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第 1 章 EPC 契約案件に係る基本問題

第 6 節 小括

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していると考える。リスク負担をもって売主と買主の責任の分岐点とするという考え方が あっても、収益認識の条件には直接結びついていないのである。

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第5節では、「所有権」の意味を検討している。売主が所有権を持てば、物品を保持、返 還請求、あるいは代金不払いへの損害賠償が可能になる権利であり、買主に所有権があれば、

物品を自由にできる優先権が主張できるという権利である。次に、「引渡し条件」「支払条件

(時期)」「決済条件」と「所有権」という複数の構成要素の組合せを複合的に考慮に入れる 場合、所有権の移転は単純なものではなくなる。ウィーン売買条約やインコタームズは、所 有権とは切り離しリスク負担を考えていることを述べた。例えば、UCCでは、個々の取引 における個々の当事者の権利義務を個別的に定めていることが多く、それらは所有権の所 在に結び付けられていないのである。通常の国際取引では、「所有権」でなく「リスク負担」

に着目されることになる理由が明らかになった。

第 6 節では、工事契約では国際的なプラント輸出契約において代表的な契約の雛型とな

るFIDICにおける「支払い時期」、「決済条件」、「引渡条件」、および「リスクの分担」につ

いて検討した。その中で、請負者も発注者もそれぞれ、相手方に契約上の過失、故意による 行為および契約違反がない限り、相手側にクレーム、損害、損失および費用が及ばないよう にするという基本的なルールが定められている。またFIDIC契約約款には、所有権の移転 について特別な規定は存在せず、リスク負担の条項が存在するだけである。FIDIC 契約約 款においてもリスク負担を所有権とは切り離して考えるアプローチがとられているのであ る。FIDIC 契約約款の工事リスクに対する基本的な考え方を更に検討することにすると、

リスク負担は、最も廉価にリスクを負担できる、リスクを最も管理し易いものがリスクを負 うという原点に立っていることを述べた。

典型的な物品の売買契約、工事契約の雛形においては、所有権ではなく、「リスク」(の負 担)が売主と買主との「責任の分岐点」に関してのキーワードとなっている。その理由は、

(1)所有権と、他の契約を構成する法的な要素を組み合わせて、契約当事者間の責任の分岐 点を決定しようとすれば、論点が複雑化してしまう。この点を回避していること、(2)契約 当事者にとって、契約の履行が当初の想定から乖離した状態が出現した場合での責任区分 を明確化し、単純化していること、(3)さらにリスクを最も管理し易いものがリスクを負う という合理性が働いているということにある。これが本章における問題意識に対する検討 の結果である。しかし重要なのは、リスク負担を以て売主と買主の責任の分岐点とされるに しても、会計上の収益認識の方法には直接結びついていないという点なのである。

29 注)

1) 国際的な物品売買についての統一法制定の目的で、国際連合国際商取引法委員会 (UNCITRAL)により起草された。本論文では、新堀(2009)の181頁から241頁に付録と て掲載されている、「外務省がホームページ上で公表しているもの」のウィーン売買条約(英 和対照)を参照した。

2) 国際商工会議所(ICC, International Chamber of Commerce)が定めた典型的な貿易条 である。

3) 危険移転時期についてはウィーン売買条約第67条及び68条に規定され、物品の引渡

義務については第31条(a)に規定される。

4) ウィーン売買条約第 4 条に「特に次の事項については規定しない。「(b) 売却された物 品の所有権について契約が持ちうる効果」(新堀,2009,185 頁)とある。

5) ウィーン売買条約第 3 条に「この条約は、物品を供給する当事者の義務の主要な部分 が労働その他の役務の提供から成る契約については、適用しない」(新堀,2009,185 頁) とされる。本論文では役務提供=工事として論じる。

6) ウィーン売買条約第 31 条「(a)売買契約が物品の運送を伴う場合には、買主に送付す るために物品を最初の運送人に交付すること」(新堀,2009,197頁)とされる。

7) ウィーン売買条約では、その第3部第4章は、第66条から第70条において、危険の

移転(passing of risk)について規定している(新堀,2009,219-221頁)。

8) 船荷証券、送り状(Invoice)、貨物明細書(Packing List)等から構成される書類。

9) 現金そのものの輸送によらないで「金融機関を介して」債権債務の決済を行う仕組み を為替という。

10) 分割所有権利益の理論として、債権が弁済されない場合に物品を処分する権利である 担保利益と所有権から担保利益を差し引いた残りの受益利益を2人の人によって分有さ れるという考え方が示されている(新堀・椿, 2006, 8頁)。

11) イギリスの物品売買法では危険の負担者の決定を「所有権で一括して処理するアプロ ーチ」が採用されていること、またウィーン売買条約やインコタームズはUCCのよう に所有権の所在に頼らない考え方を採用していることが示されている(新堀・椿,2006, 3頁)。

12) 工事施工主体が工事施工国へ、着工準備のため人材・機材を送り込むことを開始する 意味で使用される。

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