世帯 主︑ つま り成 人男 性の 死亡 率と なる
︒そ こで ベネ ディ クト ーは
︑老 若男 女の 社会 一般 の平 均的 な正 しい
表
18
地方と国ごとの黒死病死亡率(Benedictow, 383.)総人口
60−65
(60−70)
60−65 60 50−60
52.5 50−60
60 60 60 60 62.5
60
納税・借地世帯人口
60−65
(74)
60−65
50 60 55−60 55−60 55−60 60 55−60
納税・借地世帯主
55−60
(71)
55−60
42 54.5 50−55 50−55 50−55 55 50−55
地域・国ナバラ王国 カタルーニャ地方 スペイン(全体)
フィレンツェ トスカーナ地方 ピエモンテ地方 イタリア(全体)
プロヴァンス地方 ラングドック他 サヴォア伯領 フランス(全体)
イングランド(全体)
全体
黒 死 病 で ど れ だ け の 人 が 死 ん だ か
― 254 ―
死亡 率を 出す ため には
﹁調 整﹂ が必 要で ある と考 える
︒そ して
︑黒 死病 後の 世帯 規模 の縮 小︑ 最下 層民 の存 在と その 高い 死亡 率︑ 階層 変動 等の 調整 をお こな う︒ その 際に ベネ ディ クト ーは
︑幼 児・ 子ど もや 女性 につ いて は︑ 世帯 主で ある 成人 男性 より も死 亡率 が高 かっ たと 繰り 返し 述べ てい る︒ 乳幼 児・ 子ど もは その とお りで あり
︑問 題は ない
︒そ れ につ い て は︑ ピ スト イ ア 研究 を 中 心に
︑第 一 章 の 注⒆ にお い て ハー リ ヒ ー の学 説 を 紹介 し て 詳 し く 触 れ た
︒し か し︑ 果た して 女性 は黒 死病 に対 して 男性 より 弱か った か︒ これ につ いて
︑私 がフ ィレ ンツ ェの 教会 の埋 葬記 録の 史料 を解 析し た立 場か らベ ネデ ィク トー に対 して 疑問
・批 判を 投げ かけ たい と思 う︒ ベ ネデ ィク トー は︑ 次の よう なこ とば を述 べて いる
││
﹁ た と え 世 帯 主 が 生 き 残 っ た と し て も
︑ 必 ず し も 残 り の 家 族 が 厳 し い 試 練 を 生 き 延 び た と は 限 ら な か っ た で あ ろ う
︒ な ぜ な ら
︑ 先 に 述 べ た よ う に
︑ 特 に 子 ど も
︑ そ し て 女 性 は ペ ス ト の 流 行 に よ っ て も っ と 高 い 死 亡 率 を 被 っ た の で あ る
︒﹂
︵
pp.275−276.
︶
﹁ 子 ど も と 女 性 の か な り 高 い
︑ 相 当 上 回 っ た 死 亡 率 に つ い て は 疑 い の 余 地 が な い も の で あ る こ と か ら
︑ 青 年 や 成 人 の 男 性 の 死 亡 率 の 水 準 は
・
・
・
・
︒﹂
︵
p.314.
︶
﹁ 女 性 の 場 合 は
︑ ペ ス ト に さ ら さ れ る こ と に つ い て 格 別 に 高 い リ ス ク を 負 っ て い る
︒ な ぜ な ら
︑ 女 性 は
︑ ク マ ネ ズ ミ が そ の 連 れ 合 い の ノ ミ と と も に 好 ん で 過 ご す 人 の 家 の な か に
︑ 男 性 よ り も 長 い 時 間 を 過 ご す か ら で あ る
︒﹂
︵
p.299.
︶ こ のよ うな 女性 の﹁ 弱さ
﹂は 年代 記作 家か らも 指摘 され てい る︒ 例え ば︑ 一三 四八 年の ペス トに つい てト レン トの 惨状 を目 撃し た年 代記 作家 ジョ ヴァ ンニ
・ダ
・パ ルマ
︵生 没年 不明
︒一 四世 紀︶ は﹁ 女の 子の 場合
︑美 しい 女の 子の 方が 早く 死ん だ︒ また
︑成 人の 場合
︑男 性よ りも 女性 の方 が早 く︑ また 多く 死ん だ﹂ と述 べて いる
︒し かし
︑人 の見 方に は︑ 好ま しい
︑美 しい もの が失 われ た場 合︑ その 無念 さか ら︑ それ を実 際以 上に 強調 して 報告 しが ちで ある
︒女
― 255 ― 黒
死 病 で ど れ だ け の 人 が 死 ん だ か
性│
│そ れ も 若 くて 美 し い少 女
││ の死 は
︑目 の 前で 起 こ っ た場 合
︑極 め て鮮 烈 で 強 く印 象 に 残 る 事 実 か も し れ な い︒ ジョ ヴァ ンニ
・ダ
・パ ルマ はこ う伝 えて いる
││ 私 の 聞 い た 限 り で は
︑ 今 回 の 疫 病 は
︑ い つ も 女 の 子 か ら 始 ま っ た
︒ そ れ も 特 に 美 し い 女 の 子 か ら 始 ま っ た
︒ 実 際 に ト レ ン ト で 起 こ っ た こ と な の だ
︒ と い う の も
︑ 私 自 身
︑ こ の 眼 で 見 た の だ が
︑ 宮 廷 に お い て
︑ 美 し か っ た 三 人 の 少 女 が
︑ こ こ で 述 べ た 出 来 事 が 始 ま っ た 時 に
︑ 一 日 の う ち に 死 ん で し ま っ た の で あ る
⑴
︒ し かし
︑年 代記 作家 もベ ネデ ィク トー も︑ 女性 の弱 さ を 強 調す る が︑ 説 得す る 実 証的 な 数 値 は何 も 示 して い な い︒ それ に対 して 私は パソ コン を利 用し て︑ フィ レン ツェ のサ ンタ
・マ リア
・ノ ヴェ ッラ 聖堂 の﹃ 死者 台帳
﹄を 克明 に解 析し た⑵
︒ これ は︑ かな り労 力の いる 作業 であ った が︑ この 台 帳 の夏 季 三 カ 月間
︵六 月
〜八 月︶ と 冬季 三 カ 月間
︵一 二月
〜二 月︶
︑ 合わ せて 六カ 月間 の死 亡者
︑す なわ ち こ の台 帳 に 記載 さ れ た全 埋 葬 者﹁ 一 七七
〇 人﹂ の うち 六 割 の約 一〇
〇〇 人︵ 正確 には
﹁九 七五 人﹂
︶ の氏 名と 記載 項目 をす べて パソ コン に入 力し て︑ デー タ解 析を 試み た︒ 内訳 は︑ 男性
﹁五 九二 人﹂
︑ 女性
﹁三 八三 人﹂ で あ り︑ 男性 が 六 割︑ 女性 が 四 割で あ る︒ こ こ では
︑デ ー タ 処理 に よ って
︑全 死亡 者の うち
︑ペ スト によ る死 者の 割合 を﹁ 男﹂ と﹁ 女﹂ につ いて 数量 的に 特定 する こと がで きた
︵ま た︑ 女性 の全 死亡 者の うち
︑ペ スト によ る死 者の 割合 を﹁ 妻﹂
﹁ 寡婦
﹂﹁ 独身
﹂に つい ても
︑数 量的 に特 定で き︑ 特に
﹁寡 婦﹂ につ いて 非常 に興 味深 い事 実を 発見 した
︶︒
﹃ 死者 台帳
﹄に 対し てこ のよ うな 数量 的ア プロ ーチ はこ れま でな され たこ とが なく
︑こ れに よっ てト レチ ェン ト︵ 一四 世紀
︶の ペス トの 傾向 につ いて 新し い発 見が でき たと いえ る︒ こ の﹃ 死者 台帳
﹄は 一二 九九 年か ら一 六〇 年間 ほど 記録 され た︒ しか し︑ 毎年 ほぼ きち んと 継続 的に 記載 され
︑史
黒 死 病 で ど れ だ け の 人 が 死 ん だ か
― 256 ―
料と して 信頼 でき る︵ と私 が判 断し た︶ 期間 は︑ 一三 三〇 年か ら一 三八 七年 まで の五 八年 間で ある
︒こ の五 八年 間の サン タ・ マリ ア・ ノヴ ェッ ラ聖 堂に 埋葬 され た死 亡者 の数 は表 19﹁ 五八 年間 の夏 と冬 の死 亡者
﹂に 示さ れて いる
︒目 を引 くの は︑ 一番 左側 の欄 の﹁ 死亡 者﹂
││ 一年 間の 夏冬 の死 亡者 の総 数│
│の 太字 で示 され た数 値で あろ う︒ それ は﹁ 疫 病年
﹂の 数 値 で あり
︑死 亡 者 の数 が 圧 倒的 に 際 だ って い る︵
﹁ 疫病 年
﹂に は 下 線 が 引 か れ て い る︶
︒一 三 四
〇 年︑ 一三 四八 年︑ 一三 六三 年な どが 際だ って いる
︒こ の表 をも とに
︑女 性が ペス トに 対し て弱 かっ たか どう かを 見て みよ う︒ イタ リア の場 合︑ ペス トは 腺ペ スト であ り︑ 流行 は夏 中心 であ った
︒ノ ミが 活動 を停 止す る冬 には 死亡 者は 表
19 58
年間の夏と冬の死亡者冬 0 0 1 12 1 7 3 4 1 1 1 2 0 2 1 7 2 0 0 0 1 0 0 2 0 1 1 0 1 0 1 0 0 0 0 1 1 3 0 1 4 3 7 4 3 0 0 5 3 1 7 5 8 6 1 0 3 7 125 夏
2 6 0 3 1 0 6 4 0 0 23 6 0 1 0 1 2 8 17 1 0 0 3 0 0 6 0 2 0 1 3 4 4 22 2 0 2 2 0 1 3 2 1 3 18 0 2 0 3 0 2 4 7 39 1 1 1 1 221 女
2 6 1 15 2 7 9 8 1 1 24 8 0 3 1 8 4 8 17 1 1 0 3 2 0 7 1 2 1 1 4 4 4 22 2 1 3 5 0 2 7 5 8 7 21 0 2 5 6 1 9 9 15 45 2 1 4 8 346 冬
1 1 1 3 1 2 4 5 1 4 5 0 0 3 1 3 4 0 1 0 0 1 2 1 0 2 1 0 2 0 4 0 3 3 1 1 0 0 0 8 1 2 4 2 5 1 0 4 3 7 3 5 3 5 2 0 7 5 128 夏
2 7 1 3 3 2 4 5 4 2 41 6 1 5 2 0 1 14 54 4 0 1 1 2 0 2 1 4 4 1 2 1 2 74 2 1 5 2 2 0 3 0 0 10 18 0 1 3 0 2 1 4 9 67 4 2 1 4 397 男
3 8 2 6 4 4 8 10 5 6 46 6 1 8 3 3 5 14 55 4 0 2 3 3 0 4 2 4 6 1 6 1 5 77 3 2 5 2 2 8 4 2 4 12 23 1 1 7 3 9 4 9 12 72 6 2 8 9 525 冬
1 1 2 15 2 9 8 9 2 5 6 2 0 7 2 10 6 0 1 0 1 1 2 3 0 3 2 0 3 0 3 0 3 3 1 2 1 3 0 9 5 2 11 6 8 0 1 9 6 8 10 10 11 11 3 0 10 12 251 夏
4 13 1 6 4 2 9 9 4 2 64 12 1 4 2 1 3 22 71 5 0 1 4 2 0 8 1 6 4 2 7 5 6 96 4 1 7 4 2 1 6 5 1 13 36 1 2 3 3 2 3 8 16 106 5 3 2 5 620 死亡者
5 14 3 21 6 11 17 18 6 7 70 14 1 11 4 11 9 22 72 5 1 2 6 5 0 11 3 6 7 2 10 5 9 99 5 3 8 7 2 10 11 7 12 19 44 1 3 12 9 10 13 18 27 117 8 3 12 17 871 1330 1331 1332 1333 1334 1335 1336 1337 1338 1339 1340 1341 1342 1343 1344 1345 1346 1347 1348 1349 1350 1351 1352 1353 1354 1355 1356 1357 1358 1359 1360 1361 1362 1363 1364 1365 1366 1367 1368 1369 1370 1371 1372 1373 1374 1375 1376 1377 1378 1379 1380 1381 1382 1383 1384 1385 1386 1387
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死 病 で ど れ だ け の 人 が 死 ん だ か
ゼロ とな る︒ 春は 流行 の前 触れ
︑秋 は流 行の 余波 とし て疫 病死 は確 かに 認め られ るの だが
︑数 が多 くな く︑ それ がペ スト 死な のか
︑そ れ以 外に よる 死な のか 区別 する のが 非常 にむ ずか しい
︒そ の意 味で
︑こ の夏 と冬 のみ の解 析は そう した あい まい な時 期を 排除 して しま うの で︑ 一定 有効 であ る︒ ま ず︑ この 聖堂 に埋 葬さ れた 男性 は︑ 女性 より も数 にお いて かな り多 いこ とに 注意 し な く て は な ら な い
︒こ の 五 八 年 間 で は︑ 男 性 の 死 亡 者︵ 埋 葬 者︶ が﹁ 五 二 五 人﹂
︑ 女性 の死 亡者 が﹁ 三四 六人
﹂で ある
︵こ の教 会は 比較 的富 裕な 層が 利用
︒格 式が 高か った こ と か ら男 性 の 方が 多 く 埋葬 さ れ た ので あ ろ う︶
︒こ れ は﹁ 六﹂ 対﹁ 四﹂ の 割合 であ る︒ 調整 しな くて は比 較が しに くい
︒そ こで 女性 の数 値を
﹁一
・五 二倍
﹂す るこ と で﹁ 五﹂ 対﹁ 五﹂ の 割 合 が 得 ら れ る
︵五 二 五 人
÷三 四 五 人
=
一・五 二
︶︒ つ ま り︑ ある 年 の 女 性の
﹁死 亡 者﹂ を 男性 の も のと 公 平 に 比べ る に は︑
﹁一
・五 二 倍﹂ す れば よい
︒ 表 20﹁ ペス トに 対す る男 性の 弱さ
﹂を 参照 され たい
︒こ こで は一 三四 八年 のペ スト
︵ 黒死 病︶ と一 三六 三年 の ペ スト に 対 する 男 女 の死 亡 率 の 比較 が 示 され て い る︒ 一三 四八 年の ペス トの ため に︑ 総数
﹁七 二名
﹂が 埋葬 され
︑そ のう ち男 性が
﹁五 四人
﹂で あっ たの に対 して
︑女 性は
﹁一 七人
﹂で ある
︵ペ スト 以外 の死 亡者 も男 女そ れぞ れに 若 干名 い る か もし れ な い が
︑こ こ で は 公 平 に 両 方 と も 無 視 す る︶
︒ 女 性 の﹁ 一 七 人﹂
表
20
ペストに対する男性の弱さ男女比調整後の疫病死の男女比