第 6 章 Vector 空間 80
6.2 Vector 空間と部分空間
まづvector 空間の定義から始める.
定義6.2.1 体 K と集合V に対し,
V0 和と呼ばれる写像 V ×V →V, (x,y)7→x+y および
scalar 倍と呼ばれる写像 K×V →V, (a,x)7→ax が与へられて,
これらの演算について以下のV1〜V7のすべてが成り立つときV を K上のvector 空間
(あるいはK 上の線形空間, K 線形空間, Kvector空間など)といふ. 以下x, y, z ∈V は任意の元を表す.
V1 (結合律) (x+y) +z =x+ (y+z).
V2 (交換律) x+y =y+x.
V3 零 vector と呼ばれる元0 が存在して x+0=x.
V4 各 x に対して,逆 vectorと呼ばれる −x が存在して, x+ (−x) =0.
V5 a(bx) = (ab)x.
V6 a(x+y) =ax+ay.
V7 (a+b)x=ax+bx.
問6.2.2 K上の vector空間 V において 0x=0 が成り立つことを示せ. 注意6.2.3 V を体K 上のvector 空間とせよ.
(1) 零vector 0 は唯1つだけ存在する. なぜなら,別に0′ が存在すれば,V3により0′+0 =0′, 0+0′ =0 がともに成り立つ. これと V2 により 0′ =0 である.
(2) x に対し, V4にいふ−x は唯 1つだけ存在する. 実際,もう 1 つあつたとして, x′ とする と−x=0−x= (x′ +x) + (−x)) =x′+ (x) + (−x)) =x′+0=x′ となるからである. 例6.2.4 (Vector 空間の例) ここでは, vector 空間や部分空間の例を挙げる. Vector 空間は至 るところに現れる. 読者にはこれらを確かめて欲しい.
(1) Mat(n,1,K) =Kn は K 上の 数 vector空間と呼ばれるK上の vector空間. (2) V =Rcosx+Rsinx. は R 上 vector 空間である.
(3) 体 K上の n 次以下の x の多項式全体を K[x]n と記す. これは普通の和と scalar 倍に関
して K上の vector空間である.
(4) 体 Q(i) = {a+bi|a∈Q, b∈Q} はQ 上のvector 空間である. (5) 体 Q(√
2) ={a+b√
2|a ∈Q, b ∈Q}はQ 上 2 次元のvector 空間である.
(6) 5 元体 F5 上の多項式 x3 + 2x+ 1 は既約である. これの根 α の F5 上の有理式の全体
F5(α)はF5 上のvector 空間である. 定義6.2.5 Vector 空間V の部分集合 W は
S1 0∈W,
S2 u, v ∈W ならば u+v ∈W, S3 c∈K, u∈W ならば cu∈W
問6.2.6 K上の vector空間 V の部分空間 W は, K上の vector空間であることを示せ.
このことから,V の部分集合 W がV における和とscalar 倍に関して, vector 空間をなすこととがW が V の 部分空間であることに他ならないことがわかる.
例題6.2.7 A∈Mat(m, n,K) のとき, 次の W は Kn の部分空間であることを示せ : W ={x|Ax=0}.
解 6.2.5 の 3 つの条件を確認すればよい.
(S1 について) A0=0であるから 0∈W である.
(S2 について) x,y∈W とするとAx=0, Ay =0. よつて
A(x+y) =Ax+Ay=0+0=0 となり, x+y∈W である.
(S3 について) x∈W, c∈K とすると Ax=0 であるから A(cx) =c(Ax) = c0=0 となり, cx∈W である.
例題6.2.8 次のW は R3 の部分空間であるか否か調べよ. (1) W =
x∈R3
3x1+ 2x2− x3 = 0 x1−4x2+ 5x3 = 0
. (2) W =
x∈R3
3x1+ 2x2− x3 = 2 x1−4x2+ 5x3 = 1
. 解 (1) A=
3 2 −1 1 −4 5
とおけばW ={x|Ax=0} と書けるから, 6.2.7により, 部分空
間である. あるいは,直接に 6.2.5 の 3 条件を確認してもよい.
(2) A0=06= h 2
1
i であるから,部分空間ではない. ちなみに, 他の2 条件も成立しないから, それを示してもよい.
例題6.2.9 次のW は R[x]3 の部分空間になるか否かを調べよ. (1) W ={f(x)∈R[x]3|f(1) = 0, f(2) = 0}.
(2) W ={f(x)∈R[x]3|f(1) = 2}.
(3) W ={f(x)∈R[x]3|xf′(1) + 3f(x) = 0}. 解 (1) W は部分空間である.
(2) W は部分空間でない. (3) W は部分空間である.
定義6.2.10 V が体K 上のvector 空間で,Wi (1≤i≤r)が V の部分空間のとき, 集合 {w1 +· · ·+wr|wi ∈Wi (1≤i≤r)} は部分空間である (確認せよ). これを W1,· · ·, Wr の和と呼び W1+· · ·+Wr または
Xr i=1
Wi で表す.
問6.2.11 上の6.2.10 で述べた W1+· · ·+Wr が V の部分空間であることを示せ.
演 習 問 題 6.2
6.2.12 次のW は R 上の vector空間 R3 の部分空間になるか否かを調べよ. (1) W =
x∈R3
4x1−x2−3x3 = 0 x1+ 3x2−5x3 = 0
. (2) W =
x∈R3
4x1−x2−3x3 ≤0 x1+ 3x2−5x3 ≤1
. (3) W =
x∈R3
2x1−x2 = 2x3 x1+ 2x2 = 5x3
. (4) W =
x∈R3
x12−x22+x32 = 0 x1−x2+ 3x3 = 0
. (5) W =
x∈R3 x1 + 2x2−5x3 = 0 . (6) W =
x∈R3x1, x2, x3 はすべて整数 . (7) W =
x∈R3x1, x2, x3 はすべて有理数 .
6.2.13 次のW は R 上の vector空間 R[x]3 の部分空間になるか否かを調べよ.
(1) W ={f(x)∈R[x]3 |f(0) = 0, f(2) = 0}. (2) W ={f(x)∈R[x]3 |f(1)≤2}.
(3) W ={f(x)∈R[x]3 |(x−1)f′(x) +f(x) = 0}.
(4) W ={f(x)∈R[x]3 |(x−1)2f′′(x)−xf′(1) +f(x) = 0}. (5) W ={f(x)∈R[x]3 |f(x)の係数はすべて整数}.
(6) W ={f(x)∈R[x]3 |f(x)の係数はすべて有理数}.
6.2.14 6.2.5 の条件 S1 を次の条件で置き換へてもよいことを示せ: S1′ W は空集合ではない.
6.2.15 V を K上の vector 空間とせよ. W1 と W2 が V の部分空間であるとき, W1∩W2 も V の部分空間であることを示せ.
6.2.16 R3 の部分空間 W1,W2 で, W1∪W2 が R3 の部分空間でない例を挙げよ.
6.2.17 V を K上の vector 空間とせよ. W1 と W2 が V の部分空間であるとき, W1∪W2 が V の部分空間であるならば, W1 ⊃W2 またはW1 ⊃W2 であることを示せ.
6.2.18 Wi (1≤i≤r)が vector空間 V の部分空間のとき,集合 W1+· · ·+Wr は集合(V1 とする)W1∪ · · · ∪Wr に属する vectorsの1 次結合の全体(V2 とする)に他ならないことを 示せ.
6.3 1 次独立と 1 次従属
ここでは 1 次独立と1 次従属について学ぶ.
定義6.3.1 V を体K 上のvector 空間とする. u1, u2, · · ·, un∈V について c1u1+· · ·+cnun (c1, · · ·, cn∈K)
なる式を u1, u2, · · ·, un の 1 次結合と呼ぶ.
問6.3.2 6.3.1 の式がV の vector を表すことを(6.2.1 を使つて) 確認せよ.
定義6.3.3 体 K 上のvector 空間V において, u1, u2, · · ·, un∈V を考へる.
(1) これらの vectors に関する
c1u1+· · ·+cnun =0 (c, · · ·, cn∈K)
なる形の関係式を u1, u2, · · ·, un の 1 次関係と呼ぶ. とくに, 1次関係 0u1+· · ·+ 0un=0
を自明な 1 次関係といふ.
(2) vectors u1, u2,· · ·, un ∈V が自明な 1次関係しか持たないとき,これらの vectorsは K 上 1次独立であるといはれる. K がはつきりしてゐれば単に 1次独立といふ.
(3) 1 次独立でないvectors は 1 次従属であるといはれる.
例題6.3.4 次の Rn の vectors の組は 1 次独立であるか否か判定せよ. 1 次従属である場合 は, 自明でない 1 次関係を 1つ記せ.
u1 =
" 0 1 1
#
, u2 =
" 1 1 2
#
, u3 =
" −2
−1
−3
# .
解 x1u1+x2u2+x3u3 =0, 即ち
0 1 −2 1 1 −1 1 2 −3
x1 x2 x3
=
0 0 0
となるx1, x2, x3 を求めてみる. 係数行列を簡約化 すると右の様になる. この計算結果から
(x1 + x3 = 0, x2−2x3 = 0.
よつて, 例へばx1 =−1,x2 = 2, x3 = 1 として
−u1+ 2u2+u3 =0 なる非自明な1 次関係式が存在する.
よつて u1, u2, u3 は 1 次従属である.
0 1 −2 1 1 −1 1 2 −3
1 1 −1 2 0 1 −2 1 1 2 −3
1 1 −1 0 1 −2
0 1 −2 −3 1 1 0 1 −1 2 0 1 −2
0 0 0 −3 2
問6.3.5 u1, u2, · · ·, un が 1 次従属であるためには, u1, u2, · · ·, un のうち少くとも 1 つの
vector が他のn−1個の vectorsの 1 次結合で書けることが必要十分である.
問6.3.6 u1, u2,· · ·, un が 1次独立で,u, u1, u2,· · ·, un が 1次従属ならばu は u1, u2, · · ·, un の 1次結合で書ける.
1 次結合の記法. 体 K 上の vector 空間 V の vectors u1, · · ·, um と行列 A = [aij] ∈ Mat(m, n,K) について,
(u1,u2, · · · ,um)A = (u1, u2, · · · , um)
a11 · · · a1n ... ... am1 · · · amn
= (a11u1+· · ·+am1um, · · · , a1nu1+· · ·+amnum) と記すことにする. 例へば
(u1, u2,u3)
2 −1
−3 5
4 7
= ( 2u1−3u2+ 4u3, −u1+ 5u2+ 7u3).
問6.3.7 体 K 上の vector 空間 V と u1, · · ·, um ∈V, A ∈ Mat(m, n,K), B ∈ Mat(n, ℓ,K) に対し,
(u1, u2, · · · , um)A
B = (u1, u2, · · · , um) (AB) であることを示せ.
補題6.3.8 V の vectors の 2 つの組{u1, u2, · · · , um}, {v1, v2, · · · , vn} について, (1) v1, v2, · · ·,vn のどれもがu1,u2,· · ·, um の 1 次結合で書けて,
(2) n > m である
ならば v1,v2, · · ·, vn は 1 次従属である. 証明 ある自明でない c1,c2, · · ·,cn が等式
c1v1+c2v2+· · ·+cnvn=0
を満たすことを示す. 条件(1) によりA∈Mat(m, n,K) が存在して, (v1, v2, · · · , vm) = (u1, u2, · · · , um)A となる. このとき条件 (2) から
Ax=0 は非自明な解を持つ. その1 つを
c=
c1 c2 ... cn
とおけば, これが求めるものである. 実際
c1v1+c2v2+· · ·+cnvn = (v1, v2, · · ·, vm)c= (u1, u2, · · · , um)Ac
= (u1, u2, · · · , um)0=0
系6.3.9 V の vectorsの 2つの組{u1, u2, · · · , um}, {v1, v2, · · · , vn} について, (1) v1, v2, · · ·,vn のどれもがu1,u2,· · ·, um の 1 次結合で書けて,
(2) v1, v2, · · ·,vn が 1次独立 ならば n≤m である.
証明 もしも n > m であれば, 6.3.8により, v1,v2, · · ·,vn が 1 次従属となり (2) が否定され てしまふので,n ≤m でなければならない.
問6.3.10 Vectorsu1,u2,· · ·, um が 1 次独立で, A∈Mat(m, n,K)のとき, (u1, u2, · · · , um)A= (0, 0, · · ·, 0)
ならば A=O である. これを示せ.
問6.3.11 Vectorsu1,u2,· · ·, um が 1 次独立で, A, B ∈Mat(m, n,K)のとき, (u1, u2,· · · , um)A= (u1, u2, · · · , um)B
ならば A=B である. これを示せ.
演 習 問 題 6.3
6.3.12 次のそれぞれの vectors の組について, それらが 1 次独立か 1 次従属かを判定せよ. 一次従属の場合は自明な 1次関係を 1 つ挙げよ.
(1) u1 =
1 2 3 4
, u2 =
2 7 8 4
, u3 =
1 2
−1
−3
, u4 =
2 1 0 5
.
(2) u1 =
1 1
−1 0
, u2 =
1 2
−1
−3
, u3 =
2 1 0 5
, u4 =
−1 2 1 4
.
6.3.13 Vector 空間 V において 1 次関係v1 = 5u1 + 2u2, v2 = 2u1+ 3u2, v3 = u1 −u2 があるとき, 6.3.8 によりv1, v2, v3 は 1 次従属である. これらの非自明な 1 次関係を 1 つ挙 げよ.
6.3.14 V を vector 空間とする. u1, · · ·, un ∈ V について, このうち, どの n−1 も 1 次 独立であつたとしても, これら n 個の vectors が 1 次独立とは限らない. 一般の n について
V =Rn 内のvectors を例に挙げて示せ.