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(1)

次世代宇宙硬

X

線・ガンマ線観測に向けた

新しい電極構造による

CdTe

半導体撮像検出器の開発

石川真之介

東京大学大学院理学系研究科物理学専攻

ISAS/JAXA

高橋研究室

ishikawa@astro.isas.jaxa.jp

(2)

ii

概要

次世代宇宙硬X線・ガンマ線観測に向けて、硬X線・ガンマ線に対して検出効率の高いCdTe

半導体による撮像検出器の実用化が期待されている。次世代X線天文衛星「NeXT」や、太陽硬

X線観測ロケット実験「FOXSI」などでは、撮像検出器としてCdTeを実際に用いる計画がある。

これらの計画に用いる検出器には、検出効率の他、高い位置分解能・エネルギー分解能、大面積

化が要求される。

我々は現在までに In/CdTe/PtのSchottky ダイオード構造のCdTe検出器を開発し、高い性

能を達成してきたが、将来ミッションの撮像検出器に求められるような優れた分解能と大きな検

出面積を同時に達成できないという問題があった。

これは、In/CdTe/Pt検出器において陽極である In 電極を分割することが技術的に困難であ り、両面の電極を分割した検出器を実現できなかったことが原因である。

近年の研究により、Al/CdTe/Pt、Ni/CdTe/Pt という新しい電極構造の検出器が利用可能と

なった。AlおよびNi電極を用いた CdTe検出器は、Inの場合と同様にSchottky ダイオード構

造であり、高いバイアス電圧をかけた場合でもリーク電流を削減することが可能であることに加

え、陽極のパッド/ストリップ分割が可能となる。そのため、新たに陽極読み出しの検出器や両面

読み出しの検出器の製作が可能となった。

本研究では、高分解能・大面積の CdTe撮像検出器を開発するために新しい電極構造に着目し、

陽極読み出しのAl/CdTe/Pt 、Ni/CdTe/Pt パッド検出器並びに Al/CdTe/Pt 両面ストリップ

検出器の開発を行い、性能評価を行った。陽極分割の検出器の動作を実証するために開発したパッ

ド検出器では、読み出し信号に対し電子の寄与が大きくなる陽極読み出しの効果、さらに小ピク

セル効果により、低いバイアス電圧でも In 電極のパッド検出器に匹敵する性能を達成すること

ができた。この成果をふまえ、両面ストリップ CdTe検出器の動作に世界で初めて成功し、400

µmピッチという高い位置分解能と2.56 cm 角という大面積を、読み出し ch数を少なく保った

ままで達成することができた。99%以上のchからの読み出しに成功し、イメージングを行うこと

により撮像性能を実証した。読み出し系の工夫などにより、分光能力としても、FWHM 2.6 keV

(@60 keV)という従来の検出器に近い値を達成した。これらの成果により、衛星搭載検出器とし て要求性能を満たすものを製作可能であることを示すとともに、それらの開発に向け重要な指針

(3)

第1章 はじめに 1

第2章 硬X線・ガンマ線観測計画と検出器の要求性能 3

2.1 次世代X線天文衛星NeXT . . . 3

2.1.1 NeXT衛星による非熱的宇宙の探査. . . 3

2.1.2 硬X線撮像検出器(HXI) . . . 3

2.1.3 軟ガンマ線コンプトンカメラ(SGD) . . . 4

2.2 硬X線による太陽観測実験 FOXSI . . . 8

2.3 FOXSI によるコロナ活動の観測 . . . 8

2.3.1 FOXSI搭載検出器 . . . 9

2.4 検出器の開発へ向けて . . . 10

第3章 CdTe 半導体検出器の基礎特性と現在までの開発状況 11 3.1 半導体検出器の動作原理 . . . 11

3.2 CdTe 半導体 . . . 12

3.3 CdTe による蛍光X線 . . . 13

3.4 µτ 積 . . . 13

3.5 In/CdTe/Ptダイオード検出器 . . . 14

3.5.1 In/CdTe/Ptダイオード素子. . . 14

3.5.2 In/CdTe/Ptガードリング素子の性能評価 . . . 15

3.6 In/CdTe/Ptパッド検出器 . . . 17

3.6.1 In/CdTe/Ptパッド素子 . . . 17

3.6.2 バンプ接合 . . . 17

3.6.3 リーク電流測定 . . . 20

3.6.4 読み出しASIC “VA64TA” . . . 20

3.6.5 スペクトル性能 . . . 21

3.7 In/CdTe/Pt検出器の問題点 . . . 22

第4章 新しい電極構造 Al/CdTe/Pt、Ni/CdTe/Pt 検出器による陽極読み出し 25 4.1 CdTe におけるIn、Al、Ni 電極. . . 25

4.2 Al 電極の形成 . . . 25

4.3 Al/CdTe/Pt、Ni/CdTe/Ptガードリング素子の性能評価 . . . 26

4.3.1 Al/CdTe/Pt、Ni/CdTe/Pt ガードリング素子 . . . 26

4.3.2 リーク電流測定 . . . 26

4.3.3 読み出し方法 . . . 29

4.3.4 スペクトル性能 . . . 31

4.3.5 各厚さの検出器の比較 . . . 31

(4)

iv

第5章 Al および Ni 電極 CdTe パッド検出器の開発と性能評価 37

5.1 Al/CdTe/Pt、Ni/CdTe/Pt パッド素子 . . . 37

5.2 リーク電流測定 . . . 37

5.3 読み出し方法 . . . 37

5.4 スペクトル性能 . . . 39

5.5 スペクトル性能に関する考察. . . 40

5.5.1 ASIC の特性による性能の制限 . . . 40

5.5.2 複数のパッドにまたがるイベント . . . 40

5.5.3 各厚さの検出器の比較:小ピクセル効果 . . . 42

5.5.4 陽極読み出しパッド検出器と陰極読み出しパッド検出器の性能比較 . . . . 45

第6章 Al/CdTe/Pt 両面ストリップ検出器の開発と性能評価 49 6.1 Al/CdTe/Pt 両面ストリップ検出器 . . . 49

6.2 プロトタイプ1 mmピッチ両面ストリップ CdTe . . . 49

6.2.1 1 mm ピッチCdTeストリップ素子 . . . 49

6.2.2 各ストリップのスペクトル性能 . . . 49

6.2.3 両面同時読み出し . . . 51

6.3 400µmピッチ CdTe両面ストリップ素子 . . . 52

6.4 両面ストリップ CdTeの場合の多ch読み出しシステム . . . 53

6.4.1 両面バンプ . . . 53

6.4.2 フローティング読み出し . . . 54

6.5 スペクトル性能 . . . 54

6.6 撮像性能 . . . 56

6.7 各イベントの考察 . . . 60

6.7.1 両面の信号の相関 . . . 60

6.7.2 複数ヒットイベント . . . 61

6.8 400µmピッチ検出器の分光性能に関する考察 . . . 63

第7章 今後の開発に向けて 65 7.1 パッド検出器と両面ストリップ検出器の比較 . . . 65

7.2 負信号読み出しに強い ASICの開発 . . . 66

7.3 高密度実装 . . . 66

7.4 各ミッションに向けた検出器の開発 . . . 66

7.4.1 NeXT HXI . . . 66

7.4.2 NeXT SGD . . . 68

7.4.3 FOXSI. . . 68

7.5 時間安定性 . . . 68

7.6 さらに将来のミッションへ向けて . . . 69

(5)

2.1 NeXT 衛星に搭載予定の軟ガンマ線検出器(SGD)の概念図 . . . 5

2.2 Si/CdTe コンプトンカメラ試作機の写真 . . . 6

2.3 Si/CdTe コンプトンカメラ試作機による 22 Na の511 keVのガンマ線のイメージ . 6 2.4 コンプトンカメラの角度分解能に対する各要因の寄与 . . . 7

2.5 コンプトンカメラの角度分解能に対する各要因の寄与 . . . 8

2.6 太陽観測ロケット実験 FOXSI に使用する機器の概要 . . . 9

3.1 半導体検出器の動作原理 . . . 11

3.2 100 keV のガンマ線に対する各半導体の光電吸収効率 . . . 12

3.3 Pt/CdTe/Pt 検出器によるスペクトル. . . 14

3.4 CdTe ガードリング素子の写真. . . 15

3.5 In/CdTe/Ptガードリング検出器の I-V特性 . . . 16

3.6 In/CdTe/Ptガードリング素子におけるリーク電流の温度依存性と時間変化 . . . . 16

3.7 In/CdTe/Ptガードリング検出器によるスペクトル . . . 17

3.8 In/CdTe/Ptパッド検出器の写真 . . . 18

3.9 パッド検出器のジオメトリ . . . 18

3.10 パッド検出器のバンプ接合の概要図 . . . 19

3.11 ファンアウトボードのレイアウトと基板上に打ち込まれた In/Auスタッドの写真 19 3.12 パッド検出器のリーク電流測定のセットアップ . . . 20

3.13 In/CdTe/Ptパッド検出器の I-V特性 . . . 20

3.14 アナログ ASIC VA64TAのブロックダイアグラム . . . 21

3.15 In/CdTe/Ptパッド検出器によるスペクトル . . . 22

3.16 In/CdTe/Ptパッド検出器におけるエネルギー分解能の各パッドでの分布 . . . 23

4.1 4種類の厚さの Al/CdTe/Pt ガードリング検出器の写真. . . 27

4.2 陽極読み出し CdTeガードリング素子のリーク電流測定の概要図. . . 27

4.3 0.5 mm 厚Al、Ni、In電極ガードリング素子の I-V特性 . . . 28

4.4 各厚さの Al、Ni 電極ガードリング素子のI-V特性 . . . 28

4.5 Al、Ni および In 電極ガードリング素子におけるリーク電流の温度依存性と時間 変化 . . . 29

4.6 陽極読み出し CdTeガードリング検出器のスペクトル測定用セットアップの概要図 30 4.7 線源 241 Amに対する、0.5 mm 厚Alおよび Ni電極ガードリング検出器のスペク トル . . . 31

4.8 Al/CdTe/Pt ガードリング検出器による線源 57 Coのスペクトル . . . 32

4.9 Ni/CdTe/Pt ガードリング検出器による線源 57 Coのスペクトル . . . 33

4.10 122 keVのガンマ線に対する、Al、Ni電極ガードリング検出器の各厚さにおける ピークの割合の比較 . . . 34

4.11 122 keVのガンマ線に対する、0.5 mm厚In、Al電極ガードリング検出器のピー クの割合の比較 . . . 35

(6)

vi

5.1 Al電極パッド検出器の写真 . . . 38

5.2 Al、Ni、In 電極CdTe 検出器のI-V特性 . . . 38

5.3 線源 241 Amに対する、0.5 mm厚Al/CdTe/Pt パッド検出器のスペクトル . . . . 40

5.4 線源 57 Co に対する、各厚さのAl/CdTe/Pt パッド検出器のスペクトル . . . 41

5.5 Ni/CdTe/Pt パッド検出器による線源 57 Coのスペクトル。. . . 42

5.6 線源 57 Coの122 keVのガンマ線に対する、各パッド検出器のエネルギー分解能の 分布 . . . 43

5.7 Al/CdTe/Pt パッド検出器において、電場が強い場合と弱い場合に関する、隣接 するパッド間のイベントの2次元ヒストグラム . . . 44

5.8 2パッドにまたがるイベントの割合と電場の相関 . . . 44

5.9 CdTeパッド検出器の概念図 . . . 45

5.10 CdTe パッド検出器の重み付きポテンシャル . . . 46

5.11 Al および Ni電極 CdTeパッド検出器の、122 keVガンマ線に対するピーク割合 . 46 5.12 122 keVのガンマ線に対するIn/CdTe/PtとAl/CdTe/Ptパッド検出器のスペク トル性能の差 . . . 47

6.1 CdTe両面ストリップ検出器の概念図 . . . 50

6.2 プロトタイプ1 mmピッチ両面ストリップ Al/CdTe/Pt 検出器の写真 . . . 50

6.3 線源 241 Amに対する、1 mmピッチ両面ストリップ CdTe検出器の陰極、陽極読 み出しそれぞれのスペクトル. . . 51

6.4 線源 241 Amに対する、1 mmピッチ両面ストリップCdTe検出器の両面の信号を 足したスペクトル . . . 52

6.5 400µmピッチ CdTe両面ストリップ検出器の写真 . . . 53

6.6 フローティング読み出しの概要図 . . . 54

6.7 CdTe両面ストリップ読み出しセットアップ . . . 55

6.8 400µmピッチ CdTeストリップ検出器によるスペクトル. . . 57

6.9 CdTeストリップ検出器の各ストリップにおけるエネルギー分解能の分布 . . . 58

6.10 CdTe 両面ストリップ検出器によるシャドーイメージ作成に用いたナット、ワッ シャー、はんだ . . . 58

6.11 CdTe 両面ストリップ検出器によるシャドーイメージ . . . 59

6.12 CdTe 両面ストリップ検出器の陰極、陽極読み出し信号の相関 . . . 60

6.13 CdTe 両面ストリップ検出器の各イベントにおける陰極、陽極の信号の最大値の相関 61 6.14 1ヒットイベントを取り出した場合の CdTe両面ストリップ検出器の各イベントに おける陰極、陽極の信号の最大値の相関 . . . 62

6.15 CdTe 両面ストリップ検出器における、隣接するある陰極の2ストリップによる読 み出し信号の相関 . . . 62

(7)

2.1 硬X線・ガンマ線観測計画に要求されるCdTe検出器の性能 . . . 10

3.1 硬X線・ガンマ線観測に用いられる半導体検出器の特性比較 . . . 12

3.2 CdTe 中で発生する蛍光X線 . . . 13

4.1 CdTe 検出器における各電極の比較 . . . 25

4.2 Al/CdTe/Pt ガードリング素子に対し、 57 Coの122 keVのガンマ線のエネルギー 分解能が最も良い場合のパラメータ . . . 30

4.3 Ni/CdTe/Pt ガードリング素子に対し、 57 Coの122 keVのガンマ線のエネルギー 分解能が最も良い場合のパラメータ . . . 30

4.4 Al、Ni電極ガードリング検出器の各厚さにおけるエネルギー分解能 . . . 34

5.1 Al/CdTe/Pt パッド素子に対し、 57 Coの122 keVのガンマ線のエネルギー分解能 が最も良い場合のパラメータ. . . 39

(8)

1

1

はじめに

人類は、有史以来大空への憧れを抱き続けてきた。地上を遠く離れた天空の世界は、古くは神々

の領域であると考えられていた[1]。その空の向こうの世界を人類の手の届くところにまで引き込

んだのが、地上と天空は同じ物理法則に支配されていることを解き明かしたNewtonであり[2]、

実際に人類が空へ進出した20世紀の宇宙開発であった。これら先人の偉大なる功績により、宇

宙は信仰の対象から科学的研究の対象の1つとなり、宇宙に出て探査・観測を行うことが可能と

なった。

地球上と宇宙空間は同一の法則により支配されている一方で、宇宙では地球上とは大きく異な

る様々な環境が存在していることがわかっている。宇宙の成り立ちを支配しているのは、地球上

では想像もつかないような高エネルギー現象であり、そのような現象が起きている極限環境では

温度10

7

K以上というような高温にまで達している。これらの現象ではX線やガンマ線を放射す

るため、X線・ガンマ線の高感度観測が高エネルギー現象解明への鍵を握る[3][4]。

宇宙からの硬X線・ガンマ線放射は大気での吸収を受けるため、地上では観測することができ

ない。そこで、人工衛星や気球、ロケットと言った飛翔体を用いた観測を行う必要がある。また、

飛翔体に搭載する硬X線・ガンマ線検出器は飛翔体に搭載可能であり、かつ飛翔体上の環境にお

いて性能を発揮できるものである必要がある。

種々の高エネルギー現象では、硬X線領域において、高温プラズマによる熱的放射の他にベキ

関数で表わされるようなスペクトルをもつ非熱的放射が観測されている。このような放射は、プ

ラズマ中の粒子の一部がマクスウェル分布から外れる高エネルギーの非熱的な分布を持っている

ことを示唆している。しかし、そのような非熱的粒子がどのように加速されているかを説明する

加速機構は解明されているとは言い難い。

非熱的粒子の加速はもっとも身近な天体の1つである太陽におけるフレアから銀河系内の超新

星残骸、遠方の銀河団まで様々なスケールで起こっていることがわかっている。これらの粒子加速

現象は、スケールは異なるものの統一した物理機構で説明できるのではないかと考えられている。

このような非熱的高エネルギー粒子加速を解明するには、以下の2つのアプローチが考えら

れる。

• 実際に非熱的高エネルギー粒子が加速されていると考えられている遠方の天体を観測する。

• 身近にあり観測しやすい天体を詳細に観測して粒子の加速機構を解明し、適切にスケール

することにより他の天体に当てはめる。

現在、これらのそれぞれのアプローチから、我々が深く関わることができる形において、粒子加

速の解明に向け次世代X線観測衛星と太陽観測ロケット実験の計画が進行している。それぞれの

計画では、飛翔体環境において高感度観測を可能にする検出器が要求されている。これらの計画

では、硬X線望遠鏡により数10 keV の硬X線まで集光が可能になったことにより、焦点面検出

器として高分解能の検出器が必要となった。また、X線衛星に搭載予定の検出器の1つであるコ

ンプトンカメラという新しいコンセプトの検出器にも高分解能の検出器が必要である。各計画お

よび検出器の詳細は2章で述べる。

このような用途に必要とされる検出器は、以下のような性能を持つ必要がある。

• 高い検出効率と数 cm

2

(9)

• ∼1 keV(FWHM)の優れたエネルギー分解能及び低いエネルギースレショルド

• 数100µmの優れた位置分解能

面積及びエネルギー分解能は、検出効率と分光性能という点から望遠鏡の焦点面検出器とコンプ

トンカメラのいずれの場合も重要な要素である。ただし、位置分解能に関しては、焦点面検出器

には特に重要な要求性能である一方、コンプトンカメラに用いる検出器の位置分解能は数mm程

度で十分である。

このような要求をみたす検出器として、テルル化カドミウム(CdTe)半導体検出器が期待され

ている。我々のグループは、CdTeの詳細な研究を行い、その開発において世界の先端を走って

きた。また、この技術に基づいて半導体コンプトンカメラの提案を行っている。しかし、観測計

画における要求全てを満たすCdTe検出器はいまだ開発されていない。

本論文では、高分解能・大面積の CdTe撮像検出器を開発するために新しい電極構造に着目し、

新しい電極構造のCdTeにより可能となった陽極読み出しのCdTe検出器と、陽極読み出しが可

能になったことで初めて実現した両面ストリップ CdTe検出器の開発および性能評価をまとめ、

将来の観測ミッションへ向けての開発の方針を示した。まず第2章で現在計画が進んでいる硬X

線・ガンマ線観測ミッションの概要と検出器の要求性能を示し、その要求性能を満たす検出器と

して期待されるCdTe検出器の、特に研究室での現在までの開発状況を第3章で概観する。次に、

CdTeの新しい電極構造とその電極構造の検出器の性能評価を第4章で示す。5章では従来の検出

器では不可能だった陽極分割のパッド検出器により陽極分割検出器の実証を行い、6章でその成

果により達成した、両面の電極を分割したCdTeストリップ検出器を示す。7章では、これらの

(10)

3

2

X

線・ガンマ線観測計画と検出器の要

求性能

2.1

次世代

X

線天文衛星

NeXT

2.1.1

NeXT

衛星による非熱的宇宙の探査

現在運用中の「すざく」衛星に次ぐ次世代X線観測衛星として、NeXT衛星(New X-ray

Tele-scope / Non-thermal Energy eXploring TeleTele-scope)が計画されている[5]。観測対象天体は超新 星残骸、ブラックホールをはじめとするコンパクト天体や銀河団などの高エネルギー天体であり、

宇宙の様々な高エネルギー現象の詳細な観測を行う。NeXT衛星の主な目標は高エネルギー粒子

の加速機構や宇宙における非熱的エネルギー総量の割合と言った非熱的宇宙の解明であり、我が

国が優位性を持つ観測技術を生かし2013年の打ち上げに向け開発が進められている。

非熱的宇宙に迫るためには、第1章でも述べたとおり、非熱的高エネルギー粒子による放射を

直接とらえることができる硬X線・ガンマ線観測が重要である。そのような観点から、NeXT衛

星に搭載予定の検出器として、硬X線撮像検出器(Hard X-ray Imager, HXI)と軟ガンマ線検出

器(Soft Gamma-ray Detector, SGD)の計画が進んでいる[6]。これらの検出器の詳細を以下に述 べる。

2.1.2

X

線撮像検出器

(HXI)

超新星残骸などの広がった高エネルギー天体において非熱的高エネルギー粒子の分布を詳細に

探るためには、高感度・高分解能の硬X線撮像が必要である。HXIは、硬X線用多層膜スーパー

ミラー(Hard X-ray Telescope, HXT)の焦点面検出器として用いる、10-80 keVの硬X線領域に

おける史上初の集光撮像検出器である[7]。

HXT による集光を行うことにより、検出器の大きさを一定に保ったままで入射光子の量を増

やすことができるようになり、高感度観測が可能となる。検出器を大きくすることでも観測光子

の量を増やすことができるが、検出器の大きさに比例して荷電粒子や放射化によるバックグラウ

ンドも増加してしまうため、検出感度は制限されてしまう。集光撮像検出器では、バックグラウ

ンドを一定に保ったまま信号のみを増加させることができるため、これまでにない高感度の観測

が可能となる。HXIにより硬X線高感度観測が可能になれば、粒子加速の詳細な物理過程に初め

て迫ることができるようになる。

HXI でも、「すざく」搭載の硬X線検出器(Hard X-ray Detector, HXD)で用いたのと同様に

BGO シンチレータを用いたアクティブシールドを搭載する[8]。硬X線集光技術によるS/Nの

向上、アクティブシールドを用いた反動時計数によるバックグラウンド削減により、すざくHXD

を1桁以上上回る、これまでにない感度での硬X線撮像を行う。

HXT の角度分解能は1分角であり焦点距離は12 mなので、1分角に相当する3.5 mmの数分

の1の位置分解能の検出器が用意できればミラーにより制限される最高性能である角分解能1分

角の撮像が可能になる。HXI には、4段に積層した低ノイズの Si半導体検出器を用い、その下

段に CdTe半導体検出器を搭載し80 keVまでの光子に対して検出効率の向上を図る予定である。

(11)

検出器(Double-sided Si Strip Detector, DSSD)[9][10]を用いる予定である。そのため、CdTe

検出器には3.2 cm 角に近い大きさが要求される。素子の厚さは0.5 mmあれば80 keVまで十分

な検出効率を得ることができる。

加速粒子の状態を詳細に調べるためには、撮像と同時に優れたエネルギー分解能の分光が不可

欠である。そのため、検出器には「すざく」HXDを超える1-1.5 keV のエネルギー分解能が要求

される。

2.1.3

軟ガンマ線コンプトンカメラ

(SGD)

硬X線よりもエネルギーの高いガンマ線に対しては、半導体検出器による光電吸収確率は低下

し、Compton 散乱の確率が高くなるため、従来の方法での観測は難しい。そこで、我々は入射

ガンマ線を散乱体でCompton 散乱させ、散乱ガンマ線を吸収体で光電吸収する検出器「コンプ

トンカメラ」を提案している[11][12]。散乱体としてはCompton 散乱確率の高い Si 半導体検

出器、吸収体としては検出効率の高いCdTeが適しているため、我々のグループでは、これまで

Si、CdTeの技術をはじめとする様々な要素技術の開発を行い、Si/CdTe コンプトンカメラの実

現を図ってきた[13][10][14][15][16][17]。NeXT衛星に搭載予定のSGDはこうした成果を発

展させた10-300 keVの軟ガンマ線を対象とするSi/CdTe コンプトンカメラである[6][18]。

コンプトンカメラの概念図を図2.1に示す。SGD ではこのような24-32段のSi 検出器と、Si

を取り囲む4-6段の底面 CdTe検出器及び側面CdTe検出器からなるユニットを9基搭載する予

定である。入射光子が散乱体で失ったエネルギーE1と散乱光子のエネルギーE2を用いれば、4

元運動量の保存則から、入射光子のエネルギーEinと散乱角θを以下のように再構成することが

できる。

Ein=E1+E2 (2.1)

cosθ= 1 mec

2

E2

+ mec

2

E1+E2

(2.2)

ただし、meは電子質量、cは光速度である。散乱および吸収された位置と散乱角の情報から、図

のように光子の到来方向を円環状に決定することができる。このため、光電吸収型の検出器と違

い、∼数度の位置分解能を持った、検出器自体でイメージング可能な検出器である。コンプトンカ

メラの吸収体としてのCdTe検出器には、散乱光子を吸収するための面積及び厚さ、エネルギー

分解能の他、入射光子の到来方向を精度よく再構成するために位置分解能が要求される。

現在、Si/CdTeコンプトンカメラは、SGDの実機により近付けた試作機の製作とモンテカルロ

シミュレーションの2つの方法により動作検証が行われている[19][20][13]。図2.2にSi/CdTe

コンプトンカメラ試作機の写真を示す。このコンプトンカメラは散乱体であるDSSD 4段と吸収

体であるCdTe 4段からなる。この写真の状態では外されているが、側面にも4方向に CdTe検

出器が搭載可能である。コンプトンカメラ3号機では、511 keV のガンマ線に対し図2.3のよう

なイメージを得ることができ、角度分解能は2.5◦を達成した。また、60 keVという低エネルギー

のガンマ線に対する世界初のCompton 再構成に成功した[20]。

コンプトンカメラの角度分解能に相当する散乱角θの分解能は、検出器の位置分解能、エネル

ギー分解能、Doppler Broadningの各要素が寄与する。Doppler Broadningとは、入射光子が散

乱体でCompton 散乱する際に衝突する電子が静止していないために光子の散乱方向に不定性を 与える効果であり、特に入射光子のエネルギーが低い時に寄与が大きい。一般に散乱体の原子番

号が大きいほどDoppler Broadning による不定性は大きくなる。Siは原子番号13と小さいため、

散乱体として適している素材であると言える。図2.4、図2.5に、コンプトンカメラ試作機にお

ける、角度分解能に対する各要素の寄与のシミュレーション結果を示す[19]。図2.4に示したの

が散乱体である DSSD と側面 CdTeのみを搭載した場合で、図2.4に示したのが DSSDと底面

(12)

2.1. 次世代X線天文衛星NeXT 5

Si

CdTe

E

E

θ

1

2

E

in

図2.1: NeXT衛星に搭載予定の軟ガンマ線検出器(SGD)の概念図。24-32段のSi検出器と、

(13)

図2.2: Si/CdTeコンプトンカメラ試作機。DSSD 4段と底面CdTe検出器4段からなる。側

面 CdTe検出器も搭載可能である。

図2.3: Si/CdTe コンプトンカメラ試作機による

22

Na の511 keV のガンマ線のイメージ。

DSSDで散乱されCdTeで吸収されたイベントを選択し、Compton再構成して作成した。角

(14)

2.1. 次世代X線天文衛星NeXT 7

図2.4: コンプトンカメラの角度分解能に対する、位置分解能、エネルギー分解能、Doppler

Broadningの各要因の寄与。(左)DSSDと側面CdTe検出器との組み合わせの場合。(右)DSSD

と底面CdTe検出器との組み合わせの場合。

た場合の結果であり、エネルギー分解能は100 keVで1.8 keV、300 keVで3.5 keV を仮定して

いる。入射光子のエネルギーが∼200 keV以上と高い場合は散乱角が小さい場合が多いため散乱

光子は底面CdTeにより吸収される場合が支配的であり、入射光子のエネルギーが低い場合は散

乱角が大きくなるため側面CdTeにより吸収される場合が支配的になる。図2.4、図2.5の結果に

あるとおり、低エネルギーのガンマ線に対してはエネルギー分解能が、高エネルギーのガンマ線

に対しては位置分解能の寄与が大きくなる。そのため、検出器にはエネルギー分解能と位置分解

能の両方が要求されることがわかる。

SGDでは天体の撮像観測は行わず、コンプトンカメラのイメージング能力をバックグラウンド

除去に用いる予定である。入射ガンマ線の到来方向を知ることができるため、目標天体の方向か

ら来ていないと考えられるイベントをバックグラウンドとして除去できるようになるのである。

また、HXI と同様に「すざく」HXD で実証されている技術であるファインコリメータ、 BGO

シンチレータによるアクティブシールドを利用して徹底したバックグラウンド削減を行う[8]。

Compton 散乱の微分断面積には以下のような偏光依存性が存在しているため、それを利用し

てコンプトンカメラによりガンマ線の偏光観測をすることができる[21][22]。

dσ dΩ = r2 0ϵ 2 2 (1

ϵ +ϵ−2 sin

2

θcos2ϕ

)

. (2.3)

ただし、r0は古典電子半径、ϵ=E1/Einであり、ϕは入射方向をz方向としたとき、入射光子の

電場方向に対する散乱方向の方位角である。式2.3より、ϕ= 90◦および270◦、すなわち電場に

垂直な方向に散乱されやすいことがわかる。このことから、ϕの分布を測定することにより、偏

光が観測可能となる。Si/CdTe コンプトンカメラによる偏光測定はビームラインによる実験によ

りすでに検証されており[23][24]、SGD では天体からのガンマ線偏光観測も主な目標の1つで

ある。

SGD における吸収体としての CdTe の要求性能は、検出効率と角度分解能の要求により規定

(15)

図2.5: コンプトンカメラの角度分解能に対する、位置分解能、エネルギー分解能、Doppler

Broadningの各要因の寄与。(左)DSSDと側面CdTe検出器との組み合わせの場合。(右)DSSD

と底面CdTe 検出器との組み合わせの場合。

には、底面検出器に3 mm、底面検出器に 0.75 mm 程度の厚さが必要である。側面 CdTeは検

出器の配置の都合上複数段重ねることができないため、側面には素子の厚さ自体が0.75 mm の

検出器が必要になる。底面CdTeは積層が可能であるので、0.5 mmのCdTeを6段積層するこ

とにより実効的厚さ3 mmを達成することができる。必要とされるCdTeの面積は、目標とする

有効面積である15 cm

2

以上(コンプトンカメラとして動作時、100keV)を達成するため、3-4 cm

角が要求される。ただし、複数の素子を並べてこの面積を構成することも可能である。

吸収体のエネルギー分解能は、Compton 再構成する入射ガンマ線のエネルギーの分解能に加

えて、角度分解能にも寄与する。特に150 keV以下の低エネルギーのイベントに対しては角度分

解能へのエネルギー分解能の寄与が大きい[13](図2.4)。SGD では1-2 keV (FWHM)のエネル

ギー分解能が要求される。吸収体の位置分解能は、特に150 keV 以上の高エネルギーのイベント

に対してコンプトンカメラの角度分解能に大きく寄与する。シミュレーションの結果から、現在

のところ3.2 mm程度の位置分解能が要求されている。

2.2

X

線による太陽観測実験

FOXSI

2.3

FOXSI

によるコロナ活動の観測

NeXT衛星の観測対象とする高エネルギー天体よりも近い距離にあり、より詳細な観測が可能

な天体として太陽がある。非熱的放射は太陽フレアにおいても観測されており、フレアの過程でも

粒子加速が起こっていることがわかっている。太陽フレアにより加速される粒子の総エネルギー

は超新星残骸など遠方の高エネルギー天体と比べればごくわずかなものであるが、高い空間分解

能の観測やごく小規模なイベントの詳細観測により、遠方の天体からは得られない粒子加速に関

する情報を得ることができる。

現在、太陽のコロナ活動における非熱的放射の観測を行うロケット実験 FOXSI (Focusig Optics

(16)

2.3. FOXSI によるコロナ活動の観測 9

図2.6: 太陽観測ロケット実験FOXSIに使用する機器の概要。青色で描かれた本体は長さ2.6

m、カーボンファイバー製。黄色で描かれている7つの硬X線望遠鏡で集光を行う。各望遠

鏡は7層からなる多層膜ミラーである。

共同実験であり、2010年の打ち上げに向け準備を進めている。この計画では、アメリカの研究グ

ループが用意する硬X線望遠鏡と我々の研究室が提供する半導体検出器により高感度・高分解能

の硬X線撮像分光観測を目指す(図2.6)。

太陽フレアは主に太陽の黒点付近の活動領域で発生している。フレアのスケールは大小さまざ

まであり、エネルギーあたりのフレアの発生頻度N(E)と全放射エネルギーEの間には以下のよ

うなベキ関数の関係がある[25]。

N(E)E−α (2.4)

ベキ指数αは1.6-1.8である。この頻度分布則は、活動領域の大規模フレアからマイクロフレア、 さらには静穏領域におけるナノフレアまでが従うことがわかっており、同一の物理機構が働いて

いることが示唆されている。一方、非熱的放射は大規模フレアでは数多く観測されているが、小

規模フレアでは一部のマイクロフレアで数例観測されたのみであり[26]、ナノフレアに至っては

いまだ観測されていない。ナノフレアからの非熱的硬X線放射を検出できれば、大小のフレアが

同じ物理機構で発生しているのかどうか、またそれはどのような機構であるのかに関して重要な

示唆を与える。FOXSIでは静穏領域におけるナノフレアからの世界初の非熱的硬X線放射の検

出を最大の目標としている。

2.3.1

FOXSI

搭載検出器

FOXSI は、NASA マーシャル宇宙飛行センターで開発が進む7秒角という角度分解能を持つ

硬X線望遠鏡と、我々のグループが開発してきた硬X線検出器の組み合わせにより提案されてい

(17)

温度2 MK程度のナノフレアでは2 keV以上で非熱的放射が卓越すると考えられるので、15 keV までのエネルギー範囲でも非熱的放射の観測は十分可能であると考えられる。焦点面検出器とし

ては、検出効率を十分高めるため、DSSD とCdTeを積層した検出器を用いることが検討されて

いる。

焦点距離は2 mであるため、検出器には7秒角に対応する70 µmに可能な限り近い検出器が要

求される。現在開発中の最も位置分解能の優れたDSSDは150µmであり、CdTeもこれと同等

の性能が要求される。DSSD はさらに位置分解能75 µmのものを使用する可能性もあり、CdTe

も可能な限り位置分解能の優れたものが期待される。CdTeに要求される面積は、現在開発中の

DSSDと同等の2 cm角程度となる。

非熱的放射のスペクトルを精確に決定するためには、検出感度とともに優れたエネルギー分解

能が必要である。FOXSIでは∼1 keV (FWHM)のエネルギー分解能が要求される。

2.4

検出器の開発へ向けて

以上のような2つの計画の要求性能をまとめると、表2.1のようになる。低ノイズの Si検出器

とともに、これらのような高分解能・低ノイズのCdTe検出器を構成することが、硬X線・ガン

マ線の高感度観測を成功させ、さらに非熱的宇宙に関する科学的知見を得るのに必要である。要

求性能は、スペクトルの精度を決定するエネルギー分解能、撮像性能を決定する位置分解能、検

出効率及び有効面積を決定する厚さ及び面積があり、これらの全ての要素において要求性能を満

たす検出器を開発しなければならない。これらの要素は、ある1つを追及すると他の要素が悪化

することがある。例えば、面積を大きくするとノイズが大きくなりエネルギー分解能が劣化する、

読み出し ch 数の問題により位置分解能が悪化するといった可能性がある。そのため、これら全

ての要素について常に注意して開発を行う必要がある。

本研究では、このような課題の解決を目指した検出器の開発を行う。次章では、このような要

求を満たす検出器を目指して現在まで研究が進んでいるCdTe検出器の基礎的な事項と過去の開

発状況を述べる。

表2.1: 硬X線・ガンマ線観測計画に要求されるCdTe 検出器の性能

NeXT HXI NeXT SGD(吸収体) FOXSI

エネルギー分解能(FWHM) 1-1.5 keV 1-2 keV ∼1 keV

位置分解能 <3.5 mm <1.6 mm <150µm

面積 2-4 cm角 3-4 cm角 ∼2 cm角 厚さ 0.5 mm 3 cm(底面検出器)、 0.5 mm

(18)

11

3

CdTe

半導体検出器の基礎特性と現在ま

での開発状況

3.1

半導体検出器の動作原理

半導体によるX線・ガンマ線検出器は、半導体内に入射した光子が半導体と相互作用した際に

生成される電荷を電気信号として読み出す[27]。光子と物質との相互作用には光電吸収、コンプ

トン散乱、電子・陽電子対生成の3通りがある。これらの作用により、光子の持っていたエネル

ギーは電子に引き継がれる。その電子が半導体中を運動することにより半導体がイオン化され、

電子・ホール対が生成される。そこで、半導体に適切なバイアス電圧を印加することにより、こ

れらのキャリアを収集し、電気信号として検出することができる。

電子・ホール対の総量は光子のエネルギーを引き継いだ電子のエネルギーに比例する。光電吸

収の場合は光子の全エネルギーが電子に引き継がれる。そのため、読み出し信号を適切に較正す

れば入射光子のエネルギーを知ることができ、エネルギースペクトルを得ることができる。相互

作用がコンプトン散乱の場合は、散乱光子に一部のエネルギーが持ち去られてしまうため、入射

光子のエネルギーを知るためには散乱光子のエネルギーも検出する必要がある。図3.1に光電吸

収の場合における半導体検出器の動作の模式図を示す。単体で動作させる場合やコンプトンカメ

ラの吸収体として使用する場合、光電吸収効率の高い半導体が検出器として適した半導体である。

以下では、バイアス電圧印加時に電位の高い側の電極を陽極、低い側の電極を陰極と呼ぶこと

にする。

e e

e h h h

γ

Anode (+HV) Cathode

図3.1: 半導体検出器の動作原理。入射光子が半導体内で光電吸収され、そのエネルギーに対

(19)

3.2

CdTe

半導体

CdTe およびテルル化亜鉛カドミウム(CdZnTe, CZT)は、次世代の宇宙硬X線・ガンマ線観

測への利用が期待されている半導体である[28]。CdTe は構成する原子の原子番号が Cd=48、

Te=52と大きく、数百keVまでのガンマ線に対し高い光電吸収効率を持つ。また、バンドギャッ

プエネルギーが大きいため、室温での動作も可能である。硬X線・ガンマ線観測に利用される代

表的な半導体の検出効率を図3.2に、特性の比較を表3.1に示す。

表3.1: 硬X線・ガンマ線観測に用いられる半導体検出器の特性比較[29][30][31]。ϵは電

子・ホール対生成エネルギー、Egapはバンドギャップエネルギー、µτは各キャリア(e : 電

子、h : ホール)における移動度µと寿命τの積。

密度 原子番号 Egap ϵ 比抵抗 (µτ)e (µτ)h

[g/cm3

] Z [eV] [eV] [Ω cm] [cm2

/V] [cm2

/V] CdTe 5.85 48, 52 1.44 4.43 109

∼2×10−3

∼1×10−4

CdZnTe 5.81 48, 30, 52 1.6 4.6 3×1010

∼1×10−3 3×10−5

Si 2.33 14 1.12 3.6 103

0.42 0.22 Ge 5.33 32 0.67 2.9 102

0.72 0.84

図3.2: 100 keVのガンマ線に対するSi、Ge、CdTeの各半導体の光電吸収効率。CdTeは非

常に高い効率を持つ。資料[32]のデータを用いて作成。

このように硬X線・ガンマ線検出に適した特性を持つ CdTeであるが、技術的理由により質が

高く大きい素子を得るのは困難であった。しかし、近年の結晶化技術の向上により検出器として

の使用に耐える素子の製造が可能になってきている。我々のグループでは、高分解能のCdTe検

出器の開発をACRORAD社と共同で行っている。ACRORAD 社では結晶成長にトラベリング

ヒーター法(Traveling Hearter Method, THM)を用いており、高純度かつ均質な結晶を得ること

ができる[33]。THM は溶液法の一種であり、Te 過剰の溶液から連続的に CdTe を析出させる

(20)

3.3. CdTe による蛍光X線 13

りCdTeを析出させる融液法があるが、溶液法のTHMは融液法よりも低い温度での結晶成長が

可能であり、成長容器からの不純物汚染を低減することができる。また、塩素(Cl)をドープする

ことにより比抵抗が高く放射線検出器としての特性に優れた結晶を生成している。本論文で示す

CdTe半導体はすべて ACRORAD社により製造されたものである。

CdTeはCZTと比べ、単結晶で製造されるため、均質で大きい結晶を得ることができる??。長

時間にわたる安定性の点では CZT の方が優れているが、CdTe も冷却と高いバイアス電圧の印

加により長時間の動作が可能となる。2章で示したような検出器を目指し、我々は素子の大きさ

と均質性の点で CZTよりも優れているCdTe 検出器の開発を行っている。

3.3

CdTe

による蛍光

X

CdTeを構成するCd とTeは、表3.2に示すような蛍光X線ピークを持つ[31][24]。

表3.2: CdTe中で発生する蛍光X線[31][24]。

蛍光X線の種類 エネルギー[keV] CdTe中での平均自由行程[µm]

Cd Kα線 23.13 128

Cd Kβ 線 26.11 180

Te Kα線 27.37 64

Te Kβ線 31.00 88

CdTe半導体内で光子が光電吸収された際に蛍光X線が発生した場合、蛍光X線が半導体内で

相互作用せずに検出器外に放出されれば、読み出される信号は蛍光X線のエネルギー分だけ小さ

くなる。このような過程により、3.5節以降で示す線源によるスペクトルでは、ガンマ線による

ピークのエネルギーから蛍光X線のエネルギーを差し引いたエネルギーに蛍光X線エスケープ

ピークが見られる。

蛍光X線が再び検出器内で光電吸収される場合、最初の光子の相互作用の場合と同一の読み出

し電極により電荷収集が行われれば、蛍光X線が発生していない場合と同様の信号が読み出され

る。複数の読み出し電極を持つパッド/ストリップ検出器において、最初の光子が相互作用をし

たのと別の電極に対応する場所で蛍光X線が相互作用した場合、それぞれの電極で別の信号が読

み出される。その場合はそれら合計のエネルギーが入射光子のエネルギーに相当する。

3.4

µτ

半導体中で生成された電子・ホールは、それぞれ典型的に寿命τe、τhの時間が経過すると再結

合してしまうため、完全に収集することはできない。厚さdの半導体中で発生した電荷qが距離

x離れた電極に向かって移動するとき、収集される誘導電荷QはHecht の式

Q= qw

d

{

1exp

( −wx

)}

(3.1)

で与えられる[34]。ただし、wはキャリアの平均自由行程である。キャリアの移動度をµとする

と、キャリアは再結合するまでに典型的に単位電場あたりµτの距離だけ移動することができる。

(21)

子・ホールの両方が誘導されることを考慮すると、陰極、陽極に誘導される電荷Qは以下のよう になる。

Q= nqe

d

[

(µτ)eE {

1exp

( x −d

(µτ)eE )}

+ (µτ)hE {

1exp

( −(µτx)

hE )}]

(3.2)

ただし、xは陰極からの距離であり、qeは電気素量、nは生成される電子・ホール対の数である。

式3.2より、平均自由行程が厚さdよりも十分大きければ誘導電荷Qは位置xにほとんど依存し

なくなることがわかる。しかし、平均自由行程が小さい場合には位置xにより収集電荷の値は変

化する。この場合、入射光子のエネルギーが同じでも収集電荷にばらつきができてしまい、スペ

クトル性能を悪化させる要因となる。CdTeでは、特にホールのµτ積の値が小さく、完全に収集

される前に再結合が起こってしまうためスペクトルが低エネルギー側にテールを引くような構造

になってしまう。式3.2のx依存性のスペクトルへの影響は、入射光子が相互作用する位置xの

分散が大きいほど顕著になる。入射光子のエネルギーが低い場合は半導体内に入射してから短い

距離で相互作用する割合が多く、xのばらつきは大きくならないため、テールの割合は比較的少

ない。しかし、入射光子のエネルギーが高いほど半導体内で均等に相互作用が起こり、xのばら

つきが大きくなる。そのため、高エネルギーのラインに対するスペクトルほどテールの割合は多

くなる[31]。図3.3に、低エネルギーテール構造が見られるスペクトルの一例を示す[35][36]。

これは両極に白金(Pt)を用いた0.5 mm 厚のPt/CdTe/Pt 検出器であり、測定条件はバイアス

電圧40 V、20◦Cである。60 keVのエネルギー分解能は∼2.5 keVであった。

図3.3: Pt/CdTe/Pt 検出器による線源

241

Amのスペクトル[35][36]。動作温度20◦C、バ

イアス電圧40 V。ガンマ線ピークの低エネルギー側にテール構造が、特に60 keVのピーク

に対して顕著に見られる。60 keVのエネルギー分解能は∼2.5 keV。

我々のグループでは、µτ積を用いて CdTe検出器によるスペクトルのモデル化を行った[50]。

この成果により、素子の特性をスペクトルと電荷収集効率とを結びつけて評価することが可能と

なった。

3.5

In/CdTe/Pt

ダイオード検出器

3.5.1

In/CdTe/Pt

ダイオード素子

µτ 積が小さいCdTeにおいて低エネルギーテールを削減し、優れたエネルギー分解能のスペク

(22)

3.5. In/CdTe/Ptダイオード検出器 15

は、高いバイアス電圧を印加すればよい。しかし、PtとCdTeの接合はオーミック接合であり、

Pt/CdTe/Pt 検出器ではバイアス電圧の増加とともにリーク電流が増加するため、高い電圧を印 加すると逆にエネルギー分解能が劣化してしまう。我々はこの問題を解決するため、陽極にイン

ジウム(In)、陰極に Ptを用いた検出器 In/CdTe/Ptを開発した[35][36]。In とCdTe の接合

は Schottky 接合であり、In/CdTe/Pt素子はダイオード素子となるため、高いバイアス電圧を

かけた状態においてもリーク電流が低減される。以下の In/CdTe/Pt 検出器において、In 電極

の形成には高温真空蒸着、Pt電極の形成には無電解めっき法を用いている。

3.5.2

In/CdTe/Pt

ガードリング素子の性能評価

我々は、In/CdTe/Pt検出器の性能をさらに向上させるため、リーク電流の大部分が検出器端面

を流れることに注目し、図3.4のようなIn/CdTe/Ptガードリング素子を開発した。素子の大き

さは4.1 mm ×4.1 mm、0.5 mm 厚である。この素子では、図のように、読み出し側である陰極 を読み出し電極とそれを取り囲むガードリング電極に分割している。検出器のリーク電流には検

出器表面を通る成分と全体にほぼ均等に流れる体積成分があり、そのうち表面を流れる成分が支

配的であるため、リーク電流のほとんどはガードリング電極を流れることになる。そこで、ガー

ドリング電極を直接 GNDに接続することにより読み出し電極に流れるリーク電流を大幅に低減

し、スペクトル性能を向上させることができる[37]。読み出し電極の大きさは2 mm×2 mmと

し、ガードリング電極の幅は過去の研究の結果を踏まえて、リーク電流を十分低減することがで

きる1 mm とした。

図3.4: CdTeガードリング素子の写真。素子の大きさ4.1 mm。写真の表面側の、陰極であ

るPt電極が中央の読み出し電極と周りを取り囲むガードリング電極に分割されている。

この素子のリーク電流測定を行ったところ、I-V特性は図3.5のようになった。実験は−20◦C

で行い、KEITHLEY 248 でバイアス電圧を印加し、読み出し電極とガードリング電極のリーク

電流をそれぞれ KEITHLEY 6517A と KEITHLEY 237 で測定した。測定の結果、読み出し電

極を流れるリーク電流はガードリング電極を流れるリーク電流よりも2桁以上も低い値となり、

ガードリング電極によりリーク電流のほとんどを削減することに成功している。結果として、読

み出し電極を流れるリーク電流は1000 Vのバイアス電圧印加時においても∼1 pAと非常に低い

値となっており、エネルギー分解能の劣化にほとんど寄与しないレベルである。

リーク電流の温度依存性と時間安定性を図3.6に示す。リーク電流は温度が低くなるほど削減

され、温度の逆数に対して指数関数的な変化をすることがわかる。これは、リーク電流が熱運動

による過程であることを示していると考えられる。また、リーク電流は時間的に急激な変化は起

(23)

図3.5: In/CdTe/Ptガードリング検出器のI-V特性。Schottkyダイオード構造とガードリ ング電極により、読み出し電極のリーク電流を極めて低く抑えることに成功している。実験

温度−20◦C。

図3.6: In/CdTe/Ptガードリング素子におけるリーク電流の温度依存性(左)と時間変化(右)。

(24)

3.6. In/CdTe/Ptパッド検出器 17

この素子によるガンマ線源 241

Am、 57

Coのスペクトルを図3.7に示す。読み出しには、電荷有

感型の前置増幅器(Charge Sensitive Amprifer, CSA) CP 5109LS II、整形増幅器ORTEC 571、

マルチチャンネルアナライザー Amptek MCA 8000Aを用いた。バイアス電圧は1000 V、整形

増幅器の整形時定数は1µs、温度−20 ◦Cで測定行った。その結果、122 keVのガンマ線におい

ても低エネルギーテールを大幅に削減することに成功し、優れたエネルギー分解能を達成するこ

とができた。

図3.7: In/CdTe/Ptガードリング検出器による線源

241

Am(左)、

57

Co(右)のスペクトル。実

験温度−20◦C、整形時定数1µs、バイアス電圧1000 V。

3.6

In/CdTe/Pt

パッド検出器

3.6.1

In/CdTe/Pt

パッド素子

In/CdTe/Pt検出器による1 chの読み出しでは優れた性能を達成することができたので、多ch

読み出しによる撮像検出器として、In/CdTe/Ptパッド検出器の開発を行った[38][14]。写真を

図3.8に示す。素子の大きさは13.35 mm × 13.35 mm、0.5 mm厚であり、パッドピッチは1.4

mm の8×8パッドである。パッドサイズ1.35 mm であり、パッド間ギャップ50 µmとなってい

る。パッド電極の周りには幅1 mmのガードリング電極が取り囲んでいる。このパッド検出器の

ジオメトリを図3.9に示す。

3.6.2

バンプ接合

パッド素子から信号を読み出すために、我々と三菱重工業とで共同開発したIn/Auスタッドバ

ンプにより、図3.10のようにファンアウトボードに接合している[38]。ファンアウトボードのレ

イアウトを図3.11左に示す。低い圧力で接合可能な軟らかい金属であるAu とIn を用い、直径

25 µmの金のワイヤーから図3.11右のような針型のスタッドを作成し、接合を行う。スタッドの

高さは150-200µm 程度であり、接合をより強くするため、金のスタッドの表面にはインジウム

が付加されている。CdTeは熱や圧力による損傷を受けやすいため、100◦C から150◦Cという

(25)

図3.8: In/CdTe/Ptパッド検出器の写真。左側にあるのがCdTe 素子であり、ファンアウト

ボードにバンプ接合されている。右側の基盤は読み出し LSI、VA64TAを搭載したフロント

エンドカード。ファンアウトボードとフロントエンドカードはワイヤーボンドにより接続さ

れている。

図3.9: パッド検出器のジオメトリ。素子サイズ13.35 mm角、パッドサイズ1.35 mm、パッ

(26)

3.6. In/CdTe/Ptパッド検出器 19

CdTe

ASIC

Fanout Board

FEC

wire-bonding

In/Au Stud Bump

図3.10: パッド検出器のバンプ接合の概要図。

(27)

3.6.3

リーク電流測定

In/CdTe/Ptパッド素子のリーク電流測定を図3.12のようなセットアップを用いて行った。実 験は−20◦Cで行い、KEITHLEY 248でバイアス電圧を印加し、全パッド電極を流れるリーク電

流の和とガードリング電極のリーク電流をそれぞれ KEITHLEY 6517A と KEITHLEY 237 で

測定している。測定の結果、図3.13のようなI-V特性が得られた。全パッド電極を流れるリーク

電流はガードリング電極を流れるリーク電流の数分の一と低く、ガードリング電極により効果的

にリーク電流の削減がなされている。各パッド電極に流れるリーク電流がほぼ均等であるとする

と、1パッドを流れるリーク電流はバイアス電圧600 Vにおいても<2 pAと非常に低い値となっ

ている。

図3.12: パッド検出器のリーク電流測定のセットアップ[14]。

図3.13: In/CdTe/Ptパッド検出器における全パッド電極の I-V特性。実験温度−20◦C。

3.6.4

読み出し

ASIC “VA64TA”

In/CdTe/Pt パッド素子はパッド数が8×8 = 64あり、読み出しには多 ch読み出しシステム

が必要となる。このような場合に多ch を読み出すため、我々はノルウェーの Ideas 社と共同で

64 ch 読み出しアナログ ASIC “VA64TA”を開発した。VA64TA のブロックダイアグラムを図

3.14に示す。VA64TAはCSA とトリガーを生成するTA部、波高値を出力するVA部それぞれ

64 ch 分からなる。誘導電荷はCSA で増幅され、その信号は TA 部と VA部に送られる。TA

部には時定数600 nsの「速い」整形増幅器が搭載されており、スレショルドを超えた信号に対し

(28)

3.6. In/CdTe/Ptパッド検出器 21

号用の波形整形を行う。TA部により生成されたトリガーはディレイをかけた後に VAからの信

号ををサンプルホールドし、出力波高値を出力する。

図3.14: アナログASIC VA64TAのブロックダイアグラム[40]。時定数の長い整形増幅器に

より読み出し信号を生成するVA部と、短い時定数の整形増幅器によりトリガーを生成する

TA部それぞれ64 ch分ずつからなる。

VA64TAの設定には360ビットのシフトレジスタを用いる。その中で、スペクトル性能を決定 するのに重要なパラメータを以下に示す。

• Pre bias CSAのバイアス電流。

• Ifp CSAの帰還電流。帰還電圧 Vf p として外部から入力することもできる。

• Sha bias 整形増幅器のバイアス電流。

• Ifsf TA部における速い整形増幅器の帰還電流。

• Ifss VA部における遅い整形増幅器の帰還電流。

• Vthr トリガースレショルドの値。外部から入力することもできる。

VA64TA では、60-80 e− (0 pF)という非常に低いノイズを達成しており、高分解能の撮像分 光観測が可能となる。

検出器に VA64TA を実装する際には、VA64TA をフロントエンドカード(Front End Card,

FEC)に搭載し、CdTe 素子をバンプしたファンアウトボードと FEC をワイヤーボンドにより

接続している。図3.8の右側がFECであり、FEC上には VA64TAの他に電源用の RC フィル

ター、デカップリングコンデンサ、終端抵抗などが搭載されている。

3.6.5

スペクトル性能

FECを実装したIn/CdTe/Ptパッド検出器を、VATAコントローラ(VATA Controller, VATAC)

(29)

行う。実験は温度20 ◦Cで行い、バイアス電圧600 Vを印加した。その結果、全 chから信号を 得ることに成功した。

トリガーが発生すると、その1イベントに対して全 chの波高値データがA/D変換されて取得

される。得られたデータに対して、各ch のデータに対してペデスタルを引き、その後をコモン

モードノイズを全ch から差し引いた。ペデスタルとは無信号に対応する ADCの値であり、コ

モンモードノイズとは全 ch一斉に揺らぐノイズである。コモンモードノイズは、各イベントご

とに、信号があるスレショルド以下であったch の ADC値を平均して求めた。このようにして

作成したコモンモードノイズを除去した後の信号に対し、64 ch中1 chの信号のみがある値を超

えた場合にそのイベントを1ヒットイベントとする。1ヒットイベントのみを用いて各 chのスペ

クトルを作成し、各chに対してエネルギー較正を行った後全chを足し合わせたスペクトルを作

成すると、図3.15のような良い性能が得られた。

図3.15: In/CdTe/Ptパッド検出器による線源

57

Coのスペクトルの全パッドでの和。実験温

度20◦C、バイアス電圧600 V。

それぞれの chに対して122 keVのガンマ線に対するエネルギー分解能を求めると、その分布は

図3.16のようになった。このように各パッドで高い性能かつ揃った性能を得ることができ、CdTe

素子の均一性を示すことができた。

この In/CdTe/Ptパッド検出器はこのように高い性能を達成することができたので、素子2つ

とFECの組を単位としてモジュール化され、大面積イメージャ―、積層検出器、コンプトンカ

メラの吸収体としての利用など、様々に応用している[14]。

3.7

In/CdTe/Pt

検出器の問題点

ここまでで示した通り、現在までIn/CdTe/Ptダイオード検出器により高い性能を達成してき

た。しかし、In電極は、高温蒸着を行う際の技術的困難からパッドやストリップに分割すること

ができず[33]、パッド検出器を構成するには Pt電極を分割しなければならなかった。したがっ

て、In/CdTe/Ptパッド検出器の信号は陰極側からしか読みだすことができず、両面の電極を分

割した検出器を実現できなかったため、撮像検出器として性能には限界があった。また、CdTeの

µτ 積はホールより電子の方が大きいため、電荷収集効率が完全でない場合、すなわち低いバイア

(30)

3.7. In/CdTe/Pt検出器の問題点 23

図3.16: In/CdTe/Ptパッド検出器における122 keVのガンマ線に対するエネルギー分解能

の各パッドでの分布。64パッドの平均値は2.0 keV。実験温度20◦C、バイアス電圧600 V。

よる誘導電荷を早く収集できるため性能は向上するはずである(図3.1参照)。この点の解決をも

(31)
(32)

25

4

新しい電極構造

Al/CdTe/Pt

Ni/CdTe/Pt

検出器による陽極読み出し

4.1

CdTe

における

In

Al

Ni

電極

前章で示した通り、 In/CdTe/Ptでは陽極の分割を行うことができなかったが、µτ 積は電子

の方が大きいため陽極から読み出しを行った方が性能向上を見込むことができる。このような問

題を抱える In に代わる電極として、Al を用いた検出器の性能が向上してきている[41]。また、

Al の場合と同様の性能向上が見込まれるNi もIn に代わる電極の候補として挙げることができ

る。本研究では、これらの電極を用いた検出器の開発を行い、性能評価を行う。

Al および Ni は蒸着を行いやすい金属であるため電極としての利用が検討されており、CdTe

に対する電極形成は真空蒸着により行われている。Al/CdTeおよび Ni/CdTe もIn/CdTe 接触

と同じく、Schottky 接合となり、高いバイアス電圧においてもリーク電流を低減することができ

る。Alおよび Ni 電極はIn と違い、電極分割を行うことができる。そのため、今まで不可能で

あった、ダイオードでありながら陽極読み出しや両面読み出しの検出器を実現することができる。

CdTe 検出器の電極として利用される金属の性質を表4.1にまとめた[42][41]。ACRORAD

による、Cl がドープされた p型のCdTe の仕事関数は、≥5.015 eV と見積もられている[41]。

Schottky 障壁の高さを可能な限り高くしてより低いリーク電流の検出器を実現するためには、低

い仕事関数の金属を Schottky側の電極として選択するべきである。ただし、実際のSchottky 障

壁の高さは電極形成時の条件や表面処理に大きく影響を受けるため、金属の選択のみによって決

定されるわけではない。

表4.1: CdTe検出器における各電極の比較。Schottky障壁の高さは、順方向および逆方向バ

イアスに対する電流の値から計算された値[41]。

仕事関数[42] CdTeとの接触の型 CdTe と接触時の障壁の高さ[41] 電極分割

[eV] [eV]

Pt 5.65 Ohmic -

In 4.12 Schottky 1.297 × Al 4.28 Schottky 1.266

Ni 5.15 Schottky

4.2

Al

電極の形成

CdTe検出器の性能は電極形成条件に大きく依存するため、一般に CdTe表面に電極を形成

し、優れた性能を達成するのは容易ではない。例えば、Al電極に関しては、電極形成条件による

性能の変化の研究が最近開始されており、良い性能を出すための条件が明らかにされはじめてい

図 2.2: Si/CdTe コンプトンカメラ試作機。DSSD 4 段と底面 CdTe 検出器 4 段からなる。側 面 CdTe 検出器も搭載可能である。 図 2.3: Si/CdTe コンプトンカメラ試作機による 22 Na の 511 keV のガンマ線のイメージ。 DSSD で散乱され CdTe で吸収されたイベントを選択し、Compton 再構成して作成した。角 度分解能 2.5 ◦ 。
図 2.4: コンプトンカメラの角度分解能に対する、位置分解能、エネルギー分解能、Doppler Broadning の各要因の寄与。(左)DSSD と側面 CdTe 検出器との組み合わせの場合。(右)DSSD と底面 CdTe 検出器との組み合わせの場合。
図 2.5: コンプトンカメラの角度分解能に対する、位置分解能、エネルギー分解能、Doppler Broadning の各要因の寄与。(左)DSSD と側面 CdTe 検出器との組み合わせの場合。(右)DSSD と底面 CdTe 検出器との組み合わせの場合。 には、底面検出器に 3 mm 、底面検出器に 0.75 mm 程度の厚さが必要である。側面 CdTe は検 出器の配置の都合上複数段重ねることができないため、側面には素子の厚さ自体が 0.75 mm の 検出器が必要になる。底面 CdTe は積層が可能
図 3.2: 100 keV のガンマ線に対する Si、Ge、CdTe の各半導体の光電吸収効率。CdTe は非 常に高い効率を持つ。資料 [ 32]のデータを用いて作成。
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参照

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