第 9 章 2 次曲線と 2 次曲面 136
12.4 Hermite 変換, Unitary 変換, 正規変換
定義12.4.1 (1) V の線形変換 T が T∗ =T を満たすとき, T は Hermite 変換と呼ばれ, T∗ =−T を満たすとき,歪 Hermite 変換と呼ばれる.
(2) また,正方行列 A が A∗ =A を満たすとき, AはHermite行列と呼ばれ, A∗ =−A を 満たすとき, A は歪Hermite 行列と呼ばれる.
注意12.4.2 12.3.6(1) により, 線形変換 T が Hermite 変換であることと, 任意の
::::::::::::正規直交基 に関する T の表現行列が Hermite 行列であることは同値である.
問12.4.3 A が Hermite 行列でも歪 Hermite 行列でもあるならば A=O であることを示せ. 問12.4.4 線形変換 T に対して T∗T およびT T∗ は Hermite変換であることを示せ. また,正
方行列 A に対して A∗A およびAA∗ は Hermite 行列であることを示せ.
問12.4.5 T が Hermite 変換であるとき, 任意の自然数 n に対しTn も Hermite 変換である ことを示せ. さらに T が正則なHermite 変換であるとき,任意の n ∈Z に対しTn はHermite 変換であることを示せ.
問12.4.6 A が Hermite 行列であるときtA も Hermite 行列であることを示せ. 定理12.4.7 Hermite 変換, Hermite 行列の固有値はすべて実数である.
証明 V の Hermite 変換 T が固有値 λ∈C を持つとき, 06=u∈V が存在して
T(u) = λu となる. このとき
(T(u),u) = (λu,u) =λ(u,u) = λkuk2.
一方,T は Hermite 変換だから
(T(u),u) = (u, T(u)) = (u, λu) =λ(u,u) = λkuk2. 従つて λkuk2 =λkuk2 であるが, u6=0 ゆゑλ=λ で λ∈R.
Hermite 行列に関しては問 (次の12.4.8)とする.
問12.4.8 Hermite 行列の固有値はすべて実数であることを示せ. 問12.4.9 歪 Hermite 行列の固有値はすべて純虚数であることを示せ.
定義12.4.10 すべての固有値が正である Hermite 行列を正定値Hermite 行列といふ. 定義12.4.11 V の線形変換T がHermite内積の値を変へないとき,即ち,任意のu,v∈V について
T(u), T(v)
= (u,v)
注意12.4.12 T が V の unitary 変換であるためには, V の 1つの基 (正規直交基でなくても よい){u1,· · · ,un} について
T(ui), T(uj)
= (ui,uj) が成り立つこととが必要十分である.
命題12.4.13 T を Hermite 空間V の線形変換とする. 次の3 つは同値である. (1) T は unitary 変換である.
(2) T∗T =IV. (3) T T∗ =IV.
証明 (1) ⇒ (2). 任意の u, v ∈ V について, (u,v) = T(u), T(v)
= u, T∗T(v) ゆゑ, T∗T(v) = v である. つまり(2) が成り立つ.
(2) ⇒ (1) は上の議論を逆に辿ればよい.
(2) ⇔ (3). V の基を決めて, それに関する T の表現行列を A とすれば, 仮定から A∗A =I.
3.5.2 により,A∗ =A−1 であり AA∗ =I が成り立つ. これは T T∗ =IV を意味する. (3) ⇔ (2) は上の議論を逆に辿ればよい.
定義12.4.14 正方行列U がU∗U =I,つまりtU U =Iを満たすとき,U はunitary 行列で あると言はれる.
注意12.4.15 Unitary 行列は絶対値1 の複素数eiθ (θ ∈R) の類似であると考へられる.
問12.4.16 U が unitary 行列であるときtU も unitary 行列であることを示せ. 問12.4.17 Unitary 行列の行列式の絶対値は 1 であることを示せ.
例題12.4.18 V の正規直交基を固定する. T が V の unitary 変換であるためには,この基に 関する表現行列が unitary 行列であることが必要十分であることを示せ.
証明 dim(V) =n として, 与へられた正規直交基を {u1,· · · ,un} とし, T の表現行列を A = [a1 · · · an] とせよ. このとき
T(ui), T(uj)
= Xn
k=1
akiuk, Xn k=1
akjuk
=taiaj. T が unitary 変換であることは T(ui), T(uj)
= (ui,uj) = δij であることに他ならず, そ れは
taiaj =δij,
即ちtAA=I であることと同値である. 従つて A は unitary 行列である.
命題12.4.19 n 次正方行列 U = [a1 · · · an] について, 次の3 条件は同値である. (1) U は unitary 行列.
(2) TU は Cn の標準Hermite 内積に関してunitary 変換である.
(3) {a1, · · · ,an} は Cn の標準 Hermite 内積に関して正規直交基である.
証明 (1) ⇔ (2) は 12.4.18 から直ちにわかる. また (1) を仮定すれば U∗U =I であるが, こ れは, すべての 1 ≤i, j ≤ n について taiaj =δij, 即ち taiaj =δij であることと同値であり, これは (ai,aj) =δij を意味するから, (3) が結論される. この議論は可逆だから (3) ⇒ (1) も 示された.
定理12.4.20 T をV の線形変換とせよ. T が V のunitary 変換であるためには, 任意の u∈V に対し, kT(u)k=kuk であることが必要十分である.
証明 (必要性) これは定義より明らか. (十分性) u,v ∈V について ku+vk2 =kuk2+ (u,v) + (u,v) +kuk2,
kT(u+v)k2 =k(Tu)k2+ (T(u), T(v)) + (T(u), T(v)) +kT(u)k2 であることとT についての仮定から
(u,v) + (u,v) = (T(u), T(v)) + (T(u), T(v))
である. ここで実数部分を real, 虚数部分を imag で表せば, 上のことから real(u,v) = real(T(u), T(v)). 一方 u の代りにiuをとるとreal(−i(u,v)) = real(−i(T(u), T(v))),つまり imag(u,v) = imag(T(u), T(v))が示され, 結局, 任意の u, v について
(u,v) = T(u), T(v) となるから T は unitary 変換である.
注意12.4.21 次の様な類似があると考へればわかり易いかも知れない :
複素数を成分に持つ行列 ←→ 複素数 随伴行列 ←→ 複素共役
Hermite行列 ←→ 実数
正定値 Hermite行列 ←→ 正の数
歪 Hermite行列 ←→ 純虚数
Unitary 行列 ←→ 絶対値1 の複素数.
演 習 問 題 12.4
12.4.22 一般に 2つのHermite 行列の和, 積はHermite 行列になるか. 理由をつけて答へよ. 12.4.23 任意の正方行列 Aは Hermite 行列 H を歪 Hermite行列 S の和A=H+S として 一意的に表されることを示せ.
12.4.24 行列A ∈Mat(n,C) を任意にとり固定する. このとき, 2 つの集合 H ={X ∈Mat(n,C)|X∗A+AX =O, φX(−1)6= 0},
U ={T ∈Mat(n,C)|T∗AT =A, φT(−1)6= 0}
がCayley 変換T = (I−X)(I+X)−1 により 1対1に対応することを証明せよ. とくにA =I
とすれば unitary 行列のある集合と歪 Hermite 行列のある集合との対応が得られる.