• 検索結果がありません。

定理 5.1 f(z) がCの星形開集合D で連続であり,D からz0 ∈D を除いた集合D\{z0} で正則であれば,D内の区分的になめらかな任意の閉曲線 C に対して

C

f(z)dz = 0

定理 5.2 (Cauchyの積分公式) f(z) を C の星形開集合 D で正則な関数とする.CD 内の閉曲線,z0C 上にはないD の点とする.このとき,

1 2πi

C

f(z) z−z0

dz =ν(C, z0)f(z0) が成立する.

C D

z0

証明: D を定義域とする複素関数 F(z) を

F(z) =





f(z)−f(z0) z−z0

(z ̸=z0 のとき) f(z0) (z =z0 のとき)

で定義すると,F(z) は D \ {z0} で正則であり,z0 では連続である.従って定理5.1に より

0 =

C

F(z) =

C

f(z)

z−z0dz−f(z0)

C

1

z−z0 dz =

C

f(z)

z−z0 dz−2πi f(z0)ν(C, z0) が成立する.これから求める公式を得る.□

5.1 αを複素数,R を正の実数として,f(z) を U(α;R) ={z C| |z−α| < R} で正 則な複素関数とする.r を 0 < r < R を満たす任意の実数とすると,任意の z0 ∈U(α;r) について

1 2πi

|zα|=r

f(z)

z−z0dz = f(z0)

が成立する.ここで |z−α|= rα を中心とする半径 r の円周(正の向き)を表す.

証明: C を円周 |z−z0|= r とすると,z0C の内側にあるから,ν(C, z0) = 1 である.

よって定理5.2より結論が成立する.□

5.4 r を正の実数として C を円周 |z| = r とする.複素数 z0|z0| < r を満たすと き,

C

ez z−z0

dz = 2πiez0 が成立する.

問題 5.1 C を単位円周 |z| = 1 (を正の向きに1周する閉曲線)とするとき,次の線積 分の値を求めよ.

(1)

C

ez

z−2 dz (2)

C

eπiz z− 1

2

dz (3)

C

ez

z(z−2) dz (4)

C

1

z(z2+ 4)dz 定理 5.3 (Cauchyの積分公式の一般化) f(z) を C の開集合 D で正則な関数とする.

(1) f(z)は無限回複素微分可能,すなわち,高次導関数f(2)(z) =f′′(z),f(3)(z) =f′′′(z), . . . が存在してD で正則である.

(2) D は星形開集合で,CD 内の閉曲線,z0C上にはない D の点とすると,任 意の非負整数 k について

k!

2πi

C

f(z)

(z−z0)k+1 dz = ν(C, z0)f(k)(z0) (6) が成立する.

証明: (1)を示すにはD の任意の点z0 を中心とするD に含まれる円板で考えれば十分だ

から,(1)においても D は星形開集合であると仮定してよい.f(z) の k次導関数 f(k)(z) が存在して公式(6)が成立することを kについての帰納法で示そう.k= 0 のときは,(6)

は Cauchy の積分公式そのものである.

そこで k 1 として,f(k1)(z) が存在し(6)で kk−1 にした式が成立すると仮定 する.z0C上にない任意の点とする.複素数 ∆z を |∆z| が十分小さくなるようにと れば,命題5.3により ν(C, z0+ ∆z) =ν(C, z0) であるから,帰納法の仮定により,

ν(C, z0) 1

∆z

{f(k1)(z0+ ∆z)−f(k1)(z0)}

= 1

∆zν(C, z0+ ∆z)f(k1)(z0+ ∆z) 1

∆zν(C, z0)f(k1)(z0)

= 1

∆z

(k1)!

2πi

C

f(z)

(z−z0∆z)k dz− 1

∆z

(k1)!

2πi

C

f(z) (z−z0)k dz

= (k1)!

2πi

C

1

∆z

{ 1

(z−z0∆z)k 1 (z−z0)k

}

f(z)dz (7)

が成立する.z0C との距離を r とすると || ≤ r

2 のとき,任意の z ∈C に対して

|z0−z−∆z| ≥ |z0−z| − |∆z| ≥r− r 2 = r

2

が成立することに注意する.このとき,2項定理により 1

∆z

{ 1

(z−z0∆z)k 1 (z−z0)k

}

= (z−z0)k(z−z0∆z)k

∆z(z−z0∆z)k(z−z0)k

= (z−z0)kk

j=0kCj(1)j(z−z0)kj(∆z)j

∆z(z−z0∆z)k(z−z0)k

=

k

j=1kCj(1)j1(z−z0)kj(∆z)j

∆z(z−z0∆z)k(z−z0)k =

k

j=1kCj(1)j1(z−z0)kj(∆z)j1

(z−z0∆z)k(z−z0)k (8) が成立する.さらに,上の計算から

∆zlim0

1

∆z

{ 1

(z−z0∆z)k 1 (z−z0)k

}

= lim

∆z0

k

j=1kCj(1)j1(z−z0)kj(∆z)j1 (z−z0∆z)k(z−z0)k

= kC1(z−z0)k1

(z−z0)2k = k (z−z0)k+1

となることがわかる.そこで式(8)からこの極限値を引くと,

1

∆z

{ 1

(z−z0∆z)k 1 (z−z0)k

}

k

(z−z0)k+1

=

k

j=1kCj(1)j1(z−z0)kj(∆z)j1

(z−z0∆z)k(z−z0)k k (z−z0)k+1

=

k

j=1kCj(1)j1(z−z0)k+1j(∆z)j1−k(z−z0∆z)k (z−z0∆z)k(z−z0)k+1

=

k

j=1kCj(1)j1(z−z0)k+1j(∆z)j1−kk

j=0kCj(1)j(z−z0)kj(∆z)j (z−z0∆z)k(z−z0)k+1

=

k

j=1kCj(1)j−1(z−z0)k+1−j(∆z)j−1−kk+1

j=1kCj1(1)j−1(z−z0)k−j+1(∆z)j−1 (z−z0∆z)k(z−z0)k+1

=

k

j=1(kCj −kkCj1)(1)j1(z−z0)k+1j(∆z)j1−k(−1)k(∆z)k (z−z0∆z)k(z−z0)k+1

=

k

j=2(kCj −kkCj1)(1)j1(z−z0)k+1j(∆z)j1−k(−1)k(∆z)k

(z−z0∆z)k(z−z0)k+1 (∵kC1−kkC0= 0) この最後の式の分子を g(z,∆z) とおくと,

g(z,∆z) =g1(z)∆z+g2(z)(∆z)2+· · ·+gk(z)(∆z)k,

gj(z) = (kCj+1−kkCj)(1)j(z−z0)kj (j = 1,2, . . . , k1), gk(z) =−k(−1)k

と表される.z∈C かつ |∆z| ≤ r

2 のとき,

|(z−z0∆z)k(z−z0)k+1| ≥(r 2

)k

rk+1 = r2k+1 2k となるから,mj = max{|gj(z)||z∈C} とおくと,z∈C かつ |∆z| ≤ r

2 のとき

1

∆z

{ 1

(z−z0∆z)k 1 (z−z0)k

}

k

(z−z0)k+1

=

g1(z)∆z+g2(z)(∆z)2+· · ·+gk(z)(∆z)k (z−z0∆z)k(z−z0)k+1

2k

r2k+1(m1|∆z|+m2|∆z|2+· · ·+mk|∆z|k)

が成立する.以上により,|f(z)| の閉曲線 C での最大値を M とすれば,

C

1

∆z

{ 1

(z−z0∆z)k 1 (z−z0)k

}

f(z)dz−k

C

f(z)

(z−z0)k+1 dz

≤l(C)M 2k

r2k+1(m1|∆z|+m2|∆z|2+· · ·+mk|∆z|k) が成立するから,∆z 0 とすると,左辺は 0 に収束する.すなわち,

∆zlim0

C

1

∆z

{ 1

(z−z0∆z)k 1 (z−z0)k

}

f(z)dz = k

C

f(z) (z−z0)k+1 dz が示された.これと(7)から,

ν(C, z0)f(k)(z0) =ν(C, z0) lim

∆z0

1

∆z

{f(k1)(z0+ ∆z)−f(k1)(z0)}

= lim

∆z→0

(k1)!

2πi

C

1

∆z

{ 1

(z−z0∆z)k 1 (z−z0)k

}

f(z)dz = k!

2πi

C

f(z) (z−z0)k+1dz が成立することがわかった.特に Cz0 を内部に含む円周とすると ν(C, z0) = 1 だか ら,f(k)(z0) が存在することも同時に示されたことになる.□

5.5 α を複素数の定数として f(z) = eαz とおく.C を 0 を中心とする半径 r > 0 の 円周とすると,|z0| < r を満たす任意の複素数 z0 と自然数 k について

C

eαz

(z−z0)k+1 dz = 2πi

k! f(k)(z0) = 2πi

k! αkeαz0.

問題 5.2 C を円周 |z|= 1 (正の向き)とするとき,次の線積分の値を求めよ.

(1)

C

e2z

z4 dz (2)

C

eπiz (

z− 1 2

)2 dz (3)

C

dz

z2(z2+ 4) (4)

C

ez

z3(z2)2dz

次の定理は Cauchy の積分定理の逆が成立することを意味している.(任意の閉曲線で はなく三角形の周に沿っての線積分が 0 であることを仮定すればよい.)

定理 5.4 (Moreraの定理) f(z) が C の開集合 D で連続な関数であり,D に含まれる 任意の三角形 ∆ に対して

∂∆

f(z)dz = 0 が成立すれば,f(z) は D で正則である.

証明: f(z) が 任意の z0 ∈D の近傍で正則であることを示せばよい.D は開集合だから,

U(z0;R) ={z∈C| |z−z0| < R} ⊂D であるような正の実数R が存在する.仮定から特 に U(z0;R) に含まれる任意の三角形 ∆ について

∂∆

f(z)dz = 0 が成立するから,定理 4.3の証明より,星形開集合U(z0;R) における f(z) の原始関数 F(z) が存在する.F(z) は U(z0;R) で正則であるから,定理5.3より f(z) =F(z) も U(z0;R) で正則である.□

∆ z0

D U(z0;R)

定理 5.5 D を Cの開集合,z0 ∈D とする.複素関数f(z) が D で連続でありD\ {z0} で正則ならば,f(z) は z0 も込めて D全体で正則である.

証明: 命題5.7により,D に含まれる任意の三角形 ∆ について

∂∆

f(z)dz = 0 となるか ら,Moreraの定理によって f(z) はD で正則である.□

定理 5.6 (Liouville(リュービル)の定理) 複素数平面 C で正則な関数 f(z) が Cで有 界,すなわち,ある定数 M 0 があって |f(z)| ≤M が任意のz C について成立すれ ば,f(z) は定数関数である.

証明: z0 を任意の複素数,R >0としてCRz0 を中心とする半径R の円周|z−z0| =R とすると,定理5.3より

f(z0) = 1 2πi

CR

f(z) (z−z0)2dz が成立する.よって命題4.5により

|f(z0)| ≤ l(CR) 2π

M

R2 = 2πR 2π

M R2 = M

R

という不等式が任意の正の実数 R について成立する.|f(z0)|R に無関係だから,

R → ∞ として |f(z0)| = 0,すなわち f(z0) = 0 でなければならない.以上により,

f(z) = 0 が任意の z Cについて成立することが示された.C は連結開集合だから,命

題4.6より f(z) は定数関数である.□

定理 5.7 (代数学の基本定理) n を自然数,a0, a1, . . . , anan ̸= 0 であるような任意の 複素数として

f(z) =anzn+an1zn1+· · ·+a1z+a0

とおくと,複素数 α1, . . . , αn が存在して

f(z) =an(z−α1)· · ·(z−αn)

が成立する.このとき α1, . . . , αn のことを多項式 f(z) の(または方程式 f(z) = 0 の)

根(roots)という.

証明: まず,f(α) = 0 を満たす複素数 α が少なくとも1つ存在することを背理法で証明

しよう.f(α) = 0 を満たす α C が存在しないと仮定する.すると,f(z) は 0 になら ないから,g(z) := 1/f(z) は Cで正則である.三角不等式より z ̸= 0 のとき

|f(z)| =|an||z|n

1 + an1

an

1

z +· · ·+ a0

an

1 zn

≥ |an||z|n (

1 an1

an

1

z +· · ·+ a0

an

1 zn

)

≥ |an||z|n (

1 an−1

an

1

|z| − · · · − a0

an

1

|z|n )

ここで

R = 2nmax {

1, an−1

an

, . . . , an−1

an

} とおくと,|z| ≥ R のとき

ak

an 1

|z|nk ak

an 1

Rnk ak

an 1

R 1

2n (k= 0,1, . . . , n1) であるから,

|f(z)| ≥ |an||z|n

1 1

2n − · · · − 1

| {z 2n}

n

 1

2|an||z|n 1

2|an|Rn (|z| ≥R のとき) を得る.一方 |f(z)| は有界閉集合 U(0;R) = {z C| |z| ≤ R} において実数値連続関数 であるから Weierstrass の定理によって,U(0;R) における|f(z)| の最小値 m が存在す る.仮定により |f(z)| は 0 にはならないから m >0 である.以上により,任意の z C について

|f(z)| ≥m0 := min {

m, 1

2|an|Rn }

>0, |g(z)| ≤ 1 m0

が成立する.従ってg(z) はCで正則かつ有界であるから,Liouvilleの定理によってg(z), 従って f(z) は定数でなければならない.これは f(z) が1次以上の多項式であることに 矛盾する.

以上により f1) = 0 を満たす複素数 α1 が存在することが示された.多項式 f(z) を z−α1 で割り算すると,

f(z) =f1(z)(z−α1) +β

を満たす多項式f1(z)と複素数β が存在する.0 =f1) =β よりf(z) =f1(z)(z−α1)が 成立し,f1(z)の次数は n−1 である.もしn = 1であれば zの係数を比較してf1(z) =a1

であることがわかるから定理の主張が示された.もし n≥2 であれば,f1(z) に前半の議 論を適用してf12) = 0 を満たす複素数 α2 が存在することがわかる.以下この議論を 繰り返せば定理の主張が示される.□

上の定理において,f(z) =an(z−α1)· · ·(z−αn) の右辺を展開して係数を比較すれば,

−an1+· · ·+αn) =an1,

an1α2+α1α3+· · ·+αn1αn) =an2,

· · ·

(1)nanα1· · ·αn = a0

を得る.これを根と係数の関係という.

問題 5.3 γ を虚数(実数でない複素数)として f(z) =z2+γz+ 1 とおき,α, βf(z) の根とする.

(1) βγα で表せ.

(2) αβ のうち一方の絶対値は 1 より大きく,もう一方の絶対値は 1 より小さいこ とを示せ.

(3) |α| <1, |β|> 1 として,C を単位円周 |z| = 1 とするとき,

C

dz

f(z) を α で表せ.

6 正則関数の Taylor 展開とその応用

6.1 正則関数の Taylor 展開

補題 6.1 (複素数の等比級数の和の公式) 複素数 z|z| <1 を満たせば,

1 +z+z2+· · ·=

k=0

zk = 1 1−z が成立する.

証明: Sn = 1 +z+· · ·+zn1 とおくと,

(1−z)Sn =Sn−zSn = 1 +z+· · ·+zn1(z+z2+· · ·+zn) = 1−znz ̸= 1 より,

Sn = 1−zn 1−z

を得る.n→ ∞ とすると |zn|= |z|n 0 より zn は 0 に収束するから結論を得る.□

定理 6.1 f(z) を C の開集合 D で正則な関数として z0 D とする.実数 R > 0 を U(z0;R) = {z C | |z−z0| < R} ⊂ D となるようにとる.このとき,an = f(n)(z0) (n = 0,1,2, . . .)とおくと,任意の z ∈U(z0;R) について n!

f(z) =

n=0

an(z−z0)n (9)

が成立する.(9)を f(z) の z0 における(または z0 を中心とする)Taylor展開またはべ き級数展開という.

z z

0

D

R r

証明: z−z0 をあらためて z とおくことにより,z0= 0 としてよい.|z|< R を満たす複 素数 z を固定して,|z| < r < R を満たす実数 r をとる.Cauchy の積分公式により

f(z) = 1 2πi

|ζ|=r

f(ζ)

ζ −zdζ (10)

が成立する.|ζ|= r >|z| に注意して等比級数の公式を用いると 1

ζ−z = 1 ζ

1 1 z

ζ

= 1 ζ

k=0

(z ζ

)k

=

k=0

zk ζk+1 を得る.これと(10)を合わせて

f(z) = 1 2πi

|ζ|=r

k=0

f(ζ) zk

ζk+1 =

k=0

zk 2πi

|ζ|=r

f(ζ)

ζk+1 (11)

が成立することを示そう.ここで1番目の等式は自明であるが,2番目の等式は無限和と 積分の順序交換であり自明ではない.そこで以下ではこの2番目の等式が成立することを 示す.|z| < r= |ζ| のとき

k=n+1

zk ζk+1

=

zn+1 ζn+2

1 1 z

ζ

=

(z ζ

)n+1

1 ζ −z

(|z| r

)n+1

1 r− |z|

より,円周 |ζ|= r 上での |f(ζ)| の最大値をM とおくと,

f(z)

n k=0

zk 2πi

|ζ|=r

f(ζ) ζk+1

=

1 2πi

|ζ|=r

f(ζ)

k=0

zk

ζk+1 1 2πi

|ζ|=r

f(ζ)

n k=0

zk ζk+1

=

1 2πi

|ζ|=r

f(ζ)

k=n+1

zk ζk+1

2πr 2π

M r− |z|

(|z| r

)n+1

−→0 (n→ ∞) よって,(11)が |z| < r のとき成立する.定理5.3により

1 2πi

|ζ|=r

f(ζ)

ζk+1 = 1

k!f(k)(0) =ak であるから,|z| < r のとき

f(z) =

k=0

akzk

が成立する.rR にいくらでも近くとれるから,上の等式は |z| < R のとき(右辺の 無限級数は収束して)成立する.□

6.1 f(z) =ez は Cで正則であり,f(n)(z) =ez であるから,任意の z∈C について ez =

n=0

1

n!zn = 1 +z+ z2 2! + z3

3! +· · · が成立する.

6.2 Logz を C\ {x | x R, x 0} における logz の主値とする.|z| < 1 のとき Re (1 +z) = 1 + Rez >1− |z|> 0 であるから,f(z) := Log (1 +z) が定義できる.よっ て Log (1 +z) は単位円板U(0; 1) で正則である.

d

dzLog (1 +z) = 1

1 +z, dn

dznLog (1 +z) = (1)n−1(n1)!

(1 +z)n (n 2) より f(0) = 0,f(n)(0) = (1)n−1(n1)! (n 1)であるから,

Log (1 +z) =

n=1

(1)n1(n1)!

n! zn =

n=1

(1)n1

n zn (|z|< 1) が成立する.

次に Taylor展開の一意性(一通りであること)を示そう.それによって,上の証明の

方法とは異なる方法で求めた展開が Taylor展開と一致することが保証される.

補題 6.2 z0an (n = 0,1,2, . . .)を複素数とする.無限級数 f(z) =

n=0

an(z−z0)nz0 を中心とする開円板 U(z0;R) (∃R >0)で収束すれば,f(z) は z= z0 で連続である.

証明: z0 = 0 としてよい.0 < r < R を満たす実数 r を1つとると,無限級数

n=0

anrn は収束するから,n→ ∞ のとき anrn 0 となる.よって,ある定数 M > 0 があって,

任意の n について|an|rn ≤M が成立する.従って,|z| ≤ r

2 のとき,

|an||z|n−1 ≤ |an|rn1

2n1 = 1

2n1r|an|rn M r

(1 2

)n1

が成立するから,

|f(z)−f(0)|= |a1z+a2z2+a3z3+· · · | ≤ |a1||z|+|a2||z|2+|a3||z|3+· · ·

= |z|(|a1|+|a2||z|+|a3||z|2+· · ·)≤ |z|{M r + M

r 1 2 + M

r (1

2 )2

+· · ·}

= 2M r |z|

z 0 のとき 0 に収束する.よって f(z) は 0 で連続である.□ 命題 6.1 z0an (n = 0,1,2, . . .)を複素数とする.無限級数 f(z) =

n=0

an(z−z0)nz0 を中心とする開円板 U(z0;R) (∃R > 0)で収束して和が 0 であれば,すべての n につ いて an = 0 である.

証明: まず z =z0 を代入して0 =f(z0) =a0 を得る.よって

f(z) =a1(z−z0) +a2(z−z0)2+· · ·= (z−z0){a1+a2(z−z0) +· · ·) = (z−z0)g(z) と表される.仮定より0 <|z−z0|< Rのときg(z) = 0であるから,上の補題よりz→z0

として 0 =g(z0) =a1 を得る.以下同様にして a2= a3= · · ·= 0 が示される.□

定理 6.2 (Taylor展開の一意性) z0 C, R > 0 として,f(z) を U(z0;R) で正則な関数 とする.複素数 cn (n= 0,1,2, . . .)があって,U(z0;R) において

f(z) =

n=0

cn(z−z0)n

が成立すれば,すべての n≥0 について cn = f(n)(z0)

n! が成立する.すなわち,この右辺 は f(z) の z0 における Taylor展開である.

証明: f(z) のTaylor展開を f(z) =

n=0

an(z−z0)n, an = f(n)(z0) n!

とすると,

n=0

(an−cn)(z−z0)n =

n=0

an(z−z0)n

n=0

cn(z−z0)n = f(z)−f(z) = 0

であるから,上の命題によって cn = an となる.□ 例 6.3 f(z) = 1

z2+ 1 の z = 0 における Taylor展開を求めよう.f(n)(z) は複雑なので,

Taylor展開の公式を用いるのは困難である.そこで,等比級数の公式より

1

1 +z = 1

1(−z) = 1−z+z2− · · ·=

n=0

(1)nzn (|z|< 1) が成立することに注意して,zz2 を代入すると,

f(z) =

n=0

(1)nz2n (|z|< 1)

を得る.Taylor展開の一意性により,この右辺は f(z) の z = 0 における Taylor展開で ある.Taylor展開の公式を逆に用いれば,n が偶数のとき f(n)(0) = n!(−1)n であり,n が奇数のときは f(n)(0) = 0 であることがわかる.

定理 6.3 (Taylor展開の項別微分定理) z0を複素数,Rを正の実数として,f(z)をU(z0;R) で正則な関数とする.f(z) =

n=0

an(z −z0)nz = z0 における Taylor展開とすると,

f(z) の z0 における Taylor展開は f(z) =

n=1

nan(z−z0)n1 =

n=0

(n+ 1)an+1(z−z0)n で与えられる.

証明: f(z) も U(z0;R) で正則だから,そこで f(z) =

n=0

cn(z−z0)n という Taylor展開 を持つ.Taylor展開の公式より

cn = f(n)(z0)

n! = f(n+1)(z0)

n! = (n+ 1)f(n+1)(z0)

(n+ 1)! = (n+ 1)an+1

が成立する.□

6.4 f(z) = 1

(z+ 1)2z = 0におけるTaylor展開を項別微分定理を用いて求めてみよ う(直接Taylor展開の公式を適用しても計算できる).|z|< 1のとき 1

1 +z =

n=0

(1)nzn が成立するから,項別微分定理により

1

(z+ 1)2 =

n=1

n(−1)nzn1 (|z|< 1).

これから f(z) = 1

(z+ 1)2 =

n=1

n(−1)nzn1=

n=0

(n+1)(1)nzn = 12z+3z2−· · · (|z| <1) を得る.Taylor展開の一意性により,これは f(z) の z = 0 におけるTaylor展開である.

問題 6.1 次の正則関数f(z)の与えられた点z0 におけるTaylor展開を求めよ.またそれ はどのような範囲で成立するか?

(1) f(z) = 1

(z+ 2)2, z0 = 0 (2) f(z) = 1

(z+ 2)2, z0 = 1 (3) f(z) = 1

2(ez +ez), z0= 0 (4) f(z) = 1

z(z+ 3), z0 = 1 (5) f(z) = 1

(1−z)3, z0 = 0 (6) f(z) = Log1 +z

1−z, z0 = 0