• 検索結果がありません。

第 2 章 収益認識の基礎概念 -概念フレームワークを中心

第 5 節 小括

概念フレームワークを取り上げ、会計上の基礎概念が収益認識をどのようにとらえてい るのか検討した。第1節では、収益と費用の定義を会計辞典、会計のテキストで確認した。

収益は、収益費用アプローチと資産負債アプローチの視点から定義されるのに対し、費用と は何かを規定する項目は存在せず、費用収益対応の原則、発生主義などの言葉との対応を図 りながら定義されている。1976討議資料においては、資産負債アプローチが、企業の経済 活動の結果としてもたらされる経済的資源とその資源を他の実体へ引渡す義務に着目して いるのに対し、収益費用アプローチは収益稼得活動という企業の経済活動そのものに着目 していた。

第2節で取り上げたFASBの概念フレームワークでは、資産を「経済的便益」と定義す ることから始まる。資産から負債を直接的に定義した上で、「資産-負債」で持分を規定す

50

る。その後に、「一期間における持分の変動」として「包括」利益を求めている。つまり資 産負債アプローチにより利益は決定されるという考え方に立脚している。

概念フレームワーク第 5 号では、その収益認識の時期の決定について、収益の認識は収 益および利得が認識される前に、それらの存在の事実と、金額をある程度まで確実なものに しておくべきとする。企業の一会計期間中の収益の認識は、①実現した、または実現可能お よび、②稼得される、という二つの要件を考慮することを求めている。ここでは実現、実現 可能、稼得という伝統的な収益認識の言葉によって、収益認識時点が規定されている。また この概念フレームワーク第 5 号では、工事契約において表現の忠実性を理由に、工事進行 基準による収益認識方法が適用されていることが述べられている。

概念フレームワーク第6号では、時間軸、つまり「進行中」の中心的な営業活動と、収益 および費用の関係を示している。中心的な営業活動の重要な発生イベントとして、「貨幣の 引渡」、「生産」および「用役の提供」が挙げられており、この収益・費用の形成活動を通し て資産と負債が生み出されるとされている。

概念フレームワーク第 8号では、概念フレームワーク第2号で意思決定の有用性を支え る基本的質的特性の地位にあった信頼性が、「忠実な表現」)に置き換わっている。この点は 概念フレームワーク第 5 号で示された工事契約に係る考え方とともに、本論文で工事進行 基準を検討する上で、考慮すべき重要ポイントとした。

第 3節の IASB の概念フレームワークにおいても資産負債アプローチにより利益計算が される。しかし収益は、経済的便益の増加であるとされ、収益そのものは具体的な形として 表現が困難である。その為「形」として資産の流入、あるいは増価または負債の減少の形を とることが重視されている。また2010年IASB概念フレームワークにおける基礎的な質的 特性の変化、つまり信頼性から忠実な表現への改訂に注目した。

第4節では、わが国の概念フレームワークを取り上げた。収益は「特定期間の期末までに 生じた資産の増加や負債の減少に見合う額のうち、投資のリスクから解放された部分」であ るとされる。つまり、収益は、投入要素に投下された資金が、キャッシュが獲得されたこと で、投資のリスクから解放されたときに、解放された部分が把握されたものである。費用は、

投入要素に投下された資金が費やされ、獲得されないと判断された場合に、投資のリスクか ら解放された部分として把握される。収益が資産の変動に見合うものであることは、その他 の概念フレームワークに共通している。しかし、わが国の概念フレームワークには独自の

「リスクからの解放」概念が導入されている。海外の概念フレームワークの動向を考えれば、

51

わが国の概念フレームワークにおいても、保守性、慎重性あるいは検証可能性の性格が強い 性質に立脚した、「リスクからの解放」概念に対して、表現の忠実性とのバランスを再検討 する必要性を示唆した。

注)

1) 会計学辞典は、発生主義について「企業会計では収益を発生主義で認識し、その額を実

現主義でもって確定することを原則としている。そして費用も、同じく発生主義で認識し、

収益・費用対応の原則でもって、実現した収益との対応が図られ、その額を確定すること を原則としている」(安藤, 2007, 1117頁)と説明している。

2) 当初の第3号「営利企業の財務諸表の構成要素」が第6号に置き換えられた。

3) 2004年10月のIASBとFASBの共同会議で概念フレームワークの再検討のプロジェ クトを両者の協議議題とすることに決定、AからHまでの8フェイズにわけて進められ ている。

4) 先ず本論文では会計情報の「質的特徴」(Qualitative Characteristics )でなく「質的特 性」と表現する。

次にFASBの概念フレームワーク第2号 における表現の忠実性(representational faithfulness)とは「ある測定値または記述と、それらが表現しようとする現象とが対 応または一致すること」(FASB, 1980, 訳書92頁)とされる。この「表現の忠実性」に 関しては、IASBの2010年概念フレームワークとFASB概念フレームワーク第8号で は「忠実な表現」(faithful representation)、わが国の概念フレームワークでは「表現 の忠実性」と表現される。本論文では表現の忠実性(representational faithfulness)と

「忠実な表現」(faithful representation)を同義語として論じる。

検証可能性という特性は、「会計情報の有用性を高める一因となるものである」

(FASB,1980, 訳書 100 頁)とされている。また信頼性については「会計の基本理念は 情報が目的に適合するものであり、かつ信頼しうるものでなければならない点にある。

従って、信頼しうるといえる会計数値に求められる性質を明らかにすることが重要であ る」(FASB,1980, 訳書91頁)とされる。

5) IFRS 財団の定款第2条(a)で「公益に資するように、明確に示された原則に基づいて

質の高い、理解可能で強制力のあるグローバルに受け入れられる一組の財務報告を開発 する」ことを目的としており、この点から財務諸表から財務報告へ変化してきている

(秋葉, 2013, 33頁)。

6) 会計情報には、投資家が企業の不確実な成果を予測するのに有用であることが期待され るということ。

7) 信頼に足る会計情報を指している。「意思決定との関連性」との間では、同時に性質が

満たされる場合もトレードオフが生じる場合もある(企業会計基準委員会, 2006,13頁)。

8) 信頼性とは、中立性・検証可能性・表現の忠実性などに支えられ、会計情報が信頼に 足りる情報であることを指す(企業会計基準委員会, 2006,12頁)とされる。

52