CdTe検出器の性能は電極形成条件に大きく依存するため、一般に CdTe表面に電極を形成 し、優れた性能を達成するのは容易ではない。例えば、Al電極に関しては、電極形成条件による 性能の変化の研究が最近開始されており、良い性能を出すための条件が明らかにされはじめてい る。ACRORADによる CdTe 結晶は、結晶成長用原料CdTe がBr-メタノール液によりエッチ
ングされており[33]、表面が Te リッチな状態になっている。このTe リッチは層はリーク電流 を増大させる原因になっていると考えられ[41]、良好な性能を得るためには、この層を取り除く 必要がある。蒸着時にCdTe基板温度を180◦C以上にすると、Teリッチ層が蒸発により除去さ れ、リーク電流が低減する[41]。しかし、高温で蒸着を行うとCdTe を損傷する恐れがある。
そこで、CdTe表面のTeリッチ層を除去する方法として、プラズマによる表面処理が提案され ている[43][44][45]。この表面処理は、CdTe結晶に対し誘導結合型プラズマを用いて処理を行 うもので、プラズマにはHe を用いている。この処理を1分以上行うことによりTe リッチ層は 除去され、リーク電流が低減されるという成果が報告されている。この方法と200 ◦C 以下の温 度での電極の蒸着により性能の高い検出器が製作可能になる。また、H2 によるプラズマでも同 様にTe リッチ層を除去することができることが報告されているが[45]、CdTeに与えるダメー ジが最も小さいのはHeプラズマを用いた場合である[41]。
他にも、CdTe結晶を電極形成前に(NH4)2Sx 溶液に浸すという硫黄による表面処理を行うこ とにより、リーク電流を低減し、スペクトルの時間安定性も向上することができることもわかっ ている[46]。
本研究では、このような先行研究に基づき現在知られている最も最適な電極形成条件を用いて ACRORAD社と共同で検出器の開発を行った。本研究の結果を考慮することにより、Al/CdTe/Pt、
Ni/CdTe/Pt 検出器の性能がさらに向上することが期待される。
4.3 Al/CdTe/Pt 、 Ni/CdTe/Pt ガードリング素子の性能評価
4.3.1 Al/CdTe/Pt、Ni/CdTe/Pt ガードリング素子
AlおよびNi電極を用いたCdTe検出器の評価を行うため、Al/CdTe/PtおよびNi/CdTe/Pt ガードリング検出器を製作した[47]。陽極側の電極分割および陽極読み出しが可能であることを 確認し、その場合の性能を調べるため、陽極を読み出し電極とガードリング電極に分割した。素 子の大きさは4.1 mm ×4.1 mm で全ての検出器で一定、厚さは0.5、0.75、1.0、2.0 mm のもの をAl、Ni電極のそれぞれについて製作した。全ての検出器で、陽極の読み出し電極は2 mm ×2 mm、ガードリング電極は幅1 mm、電極間のギャップは50 µm である。なお、Ni/CdTe/Pt 検 出器の開発および性能評価は、本研究が初めてである。
図4.1にAl/CdTe/Pt ガードリング検出器の写真を示す。このような検出器を、Al/CdTe/Pt は各厚さごとに6つずつ、Ni/CdTe/Pt は各厚さごとに3つずつ製作した。以下の性能評価では、
各電極、各厚さの検出器の中で、常温、400 Vでのリーク電流が最も小さかったものを使用した。
4.3.2 リーク電流測定
これらAl、Ni電極のリーク電流の測定を行った。実験は−20 ◦Cで行い、KEITHLEY 248で バイアス電圧を印加し、読み出し電極とガードリング電極のリーク電流をそれぞれKEITHLEY 6517AとKEITHLEY 237 で測定した。読み出し側が陽極側であるので、図4.2のように共通電 極である陰極側に負の電圧を印加し、陽極側をグランド電位として測定を行った。測定結果であ るI-V特性を、0.5 mm厚のものに対して図4.3に、各厚さの比較を図4.4に示す。測定の結果、
Inの場合と同様、読み出し電極を流れるリーク電流はガードリング電極を流れるリーク電流より も十分低い値となり、ガードリング電極によりリーク電流のほとんどを削減することに成功して いる。読み出し電極を流れるリーク電流は1000 Vのバイアス電圧印加時において数から数十pA と低い値ではあるが、In電極の場合より高い値であった。また、Al電極の場合の方がNi電極の 場合よりもリーク電流は低かった。
電極が同じで厚さが異なる検出器間では、リーク電流と検出器の厚さの間に明確な相関は得ら れず、バイアス電圧が∼500 V 以下では数倍以内の近い値を取っている。これはIn/CdTe/Pt検
4.3. Al/CdTe/Pt、Ni/CdTe/Ptガードリング素子の性能評価 27
図4.1: Al/CdTe/Ptガードリング検出器の写真。素子の大きさ4.1 mm×4.1 mm、厚さは 0.5(左)、0.75, 1.0, 2.0 mm (右)。写真表面側が陽極である Al電極で、読み出し電極とガー ドリング電極に分割されている。
KEITHLEY 248
CdTe Cathode Pt
Anode Al(Ni) Central Electrode
Guard Ring KEITHLEY 237
KEITHLEY 6517A -HV
GND
図4.2: 陽極読み出しCdTeガードリング素子のリーク電流測定の概要図。陰極側に負のバイ アス電圧を印加する。
図4.3: 0.5 mm厚 Al、Ni、In電極ガードリング素子における、読み出し電極を流れるリー ク電流とガードリング電極を流れるリーク電流。
図4.4: Al、Ni 電極の検出器における各厚さの、読み出し電極を流れるリーク電流の比較。
(左)Al/CdTe/Pt 検出器。(右)Ni/CdTe/Pt検出器。
4.3. Al/CdTe/Pt、Ni/CdTe/Ptガードリング素子の性能評価 29 出器において報告されている、低バイアス電圧においてリーク電流と検出器の厚さに相関はない という結果[37]と矛盾しない。また、∼600 V 以上の高いバイアス電圧においては、0.5 mm や
0.75 mm 厚の薄い検出器でリーク電流が急激に増大している。これもIn/CdTe/Pt において報
告されている結果[37]と同様である。
AlおよびNi電極の検出器のリーク電流に関して、温度依存性と時間変化を図4.5示す。In/CdTe/Pt 検出器と同様、リーク電流は温度の低下とともに低減し、温度を20 ◦C下げるごとに1桁弱ほど 低減されている。リーク電流が温度の逆数に対して指数関数的に変化するという点においてもど の電極の場合でも同じであり、変化の割合もほぼ同一であった。
−20◦C ではどの素子でも時間的に概ね安定しており、2時間程度の時間スケールでは−20 ◦C の場合はどの電極の検出器でも安定動作可能であると言える。Inの場合と比較して、Alの場合は 20 ◦Cで時間的にやや不安定であり、2時間で2倍程度に増大している。また、Ni電極の検出器 は20◦Cで非常にリーク電流の値が大きく、時間的にも不安定であったので、素子の損傷を防ぐ ために長時間の測定を行わなかった。よって、現状の検出器においては20 ◦Cでは Ni電極の場 合は動作は難しく、Alの場合は時間経過とともに性能が劣化することがわかる。このようなリー ク電流の振る舞いは、今後さらなる研究により改善させる必要がある。Alおよび Ni電極の検出 器は非常に新しい検出器であるため、今後性能向上が可能である考えられる。
図4.5: Al、Ni および In電極ガードリング素子におけるリーク電流の温度依存性(左)と時 間変化(右)。リーク電流は低温ほど削減され、時間的に安定して動作している。印加電圧は ともに600 V。
4.3.3 読み出し方法
Al/CdTe/Pt、Ni/CdTe/Pt ガードリング素子を用いてスペクトル測定を行った。読み出しに は、CSAに CP5109LS II、整形増幅器 ORTEC 571、マルチチャンネルアナライザー Amptek
MCA 8000A を用いた。リーク電流測定時と同様、負のバイアス電圧を陰極側に印加し、負の信
号を読み出した。負のバイアス電圧はCP 6641 で与え、温度−20 ◦Cで測定行った。セットアッ プの概要を図4.6に示す。
各検出器に対して、
57Co の122 keV のガンマ線に対して最も良い性能を達成したパラメータ を表4.2、表4.3に示す。4.3.4節で示すスペクトルはこのパラメータによるものである。
CP6641
CdTe Cathode Pt
Anode Al(Ni) Central Electrode
Guard Ring
CSA
CP5109LS II -HV
GND
Shaper ORTEC571
Amptek MCA8000A
図4.6: 陽極読み出し CdTeガードリング検出器のスペクトル測定用セットアップの概要図。
陰極側に負のバイアス電圧を印加し、負の信号を読み出す。
表4.2: Al/CdTe/Pt ガードリング素子に対し、
57Coの122 keVのガンマ線のエネルギー分 解能が最も良い場合のパラメータ
厚さ[mm] 0.5 0.75 1.0 2.0 バイアス電圧[V] 800 900 900 1600
整形時定数[µs] 1 1 1 0.5
表4.3: Ni/CdTe/Pt ガードリング素子に対し、
57Coの122 keVのガンマ線のエネルギー分 解能が最も良い場合のパラメータ
厚さ[mm] 0.5 0.75 1.0 2.0 バイアス電圧[V] 600 1000 1000 1000
整形時定数[µs] 1 1 1 1
4.3. Al/CdTe/Pt、Ni/CdTe/Ptガードリング素子の性能評価 31
図4.7: 線源
241Amに対する、0.5 mm厚Al およびNi電極ガードリング検出器のスペクト
ル。(左)Al/CdTe/Pt、バイアス電圧800 V、整形時定数1µs。(右)Ni/CdTe/Pt、バイアス 電圧600 V、整形時定数1µs。
4.3.4 スペクトル性能
表4.2、表4.3のパラメータを用いて、0.5 mm厚のAl/CdTe/PtおよびNi/CdTe/Ptガードリ ング検出器により得られた
241Amのスペクトルを図4.7に、各厚さの検出器により得られた
57Co のスペクトルを図4.8、図4.9に示す。0.5 mmの検出器では、60 keV のガンマ線に対しAl、Ni 電極の場合でそれぞれエネルギー分解能1.1 keV (FWHM)という、In 電極の場合に匹敵する高 い性能を達成した。122 keVのガンマ線に対しては、0.5、0.75、1.0、2.0 mm厚の検出器で、Al 電極のものでそれぞれエネルギー分解能1.2、1.5、1.9、4.6 keV (FWHM)、Ni 電極のものでそ れぞれエネルギー分解能1.3、1.4、1.6、3.9 keV (FWHM)を得た。同一の電極および厚さを持つ 複数の検出器の性能には、ばらつきがあった。今回開発したこれらの電極構造の検出器は全く新 しい検出器であるため、製作される検出器の性能がまだ安定していないと考えられる。
4.3.5 各厚さの検出器の比較
厚さによる Al/CdTe/Pt およびNi/CdTe/Pt 検出器のエネルギー分解能の変化を表4.4にま とめた。この結果から厚さが薄いほど優れた性能を達成できることが分かるが、エネルギー分解 能は、検出器容量、リーク電流、不完全な電荷収集効率といった各要素が複合的に影響しており、
単純に比較するのは難しい。そこで、ここでは電荷収集効率の非一様性について着目し、図4.10 に各厚さの検出器に対して、122 keVのガンマ線によるピークおよび低エネルギーテールに対す るピークの割合を比較した。ピークの割合は、スペクトルの100-125 keVのカウントレートに対
する119-125 keV のカウントレートの割合を用いて説明する。
図4.10から、ピークの割合を同一にするためには概ね厚さの2乗に比例する電圧を印加する必 要があることがわかる。例えば、1.0 mm厚、400 Vのピーク割合は0.75 mm厚の場合は200-300 V の場合と等しく、0.5 mm 厚の場合では∼100 Vの場合と等しい。式3.1によると、電荷収集 効率は相互作用する位置xと平均自由行程wの比により決定されることがわかる。122 keV のガ ンマ線の検出効率は0.5-2.0 mm の厚さのCdTe 検出器では数割程度あるため、位置xは0から 厚さdまでの間の値をほぼ一様に取ると仮定すると、電荷収集効率は平均自由行程wと厚さdの