ここで,基本となる
guest-free
ホスト (Fig. 81b) の充填様式について説明すると,互いのB
領域を介し てカルボキシ基同士が特異的に認識するホスト二量体構造が形成され,またA
領域ではphenanthrene
環と フェニル基とのedge-to-face
相互作用により互いを連結するのではないかと予測した.そして,アルコー ル類を包接する際には (Fig. 81a) ホスト同士を直接結びつけていたカルボキシ基の間にゲストを挟み込 むように配座が変化し,一方,芳香族ゲストを取り込む際には(Fig. 81c) phenanthrene
環の間のA
領域が 拡がり,その空間内にゲストを保持するのではないかと考えた.この仮説を検証するため,ジエノフィル 部分にカルボン酸を有するホスト (6a–l) を合成し,その包接能について検討した.第
1
節 モノカルボン酸を有するホスト6a–f
の包接能の検討
Bicyclo
環2
位のendo
位にモノカルボン酸を有するホスト群はアルコール類ゲストの取り込みに非常に効果的であり,
1 : 1
の比率で包接体を形成することが確認された( Table 19)
.また,アルコール類以外の ゲストに対しても幅広い包接能が認められ,特に芳香族に対しては2 : 1
での包接が多く見られた.Table 19. Inclusion properties of hosts 6a–f (host/guest molar ratio and desolvation temp. in parentheses /ºC)
Guest solvent acetone butan-2-one pentan-3-one
2-methyl-2-propanol
1,4-dioxane benzene toluene o-xylene m-xylene p-xylene THF
6a 6b 6c 6d 6e
a) 6f
– –
1 : 1 (138) 1 : 1 (123)
1 : 1 (107)
2 : 1 (161)
O
Ph Ph
COOH 6a
O
Ph Ph
COOH CH3
6b
O
Ph Ph
COOH CH2CH3
6c
O
Ph Ph
COOH CH2CH2CH3
6d
O
Ph Ph
COOH Ph
6e
O
Ph Ph
COOH CH3
6f methanol
ethanol 1-propanol 2-propanol 1-butanol 2-methyl-1-propanol
1 : 1 (185) 2 : 1 ( – )
2 : 1 ( – ) 1 : 1 (106)
– – – 1 : 1 ( – )
– 1 : 1 (116) 1 : 1 (136) 1 : 1 (112) 1 : 1 (123) 1 : 1 (151) 2 : 1 (186) 1 : 1 (113,166) 2 : 1 (159) 1 : 1 (141,164)
1 : 1 (138) 1 : 1 (113) 1 : 1 (92) 1 : 1 (145) 1 : 1 (127) 1 : 1 (142) 1 : 1 (144)
2 : 1 (153) 2 : 1 (183) 2 : 1 (172) 2 : 1 (154)
1 : 1 (103) 1 : 1 (107)
2 : 1 (138)
1 : 1 (109) 1 : 1 (136) 1 : 1 (134)
– – 1 : 1 (138) 1 : 1 (160) 1 : 1 (139) 1 : 1 (178) 1 : 1 (180)
2 : 1 (165) 2 : 1 (197) 2 : 1 (192) 2 : 1 (158) 1 : 1 (159)
1 : 1 (125) 1 : 1 (89) 1 : 1 (132)
1 : 1 (138) a)
2 : 1 (162) 2 : 1 (174) 2 : 1 (171) 2 : 1 (131) 2 : 1 (104) 1 : 1 (124,172) –
– – – – – – – –
– – – –
–
– – –
– 1 : 1 (119)
– : No inclusion, a) : Slightly-soluble in the solvent 1 : 1
1 : 1 1 : 1 1 : 1 –
2 : 1 2 : 1 2 : 1 2 : 1 3 : 2 1 : 1 1 : 1 1 : 1 1 : 1 1 : 1 1 : 1 1 : 1
ホスト
6a
は直鎖状のアルコールを取り込まず,分岐鎖アルコールのみを1 : 1
の比で包接した.また,アルコール類以外ではすべてのゲストを包接し,ケトン類と芳香族では
1 : 1
と2 : 1
の2
種類の包接比が 観察された.
3
位のexo
位にメチル基を置換したホスト6b
は,アルコール類の包接スペクトルが広く,直鎖状ゲスト に対する取り込みも観察されるようになった.ケトン類,アルコール類,環状エーテル類などの極性溶媒 に対しては1 : 1
の比率,芳香族ゲストに対しては2 : 1
の比率というようにゲストの種類によって包接比 が分かれる結果となった.このことからも,6bはFig. 74
に提示した包接様式に則ってクラスレートを形 成する可能性が考えられる.ところで,6a•acetone
包接体のゲスト放出温度(106 ºC)
に比べ,6b•acetone
包接体の放出温度 (185 ºC) は約80 ºC
も高く,また芳香族ゲストの包接体においても,6aより6b
の方が 放出温度で上回る傾向が確認された.しかし,6b においても取り込みやすいと予想された1,4-dioxane
および
benzene
に対する包接能が失われたことは容易には理解しにくい結果であった.
3
位のexo
位にエチル基を有するホスト6c
は,carboxylic系ホストの中で最も効果的なホストであり,ethanol
以外のすべてのゲストに対して広い包接能を示した.ところが,3
位のアルキル鎖をさらに伸ばしn-
プロピル基にしたホスト6d
では,ケトン類やアルコール類の取り込みが全く見られず,さらに芳香族 に対する包接能も低下してtoluene
とp-xylene
のみを取り込んだ.
2
位のendo
位にモノカルボン酸を有し,3
位のexo
位にアルキル鎖をもつホスト(6a–d)
においては,無置換からメチル基,そしてエチル基へと置換基の構造が伸張するにつれ,その包接スペクトルが広がっ たが,置換基が
n-プロピル基になった途端にケトン類,アルコール類に対する包接能が失われ,ゲスト包
接において選択性が見られるようになった.配座自由度の高いn-
プロピル基ではゲスト包接空間(空洞の 大きさ)が限定される可能性が考えられる.そこで,3位のexo
位にかさ高いフェニル環を置換したホス ト6e
を合成したところ,再び幅広い包接能の獲得に成功した.柔軟な構造のアルキル鎖に比べ,フェニ ル基は分子間でedge-to-face
相互作用を形成するなど配座が固定されやすく,そのかさ高さによりゲスト 包接空間が十分確保されるものと推察された.また,芳香族に対しては2 : 1,極性溶媒に対しては 1 : 1
という6e
のゲスト包接比は,6bや6c
の包接比と同じであり,OH/OやCH/O
などの水素結合により類似 のホスト間ネットワークを構築している可能性が示された.第
1
項 ホスト6c
のX線構造解析 [6c•1,4-dioxane (1 : 1) complex]この項では
6c•1,4-dioxane (1 : 1)
包接体のX線構造をもとに,幅広い包接能を見せたホスト6c
の包接形 態を検討した.1,4-Dioxane
を包接した結晶中では非等価なゲスト2
分子が存在し,それぞれ異なる様式で 包接されていた (Fig. 82a).まず,guest Aはホスト2
分子が互いに向けたカルボキシ基の間に挟まれるよ うに包接されていた.これは先に報告22) のあったアルコール包接に類似の配座であり,6c•1,4-dioxane
包 接体においても水素結合による12
員環状構造が観察された.クラスレート結晶中において,アルコール 類は2
分子が結びついた二量体構造で観察されることがあり,その二量体の立体構造が環状エーテルの構造に似ていることからも両者が同様の包接様式で取り込まれることが予想された.ホストと
guest A
の間 にはOH/O
およびCH/O
の2
種類の水素結合が形成され,それぞれの結合距離はO•••O
間が2.734(7) Å [O–H•••O, 1.875 Å; ! O–H•••O, 165.5(3)º]
であり,C•••O間が3.41(1) Å [C–H•••O, 2.541(5) Å; ! C–H•••O,
164.9(6)º]
と強固な結びつきであった.また,guest Bとホストの間にはカルボニル酸素が介したCH/O
型水素結合
[C•••O, 3.59(1) Å]
やphenanthrene
環とのCH/!
相互作用(C•••plane, 3.679 Å)
が働いていたが,OH/O
のような強い相互作用は観察されず,guest A
の包接と比べると緩やかな保持であることが推察され た.ところで,強い水素結合能を有するホスト分子においては,隙間のない最密充塡構造よりも水素結合 の形成が優先される可能性がある.たとえば,6c•1,4-dioxane
包接体ではguest A
を間に挟んでホスト2
分 子が連結する構造が!"#
れたが,6c
が芳香族ゲストを包接する場合,カルボキシ基はゲスト分子の保持 に直接関与せず,カルボキシ部分同士が直接結びついた8
員環様の水素結合配座(ホスト二量体構造)が 優先されると考えられる.H
H
H
H
C(H)/!
3.469
C(H)/O 3.432(7)
3.381(6)
H H H
O(H)/O 2.734(7) C(H)/O
3.41(1) C(H)/O
3.59(1) C(H)/!
3.679
guest A
guest B
(a) (b)
H H
H H C(H)/O
3.860(8) C(H)/O 3.77(1) (c)
guest B
Figure 82. Crystal packing of 6c•1,4-dioxane (1 : 1) complex: (a) 12-Membered hydrogen-bonded loop;
(b) Host–host network by bidentate CH/O and Ar–H/! interactions; (c) Host–host and host–guest network by CH/O type hydrogen bonds.
この
6c
の二座のCH/O
型水素結合 [C•••O, 3.381(6), 3.432(7) Å] でhead-to-tail
連結したホスト構造は,さらに互いの
A
領域を介したedge-to-face
相互作用(C•••plane, 3.469 Å)
により結びついていた(Fig. 82b)
.このように,rigid 骨格を有するホストに特徴的に見られた強固なホスト間ネットワークに類似の構造が
6c•1,4-dioxane
包接体においても観察された.Fig. 81
に示した包接模式図においては,このA
領域の間の空隙に芳香族ゲストが取り込まれる可能性を提示した.しかし,現時点で
carboxylic
系ホストが芳香族ゲ ストを包接した単結晶は得られておらず,今後X線解析によるさらなる解明が待たれる.また,6群の包 接能に変化を与えている3
位置換基の役割について見ていくと,6c•1,4-dioxane
包接体ではホストの3-
エ チル基は隣接ホストのカルボキシ基酸素との間 [C•••O, 3.860(8);! C–H•••O, 176.6(4)º]
だけではなく,guest B
のエーテル酸素との間にもCH/O
型水素結合 [C•••O, 3.77(1); !C–H•••O, 170.5(4)º] を形成していた.いずれの結合においても
C•••O
間の距離は若干離れていたが,!C
H•••O
を見るとほとんど直線関係にあ り,配座を柔軟に変えることができるアルキル鎖により6c
では効果的なネットワークを構築しているこ とが明らかとなった.第
2
項6c•1,4-Dioxane (1 : 1)
包接体のX線構造をもとにしたホストゲスト複合体の安定化エネルギーの評価
この
6c•1,4-dioxane (1 : 1)
包接体のモデル構造(ホスト2
分子,ゲスト1
分子)は非常に自由度が高いため,