第 3 章 Non-hydroxylic クラスレートホストの包接能の検討
Scheme 3. 1 H NMR spectral data for conformational isomers due to restricted rotation about a N–Ar bond in 5c
N- フェニル環にハロゲン原子を置換したホスト 5j–r では,メチル基を置換したホスト 5d–f 以上にその 置換基の位置によりゲスト選択性を示す結果となった.たとえば Cl , Br 原子をそれぞれ 2’ 位に置換した
10.00 ÅCl/! ?
3.625 C(H)/Cl ?
3.583(4)
C(H)/!
3.331 C(H)/!
3.631
C(H)/!
3.629 C(H)/O
3.368(4)
C(H)/O 3.343(4)
C(H)/!
3.393 11.34 Å
10.00 Å Cl/! ?
3.518
Cl/! ? 3.526
centroid Cl/! ? 3.518
C(H)/!
3.595
Figure 72. Crystal packing of (a) 5n•p-xylene (1 : 1) complex and (b) 5e•p-xylene (1 : 1) complex
5n•p-Xylene
包接体において,! C4’–Cl•••!-centroid
は85.5º
でありCl
原子はC4’–Cl
結合軸に対して垂直方向の
nucleophilic
部分で!
平面と接近していた.Cl
原子と対面する芳香環平面との距離は3.518 Å,その
重心との距離は
3.526 Å
であった.ここでも各原子のVDW
半径を考慮し,(C4’–)Cl•••!-plane
間の距離が3.45 Å
以内 (1.75 Å for Cl, 1.7 Å for Csp2)
30) にあれば相互作用する可能性が高いと推察したが,実際の距離 はその範囲内に存在しなかった.また,二量体相手のphenanthrene
平面とCl
原子のelectrophilic
部分との 相互作用に関しても,Cl•••!-plane
間の距離は3.625 Å ( ! C–Cl•••!-centroid, 153.4º)
と若干離れており,5n•
p-xylene
包接結晶中においてC4’–Cl/!
相互作用が効果的に働くかどうかは疑問である.ところで,隣接ホ ストのphenanthrene
環とCl
原子の距離 (C•••Cl) は3.583(4) Å
であり,VDW
半径の和3.75 Å (2.0 Å for CH
3,
1.75 Å for Cl)
30) よりも接近していた.しかしながら,VDW
半径を基準とするCH/Cl
型水素結合の証明に は疑問を呈する報告32m–n) もあり,CH/Cl
型水素結合の存在を実証すること自体が容易ではないと考えら れる.
5n•p-Xylene
の包接様式は5e•p-xylene
包接体で観察された構造と類似しており,ゲスト放出温度についても
5e•p-xylene (110 ºC)
と5n•p-xylene (105 ºC)
ではほとんど差が認められなかった.結果としてVDW
半径を基準としたCH/Cl
型水素結合やCCl/!
相互作用がホスト間ネットワークの強化に寄与することを 証明することはできなかった.一般に,ハロゲン相互作用は他に強い相互作用が働いていない状況におい て,結晶格子を決定づける作用を示す傾向があるとされているが,実際に5n•p-xylene
包接体において効 果的な働きは確認できなかった.第
2
項 ホスト5l
のX線構造解析 [5l•m-xylene (1 : 1), 5l•acetone (2 : 1) complex]
5l•m-Xylene (1 : 1)
包接体では,4’-メチル置換体ホスト5f
のm-xylene
包接体と同様に,ホストのA
領 域間に挟む込む形で芳香族ゲストを包接した(Fig. 73)
.また,B
領域を介したparallel-displaced
型構造やC-C
領域対面構造も形成され,maleimide >C=Oを介したCH/O
型水素結合によりホスト‒ゲストが交互に 連結するネットワーク(S領域)も紙面の垂直方向で観察された.各相互作用距離を比較しても両者のネ ットワークに大きな差は認められず,前節で推測した「4’
位置換体ホストによる芳香族ゲストの包接では その置換基の違いに影響されず共通のホスト間ネットワークを形成する」ことが明らかとなった.しかし ながら,5f•m-xylene包接体の98 ºC
に対して5l•m-xylene
包接体では165 ºC
とそのゲスト放出温度は大幅 に上昇していた.5l•m-Xylene
包接体のネットワークを観察すると,空間的に接近しやすい位置に存在す る4’位 F
原子とそれを取り囲むように接近する隣接ホストのphenanthrene
環水素との間にCH/F
型水素結 合が形成されている可能性が考えられる (Fig. 74).また,F原子はゲストm-xylene
とも直接CH/F
型水素結合
[C•••F, 3.51(1) Å]
を形成していた.このように,CH/F
型水素結合がホスト間だけでなくホスト‒ゲスト間の連結をも強めることで高い溶媒放出温度に繋がったものと推察できる.ホスト
5l
において,4’位に導入した
F
原子は共通のホスト間ネットワーク構築を妨げず,しかもそのCH/F
型水素結合能により 強固なホスト格子を形成することが明らかとなった.(a) 5l•m-Xylene (1 : 1) complex (b) 5f•m-Xylene (1 : 1) complex
C(H)/F 3.51(1)
3.630 3.750 3.550
12.87 Å 12.64 Å
3.731 3.739 3.505
Figure 73. Crystal packing of (a) 5l•m-xylene (1 : 1) complex and (b) 5f•m-xylene (1 : 1) complex.
3.637(7) 3.881(7)
C(H)/F 3.51(1) C(H)/O 3.660(9)
C(H)/O 3.47(1)
Figure 74. Host–guest network by CH/O and CH/F type hydrogen bonds in 5l•m-xylene (1 : 1) complex
次に,幅広い包接を見せたホスト
5l
はケトン類を2 : 1
の比で包接したが,5l•acetone
包接結晶において はexo
位メチン水素とのCH/O
型水素結合 [C•••O, 3.10(2), 3.23(2) Å] 以外にゲスト分子の保持に直接関与 する相互作用は確認できなかった(Fig. 75a)
.また,これまでmaleimide
系ホストに共通して観察されて きたB
領域を介したN-フェニル環同士の認識は確認されなかった.しかしながら,ゲスト acetone
を中心 にそのホスト間ネットワークを観察すると,CH/O 型水素結合やCH/!
相互作用による結びつきをさらに 強化する形でCH/F
ネットワークが効果的に働いていた(Fig. 76)
.4’
位F
原子と隣接するphenanthrene
環 水素との間に働くCH/F
型水素結合 [C•••F, 3.32(1), 3.50(2), 3.59(2) Å;! C–H•••F, 147.1(7), 152.3(9), 140(1)º]
(Fig. 75b, 76)
は,強固なホスト格子を構築する上で重要な役割を果たしており,200 ºC
を超えるほど上昇したゲスト放出温度
(211 ºC)
はゲスト包接空間の安定性を反映していると考えられる.C(H)/O 3.10(2) 3.23(2)
(a) (b)
3.50(2) C(H)/F 3.32(1)
3.59(2) 3.70(2)
Figure 75. Crystal packing of 5l•acetone (2 : 1) complex: (a) Host–guest network by CH/O type hydrogen bonds;
(b) Host–host network by CH/F type hydrogen bonds.
CH/!
CH/O CH/F
(a) (b)
Figure 76. Crystal packing of 5l•acetone (2 : 1) complex: (a) Host–host network by CH/F type hydrogen bonds;
(b) Host–host network by CH/O, CH/! and CH/F interactions surrounding guest acetones.
このように,前項の
Cl
原子を介した相互作用と比較して,5l•acetone 包接体におけるCH/F
型水素結合 の働きは顕著であった.この結合能の高さはF
原子の電子陰性度の高さに起因すると考えられる.第
3
項 ホスト5o
のX線構造解析 [guest-free 5o, 5o•benzene (1 : 1), 5o•p-xylene (1 : 1) complex]ところで,ホスト
5o
においては幸いなことにguest-free
結晶を得ることができた.これまで4’
位置換体 ホストで結晶構造が分かったものは包接体のみであり,そのゲスト包接機構を明らかにするためにも基本となる
guest-free
のホスト間ネットワークの検討が不可欠であった.実際にguest-free 5o
結晶構造を観察すると,そのホスト間ネットワークは
5f•m-xylene
の包接様式を予測した際に組んだモデル構造(Fig. 68a)
と酷似していることが分かる (Fig. 77a).モデル構造では図示した構造で空間を埋めようとhead-to-tail
連 結を推測していた.事実,guest-free5o
ではその予測通りにhead-to-tail
でホスト間を連結している様子が 確認された,しかしながら,実際にはC
領域でのホスト認識はhead-to-tail
連結だけでなく,同時にC-C
領域対面構造も形成されていた (Fig. 77c).このようにinduced-fit
型の柔軟なホスト間ネットワークが構 築できるのも,maleimide環カルボニル酸素を介したS
領域でのCH/O
型水素結合が効果的に働いている ためと考えられる.また,guest-free 5o
ではA
領域でphenanthrene
環同士が重なり合ったスタッキング構 造が観察された (Fig. 77b).Guest-free4d
や4d•benzene
包接体で観られた!/!
相互作用においては,その 重なり部分はフェニル環半分ほどしかなかったが (Fig. 44),今回のguest-free 5o
においてはphenanthrene
の両端の環がそれぞれ半分以上も重なり合っていた.そのphenanthrene
環同士の距離は3.875 Å
であり,guest-free 4d (3.408 Å)
や4d•benzene (3.641 Å)
と比べて0.2 Å
以上も離れていたが,phenanthrene
環同士の 重なり面積が広い分,面間距離が遠くても十分な相互作用(!/!相互作用)が得られるものと推察した.O X
O
O X
O
O X
O
O X
O O
X
O
O X
O
O O
O X
O
X
(b) (a)
(c)
(Fig. 68a)
Figure 77. (a) Crystal packing of guest-free 5o; (b) !/! Interaction between phenanthrene rings; (c) Host–host
network by both head-to-tail connection and facing structure through each other’s regions C.
次に
5o•benzene (1 : 1)
包接体と5o•p-xylene (1 : 1)
包接体の充填様式を比較した (Fig. 78).ゲスト分子 はそれぞれの結晶格子内で同様の位置に存在していたが,CH/O
型水素結合の距離で判断するとp-xylene
の方が強い包接であるように見える.しかしながら,両者のphenanthrene
の2
位炭素とCl
原子との距離 を比較すると,5o•p-xylene 包接体の方が5o•benzene
包接体よりも0.1–0.2 Å
ほど離れていた [C•••Cl,3.680(4)
→3.802(2) Å; 3.775(4)
→3.954(2) Å]
.さらに,両者のゲスト放出温度を比較すると,benzene
包接体の
136 ºC
に比べてp-xylene
包接体では96 ºC
であり,p-xylene包接体の方がより不安定なことが判明した.
3.954(2) 3.802(2)
C(H)/Cl ? 3.699(2)
C(H)/O 3.615(3) C(H)/O
3.379(3)
3.459(3) (b)
C(H)/O 3.744(9) C(H)/O
3.778(9)
3.775(4) 3.680(4)
C(H)/Cl ? 3.70(1) (a)
Figure 78. Crystal packing of (a) 5o•benzene (1 : 1) complex and (b) 5o•p-xylene (1 : 1) complex.
各包接体において芳香環ゲストはそれぞれ
maleimide >C=O
の間に挟まれるように包接されていた.メ チル基の分だけかさ高いp-xylene
が間に入ることで隣接するホスト分子の接近を妨げ,それに伴うホスト 間ネットワークの減弱がゲスト溶媒の保持力に影響を与えた可能性が考えられる.これらの包接体の検討 を通じてもC
arylH/Cl
の存在は疑わしく,密な結晶を構築する過程において隣接ホストがCl
原子に接近 し,結果として相互作用が疑われる距離にCl
原子が位置したと推察した.第