第 1 章 EPC 契約案件に係る基本問題
第 4 節 支払い条件(時期) ・決済条件と所有権の関係
1 所有権の意義
本節では、国際商取引法上での「所有権」移転の意義を明らかにしておく。所有権が売主 と買主の何れにあるかで、その所有権をもつことの効果が区分できるとされる。売主と買主 の所有権の意味をまとめれば以下の通りである(中村, 2008, 139 頁及び新堀・椿, 2006, 2頁)。
(1) 売主にとっての「所有権」の意味
商品が引渡前であるケースでは、買主が支払い義務の履行を怠っても、買主が支払い不 能になっても、売主は商品の引渡を拒否して商品を保持できる。商品の引渡後であるケース では、所有権が売主にあれば、売主は品物の返還を要求できる。さらに所有権が既に買主に 移転しているケースでは、買主が支払義務履行を怠たり支払い不能となる場合は、売主は売 買代金及びその不払いに伴う損害賠償ができるだけとなる。(商品に対する特別の権利はな い)ただし、売主がまだ商品を占有していれば、それを留置、又は引渡を拒否して、保持す ることができる。
21 (2) 買主にとっての「所有権」の意味
売主が商品の引渡前に破産、会社解散に陥っても買主が既に所有権を得ていれば、買主は 商品に対する優先権を主張できる。
上記から明らかになるのは、所有権とは「物品」を自由に(使用、収益および処分)する こと、商品に対しての優先権を主張できる権利と見なすことができる。
2 所有権の移転
所有権の移転時期については、インコタームズもウィーン売買条約においても、それを規 定していないことは述べた。ウィーン売買条約は、所有権の移転を売主の義務としているが、
いつ、どのようにして所有権が移転されるかについては、条約の適用範囲外の問題(新 堀,2009,185頁)としている。一般的に所有権の移転は売買当事者の合意により定められる。
つまり当事者間の取り決め、契約で規定することが基本であるが、通常の売買契約で所有権 の移転について明確に文章化しているものは多くない。国際商取引の実務上では、所有権の 移転問題より、むしろリスク負担に注目している。この点は会計上の物品販売の「収益認識」
において、所有権に付随したリスクの移転をキーワードに収益認識時点が判断される考え 方との共通性が見られる。
しかし、支払条件と決済条件は、所有権の移転との関係を考察する場合に考慮しなければ ならない、重要な契約上の構成要素である。先ず、物品の代金が買主から売主に対して支払 われる時に所有権が移転されると考えることは理解できる。しかし支払条件によっては、代 金支払いの完了まで所有権が移転しないのである。例えば航空機での輸送(Air Cargo)など の場合は、買手側の手元に物品がすでに到着して、物品の引渡を受けているにも係らず、代 金の決済を完了していなければ、物品を自由に処分できないという事態も考えられる。一方 逆に、前払いで100%代金の支払いが完了していても、輸送期間が長ければ、売主からの物 品引渡が長い間未了となる場合も考えられる。
次に、物品の引渡時点に所有権が移転されると考えることもできる。例えば、代金の支 払前(代金決済前)でも、引渡条件とリスク負担の移転に合わせ、物品が売主の施設内で輸 送人に引渡された時点、あるいは物品が船上に積み込まれた時点に所有権も移転されると 考えることもできる。つまり引渡条件とリスク負担の移転の組合せにより、所有権の移転を
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国際商取引のテキストでは、物品の引渡し時点で所有権の移転を認める場合、所有権が包 括的に移転すると考えられるので理論構成としては非常に単純だが、代金の支払い時に所 有権の移転を認める場合は「所有権の内容の一部は物品の引渡しの時に移転すると考える」
(新堀・椿, 2006, 6頁及び絹巻2009, 189頁)という考え方が示されている。後者の場合 は所有権が「分割10)」されるという考え方に立っていることによる(新堀・椿, 2006, 6頁)。 このような段階的、分割的に所有権が移動、あるいは消滅する考え方の存在を背景として、
引渡条件、支払い条件、各要素の組み合せ型まで勘案すると、売主側が物品の引渡し後も引 き続き取引の対象となった物品に関わりあいを持つような場合も想定されてくる。
所有権の移転は一元的なものではない。一方「現在の貿易取引では、船荷証券に貨物に対 する支配権(所有権、処分権等)を化体させ、この船荷証券を所有する者が正当な貨物に対 する所有者とされ、船荷証券を含む船積書類を担保とした荷為替手形によって決済を行っ ている。そこで、米国統一商法典(Uniform Commercial Code 以下、UCC)では、所有権 で一括処理(lump-title approach)することを捨て、売主と買主の間で発生する個々の問題の 解決策を、具体的に規定する方法を採用した。要するに、所有権という抽象的概念に代わっ て、目に見える言葉と行為で証明できるようにした」(絹巻,1997, 9頁)とする見解も示さ れている11)。
3 米国統一商法典(UCC)
上記の「所有権というような抽象的概念を離れた具体的な規定方法をとった米国統一商 法典ではそのリスク負担についても所有権の存在から離れて決定されていると考える。
UCCにおいては所有権より広い概念である権原(Title)が用いられているが、その中核を なす所有権と置き換えて確認することができる」(田沢, 2000, 13頁)とされる。「売主、買 主、購入者、またはその他の第三者の権利、義務及び救済方法に関して、本編の各規定は、
その規定が物品の権原について定める場合は別として、その権原とは無関係に適用される」
(田島, 2002, 52頁)として、「UCCでは、個々の取引において、目的物の所有権の所在が いずれにあるかを問題としない。UCCは個々の取引における、個々の当事者の権利義務を 個別的に定めていることが多く、それらは所有権の所在に結び付けられていないのである。
従って、UCCの適用に当たっては、所有権について特に言及している規定を除いては、所
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有権の所在や移転時期は、問題とならないのである」(田沢, 2000, 13頁)とされている。
リスク負担に関しては、損失の危険(risk of loss)が売主から買主へ移転する時期は、当 事者の意思解釈によって決定される(田沢, 2000, 60頁)とされ、物品の毀損滅失に関する リスク負担についても、所有権の所在はその決定の基準ではない。当事者の合意がある場合 には、合意されたときにリスクが移転する(田沢, 2000,13頁)とされ、リスク負担につい てもウィーン売買条約同様に、契約上の合意が重視されている。