第 9 章 高速気流
B.2 直交変換
B.2.1 直交変換と反変ベクトル成分の変換則
原点を共有する2つの直交座標系を考え,それぞれの基底を{ei},{ei′}と書く.また,共通の位置ベクト ルxで表される,空間に与えられた同一点をそれぞれの座標系で見たときの座標をxi, x′iと書く.このとき aij≡ei′·ejとして座標xiと基底{ei}は共通の変換則
x′i=∑
j
aijxj, ei′ =∑
j
aijej (25)
に従う(第B.2.4節参照). 第1式をxkで微分すると
∂x′i
∂xk =∑
j
aijδjk=aik≡ei′·ek (26) となる.これは次のことを意味する.
• 線形変換x′i=∑
jaijxjの変換係数aij が作る行列 O≡(aij) =
(∂x′i
∂xj
)
はJacobi行列に他ならない.
• 変換則(25)は反変ベクトル成分の変換則に他ならない[7, pp.256–257] [12, pp.126–127]. – 微分演算子∂i≡∂x∂i は共変ベクトルだから(第B.2.4節参照),
基底ベクトルei=∂ixもまた共変ベクトルとなるはずである[2, pp.26–27].
しかし第B.2.2節で見るように,直交座標系を用いる限り反変ベクトル成分の変換則は,
共変ベクトル成分の変換則に一致してしまう.
– このことは次の能動変換と受動変換の関係と何ら矛盾しない.
すなわち基底にある変換をすると,
座標系に固定した視点からは空間に固定したベクトルがその逆変換で移されて見える.
∗ (例1)駅に向かう者にとっては,逆に駅が自分の方に近づいて来るように見える.
∗ (例2)回転する椅子に座ると,周りの風景が逆回転して見える.
なお,上式(26)で2つの座標系の役割を入れ替えた式 ei·ej′= ∂xi
∂x′j (27)
が成り立つ.
B.2.2 直交変換に対するNewtonの運動方程式の共変性
物理法則を両辺が同じ種類のテンソルで書かれた方程式で表せば,これは座標変換に対して形を変えず共変 性の要請を満たす [12, pp.53–54].ここでNewtonの運動方程式の共変性を取り上げよう.ポテンシャルV を持つ保存力場の下で運動する質量mの粒子に対し,Newtonの運動方程式は
mx¨i=−∂V
∂xi
(28) である.この式の左辺は反変ベクトル成分であるのに対し,右辺は共変ベクトル成分である(第B.2.4節参 照).従ってこれが一般の座標変換に対して共変的であることは保証されない.しかし用いる座標系を直交座 標系に限れば,運動方程式(28)は形を変えないと考えられる.実際このとき,式(26),式(27)より
∂x′j
∂xi =ej′·ei= ∂xi
∂x′j (29)
なので,反変ベクトル成分の変換則は,共変ベクトル成分の変換則に一致してしまう: x′i=∑
j
∂x′i
∂xjxj=∑
j
∂xj
∂x′ixj.
このため運動方程式(28)の両辺は同じ変換則に従い,新しい座標系でも式(28)の形の運動方程式 m¨x′i=−∂V
∂x′i
が成り立つことになる.なお,上式(29)は行列Oが直交行列であること (OT)ij= (O−1)ij
を意味している.
B.2.3 主軸変換とテンソルの変換則
慣性テンソルIij を(i, j)成分に持つ行列I = (Iij)を考えるとこれは対称行列なので,適当な直交行列O を用いて
I′=OIO−1
と対角化できる.これは適当な座標系においてI= (Iij)が対角行列となることを意味する.実際,座標変換 x′i=∑
jaijxjにおける変換係数の成す行列
O≡(aij) = (∂x′i
∂xj )
を用い,2階テンソルの変換則は
I′=OIO−1
と書ける.ここで式(29)により,(2,0),(1,1),(0,2)テンソルの変換則が一致することを思い出そう.
B.2.4 直交変換(補足)
座標xiと基底{ei}の変換則(25)は次のように確かめられる.
ei′=∑
j
(ei′·ej)ej =∑
j
aijej, x=∑
j
xjej =∑
i,j
xj(ej·ei′)ei′, ∴x′i=∑
j
(ej·ei′)xj=∑
j
aijxj
運動方程式(28)の両辺の変換則について,以下の量は数学的に変換則が定まっている[2, pp,26–27]. 座標の微分dxiは反変ベクトル: dx′i=∑
j
∂x′i
∂xj
xj ⇐ 全微分
微分演算子∂i≡ ∂
∂xiは共変ベクトル: ∂i′= ∂xj
∂x′i∂j ⇐ 合成関数の微分