第 3 章 Non-hydroxylic クラスレートホストの包接能の検討
Scheme 3. 1 H NMR spectral data for conformational isomers due to restricted rotation about a N–Ar bond in 5c
N- phenylmaleimide 誘導体ホストでは,置換基の位置が 3’位と 4’位とで二種類のネットワークを形成す ることが確認された. 3’ 位置換体ホストについては,二量体を形成する相手の フェニル環を B 領域を
次に
5o•benzene (1 : 1)
包接体と5o•p-xylene (1 : 1)
包接体の充填様式を比較した (Fig. 78).ゲスト分子 はそれぞれの結晶格子内で同様の位置に存在していたが,CH/O
型水素結合の距離で判断するとp-xylene
の方が強い包接であるように見える.しかしながら,両者のphenanthrene
の2
位炭素とCl
原子との距離 を比較すると,5o•p-xylene 包接体の方が5o•benzene
包接体よりも0.1–0.2 Å
ほど離れていた [C•••Cl,3.680(4)
→3.802(2) Å; 3.775(4)
→3.954(2) Å]
.さらに,両者のゲスト放出温度を比較すると,benzene
包接体の
136 ºC
に比べてp-xylene
包接体では96 ºC
であり,p-xylene包接体の方がより不安定なことが判明した.
3.954(2) 3.802(2)
C(H)/Cl ? 3.699(2)
C(H)/O 3.615(3) C(H)/O
3.379(3)
3.459(3) (b)
C(H)/O 3.744(9) C(H)/O
3.778(9)
3.775(4) 3.680(4)
C(H)/Cl ? 3.70(1) (a)
Figure 78. Crystal packing of (a) 5o•benzene (1 : 1) complex and (b) 5o•p-xylene (1 : 1) complex.
各包接体において芳香環ゲストはそれぞれ
maleimide >C=O
の間に挟まれるように包接されていた.メ チル基の分だけかさ高いp-xylene
が間に入ることで隣接するホスト分子の接近を妨げ,それに伴うホスト 間ネットワークの減弱がゲスト溶媒の保持力に影響を与えた可能性が考えられる.これらの包接体の検討 を通じてもC
arylH/Cl
の存在は疑わしく,密な結晶を構築する過程において隣接ホストがCl
原子に接近 し,結果として相互作用が疑われる距離にCl
原子が位置したと推察した.第
3
節Non-hydroxylic
ホストに関する考察(小括)N-phenylmaleimide
誘導体ホストでは,置換基の位置が3’位と 4’位とで二種類のネットワークを形成す
(b) Inclusion complex of maleimide-derived host
(a) Guest-free structure of maleimide-derived host
Figure 79. Packing mode of N-(3’-X-phenyl)maleimide-derived hosts (X = CH
3, F, Cl, Br)
次に,
4’
位置換体ホストでは二量体の配座が若干変化し,4’
位置換基が二量体相手のmaleimide
環上に 位置することで3ʼ位置換体ホストとは異なるネットワークを形成した (Fig. 80).対称中心を間に挟んだ C-C
領域対面構造は共通して観られたものの,A領域ではphenanthrene
環同士の!/!
相互作用が確認された.
Guest-free
結晶においては,B
領域に自らのN-
フェニル環や近接ホストの芳香環が接近しているが,ゲスト包接結晶では紙面の垂直方向に隣接するホストのフェニル基が
B
領域を占めていた.また,芳香族 ゲストの包接位置は3’位置換体ホストと同じく A
領域をスライドさせてできる空間であったが,図の垂 直方向についてはmaleimide >C=O
を介したCH/O
型水素結合によって保持されていた.(a) Guest-free structure of phenyl)maleimide-derived host
(b) Inclusion complex of phenyl)maleimide-derived host
phenyl ring from neighboring host
Figure 80. Packing mode of N-(4’-X-phenyl)maleimide-derived hosts (X = CH
3, F, Cl, Br)
芳香族ゲストの包接に際し,
3’位あるいは 4’位置換体ホストで大きな違いはなく,基本となるホスト間
ネットワークがスライドすることでA
領域にゲスト包接空間を生み出した(Fig. 60, 68)
.N-
フェニル環の間には
parallel-displaced
型構造による調整機能が働き,このB
領域を介した柔軟なホスト間ネットワーク形成能が結晶構造全体の安定化に寄与していた.このような
induced-fit
型の包接形態が成立するのは,ホ スト構造にずれが生じても新たに安定な結晶構造を形成できるためと考えられる.この安定なネットワー ク形成については,C-C領域対面構造に使われるbridged >C=O
以外にも,S領域ではmaleimide >C=O
が 分子間(ホスト,ホスト‒ゲスト)を連結する役割を果たし,異なる方向を向けて配置された3
つのカル ボニル基の存在が三次的で柔軟なCH/O
ネットワークを可能にしていた.ところで,特異的なホスト柱状 構造を形成するホスト4a
は針状結晶で観察されることがほとんどであったが,N-phenylmaleimide誘導体 ホストではプリズム状の結晶が多数得られた.また,maleimide平面は5c•butan-2-one
や5e•p-xylene
にお いてゲスト保持に有効であったが,それに対面してゲスト分子を挟み込む芳香環の存在がゲスト包接には 必須であると考えられる.広い!
平面のphenanthrene
環はホストやゲストの芳香環の認識に非常に優れて おり,ゲスト包接に利用されない場合においても隣接ホストのフェニル基とA
領域を介してedge-to-face
相互作用を形成したり,phenanthrene
環同士で!/!
相互作用したり,密なguest-free
結晶構造の構築に重要 な役割を果たしていた.しかしながら,N-phenylmaleimide
誘導体ホストが芳香族ゲストを包接する際に得 られる安定化エネルギーをPM6
法により算出したところ,ホスト同士が結びついた際の安定化エネルギ ーとほとんど差がなかった.A
領域における柔軟な認識機構のために,ゲストの包接もその放出もわずか なエネルギー差で生じる可能性が示され,実際にそれを支持するように芳香族ゲストの放出温度は総じて 低いものであった.置換基の影響について考察すると,
2’
位および3’
位ハロゲン置換体ホストにおいては,ハロゲン基の違 いに関わらず類似の包接挙動を示すことが明らかとなった.ただし,4’位ハロゲン置換体ホストにおいて はハロゲン基の影響が大きく,特にF
原子を置換したホスト5l
の包接体では極めて高いゲスト放出温度 が観察された.この結果からCH/F
型水素結合が強固なホスト間ネットワークの形成に有効であることが 示唆された.それに対し,Cl原子を有するホスト群ではCl
を介した明確な相互作用は認められず,Cl原 子がホスト格子の安定化に寄与していない可能性も考えられた.本章ではハロゲン原子を導入することで特異的なネットワーク形成やゲスト包接能の変化を期待した が,生物学的等価体としての挙動にとどまった.個別の例として,ホスト
5l
でのCH/F
型水素結合や1
章 で観察されたホスト3d
でのC–Br/!
相互作用は分子間を強く結びつける役割を果したが,単独で結晶格子 を決定づけるほどの力強い相互作用は確認できなかった.以上の結果からも,他の強い相互作用との共存 下において,ハロゲン相互作用とはネットワークを補完する性質のものであることが理解できる.
ドキュメント内
熊本大学学位論文
(ページ 89-92)