§ 27 について
■Helmholtzの渦定理(式(27.4))の証明について 時刻tで流体粒子の作る線要素dsとは,式(27.4)の導出 過程で用いることになる関係
ds= ∂s
∂ada+∂s
∂bdb+∂s
∂cdc
が示しているように,Lagrange座標(流体粒子の背番号)(a, b, c)が(da,db,dc)だけ異なる隣接する流体粒 子を結ぶ無限小ベクトルである.したがって定理の証明の概略は次のようなものである.すなわち初期時刻 t= 0に近接する2粒子を結ぶベクトルが渦線上に乗っていると,後の時刻tにも同じ2粒子を結ぶベクトル は渦線上に乗る.
■諸々の渦定理の関係 § 12の補足における図16参照.
■浴槽にできる渦の孔の形(Kelvinの循環定理の応用) 浴槽に水をためて栓を外すと,渦の孔ができる.文 献[4,演習問題5-2]では,このような孔の形を次のように求めている.まず図69のようにz軸を鉛直下向き にとり,求める水面の形はz軸対称とする.はじめの水面z= 0では静止流体であり,鉛直下向きに距離zだ け落ちると流速はq=√
2gzになると考える.さらに次のことを仮定する.
• 流線の1周はほぼ水平面内にあり,円を成す.
• このため流れは準定常的であり,
ある高さz=z2(> z1)の円は別の高さz=z1の円を成す流体部分の未来の状態である.
このときKelvinの循環定理により Γ = 2πr×√
2gz= const, ∴z= Γ2
8π2gr2 ∝r−2 となる.(z→0のとき,Γ = 2πrqを一定に保ちながらq→0, r→ ∞となる.)
なお,このような水の孔を日常的に渦と呼んでいるけれど,流体の占める部分では渦無し(ω= 0)となって いると考えられる.上流ではq= 0の静止流体なので,Lagrangeの渦定理のより下流には渦を生じないから.
循環は内部の渦領域によってもたらされるが(Stokesの定理),今の場合,円の内部に流体(水)は存在してい ない.
§ 28 速度の不連続面
速度の不連続面は渦の層である.[実際,渦度ω=∇×vは速度差を捉えた量であったことを思い出そう (図31参照).このような直観に対応して,]渦糸に垂直な図70の矩形について,縁に沿う循環の強さγを大 きさに持つ渦層ベクトルγを定義すると,渦と速度差{v} ≡v2−v1の関係
γ=n× {v}
が見出される(図70のようにv1,v2が不連続面に接している必要はない).
図69 浴槽にできる渦の孔
図70 速度の不連続面
§ 28 について
速度の不連続面によった分けられる領域1,2を定義すると,領域1から領域2に向かう方単位ベクトルn, Vt= (v2−v1)t,γ≡γeが一義的に決まる.こうしてn,Vt,eは必ずこの順に右手系を成す.
§ 29 わき出し分布と渦分布
Θ =∇·vは単位時間に,考えている点の周りの単位体積から流出する流体の体積を表し,わき出しの密度 と呼ぶことができる.
与えられたわき出し分布と渦分布
Θ =∇·v, ω=∇×v
から,速度場を求めることを考えよう.v1を渦無し場(∇×v1= 0),v2を無発散場(∇·v2= 0)として,
v=v1+v2
と分解できると仮定する.この仮定は結果によって正当化される*9*10.このとき渦無し場v1は速度ポテン シャルΦから導かれ,無発散場v2はベクトルポテンシャルAから導かれる:
v1=v∇Φ, v2=∇×A.
ポテンシャルは
∇·v1= Θ → ∆Φ = Θ,
∇×v2=ω → ∆A=−ω (ゲージ条件∇·A= 0) のようにPoisson方程式を満たすから,速度場は
v1(x) = 1 4π
∫ d3x′Θ(x′)(x−x′)
|x−x′|3 : Coulombの法則 , v2(x) = 1
4π
∫ d3x′ω(x′)×(x−x′)
|x−x′|3 : Biot-Savatrの法則
から求まる.[場の引数は時刻tをパラメーターとして含んで良いと考えられる.すなわち各瞬間ごとに上の 関係が成立する.]
有限翼とU字渦
図71に要約するように,翼からは渦糸が下流まで伸びており(U字渦),これは翼に抵抗をもたらす.
§ 29 について
■ベクトルポテンシャルの副条件(29.7)について ベクトルポテンシャルAに任意の関数fの勾配を付け加 えて得られる新しいポテンシャル
A′=A−∇f もまた,もとのポテンシャルAと同一の流れを表す:
∇×A′ =∇×A.
この自由度を利用してA′が副条件(29.7):∇·A′ = 0を満たすようにするには,Poisson方程式
∆f =∇·A の解f を用いれば良い.
副条件(29.7):∇·A= 0の下での∇∇·A−∆A=−ωの解(29.9)が∇·A= 0を満たすことは,次のよ うに確かめられる[9, p.165]:
4π∇·AP(x) =
∫
V
∂i ωi(x′)
|x−x′|d3x′
=
∫
V
{
−∂i′( ωi(x′)
|x−x′| )
+∂i′ωi(x′)
|x−x′| }
d3x′= 0. (∵∂i′ωi(x′) =∇′·(∇′×v(x′)) = 0)
*9これは循環論法に陥っているように思われるかもしれない.このような論法の背後には解の一意性の仮定がある.すなわち正しい 物理法則 の解はただ1つであり,それ故に一度解が見つかればそれが求める解であるという暗黙の了解がある.実際,教科書 ではあらかじめ解の一意性を証明しているけれど,おそらく多数派の物理学者がそうしているように,本稿では常に正しい 物理 法則 の解は一意的に定まると信じることにする.
*10任意のベクトル場を渦無し場と無発散場に分けられるという数学的な事実は,Helmholtzの定理と呼ばれる.
図71 翼に働く誘導抵抗の説明
ここで最右辺の被積分関数第1項を無限遠の表面積分に変えて落とせるのは,常套手段として「流体が無 限にひろがっているばあいに,Θ,ωを有限の範囲に分布させかつ無限遠方では流体が静止しているものと」
(p.103,l.12〜l.14)仮定しているからである.
■ポテンシャルから速度場を求める計算 ポテンシャル(29.5),(29.9)から速度場の式(29.10)を導くような 計算では,
∇x|x−x′|= x−x′
|x−x′|, ∇x′|x−x′|= x′−x
|x−x′| のように距離を微分すると単位ベクトルになることを公式的に利用するのが容易である.
図72 直線状の渦糸の作る速度場
ベクトルポテンシャルの微分は,以下のように第i成分に注目して計算するのが容易である.
[
∇x× ω(x′)
|x−x′| ]
i
=εijk∂j ωk(x′)
|x−x′| =εijk (
− 1
|x−x′|2
xj−xj′
|x−x′| )
ωk(x′) =
[ω(x′)×(x−x′)
|x−x′|3 ]
i
.
■直線状の渦糸の作る速度場の式(29.12)について(Biot-Savartの法則の応用) 図72において r= h
sinθ, s= h
tanα− h tanθ
よりds= (h/sin2θ)dθなので,渦線上の線素が点Pに誘導する速度のy成分は Γ sinθdθ
4πr2 = Γ
4πhsinθdθ
である.ここまでは線素がz≥0にあってもz≤0にあっても言える.dsは線素の長さとして定義されてい るので,これが正となるようにdθをとらなければならないことから積分の向きが決まり,
vP= Γ 4πh
(∫ π2
α
sinθdθ+
∫ π
2
β
sinθdθ )
= Γ
4πh(cosα+ cosβ)
を得る.α, β→0とすると,無限に長い直線電流がh離れた点に誘導する磁束密度の式と同じ形Γ/2πhに なる.
■有限翼とU字渦について 「渦糸は流れの中で切れることはないから,翼の外まではみ出ているはずである」
(p.106,下から3,2行目)とは言うものの,翼を貫く渦糸は仮想的なものであり,実際には翼の占める位置に
流体は存在しない.
渦糸の翼端から「はみ出た部分は風に流されて下流にのびている」(p.106一番下)のは,渦糸が常に同じ流 体粒子の集団で構成されていることを思い出せば,流体粒子が流されることとして理解できる.
「翼の縦横比(aspect ratio,[翼幅]2÷[翼の平面積]で定義される)」(p.107,l.5,6)を図73の矩形の翼に対 して(縦横比)a2/S =a/bと解すれば,これはa/bで文字通り縦横比となる.これが「大きいばあいには」
図73 有限翼とU字渦
(p.107,l.6)翼は棒状になるため,近似的に1本の渦糸で置き換えられるから,自由渦は「だいたい翼端から 出る2本の渦のひもになっている」(p.107,l.6,7)ものと考えられる.
「図29.3から明らかなように,……速度wiが誘導され」(p.107,l.8,9)について,図73のようにwiは自 由渦の青い部分から作られ,自由渦の微小な赤い部分が作る流れは無視されている.
■電磁気学との対応 § 29では流体の速度場を,静電場のような渦無し場と,静磁場のような無発散場に分 けられることを学んだ.実際それぞれの速度場を決定する 法則 と,静電場に対するCoulombの法則,静 磁場に対するBiot-Savartの法則の間には完全なアナロジーが成立することが示された.(電場と磁場は一方 の時間変化が他方の時間変化をもたらすという点で,流体の速度場と事情が異なっている.)この事実を反映 して,§ 14で取り上げられた縮まない流体の渦無し場のいずれも,速度場を電場に置き換えて得られる静電 場は電磁気学においてよく知られたものであった:
一様流 ↔ 平板コンデンサー間の電場,
わき出し ↔ 点電荷の作る電場,
二重わき出し ↔ 電気双極子モーメントの作る電場.
また電磁気学の諸概念には,渦やわき出しのように流体力学に由来するものがある.電場のわき出しと言っ ても,電場に沿て物質が流れているわけではないため,本来その意味は曖昧である.このような表現は電場を 流体の速度ベクトル場に読み替えて初めて意味を成す.さらに電磁気学と流体力学の対応する概念として,以 下のような例が挙げられる.
流線,渦線 ↔ 電気力線,磁力線,
循環 ↔ 起電力.
§ 30 2 次元の渦運動
要約と補足を図74に載せる.図74における「巽」とは文献[4]のことである.
■2 次 元 の Poisson 方 程 式 の 解 (30.3) の 導 出 2 次 元 の Poisson 方 程 式 (30.2):∆Ψ = −ω の 解 が 式 (30.3):Ψ(x, y) =−(1/2π)∫
ωQlogrdSであることを,結論からGreen関数がlogrに比例すると予想して,
次のように証明できた.
図74 § 30の要約・補足
図75 xを中心とする半径Rの円柱V
xを注目している任意に固定したxy平面上の点,xQをxy平面上の動点,
r≡ |x−xQ|, ∆2D≡∂xQxQ+∂yQyQ, ∆3D≡∂xQxQ+∂yQyQ+∂zQzQ, ∇3D= (∂xQ, ∂yQ, ∂zQ) とする.r̸= 0では
∆2Dlogr= 1
r2 −2(x−xQ)2 r2 + 1
r2 −2(y−yQ)2 r2 = 0 である.
さらに図75のようにxを中心とする半径Rの円柱V をとる.この3次元領域に対し通常のGaussの発散 定理を用いると,
∫
V
∆3DlogrdV =
∫
∂V
∇3Dlogr·dS
=
∫
側面
1
Rn·dS (∵(∇3Dlogr)z= 0)
= 2πR· 1
R →2π (R→ ∞) より∆2Dlogr= ∆3Dlogr= 2πδ(x−xQ)となる.
円柱V がxy平面から切り取る円をSとすると,Greenの公式より 0 =
∫
∂V
dS·(· · ·)
=
∫
V
(logr∆2DΨ + Ψ∆2Dlogr)dV
=−
∫
S
ωQlogrdS+ 2πΨ(x).
最後は被積分関数がzによらないことに注意して∫
dz= 1を用いた.教科書では法線を内向きにとっている ため,式(30.3)右辺の負号を要する.