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スペクトル性能に関する考察

ドキュメント内 master thesis ishikawa (ページ 47-56)

第 5 章 Al および Ni 電極 CdTe パッド検出器 の開発と性能評価

5.5 スペクトル性能に関する考察

5.5.1 ASIC の特性による性能の制限

Al/CdTe/Pt およびNi/CdTe/Pt陽極読み出しパッド検出器ではガードリング素子の場合と比 較して低いバイアス電圧においてスペクトルが最も良くなった。これは、 VA64TA による陽極 読み出しが、リーク電流の大きさによりVf pに制約を受けるため、リーク電流が大きい場合には 通常の単素子の読み出し以上にスペクトル性能が悪化するためである。Ni/CdTe/Pt検出器の場 合にはこれが顕著であり、図5.5のように、低エネルギーテールが多く残っている100 V という 低バイアス電圧で最もエネルギー分解能が高くなった。

現段階では、AlNi電極 CdTeパッド検出器はIn電極の場合と比較してリーク電流が高くな ることと、VA64TAの負信号読み出しがリーク電流に弱いという二重の問題により性能は制限を 受けている。

5.5.2 複数のパッドにまたがるイベント

半導体検出器に入射した光子により生成された電子・ホール対は有限の空間的広がりを持つた め、パッド検出器において複数のパッドに電荷が分かれて収集されることがある。このような場 合は複数chがヒットするイベントとなり、前節までのスペクトル作成の際には除外していた。こ こでは、このような複数パッドにまたがるイベントを考察するために、Al/CdTe/Pt 検出器につ いて検出器中央付近で隣接しているCH36CH382パッドに注目し、解析を行った。

線源

57Coを用いて−20Cで測定を行った際の、検出器中央付近の、隣接する2パッドの信号 の2次元ヒストグラムを図5.7に示す。電場が弱い場合として2 mm厚の検出器に50 Vを印加し た場合、電場が強い場合として0.5 mm 厚の検出器に900 V を印加した場合の分布を示した。こ の図では、x+y≃122となるとなる部分が122 keVのガンマ線によるイベントと考えられ、x yのうち一方がペデスタルの分布内に入る場合は1ヒットイベント、両方が有意にペデスタルよ りも大きい信号であれば2ヒットイベントとなる。電場が弱い場合の図5.7左に対して、電場が 強い場合の図5.7右は2パッドにまたがるイベントの量が少ないことがわかる。電場の弱い場合

5.5. スペクトル性能に関する考察 41

5.4: 線源

57Coに対する、各厚さのAl/CdTe/Ptパッド検出器のスペクトル。検出器の厚 さは0.5(左上)0.75(右上)1.0(左下)2.0 mm(右下)。全64 chのスペクトルの和。測定温 度20C。各検出器での測定条件は5.1参照。

5.5: Ni/CdTe/Pt パッド検出器による線源

57Coのスペクトル。測定温度20C、バイ アス電圧100 V

では、DSSD で報告されているのと同様に[49、逆信号が発生するようなイベントも見られた。

これは、電場が弱く電気力線がそろっていない状態であることが原因で、電子とホールの両方が パッド電極面に誘導されるイベントが存在するために起こると考えられる。

122 keV のガンマ線ピークに着目し、1ヒットイベントのピークと、両方のパッドでヒットし

ている2ヒットイベントの割合を調べることにより、ガンマ線が1光子入射したときそのイベン トが2パッドにまたがるイベントになる可能性を算出した。その結果、図5.7左の場合では22% 図5.7右では9%であった。他の場合にも電場と2ヒットイベントの割合を求めてプロットしたと ころ、図5.8のような結果が得られた。このように、電場が強いほど電場方向が揃い、平行平板 近似に近くなるため、理想的な電荷収集ができるようになると考えられる。一方、今回のジオメ トリでは、電場が十分強い場合であっても∼10%程度は2パッドにまたがるイベントが存在する ことがわかった。この検出器を用いて観測を行う場合、検出効率を十分に高めるためには、これ ら2ヒットイベントも使って解析を行う必要があると言うことができる。

5.5.3 各厚さの検出器の比較:小ピクセル効果

Al/CdTe/PtNi/CdTe/Pt パッド検出器の厚さに対するエネルギー分解能の変化をまとめる と表5.2のようになる。ガードリング検出器の場合である表4.4と比較すると、特に2 mmの検出 器についてエネルギー分解能が向上していることがわかる。これは、小ピクセル効果により説明 することができる。µτ積の小さいCdTe検出器においてスペクトル性能を向上させるためには、

信号に対してµτ積の比較的大きい電子の寄与を大きくする必要がある。小ピクセル効果とは、陽 極読み出しのパッド検出器の場合において、パッドサイズを検出器の厚さよりも小さくすること で電子の寄与が大きくなる効果であり、平行平板の場合と比べて性能を向上させることができる。

小 ピ ク セ ル 効 果 は 、Schockley-Ramo の 定 理 を 用 い て 説 明 す る こ と が で き る[275051

Shockley-Ramo の定理は、「重み付きポテンシャル」と呼ばれる仮想的な電位を考えることに

より半導体検出器の電荷収集効率を評価する。重み付きポテンシャルを求めるためには、誘導電 荷を求める電極の電位を1とし、それ以外の電極の電位を0として、電荷分布を無視し、ラプラ ス方程式を解く。重み付きポテンシャルは全電極により作られる真の電場とは異なるが、注目す る電極に対する誘導電荷を求めることができる。

5.5. スペクトル性能に関する考察 43

5.6: 線源

57Co122 keV のガンマ線に対する、各パッド検出器のエネルギー分解能の

分布。検出器の厚さは0.5(左上)0.75(右上)1.0(左下)2.0 mm(右下)。測定温度20C。 各検出器での測定条件は、Al/CdTe/Ptについては5.1参照、Ni/CdTe/Ptについてはバイ アス電圧100 V|Vf p|=590 mV

5.2: AlNi電極パッド検出器の各厚さにおけるエネルギー分解能。122 keVのガンマ線に対する値。

電極構造 厚さ エネルギー分解能[keV]

Al/CdTe/Pt 0.5 1.9

0.75 1.8

1.0 2.4

2.0 2.7

Ni/CdTe/Pt 0.75 2.1

CH38 Energy [keV]

-20 0 20 40 60 80 100 120 140

CH36 Energy

-20 0 20 40 60 80 100 120 140

1 10

en[0]*1.16:en[1]*1.16 {en[0]>-20&&en[1]>-20&&en[0]<150&&en[1]<150}

CH38 Energy [keV]

-20 0 20 40 60 80 100 120 140

CH36 Energy [keV]

-20 0 20 40 60 80 100 120 140

1 10

en[0]:en[1] {en[0]>-20&&en[1]>-20&&en[0]<150&&en[1]<150}

5.7: Al/CdTe/Ptパッド検出器において、電場が強い場合と弱い場合に関する、隣接する

パッド間のイベントの2次元ヒストグラム。()電場が弱い場合として、2 mm厚の検出器 に50 Vを印加した場合のヒストグラム。()電場が強い場合として、0.5 mm厚の検出器に

900 Vを印加した場合のヒストグラム。電場が弱い場合に比べ、強い場合には2つのパッド

にまたがるイベントが削減されている。線源は

57Co、実験温度20C

5.8: 2パッドにまたがるイベントの割合と電場の相関。電場が強いほど2パッドにまたが

るイベントは削減され、最も小さい場合で7%程度となっている。

5.5. スペクトル性能に関する考察 45

Al(Ni) Anode

Pt Cathode γ

-HV

CdTe

5.9: CdTeパッド検出器の概念図。

平行平板検出器では重み付きポテンシャルは検出器の厚さ方向に対して直線的に変化し、信号 に対するホールと電子の寄与は同等である。一方、パッド検出器ではこの場合と異なる。パッド 検出器の概念図を図5.9に示す。この図からわかる通り、計算する際には目標とするパッド電極 以外のパッド電極の電位は0とするため、重み付きポテンシャルは電極付近で急激に変化する。

今回開発した Al/CdTe/Pt 検出器のジオメトリで計算した重み付きポテンシャルを図5.10 示す。計算方法は、資料[5251のものを利用し、検出器の中央にパッドがあると仮定し、検出 器中央の重み付きポテンシャルを求めた。その結果、2 mm厚のような厚さがパッド電極の大き

さ1.35 mm に対して大きい検出器では重み付きポテンシャルが読み出し電極付近で急激に変化す

ることがわかる。Al/CdTe/Pt パッド検出器は陽極読み出しの検出器であるため、このような重 み付き電場の構造では、相互作用する深さが<0.8というほとんどの場合で、電気的に移動する 距離は電子の方が大きくなり、信号に対する電子の寄与が支配的になる。このため、電荷収集効 率が向上し、低エネルギーテールが減少することが期待される。

図5.11に、各厚さのパッド検出器における、122 keV のガンマ線のピークとテールの和に対す るピークの割合を示す。ピークの割合は、ガードリング検出器の場合と同様に100-125 keVのカ ウントレートに対する119-125 keVのカウントレートの割合とした。ガードリング検出器とパッ ド検出器を比較すると、厚い検出器、特に2 mm厚ではパッド検出器の方がテールの割合が少な いことがわかる。これは、小ピクセル効果が効いているためであると考えられる。

Ni 電極パッド検出器では、ピークの割合は Al 電極と同様であった。したがって、Al 電極と Ni 電極のパッド素子は、同様の電場構造および電荷収集効率を持っていると考えられる。

5.5.4 陽極読み出しパッド検出器と陰極読み出しパッド検出器の性能比較

陽極読み出しと陰極読み出しの場合を比較するため、Al電極と In電極のパッド検出器による 122 keV ガンマ線のスペクトルの比較を行った。0.75 mmの検出器を用いて400 Vで取得したそ れぞれの電極のパッド検出器のスペクトルを図5.12に示す。ピーク割合はAl/CdTe/Pt 0.77 In/CdTe/Pt0.57 となった。0.75 mm厚の検出器では小ピクセル効果は顕著に影響しないが、

読み出し方向の違いにより、明確にテールの量に差が出ており、陽極読み出し検出器の方が優れ ていることを示すことができた。

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