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数 10 ps の時間スケールの光誘起ダイナミクス

SrV 10 O 15

4.2.2 数 10 ps の時間スケールの光誘起ダイナミクス

BaV10O15

次に、数10 psの時間範囲の∆R/Rの振る舞いを見ていく。図4.2(a), (b)にBaV10O15

50 psまでの∆R/Rの時間依存性を示す。この時間スケールでは、両者の光誘起ダイナミク

スの違いが顕著になる。

BaV10O15は図4.2(a), (b)に見られるように、上記で説明した瞬時応答と約1 psの緩和の 後、∆R/Rはほとんど時間tに依存しない一定値を50 psまでとる。図4.2(c), (d)に見られる ように、少なくとも400 psまではこの一定値をとる振る舞いは続くことが、測定において確 かめられている。Epr||bにおける∆R/Rの絶対値は、Epr||aよりも大きいことが分かる。これ はほぼ全てのプローブ光エネルギー~ωprにおいてである。この結果は、図4.2(c), (d)におい て太線で示した反射率の差分スペクトルの異方性と一致している。参考文献 [36]で議論さ れているように、軌道整列に関係した光学伝導度スペクトルの異方性は、V三量体が形成さ れる面はbc面に近い(図2.9)ということから引き起こされる。よって、三量体はa軸方向よ りもb軸方向の光学伝導度に影響を及ぼし、∆R/Rの絶対値は Epr||aよりEpr||bの方が大き いと考えられる。

SrV10O15

図4.5にSrV10O15の50 psまでの∆R/Rの時間依存性を示す。

SrV10O15の∆R/Rは、50 psまでさらに時間依存性があり、緩和と振動を示す。特にEpr||b で顕著である。さらに、∆R/R の振動の周期はプローブ光のエネルギー~ωpr に依存する。

これは、サンプル表面から反射されたプローブ光と、サンプル内部から反射された光が 干渉し、干渉状態が時間変化するため、時間に対して反射率が振動することを示唆してい る[19, 57, 69–75]。また、干渉はプローブ光のエネルギー~ωprに依存するので、∆R/Rの振 動の周期は~ωprに依存する。

SrV10O15における∆R/Rの緩和と振動の時間依存性を定量的に説明するために、光誘起状 態の空間分布モデルを考えた。このモデルを図4.6に示す。これは光照射により光誘起状態 がサンプル表面付近に現れ、その後、光照射によって生じた格子の拡張、つまり格子の歪み が時間経過とともにサンプルの奥行き方向へ弾性波で進んでいき、この格子歪みに伴って、

電子の励起状態が現れる。つまり、格子歪みと結合した電子の励起状態がサンプルの奥行き 方向へ進んでいくというモデルである。サンプルは光誘起状態と光照射を受けていない元々 の状態の2つの状態で構成されている。図4.6の縦軸Cは光誘起状態の割合で、横軸zはサ ンプルの奥行き方向を示している。よってC(z,t)は、光照射後の時間t、サンプル表面から の位置zにおける光誘起状態の割合と定義される。t=0の光照射直後、光誘起状態はz方向 に指数関数的に減少するように、C(z,t)=exp(−z/d)で現れる。ここでdはポンプ光の侵入 長である。その後、t>0では、C(z,t)は波動方程式にしたがってz方向へ、音速vで進んで

第4章 AV10O15(A=Ba, Sr)の光誘起ダイナミクス 37

0 20 40

−0.02 0 0.02

1.5 eV 2.8 mJ/cm

2

10 K

1.4 eV 1.2 eV 1.0 eV 2.0 eV

2.5 eV

Delay time (ps)

R /R

(a) SrV

10

O

15

E

pr

|| a

hω

pr =

0.03

0.01

−0.01

−0.03

0 20 40

−0.02 0 0.02

1.5 eV 2.8 mJ/cm

2

10 K

1.4 eV 1.2 eV 1.0 eV

2.0 eV

2.5 eV

Delay time (ps)

R /R

(b) SrV

10

O

15

E

pr

|| b

h

ω

pr =

0.01

0.03

−0.01

−0.03

1 1.5 2 2.5

−0.04 0 0.04

h

ω

pr

(eV)

R /R

E

pr

|| a 10 K

[( R

220K

R

5K

)/ R

5K

] (c) SrV

10

O

15

1 ps 20 ps 400 ps 0.08

0.06

0.02

−0.02

1 1.5 2 2.5

−0.04 0 0.04

h

ω

pr

(eV)

R /R

E

pr

|| b 10 K

[( R

220K

R

5K

)/ R

5K

] (d) SrV

10

O

15

1 ps 20 ps 400 ps 0.02

0.06 0.08

−0.02

4.5 (a), (b) SrV10O15の光誘起反射率変化の50 psまでの時間依存性、プローブ光の偏光方 向は(a)Epr||a, (b)Epr||b(c), (d) SrV10O15の各遅延時間におけるR/Rのスペクトル、偏光方 向は(c)Epr||a, (d)Epr||b、太い実線は220 K5 Kの反射率の差分スペクトル、破線は本文参照

いく。サンプル表面では自由端反射となり、式(4.2)で表される。

0<z<vt C(z,t)= 1 2 [

exp (zvt

d

)+exp

(−z+vt d

)]=I+II

vt<z C(z,t)= 1 2 [

exp

(−zvt d

)+exp

(−z+vt d

)]=III+II (4.2)

第4章 AV10O15(A=Ba, Sr)の光誘起ダイナミクス 38

0 200 400

0 1

z (nm)

C ( z , t )

SrV

10

O

15

0 ps

5 ps

10 ps 20 ps 40 ps

4.6 光誘起状態の割合C(z,t)の時間発展

z

C (z , t )

z

C (z , t )

z III

II z

II

(a) (b)

I

vt vt

4.7 自由端反射の様子、(a) 0<z<vt(b) vt<z

この様子を図 4.7 に示す。これは、図4.6 のC(z,t)を式(4.2)の成分ごとに書いた図で ある。

時間t、位置zの複素誘電関数(z,t)

(z,t)=C(z,t)PI+[1−C(z,t)]G (4.3)

で与えられる[12, 76]。式(4.2)を用いると、

0<z<vt (z,t)= 1 2 [

exp (zvt

d

)+exp

(−z+vt d

)]PI

+ [

1− 1 2 [

exp (zvt

d

)+exp

(−z+vt d

)]]G

第4章 AV10O15(A=Ba, Sr)の光誘起ダイナミクス 39

vt<z (z,t)= 1 2 [

exp

(−zvt d

)+exp

(−z+vt d

)]PI

+ [

1− 1 2 [

exp

(−zvt d

)+exp

(−z+vt d

)]]G (4.4)

となる。ここでPIGは、それぞれ光誘起状態、元々の基底状態の誘電率であり、反射率 の実験値から定義している。t=1 psにおける∆R/Rは、反射率の差分スペクトルからずれ ていることから(図4.5(c), (d))、PIは220 KにおけるLorentzianの和であると考えた。

図4.5(d)に示したE||bにおいて、Lorentzianは、L=Sω20/(ω20−ω2+iγω)で、~ω0 =0.75 eV,~γ =1.5 eV, and S =1.2である。PIと10 Kにおけるに対する反射率の差分スペクト

ルは図4.5(d)に破線で示してある。Lorentzianの各パラメーターは、この破線で示した、PI

と10 Kのに対する反射率の差分スペクトルが、t=1 psにおける∆R/Rスペクトルと近い 値になるように決めた。このLorentzianは、光照射によるキャリアドープがポーラロンを形 成したことによるものだと考えられる。Gに関しては、緩和時間τ10 Kから220 Kの に変化すると考えている。これはポンプ光照射によるサンプルの温度上昇を考慮している。

ここまでのPIGをまとめると、次式になる。

PI=220K+ Sω20

ω20−ω2+iγω (4.5)

G=5Kexp (−t

τ

)+220K

( 1−exp

(−t τ

))

(4.6)

220K5Kは、光学反射率測定2.5から得られた値である。したがって、このモデルにおけ るパラメーターは3つでd (格子歪みと結合した電子の励起状態の奥行き)、v (格子歪みと結 合した電子の励起状態が進む速度)、τ(サンプルの温度が上昇する緩和時間)である。

このモデルにおいて、サンプル表面付近のは、位置zと時間tに依存している。よって、

サンプルを異なる誘電率を持った多層膜と考えて∆R/Rを計算する。計算には、薄膜の多層 膜反射を適用する。ここで、多層膜モデルについて述べる。

光誘起反射率変化の解析のための多層膜モデル

光励起後の試料の光学定数は、試料の奥行き方向に不均一に分布すると考えられる。よっ て試料を連続的に光学定数が変化する多数の薄膜の重ね合わせで近似する多層膜モデル は、試料の奥行き方向に光学定数が不均一に分布する際の、反射率を考える上で有効であ る[57, 77, 78]。

光照射により、光誘起状態が試料表面から奥行き方向に指数関数的に分布していると仮定 する。光誘起状態の誘電率を˜PI、光励起前のもともとの状態の誘電率を˜G、ポンプ光の侵 入長をdとして、試料表面から任意の位置zにおける誘電関数を次のように表す。

˜(z)=γexp(−z/d)˜PI+[

1−γexp(−z/d)]

˜G (4.7)

ここで、γは試料表面(z =0)における光誘起変換効率に相当する量で、0≤γ ≤1を満たす 定数である。

第4章 AV10O15(A=Ba, Sr)の光誘起ダイナミクス 40 図4.8に示すように、表面から順に試料を薄膜に分割し、それぞれの層を1∼N まで番号

を付けて、N 層膜を考える。膜の分割方法として、誘電率変化の大きい表面では薄く、試料 内部では厚くなるように分割する方法と、一定な膜厚で分割する方法が考えられるが、ここ では一定な膜厚で分割する方法を採用した。よって各層の膜厚をwとする。j番目の層の誘 電関数˜jは次のように表される。

˜j =γexp(−( j1)w/d)˜PI+[

1−γexp(−( j1)w/d)]

˜G (4.8)

4.8 多層膜の概念図

まず、単層膜での反射を考える[79, 80]。薄膜に光が入射した場合、図4.9のように、光は 入射媒質と薄膜の境界、薄膜と透過光側の媒質の境界の二つの境界によって反射される。し たがって、薄膜の反射率、透過率を考えるためには、多重反射によって生じた反射光、透過 光全ての和を考えなければならない。さらに、薄膜の厚さは光の波長程度なのでこれらの光 は干渉する。したがって、厚さwの薄膜を通過して透過側の媒質との境界に到達するまでに 生じる位相差δ1も考慮する。今、この単層膜に、入射媒質から波長λの光が入射した場合を 考えると、位相差δ1

δ1 = 2π

λ ˜n1wcosθ1 (4.9)

となる。θ1は屈折角である。

入射媒質における電磁波をそれぞれE1H1とし、透過側の媒質における電磁波をE2H2 とする。各境界面における電磁波の連続条件を繰り返し用いると、これらの間には最終的に

( E1

H1

)

=M1

( E2

H2

)

(4.10)

という関係であることが示される。ここでM1は薄膜の特性行列で、

M1=

( cosδ1 i p1sinδ1

ip1sinδ1 cosδ1

)

(4.11)

第4章 AV10O15(A=Ba, Sr)の光誘起ダイナミクス 41

4.9 膜内多重反射

と記述される。p1は薄膜の光学アドミタンスと呼ばれる量で、次式で与えられる。

p1= ˜n1

0

µ0

(4.12)

同様の関係が j番目の層においても成り立つ。

( Ej

Hj

)

= Mj

( Ej+1

Hj+1

)

=

( cosδj i pjsinδj

ipjsinδj cosδj

) ( Ej+1

Hj+1

) (4.13)

ここで、

δj = 2π

λ ˜njwcosθj

pj= ˜nj

0

µ0

(4.14)

である。なお、式(4.8)の˜jと式(4.14)中の˜njは、

˜njj12

で結び付けられる[81]。これより、行列Mを次のように表すことができる。

M= M1M2M3· · ·MN (4.15) M=

( m11 m12

m21 m22

)

(4.16)

N層の試料の反射率Rは、行列Mの成分、パラメーターp1pNを用いて次のように表さ れる。

R=(m11+m12pN)p1(m21+m22pN) (m11+m12pN)p1+(m21+m22pN)

2 (4.17)

第4章 AV10O15(A=Ba, Sr)の光誘起ダイナミクス 42 実際の測定においては、入射光の方向はサンプル表面に対して垂直に近い配置であるので、

θjは0で近似できる。

多層膜モデルを用いた解析結果

多層膜モデルにおいて、解析するサンプルの奥行き方向の長さを500 nmに設定した。こ の長さは、ポンプ光及びプローブ光の侵入長に比べて十分に長い。そして、この長さのサ ンプルを N =1000層で分割し、1層の膜厚w =0.5 nmである。このようにして、d = 30 nm、v= 1×104 m/s、τ = 5 psで∆R/Rを計算した結果を図4.10に示す。計算した結果は

図4.5(b)の実験結果とよく一致している。今回観測されたような、∆R/Rの時間に対する振

動が他のV酸化物においても観測されており、v= 4.7×103 m/sと見積もられていること や[82]、Mn酸化物やCu酸化物においてパルス透過法や位相比較法で調べられている音速 は、約3∼4×103 m/sである[83, 84]ことから、上の計算で用いたvの値は妥当であると考 えられる。また、フェムト秒レーザー照射後、熱平衡状態が拡張していく速度が見積もられ た研究もあるが[85]、この研究によると、熱平衡状態が拡張していく速度は、上の計算で用 いた音速vに比べて、約2桁小さい値である。

0 20 40

−0.04

−0.02 0 0.02

1.5 eV calc.

1.4 eV 1.2 eV 1.0 eV 2.0 eV

2.5 eV

Delay time (ps)

R /R

SrV

10

O

15

E

pr

|| b

4.10 SrV10O15R/Rの時間依存性の計算

第4章 AV10O15(A=Ba, Sr)の光誘起ダイナミクス 43

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