§ 24 3 次元の渦無し運動
a)静止流体中を動く球
静止流体中をx軸に沿って速度Uで運動している,半径aの球を考えよう.球の中心が原点を通過した瞬 間に球の周りに作られる流れの速度ポテンシャルΦは,Laplace方程式∆Φ = 0を変数分離して(適切な境界 条件の下で)解くことにより,
Φ =−U a3 2
cosθ r2
と求まる.これはモーメントU a3/2の二重わき出しを表す.この結果は,静止流体中を動く円柱の作る2次 元流が複素速度ポテンシャルf =−U a2/zの二重わき出しであったここと比較される(§ 20).
b)一様流中に静止する球
• x軸負の方向に速さUで運動する球の作る流れ(Φ = U a23cosr2θ)
• x軸方向の速度U の一様流(Φ =U x=U rcosθ)
を重ね合せた流れは,一様流の中に半径aの球を静止させたときの流れを表し,速度ポテンシャル Φ =U
( r+ a3
2a2 )
cosθ を持つ.球の表面の流れは
vθ= (1
r
∂Φ
∂θ )
r=a
=−3 2Usinθ であり,これはθ=π/2において最大値|vθ|= 32Uをとる.
§ 24 について
■速度ポテンシャル(24.3)の導出 球面調和関数Ylmを用いて速度ポテンシャルを Φ(r) =
∑∞ l=0
∑l m=−l
aml (r)Ylm(θ, ϕ)
と展開する.軸対称な解を考えると,解は対称軸周りの方位角ϕに依らない.そこでYlmのϕ依存性eimϕを 消すためにm= 0とおき,
Φ(r, θ) =
∑∞ l=0
al(r)Pl(cosθ) と書いて良い.さらに展開係数al(r)を
al(r) =
∑∞ n=−∞
alnrn とrについて展開する.これをLaplace方程式
[1 r2
∂
∂r (
r2 ∂
∂r )
+ 1 r2
{ 1 sin2θ
∂
∂θ (
sinθ ∂
∂θ )
+ 1 sin2θ
∂2
∂ϕ2 }]
Φ = 0
に代入し,Plが球面調和関数の固有方程式 { 1
sin2θ
∂
∂θ (
sinθ ∂
∂θ )
+ 1
sin2θ
∂2
∂ϕ2 }
Pl=−l(l+ 1)Pl
を満たすことを用いると,
0 =1 r2
∑∞ n=−∞
{n(n+ 1)−l(l+ 1)}rnalnPl(cosθ)
=1 r2
∑∞ n=−∞
(n−l)(n+l−1)rnalnPl(cosθ)
を得る.よってal(r)の展開において許されるのはn=lの項とn=−(l+ 1)の項だけなので,軸対称な解は Φ(r, θ) =
∑∞ l=0
(
Alrr+ Bl rl+1
)
Pl(cosθ) という形を持つ.
次に境界条件を考える.まず無限遠r→ ∞で流体が静止することを要求すると,vr=∂Φ/∂r→0でなけ ればならず,ここから
A1=A2=· · ·= 0
が分かる.またP0= 1よりA0の項は定数項となるので,あらかじめ省いて良い.さらに球の表面での境界 条件は
Ucosθ= (∂Φ
∂r )
r=a
=−∑∞
l=0
(l+ 1)Bl
al+2 Pl(cosθ) であり,Pl(cosθ) = cosθに注意すると
B0= 0, B1=−U a3
2 , B2=B3=· · ·= 0 と定まる.以上より速度ポテンシャルの式(24.3):
Φ =−U a3 2
cosθ r2 を得る.
■球を過ぎる一様流(24.4)のx軸上の流れ 速度ポテンシャル(24.4):Φ =U x(1 +a3/2r3)よりx軸上で v=∂yΦ|y,z=0= −3
2 U a3xy
r5
y,z=0
= 0(=w), u=∂xΦ|y,z=0=U (
1− a3
|x|3 )
なので(r=|x|の絶対値を忘れないように注意),x軸上の流れは原点対称ある.またx=±aはよどみ点と なり,境界条件を満たしている*8.
*8なお2次元流(20.6)に対しては,x軸上の速度は u=U
{
1−(x2−y2)a2 (x2+y2)2
}
y=0
=U (
1−x2 a2 )
, v=− 2U xya2 (x2+y2)2
y=0
= 0 である.
図65 Stokesの流れ関数
§ 25 ストークスの流れの函数
縮まない流体の軸対称な流れに対しては,対称軸をx軸に選ぶと,Stokesの流れ関数 Ψ =
∫ P A
vnyds
を導入できる.これは結局,図65の左端の図において,単位方位角に切り取られる円環部分を単位時間に横 切る流量の,各円環についての和と言える.このとき
vx= 1 y
∂Ψ
∂y, vy =−1 y
∂Ψ
∂x
である.[これは通常の流れ関数に対する式(18.5):vx =∂yΨ, vy =−∂xΨに1/yが付いた形になっている.]
また図65の右側2つの図から,式(22.5):
vr= 1 r2sinθ
∂Ψ
∂θ, vθ=− 1 rsinθ
∂Ψ
∂r が分かる.
§ 25 について
■Stokesの流れ関数(25.11)の導出 球を過ぎる一様流について,速度ポテンシャル
Φ =U x−µx r3 =
( U r− µ
r2 )
cosθ からStokesの流れ関数(25.11)を求めよう.
1 y
∂Ψ
∂y = ∂Φ
∂x =U−µ1
r3 −3µx2
r5, −1 y
∂Ψ
∂x =∂Φ
∂y = 3µxy r5.
図66 積分路
そこで図66の積分路を用いてStokesの流れ関数を Ψ = Ψ(0, y0) +
∫ y y0
∂Ψ
∂y
x=0
dy+
∫ x 0
∂Ψ
∂xdx と計算する.ここで
∫ y y0
∂Ψ
∂y
x=0
dy=
∫ y y0
(
U y− µ y2
) dy=1
2U y2+µ1
y + const,
∫ x 0
∂Ψ
∂xdx=
∫ x 0
(
−3µxy2 r5
) dx
=3µ y
∫ cosϕ 1
cos2ϕd(cosϕ) (x≡ytanϕ, ∴cosϕ=y/r)
=µ1 y
(y3 r3 −1
)
なので,Stokesの流れ関数(25.11):
Ψ = (U
2 + µ r3
)
y2+ const.
を得る.
なお,積分定数constは落として良い.と言うのも,流れ関数には始点Aの選び方の任意性に対応して,定 数を付け加えるだけの不定性がある.実際,図67のように,x軸上の異なる2点A,A′ に関して定義された 流れ関数
ΨA(P) = (弧APを貫く流量), ΨA′(P) = (弧A′Pを貫く流量)
には,弧A′Bを貫く流量だけの差がある.領域AA′Bからのわき出しがないから,これは弧AA′を貫く流量 に等しく,それは終点Pに依らない定数である.
■Rankineの卵形 一様流の中に球を静止させたときの流れは,一様流と二重わき出しの重ね合せ(24.4)に
よって与えられる.これはRankineの卵形(§ 14)においてわき出しとすいこみを無限に近づけた場合に相当 するため,そのような極限で卵形は球になることを意味している.実際,対応する流れ関数(25.11)はr=a において一定値Ψ = 0をとる.
図67 始点Aの選び方の任意性
■半無限体に対するStokesの流れ関数 速度ポテンシャルが式(14.5):
Φ =U x−m r
で与えられる,半無限体の周りの流れに対して,Stokesの流れ関数は Ψ = 1
2U y2−mx r である[4,演習問題7.1].これも上記と同様に証明できる.
1 y
∂Ψ
∂y =∂Φ
∂x =U+mx
r3, −1 y
∂Ψ
∂x = ∂Φ
∂y =my r3. であり,図66の積分路(ただしy0= 0とする)を用いてStokesの流れ関数を
Ψ = Ψ(0,0) +
∫ y 0
∂Ψ
∂y
x=0
dy+
∫ x 0
∂Ψ
∂xdx と計算する.前述の流れ関数の不定性を利用してΨ(0,0) = 0とおくと,
∫ y 0
∂Ψ
∂y
x=0
dy=
∫ y 0
U ydy=1 2U y2,
∫ x 0
∂Ψ
∂xdx=−m
∫ x 0
y2
r3dx=−m
∫ ϕ 0
cosϕdϕ (x≡ytanϕ)
=−mtanϕcosϕ=−mx r,
∴Ψ =1
2U y2−mx r.
§ 26 ワイスの球定理
原点を中心とする半径aの球の周りの流れを得るのに有用な,球定理を用いる数学的技法を紹介する.
Wiessの球定理
無限に広い領域における渦無し運動の速度ポテンシャルΦ0が与えられたとする.その特異点は原点から距 離a以上離れているとする.このときΦ0の表す流れの中に,原点を中心とする半径aの球を置いた場合に実 現される流れは,速度ポテンシャルΦ = Φ0+ Φ1によって与えられる.ここに
Φ1(r) =a
rΦ0(a2r/r2)− 2 ar
∫ a 0
λΦ0(λ2r/r2)dλ
である(Wiessの球定理).これは2次元流の場合のMilne-Thomsonの円定理(§ 20)に対応するものであ る.Φ1の式は等価的に
Φ1(r) = r a
∫ (a/r)2 0
ξd[Φ0(ξr)]
と書くこともできる.
Butlerの球定理
軸対称な流れを考える.無限に広い領域における渦無し運動を表すStokesの流れ関数Ψ0(r, θ)が与えられ たとする.このときΨ0の表す流れの中に,原点を中心とする半径aの球を置いた場合に実現される流れは,
Stokesの流れ関数
Ψ(r, θ) = Ψ0(r, θ)−r aΨ0
(a2 r , θ
)
によって与えられる(Butlerの球定理).