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定義 3.3 C の開集合 D で定義された複素関数 f(z) がz0 ∈D で(複素)微分可能であ るとは,複素数 ∆z を 0 に近づけたときの極限値

α= lim

∆z0

f(z0+ ∆z)−f(z0)

∆z

が存在することである.あるいは zz0 に近づけたときの極限値 α = lim

zz0

f(z)−f(z0) z−z0

が存在すると言ってもよい.ε-δ論法を用いれば,ある複素数 α が存在して,任意の正の 実数 εに対して

(z∈D かつ 0 <|z−z0| < δ)

f(z)−f(z0) z−z0

−α < ε

が成立するような正の実数 δ が存在することである.このとき,f(z0) := αf(z) の z0 における(複素)微分係数という.f(z) が D の任意の点 z0 で微分可能であるとき,

f(z) は D で正則(holomorphic)または(複素)解析的(complex analytic)であるという.

f(z) が D で正則であるとき,f(z) は D を定義域とする複素関数となる.これを f(z) の導関数という.f(z) = df

dz(z) とも表す.

正則関数の性質を調べることが複素関数論の目的である.指数関数,三角関数,対数関 数などの初等関数も,複素数の世界で正則関数として考察することによって,初めてその 本質を理解することができる.

3.2 定数関数 f(z) =α (α は複素数の定数)と恒等写像 g(z) =z は共に C で正則で,

f(z) = 0, g(z) = 1 である. 証明)z0 C とすると,

f(z0+ ∆z)−f(z0)

∆z = α−α

∆z = 0, g(z0+ ∆z)−g(z0)

∆z = z0+ ∆z−z0

∆z = 1

であるから,f(z) と g(z)z0 で微分可能でf(z0) = 0, g(z0) = 1 である.

3.3 f(z) =z は任意の z0C において微分可能ではないから正則関数でない.実際,

f(z0+ ∆z)−f(z0)

∆z = z0+ ∆z−z0

∆z = ∆z

∆z は例3.1より ∆z 0 のとき極限値を持たない.

命題 3.3 Cの開集合D で定義された複素関数 f(z) がz0 ∈D で微分可能であれば,f(z) は z0 で連続である.

証明: f(z) が z0 で微分可能とすると,

f(z)−f(z0) = (z−z0)f(z)−f(z0) z−z0

0·f(z0) = 0 (z →z0) となるから f(z) は z0 で連続である.□

定理 3.1 (正則関数の四則演算) f(z)とg(z)がCの開集合Dで正則ならば,f(z)±g(z), f(z)g(z) も D で正則であり,導関数について

{f(z)±g(z)} =f(z)±g(z), {f(z)g(z)} = f(z)g(z) +f(z)g(z) が成立する.さらに,任意の z∈D について g(z)̸= 0 ならば f(z)

g(z)D で正則であり,

(f(z) g(z)

)

= f(z)g(z)−f(z)g(z) g(z)2

が成立する.

証明: z0D の任意の点とすると

zlimz0

(f(z)±g(z))−(f(z0)±g(z0))

z−z0 = lim

zz0

f(z)−f(z0)

z−z0 ± lim

zz0

g(z)−g(z0) z−z0

=f(z0)±g(z0),

zlimz0

f(z)g(z)−f(z0)g(z0)

z−z0 = lim

zz0

f(z)(g(z)−g(z0)) + (f(z)−f(z0))g(z0) z−z0

= lim

zz0

f(z)g(z)−g(z0) z−z0

+ lim

zz0

f(z)−f(z0) z−z0

g(z0) =f(z0)g(z0) +f(z0)g(z0) また g(z0) ̸= 0 ならば

zlimz0

1 z−z0

( 1

g(z) 1 g(z0)

)

= lim

zz0

g(z)−g(z0) z−z0

1

g(z)g(z0) = −g(z0) g(z0)2 より

(f(z) g(z)

)

= (

f(z) 1 g(z)

)

= f(z) 1

g(z) +f(z) {

−g(z) g(z)2

}

= f(z)g(z)−f(z)g(z) g(z)2

命題 3.4 多項式関数

f(z) =anzn+an1zn1+· · ·+a1z+a0 (a0, a1, . . . , an C) は複素数平面 C で正則であり,その導関数は

f(z) =nanzn1+ (n1)an−1zn2+· · ·+a1

である.さらに f(z) が n次式,すなわち an ̸= 0 ならば,f(z) = 0 を満たす複素数 z は 高々 n個である.

証明: 例3.2より関数 z は Cで正則だから,定理3.1より,n を非負整数とするとき単項 式関数 zn も C で正則である.(zn) =nzn1n に関する帰納法で示そう.n= 0 のと きは zn = 1 であるから例3.2より (zn) = (1) = 0 となり成立する.また n = 1 のとき は例3.2より (zn) = (z) = 1 となり成立する.n 2 として n−1 のとき成立すると仮 定すると,定理3.1より

(zn) = (zzn−1) = (z)zn−1+z(zn−1)= zn−1+z(n−1)zn−2= nzn−1 となり n のときも成立する.従って定理3.1より,f(z) は C で正則であり

f(z) =nanzn1+ (n1)an1zn2+· · ·+a1

が成立する.次に,an ̸= 0 として,f(z) = 0 を満たす z が高々 n個であることを n に 関する帰納法で示そう.f(α1) = 0 を満たす複素数 α1 C が存在すると仮定する(これ は代数学の基本定理として後で証明するが,ここでは仮にこのような α1 がなければ上の 主張は示されたことになるので問題ない.)このとき多項式 f(z) を1次多項式 z−α1 で 割り算すると,

f(z) =q(z)(z−α1) +β

を満たすn−1次多項式q(z)β Cが存在する.このとき 0 =f1) =β であるから,

f(z) =q(z)(z−α1) が成立する.f(z) = 0 ならば z = α1 または q(z) = 0 でなければな らないが,帰納法の仮定によりq(z) = 0 を満たすz は高々n−1個であるから,f(z) = 0 を満たす z は高々 n個であることが示された.□

定理3.1と命題3.4により,f(z) と g(z) を多項式関数(g ̸= 0)とするとき,有理関数 f(z)

g(z) は C から有限集合S := {z C | g(z) = 0} を除いた集合 D := C\S で正則であ る.有限個の点からなる集合は閉集合であるから,D は開集合である.

3.4 f(z) = 1

z2+ 1 は C の開集合D := {z C|z ̸=±i} =C\ {i,−i} で正則である.

補題 3.1 f(z) をCの開集合D で定義された複素関数とする.このとき,f(z)が z0 ∈D で複素微分可能であるための必要十分条件は,ある複素数 α と,D で定義されたある複 素関数 φ(z) があって,

f(z) =f(z0) +α(z−z0) + (z−z0)φ(z), lim

zz0

φ(z) = 0 が成立することである.このとき α= f(z0) が成立する.

証明: φ(z)z =z0 のときは φ(z0) = 0, = z0 のときは φ(z) := f(z)−f(z0)

z−z0

−α

によって定義する.このとき,f(z) =f(z0) +α(z−z0) + (z−z0)φ(z) が任意の z∈D に ついて成立する.f(z) が z0 で複素微分可能であれば,z→z0 のときφ(z) →f(z0)−α である.よって α= f(z0) とすれば補題の条件が成立する.

逆に補題の条件を仮定すると,

z→zlim0

f(z)−f(z0) z−z0

= lim

z→z0

φ(z) +α= α であるから f(z) は z0 で複素微分可能で f(z0) =α である.□

定理 3.2 (正則関数の合成) f(z)は C(z平面)の開集合 D で正則であり,g(w) はC (w 平面)の開集合 D で正則であり,f(D) D とする.このとき合成関数 g(f(z)) は D で正則であり,

{g(f(z))} = g(f(z))f(z) が任意の z∈D について成立する.

証明: z0 ∈D として,w0 =f(z0) とおく.仮定より w0 ∈D である.f(z) は z0 で複素 微分可能,g(w)w0 で複素微分可能であるから補題3.1により

f(z) =f(z0) +f(z0)(z−z0) + (z−z0)φ(z), g(w) =g(w0) +g(w0)(w−w0) + (w−w0)ψ(w),

zlimz0

φ(z) = 0, lim

ww0

ψ(w) = 0 を満たす関数 φ(z)ψ(w) が存在する.このとき g(f(z))−g(f(z0)) ={f(z)−f(z0)}{g(w0) +ψ(f(z))}

= (z−z0){f(z0) +φ(z)}{g(w0) +ψ(f(z))}

= (z−z0)f(z0)g(w0) + (z−z0){φ(z)g(w0) + (f(z0) +φ(z))ψ(f(z))} が成立する.f(z) は連続だから,z→z0 のとき w = f(z) →f(z0) =w0 であり,

φ(z)g(w0) + (f(z0) +φ(z))ψ(f(z))0

となるから,補題3.1により g(f(z)) は z0 において複素微分可能であり{g(f(z))} = g(f(z))f(z) が成立する.□

問題 3.2 次の各々の複素関数 f(x) が指定された点 z0 で(複素)微分可能かどうかを定義 に従って判定せよ.

(1) f(z) = 1

z, z0 ̸= 0 (2) f(z) = 1

z, z0 ̸= 0 (3) f(z) =|z|2, z0 = 0 (4) f(z) =|z|2, z0̸= 0

問題 3.3 n を自然数とするとき f(z) = z−n は開集合 D = {z C | z ̸= 0} で正則で,

f(z) =−nzn1 が成り立つことを示せ.

問題 3.4 次の各々の複素関数f(z)はどのような集合で正則になるか?また,導関数f(z) を求めよ.

(1) f(z) = z

z2+ 4 (2) f(z) = (

z+ 1 z

)6

(3) f(z) = 1 (z2+ 1)2