第 4 章 交通流シミュレータの開発
4.4 自動車交通流シミュレーション
4.4.1 自動車交通流シミュレーションについての要求仕様と機能構成
自動車交通流シミュレーションについて、要求仕様を以下のように定める。
(G) 自動車の挙動を表現できること
CO2排出量・コストの算出の部分でも述べたように、自動車のCO2排出量や 走行経費、時間価値を詳細に知るためには、速度・加速度を調整し、その挙動を 表現する必要がある。
(H) 自動車交通流を表現できること
本研究ではシミュレーションによって自転車専用ハイウェイのコストパフォー マンスを算出する。自転車専用ハイウェイのコストパフォーマンスをある程度現 実的な値として求めるには、現実の京都市近郊の自動車交通流を表現できる必要 がある。
次に、これらの要求仕様を満たすように、以下の機能を実装した。
(14) 環境データと自動車エージェントのパラメータから加速度を調整する機能 環境データとして、自動車エージェントは信号機、対向車両、前方車両、分岐 車両(隣の車線の車両)の位置や速度などの情報を受け取り、それらの情報と現 在の速度・加速度から加速度の加減を行う。
(15) 運転者行動をファジィ推論から決定する機能
(14)の加速度の加減具合、次のリンクへ進むかなどの判断はいくつかのファジィ 推論を組み合わせて決定する。ファジィ推論や運転動作の詳細については4.4.2項 で述べる。
(16) パーソントリップ調査のデータからOD、出発時刻を各自動車エージェントに 割り振る機能
パーソントリップ調査の結果[12]から、ある出発地のゾーンから目的地のゾー ンへ向かう自動車の数、またその自動車の出発時間帯を設定する。具体的には、
パーソントリップ調査の「小ゾーン間 目的別 代表交通手段別 OD表」から該当 する出発地・目的地のゾーンのトリップのみを取り出し、さらに自家用乗用車を 対象とするので「出勤」「自由」「業務」目的のトリップのみに絞り込む。その後、
「小ゾーン別 時刻帯別 目的別 代表交通手段別 発生量・集中量」の各目的、
出発地ゾーンのハイウェイ設置時刻帯に該当する発生量を1時間毎に重み付けを してやり、出発時刻帯も設定する。具体的な出発時刻については、その時刻帯の 中でランダムに決定するものとする。
(17) 道路の優先度を考慮した場合と考慮しない場合の2通りの最短経路探索結果を 保持し経路を事前に選択できる機能
本研究ではある出発地と目的地が与えられた時、基本的にはDijkstra法による 最短経路探索によって各自動車の移動ルートを決定する。しかし、現実にルート を決定する場合には必ずしも最短距離を走るとは限らず、経験的に走りやすい道 路を優先的に用いてできるだけ最短時間で到着するよう行動する運転者も一定数 以上いると考えられる。ここで、走りやすい道路とは車線数が多い、または系統 制御されており、道なりに直進する限り信号で止まる回数が少なくなるような道
スト)が短くなるように重み付けしてDijkstra法による最短経路探索を行った結 果と、通常の最短経路探索の2種類の経路探索結果を自動車エージェントは保持 している。ある出発地・目的地のペアについて2種類の経路探索を行った結果の 例を図4.2に示す。
優先度を考慮しない最短経路探索 優先度を考慮した最短経路探索
図 4.2: 優先度を考慮した場合と考慮しない場合の最短経路探索の例
各自動車エージェントがどちらの経路探索結果で移動するかは一定の割合で自動 車のスタート時点で決定する。
(18) 自転車専用ハイウェイが設置された場合とされていない場合で経路を変更する 機能
自転車専用ハイウェイが設置された場合、ハイウェイに該当する道路は自転車・
歩行者のみ走行可能であり、自動車は走行不可能である。よって、ハイウェイ部 分を迂回する必要があり、ハイウェイが設置された場合とされていない場合で2 通りの経路を探索する。
(19) 自転車専用ハイウェイが設置された場合に一定の割合でモーダルシフトする機 能
ミュレーションを行う。モーダルシフト割合は週5日間のうち何日モーダルシフ トするかを割合で指定する。
以上、自動車交通流シミュレーションについて要求仕様と機能構成をまとめたもの を表4.12に示す。
表 4.12: 自動車交通流シミュレーションに関する要求仕様と機能構成の対応表
要求仕様 機能構成
(G) 自動車の挙動を表現できること (14) 環境データと自動車エージェントの パラメータから加速度を調整する機能 (15) 運転者行動をファジィ推論から決定 する機能
(H) 自動車交通流を表現できること (16) パーソントリップ調査のデータから OD、出発時刻を各自動車エージェントに 割り振る機能
(17) 道路の優先度を考慮した場合と考慮 しない場合の2通りの最短経路探索結果 を保持し経路を事前に選択できる機能 (18) 自転車専用ハイウェイが設置された 場合とされていない場合で経路を変更す る機能
(19) 自転車専用ハイウェイが設置された 場合に一定の割合でモーダルシフトする 機能
次に、自動車運転動作のモデル化について詳細を説明する。
4.4.2 運転動作のモデル化
石川らの研究[42]を参考にファジィ推論を用いて自動車の運転動作をモデル化する。
まず、石川らは運転者の操作に影響を与える要因として以下の4つを挙げている。各 要因の後ろの制限は、その要因が運転動作に与える影響をモデル化したものである。
•
• 対向車両(対向制限)
• 分岐車両(側方制限)
• 信号(前方制限)
まず、前車両とは自車の1つ前を走る自動車のことであり、よって、追従制限とは、
前の車に追突しないように自車の加減速を制御する運転動作である。追従制限の詳細 を図4.3に示す。ただし、図4.3及び図4.5〜4.7中のファジィ推論の詳細については図
4.8〜4.10に、その他の演算子の詳細は表4.13に示している。ファジィ推論については、
石川らの研究[42]でのファジィ関数をそのまま用いると、最高速度25m/s、つまり時速 90kmにまで達してしまい、本研究で対象とする道路では速すぎるものとなっている。
そこで、最高速度を設定すると、その値に応じて前件部ファジィ変数が変化するよう変 更している。例えば、最高速度を18m/sに制限し、停止状態から加速状態、自由走行 状態への速度推移をグラフにしたものを図4.4に示す。図4.4からわかるように、ファ ジィ推論を用いた加減速制御では、加速度の変化が現実の自動車の挙動に近い、自然 なものとなっている。
追従制限では、自車の速度、前車両との相対速度、車間距離を入力し、加減速を制 御する。
図 4.3: 追従制限の詳細[42]
次に、対向車両とは進行方向とは逆向きに進んでくる車両のことであり、対向制限 とは、右折を行う車両が対向車両と衝突しないように自車の加減速を制御し、右折判 断を行う運転動作である。対向制限の詳細を図4.5に示す。対向制限では、信号での停 止と自車・対向車のパラメータを入力することで加減速の制御と右折判断を行う。
0 2 4 6 8 10 12 14 16 18 20
0 100 200 300 400 500 600 700 800 900
移動距離(m)
速度(m/s)
図 4.4: 18m/sで制限した時の加速状態と自由走行状態
図 4.5: 対向制限の詳細[42]
分岐車両とは、自車がいる車線の1つ隣の車線にいる車両のことであり、側方制限 とは、分岐車両に衝突しないように車線変更するか判断する運転動作である。側方制 限の詳細を図4.6に示す。側方制限では、自車・分岐車両のパラメータを入力すること で加減速の制御と車線変更判断を行う。
最後に、前方制限は赤信号での停止について、減速して信号機の前で停止するよう か減速を制御する運転動作である。前方制限の詳細を図4.7に示す。自車のパラメータ と信号現示を入力することで加減速を制御する。
図 4.6: 側方制限の詳細[42]
図 4.7: 前方制限の詳細[42]
以上4つの運転動作について図4.11に示すように組み合わせて自動車の運転動作決 定アルゴリズムを作成した。ただし、右折待ちの車によって渋滞がおきることを避け るため、一部の道路については右折専用車線を設置している。右折専用車線にいる自 動車の運転動作決定アルゴリズムは図4.12のように作成した。
表 4.13: その他の演算子の詳細[42]
演算子 演算内容
MIN 最小値選択 MAX 最大値選択
Lib1 Output=
1 (InputA > InputB)
0 (その他)
Lib2 Output=
255(最大値) (InputA= 1) InputB (その他)
Lib3 Output=
InputA (InputB = 0 :信号が赤) 255(最大値) (その他)
(a) Fuzzy推論1の前件部ファジィ変数
(b) Fuzzy推論1の後件部ファジィ変数
(c) Fuzzy推論1のファジィルール
PPPInput BPPPPPPPPP
Input A
停 緩 適 快 疾
触 不変 微減 減 強減 強減
近 微加 不変 微減 減 強減
適 加 微加 不変 微減 減
離 強加 加 微加 不変 微減
遠 強加 強加 加 微加 不変
図 4.8: Fuzzy推論1の詳細[42]
(a) Fuzzy推論2の前件部ファジィ変数
(b) Fuzzy推論2の後件部ファジィ変数
(c) Fuzzy推論2のファジィルール
PPPInput BPPPPPPPPP
Input A
大快 快 無 遅 大遅
触 強減 強減 減 微減 不変
近 強減 減 微減 不変 微加
適 減 微減 不変 微加 加
離 微減 不変 微加 加 強加
遠 不変 微加 加 強加 強加
図 4.9: Fuzzy推論2の詳細[42]