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第 2 章 収益認識の基礎概念 -概念フレームワークを中心

第 2 節 FASB の概念フレームワークについて

米国においては、1972年にはプライベートセクターとして、独立した会計基準設定主体 FASBが設立されている。FASBのもとで会計基準設定方式を従来のピースミール・アプロ ーチから、概念的アプローチに転換することが必要とされた。概念フレームワークは、この ような会計基準の転換を方向づけるための、指導原理的指針として設定される(安藤, 1996, 22頁)。一連のFASB概念フレームワークは1978年から2000年にかけて以下のものが公 表されている。

(1) 概念フレームワーク 第1 号(Statement of Financial Accounting Concepts No.1)

「営利企業の財務報告の基本目的」(Objectives of Financial Reporting by Business Enterprises)(1978年)

(2) 同 第 2 号(Statement of Financial Accounting Concepts No.2)「会計情報の質的 特徴」(Qualitative Characteristics of Accounting Information)(1980年)

(3) 同 第4号(Statement of Financial Accounting Concepts No.4)「非営利組織体の財 務報告の基本目的」(Objective of Financial Reporting by Non-business Organization)

(1980年)

(4) 同 第 5 号(Statement of Financial Accounting Concepts No.5)「営利企業の財務 諸表における認識と測定」(Recognition and Measurement in Financial Statement Business Enterprises )(1984年)

(5) 同 第 6 2)号(Statement of Financial Accounting Concepts No.6)「財務諸表の構成

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要素」(Elements of Financial Statements of Business Enterprises)(1985年)

(6) 同 第 7 号(Statement of Financial Accounting Concepts No.7)「会計測定におけ るキャッシュ・フロー情報 および現在価値の活用」(Using Cash Flow Information and Present Value in Accounting )(2000年)

その後、IASBとの共同プロジェクト3)での概念フレームワークの改訂作業により、FASB は概念フレームワーク第1号および第2号を、「財務報告のための概念フレームワーク第1 章一般目的財務報告の目的・第3章有用な財務情報の質的特徴」( FASB, Statement of Financial Accounting Concept No.8, Conceptual Framework for Financial Reporting, Chapter I, The Objective of General Purpose Financial Reporting, and Chapter 3,Qualitative Characteristics of Useful Financial Information 以下、概念フレ ームワーク第8号)(2010年)に置き換えている。

FASB概念フレームワークで、財務諸表の収益認識の問題を具体的に取り上げているの は第5号ではあるが、この章ではFASB概念フレームワークが、「営利企業の財務報告の 基本目的」、「会計情報の質的特徴4)」、「営利企業の財務諸表における認識と測定」そして

「財務諸表の構成要素」の順に公表されてきたのに倣い、第8号、第5号、および第6号 の順に取り上げ、概念フレームワークの概要を理解しながら、その収益認識に対する考え 方の把握を試みる。

1 第 8 号 財務報告の目的と質的特性について

先ず、概念フレームワーク第8号では、一般目的の財務報告の目的は、「既存および潜在 的な投資家、貸付者、および他の債権者が、企業に対して資金提供の意思決定を行う際の有 用な財務情報を提供することにある」(FASB, 2010b, p.1)としている。つまり企業に資金 を提供するものを対象にして、その意思決定に際しての有用性を財務報告の目的としてい る。

次に投資家、債権者などの資金を提供するものが、その企業についての意思決定を行う 際に財務情報が有用なものとなるには、「目的適合性」(relevance)と「忠実な表現(faithful representation)という2つの質的特性(特徴)がその財務情報に含まれているべき

(FASB, 2010b, p.16)としている。さらには、「比較可能性」(comparability)、「検証可

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能性」(verifiability)、「適宜性」(timeliness)および「理解可能性」(understandability) は、財務情報の有用性を高めるための補完的な質的特性である(FASB, 2010b, p.16)と される。この質的な特性における概念図は図表2-2の通りである。

図表2-2 質的特性の概念図

(出所:伊藤(2012,107頁)を参考に筆者作成)

財務報告は、言葉と数字で経済事象を表したものであり、財務報告が有用なものであるに は、財務報告の情報は目的に対して適合するものであり、かつ表示する現象を「忠実に」表 現しなければならない。また完全に忠実に表現するには完全(complete)で、中立(neutral)

で、誤りがない(free from error)ものでなければならない(FASB, 2010b, p.17)とされる。

財務報告の定義には、保守主義、検証可能性をなどの性質は含まれていないと考える。この 忠実な表現が、意思決定有用性を支える基本的な質的特性となっているのである。これまで 財務報告の質的特性について論じていた概念フレームワーク第 2 号で、意思決定の有用性 を支える基本的な質的特性の地位にあったのは、信頼性(reliability)であった。会計情報が 信頼しうるものでなければならないという、漠然とした、あいまいな性質であり会計情報の 信頼性は、区別することが望ましい二つの特徴すなわち表現の忠実性と検証可能性から生 じる」(FASB, 1980, 訳書92頁)とされていた。この点は本節の第4項で述べる概念フレ ームワーク第 5 号で示された工事契約に係る考え方とともに、本論文で工事進行基準を検

理解可能性 比較可能性

目的適合 性

信頼性

財務情報が有用になるための基本的な質的特性

財務報告の目的=資金提供の意思決定を行う際の有用な財務情報の提供 すること

改訂 忠実な表現 意思決定有用性

財務情報の有用性を高める補完的な質的特性 検証可能性 適宜性

37 討する上で考慮すべき重要ポイントの一つとした。

2 第 5 号「営利企業の財務諸表における認識と測定」について

概念フレームワーク第 5 号では、いかなる情報を、いつ財務諸表に正式に記載するべき かを判断するための、基本的な基準が提示されている。収益の時点問題もその一つのテーマ となっている。

認識とは、資産、負債、収益、費用またはこれらに類するものを、企業の財務諸表に正式 に記録するかまたは記載するプロセス、どの会計期間に、これらの財務情報を計上するかを 決定することである。概念フレームワーク第5号ではこの認識については、「認識の概念を 収益に対するものに限定せず、資産のみならず会計上のあらゆる項目まで拡張」していると 指摘されている(津守, 2002, 280頁)。

また測定は、認識された項目についての情報を数値で示すプロセスであり、情報項目を数 量化することであるが、「認識と測定」においては、この概念フレームワークにおける特徴 的なヒエラルキー構造に従って、認識と測定の概念が定められている。特に、この構造のな かでは、測定そのものが認識概念のひとつの構成要素の地位が与えられているという特徴 がある。

肝心の収益認識の時期については、収益および利得が認識される以前に、それらが存在す ることの事実と金額をある程度まで確実なものにしておくこと、更に企業の一会計期間中 の収益および利得が、①実現したまたは実現可能および、②稼得される、という要件を考慮 することが必要であるとされる(FASB, 1984, 訳書 249 頁)。つまり、収益を認識する時点 以前に、収益あるいは稼得が既に形成され存在しており、時間軸に沿ってその時期、契機を 実現あるいは実現可能性、稼得の度合いによって決定するというメカニズムが指示されて いると考える。また、収益が実現または実現可能という要件からは、それらの事実と金額を、

ある程度まで確実なものにしておくべきであるという、保守性、慎重性の考え方がその背景 に存在していることが窺える。

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3 第 6 号「財務諸表の構成要素」について

概念フレームワーク第6号では、有用な会計情報を選択するために設けられたフィルタ

―を通過した会計情報が、財務諸表の構成要素となる。このフィルターを通過した構成要 素は、資産、負債、持分または純資産、出資者による投資、出資者への分配、包括利益、収 益、費用、利得、損失に区分されるが、重要なポイントは、資産と負債以外の8つの構成 要素が、すべて資産と負債という構成要素から定義されるという、つまり資産負債アプロー チに依拠した定義のされ方にある(広瀬, 1995, 48頁)。

資産を「発生の可能性の高い経済的便益」(FASB, 1985, 訳書297頁)と定義することか ら始まり、負債を、「資産(発生の可能性の高い経済的便益)の犠牲」(FASB, 1985, 訳書297 頁)として定義した上で「負債を控除した後に残るある実体の資産に対する残余請求権」で 持分(あるいは純資産)を規定(FASB, 1985, 訳書308頁)し、この流れの最終段階で、

一期間における営利企業の持分の変動(FASB,1985, 訳書320頁)として、包括利益を規定す るというオーダーで利益概念が表現されている。「収益-費用=利益」という利益概念の等 式の兆候はここでは見当たらない。

概念フレームワーク第6号における「包括利益」の考え方は、純資産をあらたに持分の変 動と置き換えているが、期首の持分と期末の持分の差額概念で捉えており、基本的な資産負 債アプローチに基づいていると考えられる。

収益と費用についても、その財務諸表の構成要素としての定義が与えられている。収益は

「主要なまたは中心的な営業活動を構成するその他の活動...................

による、実体の資産の流入その 他の増加もしくは負債の弁済(または両者の組み合わせ)」(FASB, 1985, 訳書324頁)、費 用は「実体の資産の流出その他の費消もしくは負債の発生(または両者の組み合わせ)」

(FASB, 1985, 訳書326頁)として定義されており、ストック概念で示されている。しかし、

概念フレームワーク第6号での収益と費用は、「進行中」の中心的な営業活動との関係でと らえられている。それは、企業の中心的な営業活動の重要な発生事態として、「財貨の引渡」、

「生産」、「用役の提供」(FASB, 1985, 訳書 324-326頁)が挙げられており、これらの営業 活動が存在し、その活動からストック概念としての資産と負債の変化が発生し、結果として 収益と費用が生み出される。営業活動から直接、収益と費用が発生するとは捉えられていな いのである。

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4 工事契約に係る考え方

長期の請負工事については、完成時の成果の合理的見積りが可能であること、かつ進捗度 の信頼しうる測定値が入手できることを前提に、「収益は稼得に応じ―生産に応じ―工事進 行基準によって認識される」 (FASB, 1984, 訳書 251 頁) ことが概念フレームワーク第 5 号で述べられている。ここでは、長期の請負工事契約のようなケースでは、「しばしば、引 渡時点まで引延ばされた情報よりも、若干の検証可能性が犠牲にされるにせよ、きわめて目 的に適合しかつ表現の忠実性......

に富む情報もたらされてきた」(FASB, 1984, 訳書251頁) と して、「検証可能性」より「表現の忠実性」を重視して、工事進行基準適用の妥当性を論じ ていると考える。

この概念フレームワーク第5号の中では、概念フレームワーク第2号での規定と同じく、

「信頼性は、(目的適合性と対をなす)もう一方の基本的な質的特性である。ある項目につ いての情報が信頼しうるものでるためには、当該情報が表現の忠実性、検証可能性および中 立性という特性を有するものでなければならない」(FASB, 1984, 訳書 246 頁)とされ、検 証可能性と表現の忠実性は、信頼性という基本的な上位の質的特性を支える下位の特性で あった3)

概念フレームワークのレベルにおいて、工事契約に関して具体的に、生産に応じた用役の 提供に応じ、工事進行基準によって収益認識すべきことが述べられているだけでなく、しか も、成果の確実性...

という言葉ではなく、成果の合理的な見積り...

を条件に、検証可能性よりも 表現の忠実性を重視して、工事進行基準の適用を容認している。工事進行基準は実現主義か らの例外というような表現ではなく、表現の忠実性に基づいてその適応が認められている 見解が示されているのである。