第 4 章 Rb-HTB の異方的誘電特性の研究
4.4. 考察
4.4.1. EELS ピークのエネルギーと幅
66
5 つの粒子のピークエネルギーと FWHM を同様に評価した。ピークエネルギーと FWHM を図 43(a)(b)にそれぞれ示す。比較のため Cs-HTB の結果23を併せて示した。Rb-HTB で 観測された Peak A および B のピークエネルギーは、それぞれ対応する Cs-HTB のピーク エネルギーと比較して、いずれも低い値を示した。この結果は、Rb-HTB のキャリア電子密 度が Cs-HTB よりも小さいことを示している。また、各ピークの FWHM 値は Cs-HTB の それよりも大きくなっている。これは、Rb-HTB のプラズモン振動のダンピングが Cs-HTB よりも大きいことを意味する。以上の結果は、Rb-HTB のキャリア電子の挙動が Cs-HTB のそれとは異なることを示している。
図 43 (a) EELS ピークエネルギーおよび(b) 半価幅(FWHM)の q 分散。Cs-HTB のデータ23を併せて 示した。
67
Augmented Wave (PAW)法を採用した VASP (Vienna Ab Initio Simulation Package)パッケ
ージ34–37を使用した。バンド構造は一般化勾配近似(GGA)を用いた密度汎関数理論(DFT)
に基づいて計算した。U パラメータを考慮しない DFT 計算は HTB 材料のバンドギャップ を過小評価することが報告されている17が、本研究では Rb-HTB と Cs-HTB の単純な比較 のために採用した。構造は完全結晶と仮定し、格子定数は Hussain ら21の文献値を用いた。
平面波のカットオフエネルギーは 400eV とし、k 点数は 5×5×5 とした。
DFT 計算の結果から⊥c, //c 方向の偏光に対応する異方性誘電関数εxxとεzzを導出し た。図 44(a)と(b)はそれぞれ異方性誘電関数の実部と虚部を示している。計算された Rb-HTB の誘電関数は、Cs-Rb-HTB の誘電関数とほぼ同じであった。
68
図 44 理論計算により得られた Rb-HTB および Cs-HTB の誘電特性。いずれも HTB 構造の⊥c方向(εxx
に対応、点線)および//c方向(εzzに対応、実線)の誘電特性についてそれぞれ示してある。(a) (b): そ れぞれ誘電関数の実部および虚部。各挿入図はより広いエネルギー範囲(0~5 eV)の誘電関数。(c) 誘電関 数から Im(1/ε)により計算した損失関数。
十分に小さい q 値の場合、損失関数は Im[-1/(qi, )]~Im[-1/ii()](i=x, y, z)と近似す ることができる28。そこで Peak A と Peak B の異方的プラズモンピークと比較するために、
εxxと εzzを用いて損失関数を計算した。結果を図 44(c)に示す。⊥c 方向のプラズマ振動 に対応する損失関数のプロファイルは、Rb-HTB と Cs-HTB でほぼ同じであった。εzzに よる損失関数では、Rb-HTB では//c方向に振動するプラズモンピークが 2.0 eV に位置し ており、Cs-HTB のピークエネルギー1.9 eV よりも高いエネルギーを示した。このプラズ モンエネルギーの大小関係は実験結果とは逆の傾向である。
したがって、完全結晶の理論計算では実験結果を説明することができなかった。実験結果 の節で述べたように、Rb-HTB の電子回折図形にはストリーク強度が観測された。このス
69
トリーク強度は、101̅0方向(⊥c方向)に存在する何らかの構造欠陥の存在を示していると 考えられる。このような結晶構造の不完全性は、次節で述べるように、プラズモンのエネル ギー位置や幅に影響を与える可能性がある。