほか、加算間違い等もあり)

・WMS-R 論理的記憶検査における検査結果記載欄の直後再生終了時間、遅延再

生開始時間の修正

・WMS-R 論理的記憶検査におけるワークシート上の直後再生終了時間、遅延再 生開始時間、正答誤答の修正

・WMS-R論理的記憶検査におけるワークシート上で、施行されたB問題の結果

削除

イ 単純な誤記の修正

修正の中には、単純に誤記を修正したと思われるものも多かった。例えば次の ようなものである。

(MMSEについて)

・「今年は何年」という質問に対する「2012年」という回答を、正答から誤答に 修正したもの(検査日は2011年)

・「今日は何曜日」という質問に対する「月曜」という回答を、正答から誤答に 修正したもの(検査日は木曜)

・シリアル7(100から7を引算し、その答えからさらに7を引き算してゆく計 算を5回続ける検査。正しい回答は100→93→86→79→72→65となる。)にお いて、一度誤答があっても、次にそこから正しく7が引き算できていれば正答と なるはずが、上記正答100→93→86→79→72→65の数字と回答が一致していな いことをもって誤答としたため、これを正答と評価しなおしたもの(数が多い。

例えば、93-86-79-71-65 との回答につき、65を○→×に修正したり、93

-86-79-73-66との回答につき、66を×→○に修正したものなど)。

(WMS-Rについて)

・直後再生の正答数の記入欄に誤って遅延再生の正答数を記入したもの

・ワークシート上の正答数を数え間違えたもの

・ワークシート上の点数をCTW検査用紙に転記ミスしたもの 中でも、時間の修正は多く、

・遅延再生開始時間「16」という記載を「16:51」と修正(検査当日)

・直後再生終了時間「100:42」という記載を「10:42」と修正(検査当日)

・直後再生終了時間「100:14」という記載を「10:14」と修正(検査当日)

・直後再生終了時間「99:54」という記載を「9:54」と修正(検査当日)

・直後再生終了時間「10□:41」という記載を「10:41」と修正(検査当日)

・遅延再生開始時間「?4:55」という記載を「14:55」と修正(検査当日)

・遅延再生開始時間「015:12」という記載を「15:12」と修正(検査当日)

・遅延再生開始時間「11130」という記載を「11:30」と修正(検査当日)

・遅延再生開始時間「15:5」という記載を「15:50」と修正(検査当日)

(2) スクリーニング時の適格性判断に影響を与えうる修正

(1)の修正履歴のうち、スクリーニング時の適格性判断に影響しうる修正としては、

次のものが存する。

まず、修正の結果、認知機能検査の点数が選択基準に合致する結果となるような 点数修正がある。

① スクリーニング時のMMSEの点数修正

② スクリーニング時のWMS-R論理的記憶検査の点数修正 ③ スクリーニング時のGDS点数修正

④ 再検査による点数修正

(問題となるプロトコルの記載)

MMSE及びWMS-Rについて

ⅰ 選択基準

「4 研究対象〈選択基準〉」においては、

「4-5 健常高齢者のCriteria」として、

「MMSE24点から30点」

「教育年数を考慮したWechsler memory Scale-R/Logical memoryⅡでカットオ フ値以上。

教育年数0-9年;3点或いはそれ以上 教育年数10-15年;5点或いはそれ以上 教育年数16年以上;8点或いはそれ以上」

「4-6 健忘型MCICriteria」として、

・遅延再生開始時間「35:00」という記載を「15:00」と修正(検査当日)

・「2:04」「2:35」という記載を「14:04」「14:35」に修正(検査当日)

・直後再生終了時間「15:10」、遅延再生開始時間「14:40」を、直後再生終了 時間「14:40」、遅延再生開始時間「15:10」と修正(逆に書いてしまったも の。検査2日後の修正)

「MMSE24点から30点」

「教育年数を考慮したWechsler memory Scale-R/Logical memoryⅡでカットオ フスコア以下。

教育年数09年;2点或いはそれ以下 教育年数10-15年;4点或いはそれ以下 教育年数16年以上;7点或いはそれ以下」

「4-7 早期ADCriteria」として、

「MMSE20点から26点」

「教育年数を考慮したWechsler memory Scale-R/Logical memoryⅡでカットオ フスコア以下。

教育年数0-9年;2点或いはそれ以下 教育年数10-15年;4点或いはそれ以下 教育年数16年以上;7点或いはそれ以下」

とされている。

ⅱ 観察項目

「5-1 観察、検査、評価項目の詳細 5-1-2 神経心理検査 」の項目では、各検査に ついて次のような説明がなされている。

・MMSEについて、

「従来も AD 治療薬の治験にスクリーニングテストとして使われてきた。場所の見当 識、時間の見当識、3 単語の即時再生、注意(Serial-7)、遅延再生、言語(呼称、復 唱、読文、書字、理解)と視覚構成(Interlocking Pentagon)によって成り立って いる。30点満点で得点の高いほどよい。

・WMS-R論理的記憶検査について、

25の意味文節からなる「StoryA」を検査者は読み上げ、自由に(順不同に)再生して もらい、25 文節から思い出せた文節数を得点とする。30-40 分後にもう一度再生して もらう。

ⅲ 来院ごとのまとめ

ベースライン以後の来院について、「以下の心理検査を行う。」として、心理検査が列 記され、(規定通りの順番で施行)」するものとされている。

GDSについて

健常高齢者及び健忘型MCIの選択基準として、「Depressionではないこと」が挙げら れ、観察項目としてGDSを行うものとされている(GDS615 うつ」という記載 もある)

また、手順書に記載された選択基準においては、健常高齢者、健忘型MCI及びAD ずれの被験者群についても、「老年期うつ尺度(GDS-J)が6点未満」という基準が記 載されている。

また、上記以外に被験者の適格性判断の関係で問題となりうる修正として、次の ような修正もある。

⑤検査結果記載欄の直後再生終了時間、遅延再生開始時間の修正

これは、「J-ADNI 臨床研究・実施計画書」の「観察項目」の WMS-R 論理 的記憶検査の項目に「30-40分後にもう一度再生してもらう」との記載がある ことから問題となりうる。

⑥ WMS-R論理的記憶検査におけるワークシート上で、施行されたB問題の結

果削除

「J-ADNI臨床研究・実施計画書」の「観察項目」のWMS-R論理的記憶検 査の項目で、「StoryA」を読み上げると説明されており、B を読み上げること にはなっていないこととの関係で問題となりうる。

(3) 適格性判断に影響する修正のうち、MMSE、WNS-Rの点数修正について

適格性判断に影響する①スクリーニング時のMMSE の点数修正、②スクリーニ

ング時のWMS-R論理的記憶検査の点数修正及び修正指示に不正がないかどうか検

討する。

修正事項の重要性から、ここでは実際に確認された修正について、個別に検討す る。

具体的事例としては、次のものが確認されたが、いずれも研究実施医療機関の判 断による正誤評価や点数の修正であり、データセンターの修正指示に基づく修正で

はなかった。また、修正自体も誤記を修正したものに過ぎず、選択基準に合致する よう、事実と異なる修正が加えられたとは認められなかった。

ア MMSEに関するもの

①「書字」のテストに対する「なん頭が痛い」との回答

当初誤答としたものを、正答と修正したことにより、MCI登録予定の被 験者のMMSEが23点から24点となり、選択基準を満たすことになった。

データセンター関与の記録はなく、検査日当日の修正である。但し、も ともとの検査評価者と修正者のイニシャルは異なる。

書字のテストの正答については、検査用紙に、「採点:文が理にかなった 文で、主語と動詞を備えている場合、1 点を与える。」「文法、漢字、送り 仮名及び句読点は正しい必要はなく、採点の対象にならない。文に主語は ないが、主語を暗に示す文(例えば、「ドアを閉めてください」という文は 主語が書かれていないが、主語として「あなた」が考えられる。)は正答と する。」と記載がある。

誤答を正答とした理由について、当委員会から当該検査を行った研究実 施医療機関に照会したところ、次のような回答であった。

文脈から「なんか頭が痛い」と書きたかったと推察されるが、「か」の字 が抜けたことで当初は誤答と採点したと思われるが、その後に他の検査員 と討議するなどして、単なる書字ミスとして正解と訂正したことと思う。

MMSEのこの作文課題については、非常に微妙な回答がなされることが頻 回にあるため、J-ADNI 以外でも検査員の中で討議することが多々あり、

このケースも同様で、100%の文章ではないとはいえ意味の通じない文章 とはいえず、採点直後にこれでいいかどうかの確認をしたものだと思う旨 の回答であった。

このように、当該修正は、研究実施医療機関の担当者の判断で誤答から 正答と評価しなおしたものであり、修正自体にも問題があるとはいえない。

また、データセンターの修正指示の有無については、実施医療機関自身 がこれを否定している上に、修正は検査日当日の修正であり、修正前の PDF がシステム上にアップロードされてもいないことから(同検査は

2010(平成22)年9月に行われており、システムがADNI VER.2.5に移