定理 5.1 f(z) がCの星形開集合D で連続であり,D からz0 ∈D を除いた集合D\{z0} で正則であれば,D内の区分的になめらかな任意の閉曲線 C に対して
∫
C
f(z)dz = 0
定理 5.2 (Cauchyの積分公式) f(z) を C の星形開集合 D で正則な関数とする.C を D 内の閉曲線,z0 を C 上にはないD の点とする.このとき,
1 2πi
∫
C
f(z) z−z0
dz =ν(C, z0)f(z0) が成立する.
C D
z0
証明: D を定義域とする複素関数 F(z) を
F(z) =
f(z)−f(z0) z−z0
(z ̸=z0 のとき) f′(z0) (z =z0 のとき)
で定義すると,F(z) は D \ {z0} で正則であり,z0 では連続である.従って定理5.1に より
0 =
∫
C
F(z) =
∫
C
f(z)
z−z0dz−f(z0)
∫
C
1
z−z0 dz =
∫
C
f(z)
z−z0 dz−2πi f(z0)ν(C, z0) が成立する.これから求める公式を得る.□
系 5.1 αを複素数,R を正の実数として,f(z) を U(α;R) ={z ∈C| |z−α| < R} で正 則な複素関数とする.r を 0 < r < R を満たす任意の実数とすると,任意の z0 ∈U(α;r) について
1 2πi
∫
|z−α|=r
f(z)
z−z0dz = f(z0)
が成立する.ここで |z−α|= r はα を中心とする半径 r の円周(正の向き)を表す.
証明: C を円周 |z−z0|= r とすると,z0 は C の内側にあるから,ν(C, z0) = 1 である.
よって定理5.2より結論が成立する.□
例 5.4 r を正の実数として C を円周 |z| = r とする.複素数 z0 が |z0| < r を満たすと き,
∫
C
ez z−z0
dz = 2πiez0 が成立する.
問題 5.1 C を単位円周 |z| = 1 (を正の向きに1周する閉曲線)とするとき,次の線積 分の値を求めよ.
(1)
∫
C
ez
z−2 dz (2)
∫
C
eπiz z− 1
2
dz (3)
∫
C
ez
z(z−2) dz (4)
∫
C
1
z(z2+ 4)dz 定理 5.3 (Cauchyの積分公式の一般化) f(z) を C の開集合 D で正則な関数とする.
(1) f(z)は無限回複素微分可能,すなわち,高次導関数f(2)(z) =f′′(z),f(3)(z) =f′′′(z), . . . が存在してD で正則である.
(2) D は星形開集合で,C を D 内の閉曲線,z0 を C上にはない D の点とすると,任 意の非負整数 k について
k!
2πi
∫
C
f(z)
(z−z0)k+1 dz = ν(C, z0)f(k)(z0) (6) が成立する.
証明: (1)を示すにはD の任意の点z0 を中心とするD に含まれる円板で考えれば十分だ
から,(1)においても D は星形開集合であると仮定してよい.f(z) の k次導関数 f(k)(z) が存在して公式(6)が成立することを kについての帰納法で示そう.k= 0 のときは,(6)
は Cauchy の積分公式そのものである.
そこで k ≥1 として,f(k−1)(z) が存在し(6)で k を k−1 にした式が成立すると仮定 する.z0 を C上にない任意の点とする.複素数 ∆z を |∆z| が十分小さくなるようにと れば,命題5.3により ν(C, z0+ ∆z) =ν(C, z0) であるから,帰納法の仮定により,
ν(C, z0) 1
∆z
{f(k−1)(z0+ ∆z)−f(k−1)(z0)}
= 1
∆zν(C, z0+ ∆z)f(k−1)(z0+ ∆z)− 1
∆zν(C, z0)f(k−1)(z0)
= 1
∆z
(k−1)!
2πi
∫
C
f(z)
(z−z0−∆z)k dz− 1
∆z
(k−1)!
2πi
∫
C
f(z) (z−z0)k dz
= (k−1)!
2πi
∫
C
1
∆z
{ 1
(z−z0−∆z)k − 1 (z−z0)k
}
f(z)dz (7)
が成立する.z0 と C との距離を r とすると |∆| ≤ r
2 のとき,任意の z ∈C に対して
|z0−z−∆z| ≥ |z0−z| − |∆z| ≥r− r 2 = r
2
が成立することに注意する.このとき,2項定理により 1
∆z
{ 1
(z−z0−∆z)k − 1 (z−z0)k
}
= (z−z0)k−(z−z0−∆z)k
∆z(z−z0−∆z)k(z−z0)k
= (z−z0)k−∑k
j=0kCj(−1)j(z−z0)k−j(∆z)j
∆z(z−z0−∆z)k(z−z0)k
=
∑k
j=1kCj(−1)j−1(z−z0)k−j(∆z)j
∆z(z−z0−∆z)k(z−z0)k =
∑k
j=1kCj(−1)j−1(z−z0)k−j(∆z)j−1
(z−z0−∆z)k(z−z0)k (8) が成立する.さらに,上の計算から
∆zlim→0
1
∆z
{ 1
(z−z0−∆z)k − 1 (z−z0)k
}
= lim
∆z→0
∑k
j=1kCj(−1)j−1(z−z0)k−j(∆z)j−1 (z−z0−∆z)k(z−z0)k
= kC1(z−z0)k−1
(z−z0)2k = k (z−z0)k+1
となることがわかる.そこで式(8)からこの極限値を引くと,
1
∆z
{ 1
(z−z0−∆z)k − 1 (z−z0)k
}
− k
(z−z0)k+1
=
∑k
j=1kCj(−1)j−1(z−z0)k−j(∆z)j−1
(z−z0−∆z)k(z−z0)k − k (z−z0)k+1
=
∑k
j=1kCj(−1)j−1(z−z0)k+1−j(∆z)j−1−k(z−z0−∆z)k (z−z0−∆z)k(z−z0)k+1
=
∑k
j=1kCj(−1)j−1(z−z0)k+1−j(∆z)j−1−k∑k
j=0kCj(−1)j(z−z0)k−j(∆z)j (z−z0−∆z)k(z−z0)k+1
=
∑k
j=1kCj(−1)j−1(z−z0)k+1−j(∆z)j−1−k∑k+1
j=1kCj−1(−1)j−1(z−z0)k−j+1(∆z)j−1 (z−z0−∆z)k(z−z0)k+1
=
∑k
j=1(kCj −kkCj−1)(−1)j−1(z−z0)k+1−j(∆z)j−1−k(−1)k(∆z)k (z−z0−∆z)k(z−z0)k+1
=
∑k
j=2(kCj −kkCj−1)(−1)j−1(z−z0)k+1−j(∆z)j−1−k(−1)k(∆z)k
(z−z0−∆z)k(z−z0)k+1 (∵kC1−kkC0= 0) この最後の式の分子を g(z,∆z) とおくと,
g(z,∆z) =g1(z)∆z+g2(z)(∆z)2+· · ·+gk(z)(∆z)k,
gj(z) = (kCj+1−kkCj)(−1)j(z−z0)k−j (j = 1,2, . . . , k−1), gk(z) =−k(−1)k
と表される.z∈C かつ |∆z| ≤ r
2 のとき,
|(z−z0−∆z)k(z−z0)k+1| ≥(r 2
)k
rk+1 = r2k+1 2k となるから,mj = max{|gj(z)||z∈C} とおくと,z∈C かつ |∆z| ≤ r
2 のとき
1
∆z
{ 1
(z−z0−∆z)k − 1 (z−z0)k
}
− k
(z−z0)k+1
=
g1(z)∆z+g2(z)(∆z)2+· · ·+gk(z)(∆z)k (z−z0−∆z)k(z−z0)k+1
≤ 2k
r2k+1(m1|∆z|+m2|∆z|2+· · ·+mk|∆z|k)
が成立する.以上により,|f(z)| の閉曲線 C での最大値を M とすれば,
∫
C
1
∆z
{ 1
(z−z0−∆z)k − 1 (z−z0)k
}
f(z)dz−k
∫
C
f(z)
(z−z0)k+1 dz
≤l(C)M 2k
r2k+1(m1|∆z|+m2|∆z|2+· · ·+mk|∆z|k) が成立するから,∆z →0 とすると,左辺は 0 に収束する.すなわち,
∆zlim→0
∫
C
1
∆z
{ 1
(z−z0−∆z)k − 1 (z−z0)k
}
f(z)dz = k
∫
C
f(z) (z−z0)k+1 dz が示された.これと(7)から,
ν(C, z0)f(k)(z0) =ν(C, z0) lim
∆z→0
1
∆z
{f(k−1)(z0+ ∆z)−f(k−1)(z0)}
= lim
∆z→0
(k−1)!
2πi
∫
C
1
∆z
{ 1
(z−z0−∆z)k − 1 (z−z0)k
}
f(z)dz = k!
2πi
∫
C
f(z) (z−z0)k+1dz が成立することがわかった.特に C を z0 を内部に含む円周とすると ν(C, z0) = 1 だか ら,f(k)(z0) が存在することも同時に示されたことになる.□
例 5.5 α を複素数の定数として f(z) = eαz とおく.C を 0 を中心とする半径 r > 0 の 円周とすると,|z0| < r を満たす任意の複素数 z0 と自然数 k について
∫
C
eαz
(z−z0)k+1 dz = 2πi
k! f(k)(z0) = 2πi
k! αkeαz0.
問題 5.2 C を円周 |z|= 1 (正の向き)とするとき,次の線積分の値を求めよ.
(1)
∫
C
e2z
z4 dz (2)
∫
C
eπiz (
z− 1 2
)2 dz (3)
∫
C
dz
z2(z2+ 4) (4)
∫
C
ez
z3(z−2)2dz
次の定理は Cauchy の積分定理の逆が成立することを意味している.(任意の閉曲線で はなく三角形の周に沿っての線積分が 0 であることを仮定すればよい.)
定理 5.4 (Moreraの定理) f(z) が C の開集合 D で連続な関数であり,D に含まれる 任意の三角形 ∆ に対して
∫
∂∆
f(z)dz = 0 が成立すれば,f(z) は D で正則である.
証明: f(z) が 任意の z0 ∈D の近傍で正則であることを示せばよい.D は開集合だから,
U(z0;R) ={z∈C| |z−z0| < R} ⊂D であるような正の実数R が存在する.仮定から特 に U(z0;R) に含まれる任意の三角形 ∆ について
∫
∂∆
f(z)dz = 0 が成立するから,定理 4.3の証明より,星形開集合U(z0;R) における f(z) の原始関数 F(z) が存在する.F(z) は U(z0;R) で正則であるから,定理5.3より f(z) =F′(z) も U(z0;R) で正則である.□
∆ z0
D U(z0;R)
定理 5.5 D を Cの開集合,z0 ∈D とする.複素関数f(z) が D で連続でありD\ {z0} で正則ならば,f(z) は z0 も込めて D全体で正則である.
証明: 命題5.7により,D に含まれる任意の三角形 ∆ について
∫
∂∆
f(z)dz = 0 となるか ら,Moreraの定理によって f(z) はD で正則である.□
定理 5.6 (Liouville(リュービル)の定理) 複素数平面 C で正則な関数 f(z) が Cで有 界,すなわち,ある定数 M ≥0 があって |f(z)| ≤M が任意のz ∈C について成立すれ ば,f(z) は定数関数である.
証明: z0 を任意の複素数,R >0としてCR をz0 を中心とする半径R の円周|z−z0| =R とすると,定理5.3より
f′(z0) = 1 2πi
∫
CR
f(z) (z−z0)2dz が成立する.よって命題4.5により
|f′(z0)| ≤ l(CR) 2π
M
R2 = 2πR 2π
M R2 = M
R
という不等式が任意の正の実数 R について成立する.|f′(z0)| は R に無関係だから,
R → ∞ として |f′(z0)| = 0,すなわち f′(z0) = 0 でなければならない.以上により,
f′(z) = 0 が任意の z ∈Cについて成立することが示された.C は連結開集合だから,命
題4.6より f(z) は定数関数である.□
定理 5.7 (代数学の基本定理) n を自然数,a0, a1, . . . , an を an ̸= 0 であるような任意の 複素数として
f(z) =anzn+an−1zn−1+· · ·+a1z+a0
とおくと,複素数 α1, . . . , αn が存在して
f(z) =an(z−α1)· · ·(z−αn)
が成立する.このとき α1, . . . , αn のことを多項式 f(z) の(または方程式 f(z) = 0 の)
根(roots)という.
証明: まず,f(α) = 0 を満たす複素数 α が少なくとも1つ存在することを背理法で証明
しよう.f(α) = 0 を満たす α ∈ C が存在しないと仮定する.すると,f(z) は 0 になら ないから,g(z) := 1/f(z) は Cで正則である.三角不等式より z ̸= 0 のとき
|f(z)| =|an||z|n
1 + an−1
an
1
z +· · ·+ a0
an
1 zn
≥ |an||z|n (
1− an−1
an
1
z +· · ·+ a0
an
1 zn
)
≥ |an||z|n (
1− an−1
an
1
|z| − · · · − a0
an
1
|z|n )
ここで
R = 2nmax {
1, an−1
an
, . . . , an−1
an
} とおくと,|z| ≥ R のとき
ak
an 1
|z|n−k ≤ ak
an 1
Rn−k ≤ ak
an 1
R ≤ 1
2n (k= 0,1, . . . , n−1) であるから,
|f(z)| ≥ |an||z|n
1− 1
2n − · · · − 1
| {z 2n}
n
≥ 1
2|an||z|n ≥ 1
2|an|Rn (|z| ≥R のとき) を得る.一方 |f(z)| は有界閉集合 U(0;R) = {z ∈C| |z| ≤ R} において実数値連続関数 であるから Weierstrass の定理によって,U(0;R) における|f(z)| の最小値 m が存在す る.仮定により |f(z)| は 0 にはならないから m >0 である.以上により,任意の z ∈C について
|f(z)| ≥m0 := min {
m, 1
2|an|Rn }
>0, |g(z)| ≤ 1 m0
が成立する.従ってg(z) はCで正則かつ有界であるから,Liouvilleの定理によってg(z), 従って f(z) は定数でなければならない.これは f(z) が1次以上の多項式であることに 矛盾する.
以上により f(α1) = 0 を満たす複素数 α1 が存在することが示された.多項式 f(z) を z−α1 で割り算すると,
f(z) =f1(z)(z−α1) +β
を満たす多項式f1(z)と複素数β が存在する.0 =f(α1) =β よりf(z) =f1(z)(z−α1)が 成立し,f1(z)の次数は n−1 である.もしn = 1であれば zの係数を比較してf1(z) =a1
であることがわかるから定理の主張が示された.もし n≥2 であれば,f1(z) に前半の議 論を適用してf1(α2) = 0 を満たす複素数 α2 が存在することがわかる.以下この議論を 繰り返せば定理の主張が示される.□
上の定理において,f(z) =an(z−α1)· · ·(z−αn) の右辺を展開して係数を比較すれば,
−an(α1+· · ·+αn) =an−1,
an(α1α2+α1α3+· · ·+αn−1αn) =an−2,
· · ·
(−1)nanα1· · ·αn = a0
を得る.これを根と係数の関係という.
問題 5.3 γ を虚数(実数でない複素数)として f(z) =z2+γz+ 1 とおき,α, β を f(z) の根とする.
(1) β と γ を α で表せ.
(2) α と β のうち一方の絶対値は 1 より大きく,もう一方の絶対値は 1 より小さいこ とを示せ.
(3) |α| <1, |β|> 1 として,C を単位円周 |z| = 1 とするとき,
∫
C
dz
f(z) を α で表せ.
6 正則関数の Taylor 展開とその応用
6.1 正則関数の Taylor 展開
補題 6.1 (複素数の等比級数の和の公式) 複素数 z が |z| <1 を満たせば,
1 +z+z2+· · ·=
∑∞ k=0
zk = 1 1−z が成立する.
証明: Sn = 1 +z+· · ·+zn−1 とおくと,
(1−z)Sn =Sn−zSn = 1 +z+· · ·+zn−1−(z+z2+· · ·+zn) = 1−zn と z ̸= 1 より,
Sn = 1−zn 1−z
を得る.n→ ∞ とすると |zn|= |z|n →0 より zn は 0 に収束するから結論を得る.□
定理 6.1 f(z) を C の開集合 D で正則な関数として z0 ∈ D とする.実数 R > 0 を U(z0;R) = {z ∈ C | |z−z0| < R} ⊂ D となるようにとる.このとき,an = f(n)(z0) (n = 0,1,2, . . .)とおくと,任意の z ∈U(z0;R) について n!
f(z) =
∑∞ n=0
an(z−z0)n (9)
が成立する.(9)を f(z) の z0 における(または z0 を中心とする)Taylor展開またはべ き級数展開という.
z z
0D
R r
証明: z−z0 をあらためて z とおくことにより,z0= 0 としてよい.|z|< R を満たす複 素数 z を固定して,|z| < r < R を満たす実数 r をとる.Cauchy の積分公式により
f(z) = 1 2πi
∫
|ζ|=r
f(ζ)
ζ −zdζ (10)
が成立する.|ζ|= r >|z| に注意して等比級数の公式を用いると 1
ζ−z = 1 ζ
1 1− z
ζ
= 1 ζ
∑∞ k=0
(z ζ
)k
=
∑∞ k=0
zk ζk+1 を得る.これと(10)を合わせて
f(z) = 1 2πi
∫
|ζ|=r
∑∞ k=0
f(ζ) zk
ζk+1 dζ =
∑∞ k=0
zk 2πi
∫
|ζ|=r
f(ζ)
ζk+1 dζ (11)
が成立することを示そう.ここで1番目の等式は自明であるが,2番目の等式は無限和と 積分の順序交換であり自明ではない.そこで以下ではこの2番目の等式が成立することを 示す.|z| < r= |ζ| のとき
∑∞ k=n+1
zk ζk+1
=
zn+1 ζn+2
1 1− z
ζ
=
(z ζ
)n+1
1 ζ −z
≤
(|z| r
)n+1
1 r− |z|
より,円周 |ζ|= r 上での |f(ζ)| の最大値をM とおくと,
f(z)−
∑n k=0
zk 2πi
∫
|ζ|=r
f(ζ) ζk+1 dζ
=
1 2πi
∫
|ζ|=r
f(ζ)
∑∞ k=0
zk
ζk+1dζ − 1 2πi
∫
|ζ|=r
f(ζ)
∑n k=0
zk ζk+1 dζ
=
1 2πi
∫
|ζ|=r
f(ζ)
∑∞ k=n+1
zk ζk+1 dζ
≤ 2πr 2π
M r− |z|
(|z| r
)n+1
−→0 (n→ ∞) よって,(11)が |z| < r のとき成立する.定理5.3により
1 2πi
∫
|ζ|=r
f(ζ)
ζk+1 dζ = 1
k!f(k)(0) =ak であるから,|z| < r のとき
f(z) =
∑∞ k=0
akzk
が成立する.r は R にいくらでも近くとれるから,上の等式は |z| < R のとき(右辺の 無限級数は収束して)成立する.□
例 6.1 f(z) =ez は Cで正則であり,f(n)(z) =ez であるから,任意の z∈C について ez =
∑∞ n=0
1
n!zn = 1 +z+ z2 2! + z3
3! +· · · が成立する.
例 6.2 Logz を C\ {x | x ∈ R, x ≤ 0} における logz の主値とする.|z| < 1 のとき Re (1 +z) = 1 + Rez >1− |z|> 0 であるから,f(z) := Log (1 +z) が定義できる.よっ て Log (1 +z) は単位円板U(0; 1) で正則である.
d
dzLog (1 +z) = 1
1 +z, dn
dznLog (1 +z) = (−1)n−1(n−1)!
(1 +z)n (n ≥2) より f(0) = 0,f(n)(0) = (−1)n−1(n−1)! (n ≥1)であるから,
Log (1 +z) =
∑∞ n=1
(−1)n−1(n−1)!
n! zn =
∑∞ n=1
(−1)n−1
n zn (|z|< 1) が成立する.
次に Taylor展開の一意性(一通りであること)を示そう.それによって,上の証明の
方法とは異なる方法で求めた展開が Taylor展開と一致することが保証される.
補題 6.2 z0 と an (n = 0,1,2, . . .)を複素数とする.無限級数 f(z) =
∑∞ n=0
an(z−z0)n が z0 を中心とする開円板 U(z0;R) (∃R >0)で収束すれば,f(z) は z= z0 で連続である.
証明: z0 = 0 としてよい.0 < r < R を満たす実数 r を1つとると,無限級数
∑∞ n=0
anrn は収束するから,n→ ∞ のとき anrn →0 となる.よって,ある定数 M > 0 があって,
任意の n について|an|rn ≤M が成立する.従って,|z| ≤ r
2 のとき,
|an||z|n−1 ≤ |an|rn−1
2n−1 = 1
2n−1r|an|rn ≤ M r
(1 2
)n−1
が成立するから,
|f(z)−f(0)|= |a1z+a2z2+a3z3+· · · | ≤ |a1||z|+|a2||z|2+|a3||z|3+· · ·
= |z|(|a1|+|a2||z|+|a3||z|2+· · ·)≤ |z|{M r + M
r 1 2 + M
r (1
2 )2
+· · ·}
= 2M r |z|
は z →0 のとき 0 に収束する.よって f(z) は 0 で連続である.□ 命題 6.1 z0 と an (n = 0,1,2, . . .)を複素数とする.無限級数 f(z) =
∑∞ n=0
an(z−z0)n が z0 を中心とする開円板 U(z0;R) (∃R > 0)で収束して和が 0 であれば,すべての n につ いて an = 0 である.
証明: まず z =z0 を代入して0 =f(z0) =a0 を得る.よって
f(z) =a1(z−z0) +a2(z−z0)2+· · ·= (z−z0){a1+a2(z−z0) +· · ·) = (z−z0)g(z) と表される.仮定より0 <|z−z0|< Rのときg(z) = 0であるから,上の補題よりz→z0
として 0 =g(z0) =a1 を得る.以下同様にして a2= a3= · · ·= 0 が示される.□
定理 6.2 (Taylor展開の一意性) z0 ∈C, R > 0 として,f(z) を U(z0;R) で正則な関数 とする.複素数 cn (n= 0,1,2, . . .)があって,U(z0;R) において
f(z) =
∑∞ n=0
cn(z−z0)n
が成立すれば,すべての n≥0 について cn = f(n)(z0)
n! が成立する.すなわち,この右辺 は f(z) の z0 における Taylor展開である.
証明: f(z) のTaylor展開を f(z) =
∑∞ n=0
an(z−z0)n, an = f(n)(z0) n!
とすると,
∑∞ n=0
(an−cn)(z−z0)n =
∑∞ n=0
an(z−z0)n−
∑∞ n=0
cn(z−z0)n = f(z)−f(z) = 0
であるから,上の命題によって cn = an となる.□ 例 6.3 f(z) = 1
z2+ 1 の z = 0 における Taylor展開を求めよう.f(n)(z) は複雑なので,
Taylor展開の公式を用いるのは困難である.そこで,等比級数の公式より
1
1 +z = 1
1−(−z) = 1−z+z2− · · ·=
∑∞ n=0
(−1)nzn (|z|< 1) が成立することに注意して,z に z2 を代入すると,
f(z) =
∑∞ n=0
(−1)nz2n (|z|< 1)
を得る.Taylor展開の一意性により,この右辺は f(z) の z = 0 における Taylor展開で ある.Taylor展開の公式を逆に用いれば,n が偶数のとき f(n)(0) = n!(−1)n であり,n が奇数のときは f(n)(0) = 0 であることがわかる.
定理 6.3 (Taylor展開の項別微分定理) z0を複素数,Rを正の実数として,f(z)をU(z0;R) で正則な関数とする.f(z) =
∑∞ n=0
an(z −z0)n を z = z0 における Taylor展開とすると,
f′(z) の z0 における Taylor展開は f′(z) =
∑∞ n=1
nan(z−z0)n−1 =
∑∞ n=0
(n+ 1)an+1(z−z0)n で与えられる.
証明: f′(z) も U(z0;R) で正則だから,そこで f′(z) =
∑∞ n=0
cn(z−z0)n という Taylor展開 を持つ.Taylor展開の公式より
cn = f′(n)(z0)
n! = f(n+1)(z0)
n! = (n+ 1)f(n+1)(z0)
(n+ 1)! = (n+ 1)an+1
が成立する.□
例 6.4 f(z) = 1
(z+ 1)2 のz = 0におけるTaylor展開を項別微分定理を用いて求めてみよ う(直接Taylor展開の公式を適用しても計算できる).|z|< 1のとき 1
1 +z =
∑∞ n=0
(−1)nzn が成立するから,項別微分定理により
− 1
(z+ 1)2 =
∑∞ n=1
n(−1)nzn−1 (|z|< 1).
これから f(z) = 1
(z+ 1)2 =−
∑∞ n=1
n(−1)nzn−1=
∑∞ n=0
(n+1)(−1)nzn = 1−2z+3z2−· · · (|z| <1) を得る.Taylor展開の一意性により,これは f(z) の z = 0 におけるTaylor展開である.
問題 6.1 次の正則関数f(z)の与えられた点z0 におけるTaylor展開を求めよ.またそれ はどのような範囲で成立するか?
(1) f(z) = 1
(z+ 2)2, z0 = 0 (2) f(z) = 1
(z+ 2)2, z0 = 1 (3) f(z) = 1
2(ez +e−z), z0= 0 (4) f(z) = 1
z(z+ 3), z0 = 1 (5) f(z) = 1
(1−z)3, z0 = 0 (6) f(z) = Log1 +z
1−z, z0 = 0