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SrV 10 O 15

4.3.1 BaV 10 O 15

BaV10O15 の光誘起ダイナミクスの温度依存性について述べる。図4.14(a)に、BaV10O15 の~ωpr =1.56 eVにおける様々な温度の∆R/Rの時間依存性を示す。転移温度 Tc =123 K より高温の 200 K以上では、時間tに対する∆R/Rの振動が観測された。T >200 K にお ける∆R/Rの振る舞いは、最低温の10 KにおけるSrV10O15の振る舞いと似ている。また、

BaV10O15 の300 Kにおいて、t=1 psの∆R/Rの値を、ポンプ光強度に対してプロットし たものを図4.14(b)に示す。4.2.3の図4.12の10 KにおけるSrV10O15 で見られたように、

閾値のない振る舞いが観測された。したがって 4.2.2のSrV10O15 の場合で示したように、

BaV10O15でさえも、Tc よりはるかに高温では、光照射によってサンプル表面に光誘起状態 が現れ、光照射によって生じた格子歪みが弾性波でサンプルの奥行き方向へと進んでいき、

格子歪みに伴って、電子の励起状態が現れる。つまり、格子歪みと結合した電子の励起状態 がサンプルの奥行き方向へ進んでいくと考えられる。

第4章 AV10O15(A=Ba, Sr)の光誘起ダイナミクス 46

0 20 40

−0.005 0 0.005

Delay time (ps)

R /R

Epr || b (a) Eex || c

BaV10O15

1.4 mJ/cm2

200 K

10 K h

ω

pr = 1.56eV

250 K 300 K

0 2 4 6

−0.02 0 0.02

(b) BaV10O15 300 K Epr || b

0.9 eV 1.56 eV

2.5 eV

Power density (mJ/cm2)

R /R

4.14 (a)BaV10O15 の 様 々 な 温 度 に お け る pr = 1.56 eV R/R の 時 間 依 存 性 、 (b)BaV10O15 t = 1 ps における R/R のポンプ光強度依存性、pr = 0.9 eV, 1.56 eV, 2.5 eV

0 10 20 30

−0.02 0 0.02

0.04 E

pr

|| b

1.56 eV

2.5 eV 135 K

Delay time (ps)

R /R

1.2 eV

1.4 eV 1.0 eV

1.5 eV

2.0 eV BaV

10

O

15

1.4 mJ/cm

2

h

ω

pr

=

−0.01 0.01 0.03

2.3 eV

−0.03

4.15 135 KにおけるBaV10O15R/Rの時間依存性

第4章 AV10O15(A=Ba, Sr)の光誘起ダイナミクス 47 次に、Tc直上の温度であるT =135 Kにおける∆R/Rの時間依存性を図4.15に示す。全

ての~ωprにおいて、∆R/Rは振動せずに、絶対値が時間とともに単調に増加しているのが分 かる。

T =135 K(Tc直上)における∆R/Rの振る舞いについて考える。この振る舞いを説明する ために光誘起状態の空間分布モデルとして、次の3つを考えた。

1. サンプル表面にある光誘起状態の割合が時間tとともに増加する

2. 格子歪みと結合した電子の励起状態がサンプルの奥行き方向へと進む(10 Kにおける SrV10O15の場合と同じ)

3. 光誘起状態が拡散する

これらのモデルで解析した結果、実験結果を説明できるのは1.サンプル表面にある光誘起 状態の割合が時間tとともに増加するモデルであった。順に解析結果を示す。

1.

サンプル表面にある光誘起状態の割合が時間

t

とともに増加するモデル

図4.16(a)に示すように、サンプル表面にある光誘起状態の割合が時間tとともに増加する

モデルを考えた。サンプル表面の光誘起状態の割合(C(z= 0,t))は、次式に示すように指数 関数的に増加するとした。この式では、t=0において、サンプル表面の光誘起状態の割合が x0であり、その後、緩和時間τPIで指数関数的に増加して、1に近づくと考えている。

C(0,t)=1−(1−x0) exp (

t τPI

)

(4.18)

よって、C(z,t)

C(z,t)= [

1−(1−x0) exp (

t τPI

)]

exp (−z

d )

(4.19)

となる。式(4.3)、式(4.19)を用いると、複素誘電関数(z,t)は次式で表される。

(z,t)= [

1−(1−x0) exp (

t τPI

)]

exp (−z

d )PI

+ (

1− [

1−(1−x0) exp (

t τPI

)]

exp (−z

d

))G (4.20)

このような光誘起状態の空間分布モデルにおいて、多層膜反射を適用して∆R/Rを計算し た。PI,Gはそれぞれ250 K, 130 K の反射率の実験値から得られた値を用いている。x0 = 0.7,τPI=35 ps, d=60 nmで計算した結果を図4.16(b)に示す。これは実験結果とよく合っ ている。Tc 直上では、長距離秩序はないが三量体が形成されていることが、NMR測定によ り示唆されている[45]。よって、三量体がランダムに入り、結晶格子の乱れが増加するため、

格子歪みと結合した電子の励起状態はサンプル奥行き方向に進まなくなり、サンプル表面に おける光誘起状態の割合が増加すると考えられる。

第4章 AV10O15(A=Ba, Sr)の光誘起ダイナミクス 48

z

R at io o f ε

PI

0 1

z

photoinduced state :

ground state :

C(z, t)

(a)

0 10 20 30

−0.02 0 0.02 0.04

E

pr

|| b

1.56 eV

2.5 eV

(b) calc.

Delay time (ps)

R /R 1.2 eV

1.4 eV 1.0 eV

1.5 eV 2.0 eV BaV

10

O

15

2.3 eV 0.01

0.03

−0.01

−0.03

4.16 (a)サンプル表面にある光誘起状態の割合が時間tとともに増加する空間分布モデル、

(b) (a)の光誘起状態の空間分布モデルを適用した、BaV10O15R/R135 Kにおける時間 依存性の計算結果

2.

格子歪みと結合した電子の励起状態がサンプルの奥行き方向へと進むモデル

4.2.2の図4.6のように、格子歪みと結合した電子の励起状態がサンプルの奥行き方向へと

進んでいくモデルを考えた。PI,Gはそれぞれ250 K, 130 Kの反射率の実験値から得られた 値を用いている。4.2.2の場合と同様に、多層膜反射を適用して、光誘起状態の奥行d= 30 nm、電子の励起状態が進む速度v=1×104 m/s、サンプルの温度が上昇する緩和時間τ=5 psで∆R/Rを計算した結果を図4.17に示す。計算した∆R/Rには、時間に対する振動が現 れ、実験結果(図4.15)とは合わない。

また、図4.18(a)に示すように、格子歪みと結合した電子の励起状態がサンプルの奥行き

方向へと進んでいくが、生じた励起状態は持続するという空間分布モデルも考えてみた。式 (4.3)より、複素誘電関数(z,t)は、次式で表される。

0<z<vt (z,t)=PI

vt<z (z,t)=exp

(−zvt d

)PI+[ 1−exp

(−zvt d

)]G (4.21)

先ほどと同様に、多層膜反射を適用して、d=30 nm、v=1×104m/s、τ=5 psで∆R/Rを 計算した結果を図4.18(b)に示す。この場合も、計算した∆R/Rには、時間に対する振動が 現れ、実験結果(図4.15)とは合わない。

第4章 AV10O15(A=Ba, Sr)の光誘起ダイナミクス 49

0 10 20 30

E

pr

|| b

2.5 eV

calc.

Delay time (ps)

R /R

1.2 eV 1.4 eV 1.0 eV

1.5 eV 2.0 eV BaV

10

O

15

0.02

0.04

− 0 . 02

− 0 . 0 4

− 0 . 0 6 0

4.17 格子歪みと結合した電子の励起状態がサンプルの奥行き方向へと進むモデルを適用 した、BaV10O15R/R135 Kにおける時間依存性の計算結果

0 1

z

C(z, t)

(a)

0 10 20 30

Epr || b

2.5 eV

(b) calc.

Delay time (ps)

R /R

1.2 eV 1.4 eV 1.0 eV

1.5 eV

2.0 eV BaV10O15 0.02

0.04

−0.02

−0.04

−0.06 0

4.18 (a)光誘起状態の空間分布モデル、格子歪みと結合した電子の励起状態がサンプルの 奥行き方向へと進んでいくが、生じた励起状態は持続する、(b) (a)の光誘起状態の空間分布モ デルを適用した、BaV10O15R/R135 Kにおける時間依存性の計算結果

第4章 AV10O15(A=Ba, Sr)の光誘起ダイナミクス 50

3.

光誘起状態が拡散するモデル

光誘起状態が拡散していくモデルを考える。このモデルでは式(4.22)に示す1次元の拡散 方程式にしたがって、光誘起状態が時間変化していくことを考える。

∂C

t =k2C

z2 (4.22)

kは拡散係数と呼ばれる定数である。任意の初期条件C0(z)に対する式(4.22)の一般解は、

次式で表される[86, 87]。

C(z,t)= 1

√4πkt

−∞C0(z0) exp (

(zz0)2 4kt

)

dz0 (4.23)

境界条件として、ノイマン型境界条件を用いた。これは、境界において物理量の勾配が0に なるというものである。この境界条件に対する一般解を求めるには、例えば図4.19(a)に示 すような、z=0に対して対称にある仮想放出源を考える。そして図4.19(b)に示すように、

これらの拡散状態を足し合わせたものが解となる。したがって、ノイマン型境界条件におけ る解は、式(4.24)で表される[88]。

C(z,t)= 1

√4πkt

0

C0(z0) [

exp (

(zz0)2 4kt

) +exp

(

(z+z0)2 4kt

)]

dz0 (4.24)

今、初期条件C0(z)

C0(z)=exp (−z

d )

(4.25)

である。光誘起状態の空間分布の時間変化の様子を図4.20(a)に示す。式(4.3)、式(4.24)、 式(4.25)より、複素誘電関数(z,t)は、次式で表される。

(z,t)=

[ 1

√4πkt

0

exp (

z0 d

) [ exp

(

(zz0)2 4kt

) +exp

(

(z+z0)2 4kt

)]

dz0 ]

PI (4.26)

+ [

1− 1

√4πkt

0

exp (

z0 d

) [ exp

(

(zz0)2 4kt

) +exp

(

(z+z0)2 4kt

)]

dz0 ]

G (4.27)

このような光誘起状態の空間分布モデルにおいて、多層膜反射を適用して∆R/Rを計算した。

PI,Gはそれぞれ250 K, 130 Kの反射率の実験値から得られた値を用いている。光誘起状 態の奥行d = 30 nm,拡散係数k=10 nm2/psで、100 psまでの ∆R/Rを計算した結果を図 4.20(b)に示す。これは実験結果(図4.15)とは合わない。

第4章 AV10O15(A=Ba, Sr)の光誘起ダイナミクス 51

4.19 (a)仮想放出源、(b)現実の放出源と仮想放出源の拡散状態の足し合わせの様子

0 50 100

−0.02 0 0.02 0.04

Epr || b

2.5 eV

(b) calc.

Delay time (ps)

R /R

1.2 eV 1.4 eV

1.0 eV

1.5 eV 2.0 eV BaV10O15

4.20 拡散方程式にしたがった光誘起状態の空間分布モデル、(b) (a)の光誘起状態の空間分 布モデルを適用した、BaV10O15R/R135 Kにおける時間依存性の計算結果

第4章 AV10O15(A=Ba, Sr)の光誘起ダイナミクス 52

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