第 4 章 交通流シミュレータの開発
4.3 CO 2 排出量・コストの算出機能
4.3.2 CO 2 排出量の算出
本研究で考慮するCO2排出量は、交通流シミュレータで算出する自動車・自転車か らのCO2排出量および、方策実施によるCO2排出増加量である。
方策実施によるCO2排出増加量 自転車専用ハイウェイを設置した場合、ハイウェイ であることを示す看板を該当交差点毎に設置し、優先道路であることを示す区画線を 引く。区画線については製造時のCO2 排出量は極微量であり、使用量も少ないため、
看板および看板を支えるポールについてのみCO2排出量を考慮する。具体的には、看 板・ポールを製造する時のCO2排出量を計算し、看板の耐用年数で割ることで1年あ たりのCO2排出増加量Ehighway(g-CO2/年)を求める。方策実施によるCO2排出増加 量算出に関する値を表4.3に示す。アルミ・鉄の製造時排出原単位は相原らの研究[27]、 看板の耐用年数は株式会社日本ティーエスのWebページ[28]から引用した。看板・ポー ルの重量は概算であり、交差点数は実際に数え、看板は交差点ごとに4枚必要である とした。また、方策実施によるCO2排出増加量の計算方法を表4.4に示す。
自動車からのCO2排出量計算 自動車からのCO2排出量を推定するモデルとして、大
[29]
表 4.3: 方策実施によるCO2排出増加量算出に関する値
項目 変数名 値
看板の重量(kg/枚) WS 2.89 ポールの重量(kg/枚) WP 13.7 アルミの製造時排出原単位(g-CO2/kg) EAl 10,160 鉄の製造時排出原単位(g-CO2/kg) EF e 1,430 看板の耐用年数(年) YS 10
交差点数 NP I 140
表 4.4: 方策実施によるCO2排出増加量算出に関わる値の計算方法
項目 変数名 計算方法
看板必要枚数(枚) NS NP I ·4
増加するCO2排出量(g-CO2/年) Ehighway NS·(WS·EAl+WP ·EF e)/YS
うに定式化している。
f(t) =fidle+ (µ+ sinθ)M g
εηH v(t) + κ
εηHv(t)3+M +m
εηH a(t)v(t) (4.1) ここで、µ:転がり摩擦係数、θ:路面勾配(上り坂を正とする)、M:搭乗者を含 む車両質量(kg)、g:重力加速度(m/s2)、ε:正味熱効率、η:総伝達効率、H:ガソリ ンの熱当量(J/cc)、v(t):時刻tにおける速度(m/s)、κ:空気抵抗に相当する抵抗係数
(kg/m)、m:加速時回転部分相当質量(kg)、a(t):時刻tにおける加速度(m/s2)であ
る。式(4.1)の右辺第1項はアイドリング燃費であり、常に一定量消費する。第2項は
路面の転がり抵抗と勾配抵抗に相当し、速度によって変化する。ただし、本研究では路 面の勾配情報は考慮しないため、θは0として計算する。第3項は空気抵抗に相当し、
速度の3乗に比例する。第4項は車両が加速している場合にのみ定義され、加速抵抗 に相当し、加速度と速度の積で説明される。
次に、式(4.2)に示すように、瞬時燃費にガソリンのCO2変換係数Kcを乗じること
でCO2排出量Ecar(t) (g-CO2/cc-gasoline)に換算する。
Ecar(t) =Kcf(t) (4.2)
の乗用車の概算値[29]及び環境省・経済産業省が発表している変換係数[30]を用いた。
表 4.5: 自動車からのCO2排出量計算に関する値
項目 変数名 値
アイドリング燃費(cc/s) fidle 0.3
転がり摩擦係数 µ 0.015
路面勾配 θ 0
搭乗者を含む車両質量(kg) M 1,200 重力加速度(m/s2) g 9.8
正味熱効率 ε 0.3
総伝達効率 η 0.9
ガソリンの熱当量(J/cc) H 3.4×104 空気抵抗に相当する抵抗係数(kg/m) κ 0.5 加速時回転部分相当質量(kg) m 0.2M(= 240) ガソリンのCO2変換係数 Kc 2.3
自転車からのCO2排出量計算 自転車からのCO2排出量として、本研究では自転車 運動時の呼吸によるCO2排出増加量及び電動アシスト自転車の電気使用によるCO2排 出量を合計した値を用いる。
自転車運動時の呼吸によるCO2排出増加量
塩尻によると、40rpmで自転車運動を行った場合、安静時に比べて1分あたり
673mL、呼吸によるCO2排出量が増加する[31]。一般的な自転車としてホイール径
0.7m、スプロケットとクランクのギア比を1対3と設定すると、40rpmはおよそ
時速16kmに相当する。ここで、モル質量をSATPの定義による24.8L/mol、CO2
のモル質量44g/molを用いて計算すると、自転車運動時の呼吸によるCO2排出増
加量Ecyclingは4.53g-CO2/台·kmとなる。
電動アシスト自転車の電気使用によるCO2排出量
ヤマハ発動機株式会社の電動アシスト自転車PAS Brace Lのバッテリ容量は
25.2V/8.1A、アシスト可能距離は36kmである[32]。また、環境省の発表によると、
電力利用によるCO2排出係数は代替値で555g-CO2/kWhとなっている。ここで、
本研究では京都市近郊を対象としているが、これはあくまでモデルケースであり、
将来的には条件を満たす日本全国の都市で方策を実施できることを目標としてい る。よって、電力利用によるCO2排出係数については関西電力株式会社の値では なく、全国の代替値を利用する。さらに、Li-ion蓄電池の充電効率を0.95とし、自 転車産業振興協会が発表している自転車の出荷台数の内訳[34]から、電動アシス ト自転車の自転車全体に占める割合を3割とする。以上の値から計算すると、電 動アシスト自転車の電気使用によるCO2排出量Ee−bikeは0.996g-CO2/台·kmと なる。
以上をまとめると、自転車からのCO2排出原単位は表4.6のようになる。
表 4.6: 自転車からのCO2排出量原単位
項目 変数名 値
自転車運動時の呼吸によるCO2排出増加量(g-CO2/台·km) Ecycling 4.53 電動アシスト自転車の電気使用によるCO2排出量(g-CO2/台·km) Ee−bike 0.996 自転車利用によるCO2排出原単位(g-CO2/台·km) Ebike 5.53
4.3.3 コストの算出
本研究で考慮するコストは、方策実施にかかる費用および走行経費、時間価値、交 通事故損失である。
方策実施にかかる費用 4.3.2項で述べたように、ハイウェイを設置した場合、ハイウェ イであることを示す看板を設置し、区画線を引く必要がある。これらの費用を方策実 施にかかる費用とする。方策実施にかかる費用算出に関わる値を表4.7に示す。看板、
ポールの費用は建設物価[35]、看板設置費用・破線描画費用は土木コスト情報[36]、看板 の耐用年数は(株)日本ティーエスのWebページ[28]、区画線の耐用年数はVFD工法の 登録申請書[37]から引用した。交差点ごとの描画線距離は概算である。また、方策実施 にかかる1年あたりの費用の計算方法を表4.8に示す。
自動車の走行経費 自動車の走行経費は、国土交通省の費用便益分析マニュアル[14]の 走行経費原単位を用いて算出する。ここでは、走行経費について、燃料費、油脂費、タ
表 4.7: 方策実施にかかる費用算出に関わる値
項目 変数名 値
看板+ポール費用(円/枚) CS+P 20,370 看板設置費用(円/枚) CSI 28,050 看板の耐用年数(年) YS 10 交差点数 NP I 140 破線描画費用(円/m) CDL 235 交差点ごとの描画線距離(m) LDLP I 12 区画線の耐用年数(年) YL 2
表 4.8: 方策実施にかかる費用の計算方法
項目 変数名 計算方法
看板必要枚数(枚) NS NP I ·4
看板にかかる費用(円/年) CS (CS+P +CSI)·NS/YS
区画線にかかる費用(円/年) CL CDL·LDLP I·NP I/YL
方策実施にかかる費用(円/年) Chighway CS+CL
燃料費原単位については8車種別燃料消費量推計式にガソリン及び軽油の税引後単 価を乗じ、車種別燃料別の走行台キロにより加重平均することで、4車種(乗用車、バ ス、小型貨物、普通貨物)別に統合し、求める。
油脂費原単位については、燃料費に比例するものと仮定し、燃料費に対する油脂費 の割合である車種別油脂費係数を乗じることで求める。
タイヤ・チューブ費原単位については、まず平均的な路面状態での耐用年数を考慮 したタイヤ・チューブ費絶対額を算出する。次に、タイヤの耐用年数は路面状況等に 応じて変化するものであるため、その補正のために速度・路面状態・道路条件(カーブ 頻度)・ブレーキ頻度(交差点密度・混雑の程度)の4つを基準化したタイヤ・チュー ブ寿命係数を作成する。タイヤ・チューブ寿命係数は、タイヤ・チューブの寿命が長く なるほど係数が大きくなるように設定されている。よって、タイヤ・チューブ費原単 位はタイヤ・チューブ費絶対額をタイヤ・チューブ寿命係数で割ることで得られる。
整備費については、定期点検整備費と定期点検以外の整備費に分けて考える。まず、
定期点検整備費は走行条件にかかわらず一定とする。定期点検以外の整備費について
は、路面状態・道路条件(カーブ頻度)・ブレーキ頻度(交差点密度)が影響を与える とし、タイヤ・チューブ寿命係数の場合の各補正値の基準化値に反比例して変化する ものと仮定する。定期点検整備費と定期点検以外の整備費を補正値で割った値の和が 整備費原単位となる。
車両償却費も整備費の場合と同様に、路面状態・道路条件(カーブ頻度)・ブレーキ 頻度(交差点密度)が影響を与えるとし、車種別の車両償却費を補正値で割ることで 原単位として求める。
以上の5つの原単位の合計が走行経費原単位となる。なお、走行経費原単位は道路 種別・走行速度別に算出される。本研究で対象とする乗用車について、一般道路(市街 地)の走行経費原単位を表4.9に示す。ただし、費用便益分析マニュアルに則り、時速 60kmを超える速度については、時速60kmの値を用いる[14]。2.2節で述べたように、
自転車専用ハイウェイを設置する都市の条件の1つに「人口密度が低くはない」とい うものがあり、この条件を満たす都市の道路としては市街地の一般道路が最も当ては まると考えられるため、本研究では表4.9の値を用いることにする。
表 4.9: 一般道路(市街地)の走行経費原単位(乗用車)
走行速度(km/h) 走行経費原単位(円/台・km)
5 44.82
10 32.54
15 28.26
20 26.02
25 24.60
30 23.62
35 22.90
40 22.63
45 22.46
50 22.37
55 22.37
60 22.44
自転車の走行経費 自転車の走行経費原単位については、自動車の走行経費原単位を
整備費原単位、車両償却費原単位の5費目について考察し、合計することで自転車の 走行経費原単位とする。
まず、燃料費については電動アシスト自転車の電気料金を考慮する。電動アシスト自 転車の電気使用によるCO2排出量を計算した時と同様に、電動アシスト自転車のバッ テリ容量はヤマハ発動機株式会社のPAS Brace Lの25.2V/8.1A、アシスト可能距離は 36km[32]、Li-ion蓄電池の充電効率を0.95、電動アシスト自転車の自転車全体に占める 割合を3割[34]とする。また、電力量料金は関西電力の電気料金単価表を参考に、24.2 円/kWhとする[38]。以上のことから燃料費原単位を計算すると、0.043円/台・kmと なる。
次に、油脂費については、自転車では油脂費はチェーンオイルとグリス程度であり、
これは整備費に含まれることが多いので、整備費原単位と合わせて考えるものとする。
タイヤ・チューブ費については、JIS規格から、タイヤ・チューブ共に3,000kmの耐 久性を持つとし[39]、タイヤ費用を2,000円、チューブ費用を800円として計算すると、
原単位は1.87円/台・kmとなる。
整備費については、自転車の整備について統計的なデータが存在しなかったため、自 転車通勤者数名に聞き取り調査したところ、表4.10のようになった。表4.10から整備 費原単位を計算すると、0.767円/台・kmとなる。
表 4.10: 自転車の整備費の内訳
整備項目 整備費用(円) 平均発生距離(km)
パンク修理 1,000 2,500 チェーン整備 600 3,000 ブレーキ整備 500 3,000
最後に車両償却費については、自転車の購入費用の平均を30,000円、耐用年数を5 年、自転車の年間走行距離を1,500kmと仮定すると、原単位は4.00円/台・kmとなる。
以上の5つから自転車の走行経費原単位を求めると、6.68円/台・kmとなる。
時間価値 時間価値原単位とは、自動車1台の走行時間が1分変化した場合の、その 時間の価値を機会費用として貨幣評価したものである。機会費用とは、ある選択をす る際に犠牲となる費用のことを指し、選ばなかった選択肢の中で最も高い収益が得ら れる行動にその時間を充てることで得られたであろう収益で計算する。ここで、国土