13.5 nmの極紫外線露光(EUVL)は、32 nmのノード以下のICデバイスを製造するた
めの次世代露光(NGL)装置用の最有力光源として期待されている。 EUV露光装置には、実 用上100ウエハース/時間以上のスループットの達成が求められるが,これを実現するには EUV出力パワーとして115 W以上のパワーが要求されている。さらに、プラズマの近くに 置かれた集光鏡の寿命は、EUV露光システムのコストを最小にするために十分長くなけれ ばならない。したがって、露光用EUV光源に要求される性能としては、EUVパワー増加 のための励起レーザパワーの高出力化とレーザパワーから EUV 光への変換効率の改善に 加えて、光学素子の長寿命化が主要な技術的課題である。
4-1.光学素子長寿命化の課題
4-1-1. EUV 光源からのデブリ
LPP方式のEUV光源では、Snのドロップレット(液滴)にCO2レーザ光を集光させて 照射し、Snターゲットをプラズマ化させることでEUV光を発生する。このSnプラズマか
ら13.5 nmを中心としたEUV光が生成されるが、同時にSnイオンや中性粒子、ドロップ
レットにレーザを集光することで粉砕したSn微粒子が発生する。これらは、デブリと呼ば れ、EUV光源の光学素子寿命に大きな影響を与える。イオンは、レーザ励起でターゲット がプラズマ化し、EUV光を発生する際に生成される。同時に電子が生成される。また、中 性粒子は、レーザで励起されたターゲットのうちプラズマ化されないもの、また、プラズ マ化したイオンのうち、EUV 光発生後、電子と再結合し、中性化したものも存在しうる。
EUVプラズマからのデブリ発生を図4-1-1に示す。
図4-1-1. EUVプラズマからのデブリ発生
Particle
38
4-1-2. デブリによる光学素子への影響
EUV光源用光学素子の寿命は、主に反射率低下で定義されることとなる。光学素子の反 射率低下は、以下の3種類が原因と考えられる。
1. 堆積 (deposition) 2. 削れ (sputtering) 3. 侵食 (implantation)
各原因による光学素子の反射率低下の模式図を図4-1-2に示す。イオンは、光学素子に衝 突し、EUV用多層膜を侵食する。または、多層膜を削ることになる。また、中性粒子およ び微粒子は、Snは常温で固体であるため、光学素子上に堆積してしまう。そのため、反射 率を低下させ、光学素子を使用できなくしてしまう。通常、光学素子の寿命としては、10 % の反射率低下により定義されている。堆積、削れに対しての許容量を以下に評価する。
図4-1-2. 各原因による光学素子の反射率低下メカニズム
例えば、Snの中性粒子および微粒子による多層膜への堆積の場合には、図4-1-3のよう な反射率低下を示す32,33)。横軸は、Snの堆積層厚み、縦軸は、多層膜の反射率を示す。堆 積層が増加するにしたがって、反射率が低下することがわかる。この結果によると、堆積 層厚みが1 nm以下で、反射率低下が10%以上となることがわかる。よって、Snの堆積層 の許容厚みは、1 nm以下ということになる。
39
図4-1-3 Snの堆積層厚みによる反射率低下
また、イオンによる多層膜の削れの場合には、多層膜の残存数と反射率の関係を考える。
図4-1-4に多層膜の層数と、反射率の関係を示す32,33)。この結果から、多層膜は、50層以
上でほぼ一定の反射率をもち、50 層よりも多層膜の層数が低下すると、反射率が低下して しまうことがわかる。反射率の低下が10 %となる多層膜の層数は、25層である。よって、
多層膜の層数が25層残っていれば、反射率低下は、10 %以下に抑えられることとなる。
0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6 0.7 0.8
0 20 40 60 80 100
number of multilayer periods
reflectivit
図4-1-4 多層膜の残存数と反射率
ただし、上記許容厚みおよび許容層数は、多層膜に一様に堆積した場合および多層膜が 一様に削れてしまった場合を示すものであり、もし、多層膜表面に、不均一に堆積した場
40
合および不均一に削れてしまった場合には、以下の式にならった表面粗さにより許容され る値となる。
EUVの波長は、非常に短く、多層膜ミラーの反射率は、高精度の成膜とコート膜基板の 高い平坦度が要求される。要求される多層膜の平坦度と、基板の平坦度は、以下の Debye
Wallerの式から見積もることができる2)。 Debye Wallerの式は、もともとX線回折にお
いて、回折強度と物質を構成する原子の格子点からの変移量との関係を示すものである。
多層膜の表面粗さをσとすると、反射率Rは次式で示される。
2 0
cos exp 4
R R
ここで、λは波長 (nm),σは表面粗さ(rms nm)、θは多層膜面と入射光の成す角、R0は 粗さのない理想的な多層膜の反射率を示す。ここで、波長13.5nm、垂直入射の場合として θ=90°、理想的な場合の反射率として、R0 =70%として、表面粗さに対する反射率Rを計 算した結果を図4-1-5に示す。反射率低下10%のためには、約0.3nm(rms)の平坦度の悪化 しか許されないこととなる。
図4-1-5. ミラー表面粗さと反射率
41
プラズマターゲットがXeのような希ガスであれば、常温で気体であるため、1.の堆積は 起こらず、主には、2.および3.の高エネルギー粒子による削れや浸食が主要になるものと考 えられる。これまでに、Xeプラズマからの高速イオンの観測が報告されており34,35)、高速 イオンによる集光ミラーの損傷が報告されている 36)。ただし、プラズマからの高エネルギ ー粒子は、イオンであるため、荷電粒子である。したがって、電場、磁場により動きをコ ントロールすることが可能である。これまで、電場、磁場といった技術による光学素子の 長寿命化技術が報告されている37,38)。
しかし、現在実用化EUV光源として、期待されている構成は、高効率化の観点から常温 で固体であるSnターゲットとCO2レーザの組み合わせである。Snターゲットを用いた場 合には、Snは常温で固体であるため、光学素子へ堆積してしまうことが考えられる。
42
4-2 磁場による長寿命化技術
先に示したように、主にプラズマは中性原子、電子、およびイオンから構成される。電 子、イオンといった荷電粒子であれば、電場、または磁場によってコントロール可能であ る。これが実験的に確認されて、特に磁場によりコントロール効果が、文献 39)、40)で報 告されている。磁場によるイオンコントロールの概念図を図4-2-1に示す。
図4-2-1. 磁場イオンコントロール概念図
磁場イオンコントロールは、プラズマ発光点とEUV光学素子の間に磁場を印加し、光学 素子に飛来する高速イオンの軌道をローレンツ力により曲げて、光学素子表面に入射する イオン密度を低減し損傷緩和を図るものである。
磁場イオンコントロールより必要となる磁束密度は、簡単のため以下の式のラーマ半径 rL と磁束密度 B の関係式から見積もりを行うことができる。プラズマ発光点から光学素 子までの距離をラーマ半径と考え、ラーマ半径がそれ以下であれば、光学素子表面に入射 するイオン密度を提言し、損傷が緩和されることとなる。ここで、mはイオンの質量、vは イオン速度、qはイオンの電荷である。
qB
r
Lmv
43
4-3 ECR 条件を用いた中性粒子イオン化
4-3-1 ECR 条件を用いたイオン化技術
中性粒子は、荷電粒子ではないため、上記にあげた電場、磁場では、中性粒子をコント ロールすることはできない。しかし、EUV光学素子表面での堆積を避けるためには、中性 粒子をコントロールする必要がある。電場、磁場でコントロールするためには、中性粒子 をイオン化(荷電粒子化)する必要がある。イオン化方法としては、文献41), 42), 43)に電 子衝突(例えば、電子サイクロトロン共鳴での励起)と光子吸収(例えば、レーザ共鳴イオン 化)があげられる。EUV光源において、磁場を利用したEUV光学素子の長寿命化技術とし てイオンコントロール技術を報告されている。磁場中では、荷電粒子(例えば、電子、イオ ン)は磁場からのローレンツ力のためラーマ運動をして磁場方向へと流れていく。本研究で は 、 磁 場 中 に マ イ ク ロ 波 を 導 入 し 、 電 子 サ イ ク ロ ト ロ ン 共 鳴 (Electron Cyclotron
Resonance:ECR)条件を用いた中性粒子イオン化によりEUV光学素子の長寿命化技術検
証を行った。この方式の利点は、荷電粒子コントロール用の磁石をECR条件の磁場として 利用できる点と、マイクロ波により必要な領域にのみエネルギーを投入できる点にあると 考える。ECR条件による中性粒子イオン化の概念図を図4-3-1に示す。
図4-3-1. ECR条件による中性粒子イオン化の概念図
ECR 条件でのイオン化は、磁場中で円運動を行う電子に、共鳴の起こる周波数帯のマイ クロ波を照射し、これにより加速された電子との衝突により、中性粒子のイオン化を図る ものである。ECR条件でのイオン化の詳細は以下の通りである44)。
運動する荷電粒子は、磁界によって運動方向と常に垂直な方向にローレンツ力を受ける。
B
v
q
F
44
ここで、q(C)は荷電粒子の電荷、v(m/s)は荷電粒子の速度、B(T)は磁場の磁束密 度である。ローレンツ力は、荷電粒子の運動方向と常に垂直な方向に作用するため、荷電 粒子は、図4-3-1に示すように磁力線に巻きつくような旋回運動、すなわちサイクロトロン 運動を行う。サイクロトロン運動の回転周波数 fc(サイクロトロン周波数)または、角周 波数ωcは、荷電粒子の速さによらず一定で、以下の式で表される。
m fc qB
2 または m qB
c
m は荷電粒子の質量である。ここで、このサイクロトロン周波数と同じ周波数で変化す る電界(マイクロ波)を印加すると、荷電粒子は共鳴を起こし、電界から効率よくエネル ギーを得る。このサイクロトロン共鳴状態では、荷電粒子は、常に加速するため、荷電粒 子の軌道は、図4-3-1に示すようならせん軌道を描く。ここで、上式中の荷電粒子を電子と して、qを素電荷e、mを電子の質量meとすると、ECR条件は、以下の式で与えられる。
B fe 2.8 1010
上式で示された磁束密度とサイクロトロン周波数との関係は図 4-3-2グラフで表される。
今回の実験で使用する磁束密度 0.5T におけるサイクロトロン周波数は、14GHz のマイク ロ波となる。
本章では、レーザ生成 Sn プラズマでの光学素子の長寿命化のための、ECR 条件を用い た中性粒子イオン化による効果検証結果を報告する。
m B fe e
2